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2011.03.04(Fri) JBプレス 有坪民雄
 
 ディスカウントストアに行くと、40円前後の値札がついている無名ブランドの缶コーヒーがあります。一般に、缶コーヒーは120円で売られています。価格差がありすぎて、無名のブランドの缶コーヒーはどことなく怪しげですが、有名ブランドと比べて大きな品質差はありません。製造コストもほとんど変わらないはずです。そして、メーカーはちゃんと利益を出しています。
 すると「ジョージア」や「UCC」といった有名ブランドは「40円で売れる缶コーヒーに120円もつけて売っているのか!?」「暴利だ! けしからん!」という声が聞こえてきそうですが、そうでもありません。
 80円は流通コスト、具体的には自販機の維持管理と商品の補充配送コストなのです。無名ブランドが40円で売ることができるのは、自販機ルートを使わず、ディスカウンターのみを販売ルートにするからです。ディスカウンター専用ブランドを作るなら、有名ブランドメーカーでも40円で缶コーヒーを売ることは可能でしょう。
 缶入り清涼飲料の流通ルートは、自販機ルートが各社の販売比率の4~5割、会社によっては9割を占めます。日本自動販売機工業会によると、飲料の自販機は2009年12月の数字で全国に256万台。これだけの自販機を維持管理して、商品を補充するコストが80円だということです(80円には多少の利益も含まれます)。
 言い換えると、私たちは自販機で缶コーヒーを買うごとに、80円の「自販機サービス料」を払っているとも言えます。それだけ、目に見えない流通コストは大きいということです。

コメの価格は自由化でどれだけ下がる?

 さて、農産物の輸入自由化によって消費者が受ける恩恵として、食料品価格が下がることを挙げる人がいます。
 一体どれほど下がるのでしょうか。高い関税に守られているとされるコメを例に挙げましょう。
 
統計資料によれば、2010年9月、米穀価格は生産者価格が6000円(30キロ)、小売価格は2000円(5キロ)程度であったと考えられます。
 30キロの玄米は精白すると1割ほど重量が減りますので、実際は6000円(27キロ)と想定しましょう。すると1キロ当たりのコメの生産者価格は222円、小売価格は400円です。流通コストは、その差額として、1キロ当たり180円ほどかかることになります。
 「小売価格の45%」「1キロ当たり180円」という数字は、一見すると多そうに思えます。けれども、この中には流通コストだけでなく、卸売り、ないしは小売り段階での精白、袋詰めコストも入っているので、決して高いとは言えません。
 現在の流通構造では、どうしてもそれくらいかかってしまうと言ってよい水準だと思います。
 では、国産米が安い輸入米に替わったとしましょう。大前研一氏はウェブサイトで、オーストラリアのコメを1キロ100円で輸入するためにどのような環境整備が必要かを論じています。仮に1キロ100円で輸入できたとしましょう。
 やはり精米で1割減ると考えて計算すると、1キロ当たりの価格は「110円+180円(流通コスト)」で290円になります。コメの値段が半額以下になっても流通コストがかかるので、価格は3割ほどしか下げられません。
 それでどの程度、家計の出費が抑えられるでしょうか?
 日本人の1人当たりコメ消費量を60キロとすると、110円(1キロ当たり安くなる値段)×60キロで年間6600円、つまり、家族4人だと年間で2万6400円です。
 

オーストラリアからコメを輸入する際のリスク

 「年間3万円以下とはいえ、消費者は高いコメを買わされている」のだから、輸入自由化を行うべきだと考える人もいることでしょう。
 しかし、オーストラリアからコメを輸入する場合、カントリーリスクも抱え込むことになります。そのことを指摘する人は少ないようです。
 現在は放棄しているとされていますが、オーストラリアは長年「白豪主義」と呼ばれる人種差別政策を取ってきました。
 白豪主義の始まりは1901年、連邦成立時に制定された移民制限法が始まりです。当時、大量に流入していた中国人排斥が主目的でしたが、実は流入数が中国人よりも圧倒的に少ない日本人の方が優秀で脅威だと見なされていました。
 日清戦争に日本が勝った時、オーストラリア連邦初代法務長官となったアルフレッド・ディーキンは「日本人は彼らの高い能力ゆえに排除される必要がある」とまで言ったくらいです。すなわち、もともとオーストラリアには反日的な土壌があるのです(参考サイト「郵便学者・内藤陽介のブログ」)。
 しかも、オーストラリアは第2次大戦中、日本軍に攻撃された経験を持ちます。世界を震撼させた「911事件」は、アメリカ人にとって初めて外国からの本土攻撃であったことでなおさら衝撃だったわけですが、歴史上、最初にオーストラリア本土を攻撃したのは日本軍だったのです。シー・シェパードを支援する政治勢力がオーストリア政府内に存在するのも、そうした背景があることと決して無縁ではないでしょう。
 もちろん、今のオーストラリアにとって日本は最大級の輸出先ですから、短中期的に見て露骨な反日政策に転じる可能性は小さいと言えます。
 また、カントリーリスクを回避できないことはありません。オーストラリア以外にもコメを作れる国はたくさんあるわけで、輸入先を極力分散するようにすれば、オーストラリアが対日輸出を止めても対処は難しくないでしょう。
 
しかし、コメの輸出大国ほど、コメを外交カードに使うのが容易であることは間違いありません。

リスクヘッジとベネフィット、あなたはどちらを選びますか?

 問題は、1人当たり年間6600円、一家族で3万円にも満たないカネと引き換えに、このリスクを取っていいか否かということです。
 自動車を運転する人は、自賠責の他に任意の自動車保険に入っていると思います。誰も自分が事故を起こすとは考えていないでしょうが、「もしも」の時のために加入しているわけです。自動車保険の1世帯当たり平均支払額は、2002年の数字で平均10万円ほどのようです。
 農業の中で最も重要な作物は穀物です。野菜や果物、そして肉がなくても、なんとか人間は生きていけますが、米・麦・トウモロコシといった主食になる穀物がなくては、生きていけません。戦時中はじゃがいも、さつまいもなど救荒作物を作っていたとおっしゃる方もいらっしゃるかも知れませんが、保存性に難があり、あくまで緊急避難的にしか使えません。
 日本は、コメ以外の穀物をほとんど輸入に頼っています。その上、コメまで輸入に頼るようになってしまってもいいものなのか。ただし、1人当たり年間6600円、1家族で3万円以下の消費支出が減るベネフィットは得られます。
 さて、読者諸兄は、リスクヘッジと小額のベネフィットのどちらを選択するでしょうか?
 自動車事故を起こしたり、巻き込まれたりするリスクの回避に、我々は1家庭当たり年間10万円を払っています。オーストラリアが反日政策に転じるリスクと、自動車事故リスクのどちらが大きいのかは分かりませんが、同様に低いでしょう。
 そんなことを考えると、コメ輸入自由化の是非は、読者諸兄の人生観と密接なかかわりがあるような気がしてなりません。
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