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『メッシュ』著者に聞く、新潮流の共有型ビジネス最前線(前編)

2011年2月24日(木) 日経ビジネス 瀧口範子
 
 
――どんなきっかけで、この『メッシュ』を書こうと思ったのですか。
 
ガンスキー 私は、テクノロジー業界のアントレプレナーとして、これまでいくつもの企業を立ち上げてきました。こういう仕事をしていると、自然とテクノロジーの観察者になるものです。
 どんな新しいテクノロジーが出てきたのか、そのマーケットは何か、人々の関心はどの程度か、そのテクノロジーによって新しいサービスが提供されるのか、それとも古いものが新しい方法で提供されるのか、といったことを分析するようになるのです。
 
 1999年にオフォト(現コダックギャラリー)という写真シェアリングの会社を起業した時(後にコダックに売却)、物理的なビジネスだった写真がデジタル・テクノロジーによってすっかり変わり、しかも人々が結婚式や休暇などの人生のイベントの記録を共有したいのだということが分かりました。
 デジタルにアクセス可能にしておけば、その写真を好きな時に見られる、それが大人気を呼んだのです。
 その後、写真だけでなく音楽、映画も、アップルのiTunesなどを利用することでわざわざCDやDVDを買わなくても、好きな時に楽しめるようになった。今や、モバイルやGPS(全地球測位システム)などのテクノロジーのおかげで、他にもいろいろなものを簡単に安価に探し出せるようになりました。
 そこで考えたのです。さて、そうすると我々はモノを所有する必要があるのか――と。リサーチが始まったのはここからです。

考えてみると、都市というプラットホームも共有されるべく計画

――『メッシュ』では、テクノロジーのプラットホームを利用することで、個人や企業が共有できるモノやサービスの多様な例が出てきます。好例がカーシェアリングですね。
 
ガンスキー 考えてみると、都市というプラットホームも共有されるべく計画されてきました。道路や公共交通機関、ホテル、アパート、レストラン、公園、警察、消防署など、すべて人々が必要な時にアクセスするためにある。この世界において共有はかなり長い歴史があるわけで、むしろ所有することへの執着は一体いつから始まったのかと考えざるを得ません。
 例えば、アメリカやカナダ、ヨーロッパでは、個人が自家用車を利用するのはたった8%だけです。自動車は高い買い物なのに、あとの92%の時間は使われないままに放置されている。その上、車を持っているとメンテナンスにお金もかかり、街では駐車に苦労し、交通違反をすれば罰金も払わされます。
 ところが、カーシェアリングのサービスを利用すれば、便利でストレスは少なく、満足感も大きい。それならば、所有する代わりに必要な時にアクセスすればいいのです。

企業ではどんな例がある?

――企業のビジネスでは、どんな例があるのでしょうか。
 
ガンスキー これまでは一企業が垂直統合してきたさまざまな機能を共有する例がたくさんあります。工場やテクノロジー、配送センターや顧客サービスセンター、特定のチームなどに及んでいます。
 物理的なモノと情報のインフラを共有して無駄をなくし、最大限の利益を生み出すアプローチで、「イールド・マネージメント」と呼ばれているものです。DHLやUPSなどの配送サービス、日本にも出てきたP2P(ピア・ツー・ピア)型の金融業なども、そうした例に入ります。
 
――『メッシュ』では、共有することだけでなく、そこから派生するいくつかの興味深い側面にも触れられています。
 
ガンスキー メッシュとは、網の目のことですが、「織り込む」という意味があります。コミュニティ、情報、物理的なモノをインターネットというネットワークの網に一緒に織り込んでいったら何が出てくるか。メッシュ・コミュニティやメッシュ・ビジネスが最初に提供できるのは、モノやサービスの共有です。しかし、その次に、共有することによってデータが得られることが特徴です。
 例えば、車を買うと、顧客と店との接点は一度限りでしょう。顧客は車に乗って走り去ってしまうからです。けれどもカーシェアリングならば、顧客は繰り返し利用するわけですから、店にとっては同じ顧客とのやりとりが多くなる。顧客の意見を聞いてサービスを向上させられれば、店と顧客双方にとっていい結果となります。しかも、今は口コミの時代ですから、宣伝費などよりも、顧客との関係に投資をした方がはるかにメリットを生むのです。
 さらに、パートナーシップ(提携関係)もメッシュが可能にする広がりです。たとえば、家電量販店がただ製品を売るだけでなく、業者と提携して廃品回収も行ない、消費者にポイントを還元すれば、P/L(損益計算書)の数字も向上します。
 今や廃棄によるコストは無視できなくなっているうえに、持続可能性(サステイナビリティ)への配慮は企業ブランドにとって大きな影響があるからです。コカコーラが再生ペットボトル素材で家具を作るといったことをやっていますが、こうした提携は今後大きなトレンドになるはずです。

モノを売るビジネスでのメッシュはある?

