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▼歓迎されない橋下関空容認発言

 沖縄海兵隊は、1万人の幽霊定員を残し、日本から巨額の金をもらいつつ、着々と沖縄からグアムに移転している。しかし表向きは、1万人残存を前提に、辺野古に新しい基地を作る話が続いており、沖縄の人々は反対の声を強めている。

 反対の声を聞いて、大阪の橋下徹知事が11月30日に「海兵隊が関西空港に移ってくることを容認する」という趣旨の発言をしたが、実は橋下知事はその2週間前にも記者団に同様のことを言っており、その発言は国会でも問題になったが、マスコミはこれらの出来事をまったく無視した。11月30日の会見はフリーのジャーナリストが会見の一部始終をユーチューブで公開し、それが人々の話題になったので、仕方なくマスコミも橋下の発言を報道したのだという。(大手マスコミ黙殺した橋下発言 「普天間関西へ」浮上の舞台裏)

 マスコミを、外務省など官僚機構が操作するプロパガンダ機能としてとらえると、マスコミが橋下発言を無視する理由が見えてくる。米軍は沖縄海兵隊のほとんどをグアムに移転するのだから、普天間基地の代替施設は日本に必要ない。「普天間の移転先を探さねば」という話は、具体化してはならない。橋下がよけいな気を回し、本当に海兵隊を関西空港に移す話が具体化してしまうと、詐欺構造が暴露しかねない。だから、橋下の発言は歓迎されず、無視されたのだろう。

 海兵隊の移転先として硫黄島の名前が挙がったり、嘉手納基地と統合する構想が出たりしているが、同様の理由から、いずれも話として出るだけで、それ以上のものにはなりそうもない。

(橋下知事は大阪府民に向かって「みんなで沖縄のことを考えよう」と呼びかけており、これは以前に書いた「沖縄から覚醒する日本」と「民主党の隠れ多極主義」で指摘した、沖縄基地問題と地方分権をつないだ日本覚醒の流れに見える)(沖縄から覚醒する日本)(民主党の隠れ多極主義)

▼日本の将来を決する天王山に

「海兵隊はグアムに全移転しようとしている」という、宜野湾市長の指摘も、マスコミでは報じられなかった。だが、11月末に伊波市長がその件を与党議員に説明した後、12月に入って鳩山首相が「そろそろ普天間問題に日本としての決着をつけねばならない」「グアムへの全移転も検討対象だ」と発言し、事態が一気に流動化した。鳩山がグアム全移転を言い出したことが、伊波市長の指摘と関係あるのかどうかわからないが、議論の落としどころは「グアム全移転」で、それに対する反対意見を一つずつガス抜きしていくような展開が始まっている。(普天間移設「新しい場所を」首相が指示)

 そもそも「グアム全移転」は、日本側が提案することではなく、すでに米国がやっていることなのだが、世の中はマスコミ報道を「事実」と考えて動いており、海兵隊1万人沖縄残留という捏造話が、国民の頭の中で「事実」になっている。マスコミがプロパガンダ機能だと国民に気づかせることが首相にもできないほど、この機能が持つ力が強い以上、鳩山はグアム全移転を「米国に提案する」という形式をとらざるを得ない。

 鳩山は「(普天間移設に関する)政府の考え方をまとめるのが最初で、必要、機会があれば(米大統領と会談したい)」と言っているが、まさに必要なのは、米国と再交渉することではなく、政府の考え方をまとめ、海兵隊員水増しの捏造をやめることである。外務省など官僚機構が了承すれば、日本は「海兵隊は2014年までにグアムに全移転してほしい」という方針で一致し、米軍がすでに進めている移転計画を、ようやく日本も共有することになる。(日米首脳会談、要請もできず…米側も消極的)

 海兵隊グアム全移転が政府方針になると、海兵隊1万人沖縄残留という捏造話に基づく対米従属の構造が崩れ、外務省など官僚機構は力を失っていく。だから外務省とその傘下の勢力は、全力で抵抗している。事態は、日本の将来を決する「天王山」的な戦いとなってきた。自民党は、民主党政権を批判すべく、今こそとばかり党内に大号令をかけた。自民党は、官僚依存・対米従属の旧方針を捨て、保守党としての新たな方向をめざすべきなのだが、依然として官僚の下僕役しか演じないのは愚かである。(自民が民主批判の大号令、問題指摘のメモ作成)

 政権内では、北沢防衛大臣がグアムを訪問した。海兵隊のグアム全移転が可能かどうかを視察しに行ったのだろうが、向こうの米軍などに恫喝されたらしく、グアムにいる間に「グアム全移転はダメだ。日米合意からはずれる」と表明した。これに対して社民党の議員が「ちょっと行って、ちょろっと見て『ダメ』って結論が出るのか」と非難するなど、連立与党内も乱闘になっている。(社民・重野氏「ちょろっと見て結論出るのか」 グアム移設で防衛相に不快感)

 日本政府が「グアム全移転」でまとまった場合、日本が米軍の移転費用を2014年以降も出し続けるかどうかが、日米の問題となる。米軍がグアム島を大軍事基地に仕立てる計画について、米軍は当初、総額107億ドルで完成できる(うち60・9億ドルを日本が出す)と言っていたが、これにはグアムで軍関係の人員や車両が増えることによる道路や上下水道、電力網などの補強工事にかかる61億ドルが含まれていない。米政府の会計検査院(GAO)は今年7月、この件で米軍を批判する報告書を発表した(基地移設により、島内人口は14%増となる見込み)。(GAO says cost of Guam move will exceed estimate)

 米軍は予算オーバーの常習犯で、事業が予算を大幅に超過するのは30年前からの常態だ。米軍は、超過分は日本に出させようと考えていただろうが、鳩山政権は対米従属からの自立を掲げており、財政難を理由に、金を出し渋るだろう。今回の北沢防衛相のグアム訪問時に、グアムの知事が沖縄からの海兵隊移転に初めて反対を表明したが、この反対表明の裏には、日本にグアムのインフラ整備費も出してほしいという要求があるのだろう。

 米政府も財政難なので、海兵隊グアム移転にかかる費用の増加分を日本が出さない場合、海兵隊がグアムに移らず、普天間に居座る可能性もある。だが、そうなると海兵隊の居座りに対する沖縄県民の反対も強くなり、鳩山政権は、金を出さないで海兵隊に撤退を要求するという、フィリピンなど世界各国の政府がやってきた「ふつうの国」の要求をするかもしれない。最終的に、米軍は日本らか追加の金をもらえずに出て行かざるを得ず、この場合はグアム移転の要員数が縮小され、米本土に戻る人数を増やすことで対応すると思われる。「政府や議会が一度決議するだけで米軍を出て行かせられる」という、日本人が「そんなことできるわけない」と思い込まされてきた世界の常識が、ようやく日本でも実行されることになる。

 沖縄では、来年の沖縄県知事選で、宜野湾市の伊波市長に出馬してもらおうとする動きがあると聞いた。もし伊波市長が沖縄県知事になったら、沖縄県は米軍駐留をなるべく早く終わらせようとする姿勢に転換し、東京の政府も無視できなくなる。それは、沖縄が米軍基地の島を脱却することにつながりうる。
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