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もはやリーダーシップで解決できる時期は過ぎた!
2011.01.08(Sat)JBプレス 川嶋諭
新しい年を迎えて1週間が経った。今年は厳冬が予測されていたにもかかわらず、東京では1月7日になってやっと初氷を観測した。例年よりも27日も遅いという。
菅首相出演で視聴率大幅ダウン!
大雪に悩む地方には誠に申し訳ないが、東京の空気がピリッとしないわけである。
1月5日のテレビ朝日「報道ステーション」に突然登場した菅直人首相を見て、「何でいまさら。ほかにやらなければならない大切な仕事は山とあるだろう」という印象を持った人が多かったに違いない。
1月7日付の産経新聞は、この時の視聴率が6.9%だったと報じている。この番組自体は通常で13~14%あるそうで、約半分の視聴率しか取れなかったことになる。
どうも世間の思いと首相官邸の考えは位相が180度ずれてしまっているらしい。
1月8日発売の文藝春秋では参院議長の西岡武夫氏が首相について「あまりに思いつきでモノを言うことが多すぎる」などと、一刀両断にしている。
新年早々からあまりに滑稽で哀れを誘う姿を見せられて、政権に対して期待はもちろん、怒りも覚えなくなった。
何もかもピリッとしない。2011年はご存知の通り、世界の大激変が予想される2012年の前の年である。こんなに間の抜けた始まり方でいいのだろうか。
2012年については「激動の2012年を前に世界は」「世界大激変前夜、2011年という歴史的時空」で再確認ください。
太平洋の向う側では、訪米中の前原誠司外務大臣が、一国の元首並みの接待を受けているという。米国は日本の政権が既にレイムダックと言わんばかりの対応である。何とちぐはぐな新年だろう。
日本全体がまとまりなく拡散し切っているような感じを受ける。今年のキーワードはもしかしたらこの「拡散」になるのかもしれないと、ふと思った。そう、拡散。エントロピーなんだ。
世界中が哀れな眼差しを向ける日本!
水は高いところから低いところにしか流れない。やかんのお湯はいずれ冷めて周囲の温度と一緒になる。エントロピー増大の法則というものがある。世の中のものは放っておけば必ず拡散に向かうという物理学の法則である。
今の日本はやかんのお湯が大気の温度と一緒になる寸前の、熱が拡散し切った状態に近いのかもしれない。
そう考えると、FTの名物コラムニストであるデビッド・ピリング氏が皮肉たっぷりに書いた「経済が停滞しても幸せな国ニッポン」を読んでも、批判を受けている国民の1人のはずなのに、不愉快な気持ちを通り越して、第三者的に笑いがこみ上げてくる。
「日本は世界で最も成功した社会か? こう問いかけただけでも、冷笑を誘い、読者が朝食のテーブルでふき出すことになるだろう」
「韓国や香港、米国のビジネスマンに日本をどう思うか尋ねれば、10人中9人は悲しげに首を振り、普段はバングラデシュの洪水の犠牲者に向けられるような悲嘆に暮れた表情を見せる」
「『あの国に起きたことは、本当に嘆かわしいことだ』。シンガポールの著名な外交官は最近、筆者にこう語った。「彼らはすっかり道に迷ってしまった」。
エントロピーの法則に抗えない日本!
ピリング氏はデフレによって日本人はアニマルスピリッツを奪われてしまったと書いているが、確かに、アニマルスピリッツをほぼ拡散し尽くしてしまったようである。
一度拡散したものを元の形に戻すには大変な力、パワーがいる。これも物理学の教える通りである。
エアコンのヒートポンプは、大気に拡散した熱を集めて室内を暖める働きをするが、その際にコンプレッサーを回すために大変な動力を必要とする。
日本人がアニマルスピリッツを取り戻すためには、何らかの大変大きなエネルギーを加えて国民のモチベーションを上げなければならない。そのエネルギーを与えるのが本来は政治の役割だ。
高度成長期までの日本にエネルギーを与え続けてきたのは、欧米に追いつけ追い越せの指示を出した政治と、それを受けて作戦を練って実行に移した官僚のパワーだった。
デカンショ節で日本は強くなったが・・・
「デカンショデカンショで半年暮らす あ~よいよい」
「あとの半年寝て暮らす よ~ぉい よ~ぉい デッカンショ」
ご存知デカンショ節である。デカルト、カント、ショーペンハウエルを徹底的に勉強して欧米に1日も早く追いつこう。こうした唄まで登場して日本人のベクトルを同じ方向にまとめ上げた。
しかし、日本が迂闊にも欧米に完全に追いついたと思い込んでしまった1980年代末を機に、日本人のアニマルスピリッツというエントロピーは増大に向かう。そして、超新星が誕生したかのようなバブルが弾けて、拡散の勢いは一気に拡大した。
この拡散し切った超新星が元の星の輝きを取り戻すには、強力な引力が必要になる。ブラックホールである。残念ながら今の日本にはブラックホールが近くに出現してくれるのを待つしかないのだろうか。
団塊の世代が最後の背中を押す!
