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そうりゅう (潜水艦)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9D%E3%81%86%E3%82%8A%E3%82%85%E3%81%86
官と民の良好な「三角関係」が失われていく!
2011.01.21(Fri)JBプレス 桜林美佐
2010年11月14日の日曜日、私は神戸に向かっていた。翌日、川崎重工業の神戸工場で潜水艦の命名・進水式があるためだ。
前夜のうちから、神戸には海上幕僚監部など多くの関係者が集まっていたが、彼らは基本的に企業の人間とは別行動である。膝を突き合わせて潜水艦のこれからについて語り合う、などという光景はない。
昨今は不正や癒着を防ぐという観点から、企業の関係者と現役自衛官が杯を交わすことは忌避される。また、発注の際は、何ごとも随意契約をやめて競争入札を取り入れる流れとなってきている。
しかしこのことは、受発注者間のコミュニケーション不足と、これまで互いに情報をやり取りして共に技術発展に努めてきた企業間の不協和音をもたらすという側面もある。
杓子定規な取り決めが、日本らしい技術進歩・発展を阻むことにはならないか・・・。
そんなことを思いながら迎えた翌朝、工場には次々に人が集まってきた。どんな進水式でもそうだが、「こんなにたくさんの人が関わっていたのか」と驚くほど、多くの関係者の手によって建造されていることが分かる。
「そうりゅう」型は日本の潜水艦技術の結晶!
潜水艦1隻の建造には約1400社が関わるという。この場にはいない、さらに沢山の人々が、この1隻の行く末をどこかで見守っているのだ。
今回、進水式を迎える潜水艦は、「そうりゅう」型の4艦目である。
「そうりゅう」型とは、海上自衛隊の潜水艦として初めて非大気依存推進機関(AIP:Air Independent Propulsion)のスターリングエンジンを採用したもの。
このエンジンは燃焼時に大気を必要としないので、潜航したままの充電が可能である。そのため、潜水艦は頻繁に浮上することなく行動することができる。
原子力潜水艦を持たないわが国としては画期的な潜水艦であり、不断の努力で遂げた技術の結晶と言える。
従来の潜水艦と見た目で明らかに違うのは、艦尾の4枚の舵だ。「十」字型ではなく、「X」字型になっている。こうすると、4枚の舵のいずれかが故障しても、残った舵である程度は操艦ができるという。
2~3年の間、船台が空いてしまうのは大ダメージ!
さて11月15日、「そうりゅう」型の4番艦は、杉本正彦海上幕僚長により「けんりゅう」と命名された後、支綱が切断された。
「けんりゅう」は、居並ぶ海上自衛官が敬礼する中、船台を滑り降りていく。初めて海上に放たれる姿を、関係者はまるで歩き始めたわが子のように見つめている。感動的なシーンだ。
しかし、企業の関係者の胸中は複雑である。
潜水艦の建造は、これまで三菱重工と川崎重工の2社が随意契約で請け負ってきた。2つの企業はライバルであるが、互いに切磋琢磨して優れたものを造ろうと技術を磨き、官との良好な「三角関係」を築いてきた。
だが、その関係が前述したような背景によって崩れてきている。さらに、その崩壊を一層加速させるような出来事があった。
現在、日本が保有する潜水艦は16隻。毎年1隻が退役し、1隻が新たに建造されてきた。新しい潜水艦は、三菱重工と川崎重工の2社が1年おきに受注することになっていた。だが、2009(平成21)年度に予算が付かず、その流れが止まったのだ。
2009年度は、本来は川崎重工が受注する年だった。川崎重工は2010年度も受注できないとすると、3年間受注がなくなってしまうことになる。一方、仮に2010年度に川崎重工が受注したとすると、三菱重工が2年間は受注できないということになる。
いずれにしろ船台にブランクができるダメージは大きい。仕事のない下請け企業には、撤退を余儀なくされるところも出てきてしまった。
潜水艦製造には極めて特殊かつ高度な技術を要する。例えば、溶接工は、人が1人入れるかどうかの狭さの空間で作業するなど、熟練の技が必要である。
潜水艦建造の技術者になるためには5年間の育成プログラムを経て、防衛省の技量資格を取得しなければならない。この認定制度は厳格で、3カ月間作業に従事しないと資格が失効してしまう。つまり、建造が中断すれば、技術者が「無免許」となってしまうのだ。
技術者が技量を取り戻し、免許を再取得するためには、多大な時間と労力がかかる。そのため、企業は受注を想定して作業を進め、技術者を保つしかないという。
「潜水艦を造れない間は他の仕事を」などというわけにもいかない。潜水艦建造の専門的な技量が下がってしまうからだ。受注がなくとも技量を保つため、企業は耐えなければならないのである。
新艦の建造を続けなければ技術が失われる!
そして2010年度、待望の新造艦の予算約528億円が付いた。しかし、潜水艦の建造としては初めて競争入札を実施することとなった。
受注したのは川崎重工だった。契約額は、随意契約だった2008(平成20)年度と比べると2億8770万円低くなった。
先般、策定された「防衛計画の大綱」(PDF)や「中期防衛力整備計画」(PDF)では、「動的防衛力」をキーワードに、平素の警戒・監視活動を重要視するとしている。潜水艦についても6隻増やして22隻体制をとることになった。
だが、元々2社が1隻ずつ建造していたところを、急に増産はできず、現有艦の艦齢延長(延命)措置を施すことになる。
技術者を維持するためには、新しい潜水艦を建造し続けることが重要だ。しかし、延命にコストがかかれば、新造の予算が取れなくなる恐れがある。そうなると技術者の維持は困難になる。
建造がストップしたり、厳しい価格競争に陥れば、2社の関係はますます冷え込み、技術進歩を阻むのではないか。そんな心配を、ついしてしまうのである。
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