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『メッシュ』著者に聞く、新潮流の共有型ビジネス最前線(後編)

2011年2月28日(月) 日経ビジネス 瀧口範子
 
 
――コミュニティでの共有というと、とかく閉じられた狭いグループ内でのことに終始するのではないかと思われがちですが、メッシュ・コミュニティやメッシュ・ビジネスはスケイラブル(拡張可能)なものなのでしょうか。
 
ガンスキー カーシェアリングは20~30年前からあります。またヨーロッパでは、100年前からバイクシェアリングがありました。しかし、現在はテクノロジーのプラットホームを統合することで、それを拡張できるようになったのです。
 また、こうしたシェアビジネスは、フェイスブックのようなSNSを土台にして構築することもできます。その際、1000人友達がいるとして、そのうち自分の車を貸してもいい相手は100人、家を貸してもいいのは30人、子供の面倒を見てほしいのは5人、といった具合にフィルタリングをかけることになる。そういうふうにサービスを伸張自在に捉えることもできるでしょう。
 現在、いろいろな試行錯誤が行われていますが、その試行錯誤のコストも、既存のプラットホームを利用したりなど、安いものになっています。

3分の1の収入で充分にやっていけるし、その方がストレスもないいい生活

――『メッシュ』には、ビジネスと社会の両方をつなぐ糸があるように思われますが、この本にどの程度社会変革への思いを込められたのでしょうか。
 
ガンスキー 私はいつも、ビジネスとは社会的(ソーシャル)なものだと捉えてきました。顧客、市場、コミュニティが結びついたところに成立し、いつも顧客を惹き付けておかなければならない。
 しかも現在の世界は、10年前とは違ったものになっています。人々が何に幸せを感じ、何に不安を感じるかがすっかり変わったのです。景気後退が人々を打撃し、もう大企業のブランドにも信頼感を持てなくなった。払うコスト分の価値があるのかを、人々が真剣に問い始めたのです。
 私の友人で、ニューヨークの金融業界に務めていた人が2人も解雇されました。いずれもいわゆるタイプA人間で、負けず嫌いで競争心が激しい。ところが、その後どうしているかと心配になって電話をしたら、1人はこう言うのです。よくよく計算したら、高級なスーツを身につけて毎日出勤するような生活をやめれば、3分の1の収入で充分にやっていけるし、その方がストレスもないいい生活だ、と。こうした時代の雰囲気に追い風をもらったのは確かです。
 
――景気後退がなくても、メッシュ的な世界は起こっていたと思いますか。
 
ガンスキー すでに起こりかけていたと思います。ジップカー(Zipcar)やネットフリックス(Netflix)、アマゾンのウェブサービスなどが始まったのは、いずれも10年ほど前です。それらはすべて、今や巨大なビジネスに成長しています。
 
そしてもう1つは、人々がシンプルな生活を望んでいること。それも、確かにモノは少ないけれども、何かを我慢するのではなく、返ってより豊かな経験を手にしたいと希望している。またそれが可能になりました。CDやDVDは持っていなくても、音楽や映画は以前よりたくさん鑑賞するようになったでしょう。
 
不動産のような業界でもメッシュは起こっていて、短期間のマイクロ賃貸やポップアップストア(移動型店舗)、共同作業(コワーキング)スペースのハブ(Hub)などが人気を得ています。大きなコミットメントが必要だった不動産ですら、タパスのような小皿モードのサービスになったということです。
 私は「メッシュの眼鏡をかける」という表現をしていますが、いまの暮らし、ビジネスの中でシェアできるモノ、希少な資源、余っているモノは何かという観点で常に見直すことから、新しいビジネスのてがかりは必ず見つかるはずです。

 

メディアはどうなる?

――メッシュ的な情報の共有とはどんなものでしょうか。それによって新聞やメディアのビジネスが生き延びる方法はあると思いますか。
ガンスキー コミュニティや国、企業、ライフスタイルに対して、われわれが長年抱いてきた考え方は大きく変化しています。分り易くいえば、「単一の制御ポイント」のある世界からメッシュ・モデルへの移行です。政府、企業、報道機関のすべてにそれが影響します。メッシュ・モデルは、有機的で各所にノード(結節点)があり、敏感に反応する。つまりP2P(ピア・ツー・ピア)的なあり方なのです。
 
 これをメディア企業にあてはめて考えると、発信源は1つではなく、さまざまな見解が多様な場所で発せられるということでしょう。我々にとっての課題は、事実を確認したり、偏向報道を捉えるために広い文脈の中で書き手や話し手の言い分を理解したりというジャーナリズムの貴重な実践方法を失わないようにすることです。
 
とは言うものの、最近中東で起こっていることは、人々がつながり合うことで透明性が増すのだ、ということを示しました。フェイスブックやツイッターといったプラットホームによって、人々の生活やコミュニティの問題が分かった。従来のメディアは、それを再報道することしかできなかった。
 
 P2Pのつながりは、言語や文化による壁をも乗り越えています。たとえば、私の著書を原著で読み、フィイスブックで私にアプローチしてくれた20代の日本人男性がはじめたプロジェクト・メッシュがその一例です。プロジェクト・メッシュには自然発生的に80人以上が参加し、私の公式サイトmeshing.itの日本語版をソーシャル翻訳という方法で手がけました。プロジェクト・メッシュのボランタリー(自発的)なグループが、日本でのメッシュ・ビジネスやコミュニティを広げようとしています。
 
  このようなソーシャル翻訳という動きを見ても、これからのメディア企業のありかたが伺えるような気がします。つまり、外国語に長けた人々がニュースを広げていく。こうしたメッシュによるニュースのネットワークは、ニュースそのものによって日々かたち作られます。
 世界はもうかなりインタラクティブなものになっていて、企業も政府も一般市民も誠意をもって耳を傾け、応答することが必要になっているということです。
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