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それでも日本は大丈夫」という話は本当か!

2010.11.17(Wed)JBプレス 池田信夫

財務省が11月10日に発表した政府債務(国債や借入金などを合わせた国の借金)は、9月末で908兆8617億円となり、過去最高を更新した。

 GDP比は173%と先進国で最悪だが、長期金利は1%前後と低く、国債は順調に消化されている。

 こういう状況を根拠にして「財政危機というのは財務省の世論操作だ」とか「実は日本の財政は大丈夫だ」いう類の話が根強くあるが、それは本当だろうか。

 ここでは多くの財政学者の意見をもとにして、財政危機の実態について一問一答で考えてみよう。

<1> 国債は国民の資産だから問題ない?
 「国債は国民の債務であると同時に資産だから、夫が妻から借金するようなもの。家計としてはプラスマイナスゼロだから問題ない」という素朴な議論があるが、妻からの借金なら返さなくてもいいのだろうか。

 例えば夫が飲んだくれで仕事をしないで、妻がパートで稼いだ貯金100万円を借りるとしよう。これで夫が酒を買って飲んでしまうと、家計の資産は100万円減る。それでも妻が稼いでいれば、また借りればよいが、夫が働かないでそれを飲んでしまうと、いずれは妻の貯金も底をつく。

 つまり問題は家計簿(国のバランスシート)の帳尻ではなく、何に使ったかなのだ。

 夫(政府)が借金して浪費を続けていると、家計の資産が減ってゆく。国債で建設したインフラを将来世代が使うなら負担に見合う資産が残るが、子ども手当のようなバラマキ福祉は今の世代が使ってしまうので、将来世代には税負担だけが残る。

<2> 純債務は少ないので大丈夫?
 財務省の基準とする「国と地方の長期債務」は今年度末で862兆円だが、これはグロスの数字である。「国の資産を引いた純債務で見ると300兆円ぐらいしかないので、まだ大丈夫」というのがみんなの党などの主張だが、債務を圧縮するためには国の資産を売却しなければならない。

 国有財産は簡単に処分できないので、金融資産だけを見ると、主なものは米国債(為替介入で購入)110兆円、出資金(特殊法人などの資本)100兆円、年金基金200兆円の3つだ。

このうち問題なく「埋蔵金」と見なせるのは米国債だが、最近のドル買い介入で含み損を抱えている。

 特殊法人などへの出資金は、その出資先を清算しないと返ってこないし、清算すると資産はかなり劣化しており、債務超過になっているかもしれない。

 年金基金は国債の償還に流用できないし、将来の給付を債務と考えると約500兆円の債務超過だという推定もある。年金債務を無視して米国債と出資金を862兆円から引いても、純債務は653兆円。GDP比は1.3で、先進国ワーストワンだ。

 問題は純債務がいくらあるかではなく、国債が消化できるかどうかである。

<3> 国債を買っているのは日本人だから安心?
 国債の保有者の95%は日本人だが、「日本人だから損しても国債を保有する」というのは何の根拠もない。

 75%は金融機関などの機関投資家であり、金利が上昇(国債価格が下落)すると大きな損失が出る。日本銀行の推計によれば、金利が1%上がると、地方銀行は4兆1200億円の含み損を抱える。メガバンクは1行でこれぐらいの金利リスクを抱えており、長期金利が上がり始めたら、財務省が脅しても売り逃げるだろう。

 「日本国債は円建てだからリスクが低い」というのは事実である。ロシアのように外貨建てで国債を発行していると、債務不履行でルーブルが暴落すると、ドル建ての額面が同じでもルーブル建ての債務が増えるが、円建ての場合にはそういう問題は発生しない。

 しかし、円建てでも、国債のリスクが高まると長期金利が上昇する。国債の金利が1%上昇すると9兆円の財政負担が生じ、10%上昇すると一般会計予算を食いつぶしてしまう。

 たとえ日本人がみんな死ぬまで国債を保有するとしても、その限界は近づいている。個人金融資産から負債や株式・社債などを引いた純資産は924兆円。純債務との差(資産超過)は271兆円だから、今年の国債発行額44兆円で割ると、あと6年で使い切り、国債は国内で消化できなくなる。その前に外債の募集が始まり、長期金利が上がる恐れが強い。

<4> 元利をすべて返済した国はない。借り換えしていけばいい?
 これは政府の税制調査会の専門家委員会委員長である神野直彦氏の持論である。永遠に借り換えることができればいいが、問題は民間が借りてくれるかどうかだ。

 個人や企業の場合には、借金の限度はその支払い能力(資産や将来の収益)だが、政府の場合は徴税権が担保になっている。したがって本質的な問題は、現在の政府債務を返済するための増税が可能かということだ。

 IMF(国際通貨基金)などの推計では、日本の政府債務を維持可能にするためには、消費税率を30%以上にする必要がある。消費税を3%から5%に上げるのに10年かかり、それ以来、税率を上げられない政府に、そういう増税が可能だろうか。

 増税が間に合わず、国債が民間で消化できなくなった時は、日銀に国債を引き受けさせるしかない。これは財政法の第5条に定める国会決議をすれば可能だが、日銀が際限なく国債を引き受けると、通貨が市中に供給されてインフレが起こる。

 インフレが起こると、実質的な政府債務(名目債務/物価水準)は減るので、石油危機の時のように物価が5年で2倍になると、政府債務は半減する。これによって財政危機は回避できるが、国民の金融資産も半分になってしまう。

 「国が借金して景気対策に使えば景気がよくなって税収が増え、財政危機は解決する」という話もあるが、これは「靴紐を引っ張れば空に上がれる」というような話だ。

 もし財政支出を増やせば税収がそれ以上に増えるのなら結構な話だが、2009年度の政府支出(当初・補正)は前年度から17兆円増えたが税収は6兆円減った。

 こうした財政楽観論には「政府は民間より賢く金を使える」という前提があるが、政府がそれほど賢ければ、もともと今のようなひどいことにはなっていないだろう。

 政府の浪費によって財政危機になったのに、その対策を政府にやらせようというのは、倒産した会社の再建を、その会社をつぶした社長に任せるようなものである。

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