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ケータイだけなくテレビも「ガラパゴス」を目指すのか!

2011.01.26(Wed) JBプレス 池田信夫

菅首相が1月24日に行った施政方針演説によれば、国づくりの第一の理念は「平成の開国」だそうである。しかし、日本の情報通信は、国を挙げて鎖国に走っているようだ。

 最高裁は1月18日に「まねきTV」、20日に「日本デジタル家電」によるテレビ番組のネット配信サービスを「違法」とする判断を下した。

 これまで日本では、この種のサービスは原則禁止だったが、この2社だけが知財高裁(東京高裁の知的財産権を扱う法廷)で「合法」との判決が出て、テレビ局(NHKと民放キー局5社)が上告していた。この上告に対して最高裁知財高裁へ審理を差し戻した。

 細かい法律論を省いてビジネスパーソンにとって重要な部分だけ紹介すると次のようになる。

 この2社のサービスは、テレビ番組を個人の録画機(あるいは中継器)でその所有者が見るものだ。だが、最高裁は、自分の機材で自分が見るだけでも自動「公衆」送信にあたり、しかも、その利用者だけではなく装置を設置した業者も自動公衆送信の「主体」だ、と判断した。

 これは通常の日本語の定義を大きく逸脱するもので、影響は大きい。

 例えばマンションの共同受信施設でテレビを受信して各部屋に配信する場合も公衆送信にあたり、違法になる恐れがある。データセンター(企業のサーバを提供する業者)を使ってテレビを社内に配信するのも違法で、データセンター業者も摘発されるリスクがある。

 問題は、テレビ番組だけではない。音楽配信についても同様の判決が確定しているので、個人ユーザーが自分のCDをデジタルデータにして会社のサーバに送って出先で聞くと、「公衆送信」として違法になる。この場合、会社が違法行為の「主体」と判断されるので、会社が家宅捜索を受けるかもしれない。

 今回の最高裁の一連の判決は、ごくわずかに例外として残っていたネット配信の道をふさぎ、第三者による映像や音楽のネット配信は全面禁止という方針を出したものだ。

これは著作権法で、映像のネット配信を「地上デジタル放送区域内の再送信」以外はすべて禁止とした趣旨を徹底したものとも言えよう。

日本のスマートTVは死んだ!

 海外でも映像のネット配信はビジネスとして注目されているが、方向はまったく逆だ。

 欧米では、IPTV(インターネット放送)はケーブルテレビと同じ有線放送と位置づけられ、ケーブルテレビと同じ法律で規制されている。このため、インターネットでテレビ番組を放送するのも原則自由で、米国ではテレビ局自身がすべての番組をネット配信する「hulu」というウェブサイトが人気を呼んでいる。

 ところが日本では、著作権法で「インターネット放送は放送ではない」という奇妙な規定ができ、IPTVは通信の一種(自動公衆送信)に分類された。これは大きな違いである。

 放送の場合は、再送信の許諾はケーブルテレビのように一括して得ればよいが、通信の場合は一つひとつの番組についてテレビ局や音楽の作曲者などの許諾が必要で、実際には再送信は不可能だ。

 米国でもケーブルテレビのサーバーによる録画配信は訴訟になったが、2009年に連邦最高裁でケーブルテレビが勝訴し、欧米ではテレビはオンデマンドで見るものになりつつある。

 ところが日本では、個人が自分の録画機を遠隔操作して見るのさえ違法という、世界にも類のない異常な規制が敷かれることになった。

 これが法律論として妥当かどうかはおくとしても、ビジネスに与える影響は大きい。携帯電話にインターネット機能を搭載する「スマートフォン」に続いて注目されているのは、テレビにインターネット機能をつける「スマートTV」だが、今回の最高裁判決は、日本ではスマートTVは禁止と宣告したに等しい。

例えば注目を集めている「グーグルTV」は、インターネットから映像を検索してテレビ画面で見るシステムだが、この場合のグーグル最高裁判決によれば自動公衆送信の「主体」となり、利用者が著作権法違反の映像を再生した場合はグーグルも違法行為の共犯になる。したがってグーグルは、日本でグーグルTVのサービスを開始する予定はない。

電波もガラパゴス化する!

 これは日本のテレビ局や電機メーカーにとっては好都合だろう。彼らの開発した「アクトビラ」というIPTVシステムは、特別に許可されたコンテンツしか見られないため、4年間で250万台しか売れていない。全世界で数億台を目指すグーグルTVが日本に進出してきたら、ひとたまりもない。スマートTVを殺すことによって「ガラパゴス化」して生き残ろうというのが、彼らの戦略なのかもしれない。

 同じことは、電波の世界にも起こっている。総務省は電波を競売にかける周波数オークションについて、「将来は実施することを検討する」という方向を打ち出したが、来年にも割り当てられる700/900メガヘルツ帯については見送った。

 これによって、900メガヘルツ帯はソフトバンク、700メガヘルツ帯はNTTドコモとKDDIに割り当てることが内々に決まろうとしている。

 つまり、新しい通信業者の参入を許さないで、既存業者が無料で電波を「山分け」するのだ。これによってガラパゴス化した日本の通信業者は、国際競争に巻き込まれることなく守られるだろう。

 しかし、日本の携帯電話の世界市場でのシェアは5%以下。市場が成熟してこれから人口が減少してゆく日本では、携帯サービスも成長する見通しはない。

 鎖国しているうちに経済力が衰えて世界に大きく後れを取るのは、江戸時代に経験したことだ。かつては日本が植民地にされる直前に明治維新で日本を救う英雄が出たが、21世紀の日本を滅亡から救う人は出てくるのだろうか。

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