宮家邦彦さんの3月4日付「中国急成長の歪み:大学を出ても就職できない」の記事は、連載が始まってから100本目の記事に当たる。
初回の記事「
なぜ我々は中国を見誤るのか」がサイトに載ったのが2009年4月3日だから、足かけ2年、正確には1年と 11カ月、中国について鋭い洞察の記事を続けていただいた。
ゴールデンウイークや年末年始も休まず連載
毎週金曜日の連載が100回、その期間が1年と11カ月であることから分かる通り、ゴールデンウィークやお盆、年末年始も休むことなく続いてきたことになる。
実際、昨年末の12月31日金曜日には、翻訳記事以外はほとんどお休みする中、信じられないほど腐敗し切った中国警察の内情を紹介してもらった(「
世界が唖然とする中国警察の腐敗度」)。
例えばこんな具合である。
「山西省公安庁が1年の内偵を経て、黒社会性質組織(暴力団)の頭目だった同省陽泉市公安局の元巡警(パトロール)隊長・關建軍(41歳)とその弟關建民ら計45人を賭博、恐喝、覚醒剤、売春などの組織暴力犯罪容疑で逮捕した」
「陽泉市で秘密カジノ・風俗店を経営していた關兄弟グループは逮捕時に、北京を含む27の不動産(約1億元=15億円相当)、ロールスロイスを含む三十数台の高級車、2億6000万元(39億円)の現金などを保有していた」
「同グループはサイレンサー付き拳銃、ライフル、刀剣類を含む大量の武器を所持し、石炭の豊富な山西省で鉱山を7つも騙し取っていた」
「何のことはない、市民を守るべき警察の幹部が暴力団のボスとなり、捜査費用捻出どころか、違法な私的蓄財を重ねていたというわけである」
こんな警察が跋扈している国には恐ろしくて観光旅行にもおいそれとは行けない。しかし、中国の女性らしい強気の発言で世界中の人たちから人気の中国外務省・姜瑜副報道局長は、中国の警察や法律遵守には自信たっぷりだ。
ジャスミン革命恐れ、世界中のジャーナリストを拘束
中国各地で呼びかけられたジャスミン革命を取材中の各国の記者を警官が拘束したり乱暴したことに対し、「中国の法律にのっとって粛々と対応した結果であり、必要があれば中国の警察は各国のメディアに協力も厭わない」と話している。
各国のメディアとも、腐敗にまみれた警察のお手伝いは大金を要求されそうで丁重にお断りするだろうが、なぜ政府は自信満々なのに現場の警官の不正はなくならないのだろうか。
宮家さんはそれについて、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)というNGO(非政府組織)を紹介して解説している。
ドイツのベルリンに本部を置くこのNGOは毎年、腐敗認識指数(CPI=Corruption Perceptions Index)を発表しているそうだ。
国の清廉度を10点満点で評価したもので、2010年ランキングの第1位はデンマーク、ニュージーランド、シンガポールの9.3であり、これに9.2のフィンランドとスウェーデンが続く。
腐敗度が一向に改善しない中国の政治
日本は7.8で17位、米国が7.1で22位、台湾は5.8で33位、韓国が5.4で39位。これに対し、中国のCPIは3.5で、178カ国中78位だそうである。
しかも、日本や韓国の清廉度がこのところ上昇している中、中国のCPIは低迷したままで改善の様子が見られないという。
その理由として、中国人に特有の問題を挙げる人がいるようだが、それでは中国人が大半を占めるシンガポールのCPIが9.3と世界最高レベルにあることが説明できない。宮家さんは次のように書く。
「OECDの調査によれば、『汚職は政治的・官僚的・経済的利害が一致する場合に生じる』という。そうだとすれば、政治と経済が未分化である中国株式会社での腐敗根絶は容易なことではない」
旧満州から日本に大量移住する中国人
「法務省統計によると、昨年2009年末の外国人登録者総数は約219万人、第1位は中国人の68万518人で、全体の31%を占める」
「第2位は韓国・朝鮮人の58万人弱、在日米軍を除く米国人が5万人ほどだから、中国人の存在感は圧倒的だ」
「外国人登録をした中国人の数は1999年に19万5000人であったから、過去10年で3倍以上に膨れ上がったことになる」
「特に、2009年は、経済情勢を反映してか、外国人登録者総数が前年に比べ3万人減少する中、中国人だけが2万5141人も増加している」
「この中国人登録者68万人のうち約3分の1は永住者・日本人の配偶者などであり、その数は21万2805人に上る。昔は中国人と言えば留学生だったが、今やその多くが日本で永住を始めたということなのだろう」
華僑が目指した東南アジア、東北3県は日本を目指す
中国本土を出て世界で活躍しているのが華僑と呼ばれる人たち。この人たちはこれまで、シンガポールやインドネシア、タイ、マレーシアなど東南アジアを目指していた。
ところが、今や中国の人たちは日本を目指す。これまでの華僑とは違った全く新しい流れだという。そして、華僑と違うのは、その出身地。
「例えば、シンガポールの華人社会は福建人(41%)、潮州人(21%)、広東人(15%)、客家人(12%)からなる。東南アジアでは中国南部出身者が主流だ」
「これに対し、日本では中国北部出身者が結構多い。2009年の統計によれば、在留中国人の出身地は、遼寧省(16%)、黒龍江省(10.6%)、吉林省(8.3%)の東北3省で約35%を占め、これに台湾を加えると4割を超える」
これが何を意味するのか。東北3省と言えば旧満州である。台湾もかつて日本の統治下にあった。日本の統治に対して反発は当然あっただろうが、一方で日本に対する親近感、あるいは日本の和を尊ぶ文化に対しての憧れもあるのではないか。
台湾の人々は日本に感謝
台湾の人々が日本から多くを学んで感謝の気持ちを持っていることは、お正月にお届けした台湾の元総統、李登輝氏のこの記事「台湾は日本が近代国家に育てた」「国民は二の次になった日本の政治家」「台湾と日本で新しいアジアの時代をつくろう」からよく伝わってくる。
「日本は台湾に、近代工業資本主義の経営観念を導入しました。台湾精糖株式会社の設立は台湾の初歩的工業化の発展となり、台湾銀行の設立により近代金融経済を取り入れました。度量衡と貨幣を統一して台湾各地への流通を早めました」
「1908年の台湾縦貫鉄道の開通により南北の距離は著しく短縮され、華南では灌漑用水路と日月潭水力発電所(現・大観水力発電所)の完成が農業生産力を高め、工業化に大きく一歩を踏み出すことができました」
「行政面では全島に統一した組織が出来上がり、公平な司法制度が敷かれました。これら有形の建設は台湾人の生活習慣と観念を一新させ、台湾は新しい社会に踏み入ることができました」
「日本はまた、台湾に新しい教育を導入しました。これは、諸外国における植民地支配とは全然違ったやり方です」
日本が貢献した台湾の教育
「台湾人は公学校を通して、新しい知識である博物、数学、地理、社会、物理、化学、体育、音楽などを吸収し、徐々に伝統の儒家や科挙の束縛から脱け出すことができました」
「日本も明治維新のときには6000の小学校が出来上がりました。6000の小学校というのは、だいたい昔の私塾から変化したものですよ。同じようなことが台湾でも起こってきてる」
「そして世界の新知識や思潮を理解するようになり、近代的な国民意識が培われました」
「1925年には台北高等学校(高等科)が設立されました。台北帝国大学は1928年に創立され、台湾人も大学に入る機会を得ました。あるものは直接、内地である日本に赴き大学に進学しました」