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日本には日本流の戦没者慰霊の方法がある!
2011.01.20(Thu)JBプレス 山下輝男
1、はじめに
世界の常識は日本の非常識と巷間言われるが、その1つに戦没者に対する慰霊がある。
中国や韓国からは靖国神社への総理大臣や閣僚の参拝に対して、いまだに執拗な非難が起き、総理や閣僚の参拝も自粛傾向にあり、遂に民主党政権では1人たりとも参拝せずに、戦没者に尊崇の念を表明しなかった。
国には国のそれぞれの正義があり、慰霊の在り方があって然るべきであり、そのことを他国からとやかく言われる筋合いは毛頭ないはずだ。
また、我が国の政治家はなぜ中国などの非難を受けるとすごすごと尻尾を巻いてしまうのか、毅然と反論すべきではないのか?
列国の戦没者慰霊の状況を管見し、それとの比較において、我が国戦没者慰霊の現状を明らかにして、あるべき戦没者慰霊(断るまでもないが、もとより法学者ではないので、常識的な意見に止まる)について述べる。
2、列国の戦没者慰霊の状況
(1)米国
●戦没軍人や退役軍人を埋葬する国立墓地
有名なアーリントン国立墓地をはじめとして全国に146カ所ある。戦没・退役軍人の埋葬に当たっては、希望すれば無償で墓石や礼葬を受けることができるとされている。
米国を公式訪問した各国の元首は、アーリントン国立墓地内にある無名戦士を訪問し献花するのが慣例となっている。
参考までに、アーリントン国立墓地で無名戦士の墓のほかに有名なものとしては、硫黄島で海兵隊による星条旗掲揚を模した合衆国海兵隊記念碑がある。
副総理時代の菅直人総理大臣も外相時代の岡田克也幹事長も無名戦士の墓に献花をしている。
●追悼式、記念日など
5月末のメモリアルデー(戦没将兵記念日)、11月ベテランズデー(復員軍人記念日)があり、大統領や閣僚がアーリントン墓地を訪れて献花などをしている。
(2)英国
●英連邦戦没者墓地(Imperial War Grave)
1917年に帝国憲章によって設立、170万人の戦没者を2500の墓地に埋葬している。ほかに戦争記念碑(War Memorials)がある。
無名戦士の墓は、ウエストミンスター寺院にあり、公式献花ができる。
●戦没者追悼記念日(英霊記念日曜日)
11月11日に最も近い日曜日が戦没者追悼記念日であり、本来は第1次大戦休戦記念日であった。
この日は、通称「ケシの日」と言われ、多くの人がポピーを胸につけているが、これは第1次大戦でイギリス軍にとって最も激戦で多くの兵士が命を落としたフランドル戦線に咲いていた赤いケシの花にちなみ、戦没者を偲んで身につけている。
現在では、第2次大戦や最近の紛争で亡くなった兵士の戦没者追悼記念日と併せて行われている。
ロンドンでは、ホワイトホールの戦没者記念碑「セノタフ」で行われる式典には女王はじめ王室、首相を含む全閣僚、主要政党の党首等多数が参列する。
(3)フランス
戦争犠牲者の碑は各地に所在するが、凱旋門の下の「無名戦士の墓」が有名である。
1920年、第1次世界大戦で戦死した150万人以上の無名戦士を代表して、1人の兵士が凱旋門の真下に埋葬され、それ以後祖国フランスのために命を捧げた全ての人々の共通の記念碑となっている。
1923年、追悼の火が点火され、それ以来、この火は現在まで絶えることなく毎日点火され続けている。
国家元首で3軍の長でもある大統領が第1次大戦の休戦記念日の11月11日、第2次大戦の戦勝記念日の5月8日に参拝して献花する。
凱旋門の下には、無名戦士の墓とフランス戦勝記念の4枚のパネルが埋め込まれている。
(4)中国
戦没者などに対する国家レベルの追悼の中心は、北京天安門前広場の中心にある「人民英雄記念碑」である。
1958年に建立。高さ38メートルの巨大な碑で、基壇は、東西50メートル、南北60メートルに及ぶ。
表面には毛沢東による金文字の「人民英雄永垂不朽」(人民の英雄は永遠に不滅だ)の揮毫、裏面には周恩来による顕彰文の揮毫が刻まれている。
台座部分には中国近代史における主な事件(アヘン焼却事件「虎門銷煙」、1851年の「金田蜂起」、1911年の「武昌蜂起」、1919年の「五四運動」、1925年の「五・三〇事件」、1927年の「南昌蜂起」、1937年からの「日中戦争」、1949年4月の「長江渡江戦争」)のレリーフが彫られている。