しかし、時は確実に流れていく。世の中は時間の関数であることも忘れてはいけない。時間とともに拡散はいよいよ不可逆の領域に入っていく。もう日本人が元のアニマルスピリッツを取り戻すことは完全に不可能になるかもしれない。
そんな日本の将来を暗示しているのがこの記事「高齢化するベビーブーマー」だ。
この記事自体は米国のベビーブーマーたちについて書かれたものである。しかし、恐らくこの記事の内容はほとんどが日本にも当てはまる。
米国のベビーブーマーたち、日本では団塊の世代が、現役引退のピークを迎え、社会保障費の増大など社会に与える影響は極めて大きい。しかし、最も影響が大きいのは、そうしたコストの問題よりも彼らの意識の変化だと言う。
「高齢者は近年、投票集団として特徴的な姿を示すようになってきた」
「退職後の生活がかつてないほど安楽になったことで、政治の動向を追う時間と手段を手にし、自分たちの動機となる問題ができたのだ」
政治に熱心になったベビーブーマーたちは、自分たちの権利が侵食されることを徹底的に嫌う。そして、自分たちが数で優位に立っていることを長い間、肌で感じてきただけに、投票という形で自分たちの権利を守ろうとする。
「福祉を削減せずにベビーブーム世代の退職に伴う費用をまかなうには、前例のない規模での増税が必要となる。それに関しては、福祉削減以上に支持が得られないだろう。既存の政治をひっくり返すベビーブーム世代の力は、かつてないほど大きくなっている」
エコノミスト誌は以前に、同じような問題が欧州で始まっていることを指摘している。それがこの記事「欧州の憂慮すべき老人支配」だった。
世界最大の老人支配の国になるニッポン!
同じことが日本で起きないという保証は全くない。それどころかエコノミスト誌がまだ書いていないだけで、先進国で最も少子高齢化の勢いが激しい日本にこそ特徴的に現れやすい問題と言えるのではないだろうか。
何しろ、日本は世界で最も長寿の国である。団塊世代の権利行使は世界で最も長く続く。それは日本の構造改革が世界で最も遅れるというあり難い反作用を生み出す。
アニマルスピリッツは経験を重ねたお年寄りよりも、怖さを知らない若者に宿りやすい。時は、確実にその意欲を削ぎ完全に失わせるように流れていく。
その流れを止めることは、米国のバラク・オバマ大統領にもできないようだ。もちろん、日本のリーダー(それも今は団塊世代)にできるとは全く考えられない。
だとすれば、もはやリーダーシップどうのこうのと言っても虚しいだけ。日本は2回の失われた10年という時間を空費したために、アニマルスピリッツは不可逆な領域へ入ってしまっている危険性が高いことになる。
年初からのピリッとしない空気は、そうした虚しさのせいだったのかもしれない。しかし、待てよ。マヤ暦の終わる来年は、ひょっとしたらブラックホールが生まれるかもしれない。
何がブラックホールになるかは分からない。恐らく複合的に生じるのだろう。実際、その兆候は少しずつ感じられるようになってきた。
例えば、この記事「ブラジルレアルに魅せられる日本マネー」。
個人のお金は日本国債を避けブラジルへ!
「JPモルガンと野村証券が別々にまとめた推計によると、日本の個人投資家の対ブラジル投資額は累計で6兆円を超えるという。これは日本の国内総生産(GDP)の1%を超える金額だ」
日本の政治を信じられなくなった個人投資家は、日本の国債に見切りをつけ、日本以外に投資先を真剣に探すようになってきた。
「野村証券の為替ストラテジスト、池田雄之輔氏は、日本の投資信託市場における成功のカギは、高利回り通貨と資源国へのエクスポージャーを提供することだと言う」
「このため、ブラジルとその資源重視の経済に人気が集まっているわけだ。ブラジル関連商品の取引は、高収益の投資対象になってきた。レアルの対円相場は2009年初め以来27%上昇しており、金利は日本の0~0.1%に対して、ブラジルは現在10.75%だ」
ブラジルへの投資は、通貨高と金利の両面で恩恵を受けてきたわけだ。ただし、ブラジル通貨レアルがこれからも上昇を続けるとは限らないと記事は言う。
日本の国債は利率を大幅にアップ!
ブラジルが通貨高を何とか阻止しようと躍起になっているからだが、だからといって日本からの投資熱は冷めそうにもないという。
「野村の池田氏は、レアルの下落は恐らく、日本人投資家に新たな投資機会を提供することになると言う」
そう言えば、1月7日付の朝日新聞は「個人向け国債 利率大幅上げ」の見出しで、財務相が10年満期の国債の利率を大幅に引き上げると報道していた。個人向け国債は昨年8~10月の販売実績が史上最低の1417億円にまで減少しているという。
政治不信も手伝って国民からそっぽを向かれ始めた日本国債。それは危機的な財政赤字を抱える一方、再建策を全く打ち出せない政府に重くのしかかる。
そして、つまらない内輪もめが原因で通常国会の召集を1月末にまで遅らせるという政府。それは、参院での議決も必要な予算関連法案に必ず跳ね返ってくる。
短期国債償還のための赤字国債を発行できず、日本国債が信用を失って暴落という爆弾を抱えることにもなりかねない。ブラックホールが出現するとしても、それは何も来年、2012年と決まったわけではないのだ。
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