――モノを売るビジネスをしている既存の企業にも、メッシュに関わるチャンスはあるのでしょうか。
 
ガンスキー メッシュは、ゼロから始めなければならないわけではありません。個人ならば、家や車、自転車などを所有しています。使っていない期間があれば、それをバケーション・レンタル(休暇期間限定貸し出しサービス)などで貸し出すことができます。
 
カーシェアリングには、ジップカー(Zipcar)などの企業が運営するものもありますが、消費者同士のP2P型カーシェアリングのしくみもたくさん出てきました。そうやって貸し出して、毎月数100ドルの収入を得ることも可能です。私とあなたとの間でも、共有できるものがたくさんあるはずです。
 企業ならば、使っていないオフィスビルや工場、設備などを貸し出すことができます。要は、企業はすでに持っているものからどう最大限の利用価値を引き出し、廃棄を減らすかを考えればいいのですが、さらにはメッシュ的な未来に向かって、少しずつ変化していく必要があるということです。
 製品をどうデザインするのか、販売ルートをどう変えるのか、価格をどうつけるのかを再考するのです。メッシュ時代の製品は、共有されるのに向くようなデザインで、サイズが調整できたり、耐久性が高いものであったりする必要があるでしょう。
 
――消費者が所有をやめると、企業は損をすることになりませんか。
 

ガンスキー 例えば、映画のDVDをこれまで30ドルで売っていたとしましょう。これならば1回売っておしまいで、売り上げは30ドルです。ところが、マイクロ(少額)リースをして、5ドルで何度も貸し出せば、売り上げは増えるうえ、顧客との接点も多くなります。したがって、顧客にとっては安く、企業にとっては売り上げが増え、顧客も広がるという嬉しい状況が生まれるのです。

メッシュビジネスが失敗するケースとは

――メッシュ・ビジネスが失敗するのは、どういう場合でしょうか。
 
ガンスキー いつも顧客にアピールする魅力的なサービスを維持しなければなりません。例えば、バイクシェアリングのサービスで採用されているのは、数年前まではごく普通の自転車でした。ところが、今やGPSがついていたり、天気がわかったり、ロックが一体型になっていたりと、すっかり新しくなっている。自分の自転車はその間何も変わらないのに、シェアリング・サービスではそうしたアップデートが常に行われ、顧客を退屈させない。
 また、ぴったり合った顧客層を見つけることも必要です。若者は、携帯電話以外のモノを共有することに抵抗はありません。また年配者は、ともかくモノを減らした生活をしたいと思っているので、彼らも共有に向いています。
 ところが、その間の世代は、子育ての最中です。カーシェアリングを利用しようとしても、子供にオムツにカーシートと、いろいろな荷物を持って駐車場へ何ブロックも歩いていくのは、ロジスティック的につらい。
 サービスと顧客と価格設定のもっと微妙な関係性を抑えることも重要です。ブロックバスター(Blockbuster)は、DVDレンタルというシェアリング・サービスでした。ところが、返却期間に遅れると超過料がつき、本来ならばいい顧客であるはずの人々を苦しめたのです。
 
ネットフリックスの創業者は、休暇後ブロックバスターに返却に行って40ドルも徴収されたことがきっかけとなって、起業しました。ネットフリックスには超過料がありません。同じDVDレンタルのビジネスですが、テクノロジーを利用してビジネスモデルを変え、大成功したわけです。
 
――『メッシュ』には、共有、オープンさ、透明性、エコ・サイクルなど、これまでもテクノロジー分野などで語られてきたコンセプトが数多く出てきます。そうしたものを語る際の、『メッシュ』とウェブ2.0的な捉え方との違いは何ですか。
 
ガンスキー 1つは、物理的なモノにそうした考え方を適用したことでしょう。また、メッシュは、それら個々のコンセプトがシステムとして統合されたものだといえます。
 ビジネスに携わる人間は、材料に付加価値をつけて売ることが商売だと考えますが、私は「逆方向のバリュー・チェーン」に注目しました。売りっぱなしでなく、顧客との関係性を保ち続けることや廃棄の部分も含めてコア・ビジネスを考えることが、これから重要になると強調したいのです。
 その際に、ウェブ2.0では、お金を使って顧客の関心を惹き付けておくアプローチを採るかもしれません。しかし、メッシュとは有機的なプラットホームであり、自分以外の誰かほかの人たちがそこへ結びついていることが経済的にも環境的にも理にかなっているという、つながりを基盤とした利他的なビジネスモデルなのです。
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