(5)韓国
ソウルと大田に国立墓地がある。国立ソウル顕忠院の広大な敷地には、独立運動家をはじめ、国家功労者や、朝鮮戦争で戦死した韓国軍将兵、予備軍、警察官、そして国葬・国民葬が執り行われた元大統領など、約16万8000人が埋葬されている。
前身の国軍墓地は1955年に造成され、1965年国立墓地に改称、1996年に「国立顕忠院」、2006年現在の名称になった。
院内の施設の顕忠塔・位牌奉安館は、朝鮮戦争の戦没者の忠義と偉勲を称える塔で、国立ソウル顕忠院のシンボルである。
6月6日を、国土防衛のために散華した戦没者の忠誠を記念する「顕忠日」に定めている。この日が近づくと多くの行政関係者や市民が参拝に訪れ、顕忠日当日には政府によって大々的な追悼行事が執り行われる。
2010年の、第55回顕忠日記念追悼式には、大統領、国会議長・大法院長(最高裁判所長官に相当)・首相の3部要人、各政党代表、閣僚、報勲団体長、戦没した軍人・警察官、独立有功者の遺族、学生、市民ら5500人あまりが参加した。
軍隊が警備し、年中無休で無料開放されている。顕忠塔は各地に建立されている。
(6)その他の国々
それぞれの国の国柄に応じた戦没者慰霊を行っている。ウィキペディアには、約40カ国に上る国々の「戦没者の慰霊塔や慰霊碑」「慰霊を行う大聖堂」「無名戦士の墓」等列挙されている。各国の戦争博物館等には、慰霊に関わる施設が必ずと言っていいほど付属している。
3、我が国の戦没者慰霊の現状
我が国の戦没者慰霊は、靖国神社、各地の護国神社、千鳥ケ淵戦没者墓苑で実施されており、これとは別に各地に建立されている慰霊碑(忠魂碑)が多数ある。
1)靖国神社
靖国神社は、明治2(1869)年6月29日、明治天皇の思し召しによって建てられた東京招魂社が始まりで、明治12(1879)年に「靖国神社」と改称されて今日に至っている。
創建当初は軍務官(直後に兵部省に改組)が所管し、のちに内務省が人事を所管し、陸軍(陸軍省)・海軍(海軍省)が祭事を統括した。
靖国神社には現在、幕末の嘉永6(1853)年以降、明治維新、戊辰の役、西南戦争、日清戦争、日露戦争、満洲事変、支那事変、大東亜戦争などの国難に際して、ひたすら「国安かれ」の一念のもと、国を守るために尊い生命を捧げられた246万6000余柱の方々の神霊が、身分や勲功、男女の別なく、すべて祖国に殉じられた尊い神霊(靖国の大神)として斉しくお祀りされている。
最重要の祭儀は、春季(4月)と秋季(10月)の年に2度行われる例大祭である。秋季例大祭には合祀祭が併せて齋行される。
祭神は当初「忠霊」「忠魂」と称されていたが、日露戦争後に新たに「英霊」と称されるようになった。
この語は直接的には幕末の藤田東湖の漢詩「文天祥の正気の歌に和す」の「乃知人雖亡 英靈未嘗泯」(たちまち知る人亡ぶと雖も、英霊いまだかつて泯(ほろ)びず)」の句に由来する。
(2)護国神社
護国神社は、明治時代に日本各地に設立された招魂社が、1939(昭和14)年の内務省令によって一斉に改称して成立した神社である。
護国神社は、おおむね各府県につき1社が建立された。ただし神奈川県や東京都には、護国神社が一社もない。
各護国神社の祭神は、靖国神社から分祀された霊ではなく、独自で招魂し祭祀を執り行っている。1960(昭和35)年に全国の護国神社52社に対して天皇・皇后より幣帛が賜与されて以降、終戦から数えて10年ごとに幣帛の賜与が続けられている。
戦後、軍人に代わり殉職した自衛官も護国神社に祀られるようになったが、クリスチャンである殉職自衛官の妻が(他の遺族は全員賛成)、宗教的人格権を侵害されたとして損害賠償などを請求する事態に発展したことがある(山口自衛官合祀訴訟)。
3)千鳥ケ淵戦没者墓苑
千鳥ケ淵戦没者墓苑は、第2次世界大戦の折に海外で死亡した日本の軍人・一般人約240万人のうち、身元が不明の遺骨を安置するため、1959(昭和34)年に造られた。
維持奉賛のため設立された財団法人千鳥ケ淵戦没者墓苑奉仕会が、清掃等維持管理に協力している。
例年5月に厚生労働省主催の拝礼式が、秋には千鳥ケ淵戦没者墓苑奉仕会主催の秋季慰霊祭が行われるほか、1年を通じて各種団体の慰霊行事が行われる。
施設自体は特定宗派の宗教性を帯びていない。苑内で行事を行う際には、環境大臣の許可を要する。
(4)戦後の戦没者慰霊(全国戦没者追悼式)
全国戦没者追悼式は1952(昭和27)年4月の閣議決定により、同年5月2日に新宿御苑で天皇・皇后の臨席のもとで行われたのが最初である。
第2回は1959(昭和34)年3月28日にやや変則的に実施され、その後1963(昭和38)年以降、毎年8月15日に行われている。
追悼の対象は第2次世界大戦で戦死した旧大日本帝国軍人・軍属約230万人と、空襲や原子爆弾投下等で死亡した一般市民約80万人である。式場正面には「全国戦没者之霊」と書かれた白木の柱が置かれる。
式典は政府主催で、事務は厚生労働省(旧・厚生省)社会・援護局が行う。現在は東京都千代田区の日本武道館で開かれる。式典開始は午前11時51分(以下日本時間)、所要時間は約1時間である。正午より1分間の黙祷を行う。
式典には天皇、皇后、そして3権の長である内閣総理大臣、衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官および各政党代表(政治資金規正法第3条2項に規定する政党で国会に議席を有するものの代表)、地方公共団体代表(都道府県知事、都道府県議会議長など)が参列する。
(5)戦没者慰霊に関する論争など
戦没者慰霊に関する論争の主たるものは靖国神社問題である。靖国神社に関して、外交的に問題とされるのは歴史認識に関連した、いわゆるA級戦犯の合祀に関わることであり、国内的に問題とされるのは憲法が定める政教分離原則に抵触するか否かということである。
もっとも、伊勢神宮への総理参拝が何ら問題とならないからして、戦没者慰霊に関する政教分離のみが問題とされている。
●政教分離に関する問題
靖国神社を国家による公的な慰霊施設として位置づけようとする運動や、内閣総理大臣・国会議員・都道府県知事など公職にある者が公的もしくは私的に靖国神社に参拝すること、およびそれに付随して玉串奉納等の祭祀に関する寄付・奉納を政府・地方自治体が公的な支出によって行うことなどに関し、日本国憲法第20条が定める政教分離原則に抵触しないかなどが問題となっている。
●歴史認識等に関する問題
特に公的な立場にある人物が、靖国神社に参拝することによって、戦死者を英霊として崇め、戦争を賛美することになるのではないかとの疑義が呈されている。
先の大戦に関する歴史認識と戦争犯罪人の合祀の適切性、他国が感じるかもしれない不快感あるいは外交的な摩擦などに関する問題がある。
●靖国神社国家護持論と別施設論など
日本には戦死者・戦没者を慰霊する公的な国家施設が存在しない。
これについて、神道式の祭祀による靖国神社をその代替として位置づける、または、靖国神社を(戦前に近い形で)国家管理する、はたまた、わだかまりない形での参拝(鳩山由紀夫前首相)ができる別施設を建設するなどの論がある。靖国神社の特殊法人化論も提起されたことがある。
(6)論争などに関する愚見
●日本には日本独自の慰霊の方式があって然るべし
国民や遺族は靖国こそ戦没者の鎮魂の場であると思い定めており、国事に従事して散華した英霊を靖国神社に祀るのは、明治初年以来の日本の文化的・社会的伝統である。
国民として、戦没者に鎮魂の誠を捧げるのは当然至極の感情である。靖国は、国に殉じた先人に感謝し、平和を誓う場である。
今日の安寧と繁栄の礎は国難に敢然と立ち上がり、奮戦・敢闘したが、戦陣に斃れた多くの方々によってもたらされたものである。後世の我々が英霊に感謝の誠を捧げるのは自然の情である。
もちろん、慰霊の形式等は宗教的活動との疑念を抱かせぬような配慮も必要ではあろう。
2項で述べた通り、いずれの国においても、それぞれの伝統や文化に則った方式により戦没者に対する慰霊・追悼を行っている。我が国には我が国の文化や伝統に則った慰霊・追悼があって然るべきである。
我が国には我が国の正義があり、戦没者(英霊)への尊崇の念をどのように表現するかは、我が国の自由である。歴史認識まで外国に教えてもらおうなどとは思わない。
靖国神社参拝が、戦争賛美(につながる)との論をなす者もいるが、言いがかりに過ぎない。そのような恐れは、我が国においては絶対にあり得ない。国民は戦争の悲惨さを十分に承知しており、また戦うべき時とはいかなる時かを承知しているはずだ。
●靖国神社参拝非難の不純なる動機!
1985(昭和60)年に当時の中曽根康弘首相が終戦記念日に公式参拝するまでは、1945年以降歴代首相の靖国参拝に対して、中国も韓国も特段の反応をしなかった。
にもかかわらず、1985年に政治問題・外交問題化し、以降、歴代首相は、橋本龍太郎首相、小泉純一郎首相の参拝まで非難を恐れて参拝していないのである。
摩訶不思議なり。非難する国に不純な動機を感じるのは小生のみではあるまい。内政干渉そのものである。
しかしである、唯々諾々と外国の非難に従うがごとくに参拝を取りやめるとは何たる弱腰か。日本の悪しき体質を見るようだ。
日本の弱腰・軟弱姿勢が現在の事態を招いたと言えば言い過ぎであろうか?(大勲位の罪では?)
A級戦犯の合祀が問題と言うが、我が国がいかなる戦没者の追悼を行うかは優れて国内問題である。
A級戦犯も公務死亡者であり、法的には一般戦没者と同様に扱っている。戦争指導者として、仮に日本が戦争に負けた罪は問われるべきであるとしても、既に英霊となっているものを祀らぬという法はない。死者の墓を暴き、鞭打つという習慣は我が国にはない。
●全くの無宗教形式はあり得ない
靖国神社参拝は、我が国特有の形式に則っているのであり、いわば習俗的なものだ。宗教的活動ではあり得ない。
外国の慰霊の形式が完全無欠な無宗教方式かと言えば、そうとは言えないだろう。我が国には我が国独自の要領があっていい。
参拝を宗教的儀式であると厳密に考える必要があるのだろうか。多神教的な日本人の宗教観と排他的一神教的な外国人の宗教観は異なってしかるべきである。
●日本に送還された遺体は約半数
厚生労働省によれば、今なお、第2次世界大戦において海外で戦死した旧日本軍軍人・軍属・民間人約240万人のうち、日本に送還された遺体は約半数のわずか約125万柱だけである。
残りの約115万柱については、海没したとされる約30万柱を含め、現在もなおジャングルにおいて、洞窟において、沼地において日本帰還を待ち侘びておられる。全御遺骨の帰還なくして日本の戦後は終わらない。
なお、先日報道された通り、硫黄島における遺骨収集が当面の課題となっている。
中国の軍拡にいかに対処するのか?
2011.01.19(Wed)JBプレス 金田秀昭
昨年12月、安全保障会議および閣議の決定を経て、民主党主導政権下として初めてとなる防衛計画の大綱が策定された。昭和51(1976)年の初制定以来、自民党政権下を含め、3回目の改訂となる。
今回の防衛計画の大綱は、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱(22大綱)」(PDF)と称され、今後おおむね向こう10年間を見据えた我が国防衛力整備の基本政策文書となるものであり、新大綱に基づく向こう5カ年の「買い物計画」となる中期防衛力整備計画(PDF)も、同時に承認された。
新大綱は、昨年8月に菅直人総理に提出された「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会(新安防懇:佐藤重雄座長)」の報告(PDF)をベースとしている。
冷戦時代の基盤防衛力から脱し、動的抑止力を構築!
同報告の最大の特徴は、従来の防衛計画の大綱が踏襲してきた防衛力整備の基本構想である「基盤的防衛力」構想は、冷戦時代の遺物化しているとして、同構想から速やかに脱皮し、現在および見通し得る将来の安全保障環境に適合し得る高度な運用能力を備えた「動的抑止力」への体質変化を求めたことにある。
さらに同報告では、「安全保障面」においては、非核三原則、集団的自衛権の行使、武器輸出三原則の一部見直しを促している。
「防衛力面」では、複合事態(同時に各種の異質な事態が生起する事態)にも適切に対応し得る体制へ転換し、周辺海空域(海上交通路を含む)や南西地域の島嶼などの安全確保に重点を置くべきであるとして、常続監視体制、海空防衛力の強化や統合運用体制の推進を強調した。
さらに、従来からは一歩踏み込んだ形で、日本に対する弾道ミサイル攻撃の状況によっては、敵基地への攻撃も必要となる場合もあるとの認識を示した。
これに適合した適切な装備体系、運用方法、費用対効果を検討する必要があるとし、場合によっては、弾道ミサイル防衛システムによる防御面に加えて、自衛隊の打撃力による抑止の担保も重要であるとする意見も盛り込まれた。
このように同報告は、従来の安全保障や防衛力の論議の中でタブー視されてきた意見を掘り起こし、今日的な視点をもって改めて見直し、その上で必要と思われる施策はすべて取り込むなど、極めて画期的な提言であるとの評価がある。
反面、あまりにも「画期的」であるがゆえに、現政権下での採択を危ぶむ声があった。
現に、新安防懇の報告後、新大綱策定までの間に行われた民主党の外交・安全保障調査会(中川正春会長)での防衛大綱の議論においては、新安防懇報告の方向性に同調する意見が大勢を占めつつも、右から左までを抱える民主党の実情を反映して、議論は定まらず、方向性は固まっていかなかった。
しかし、新安防懇の前に麻生太郎・自民党政権下で設定された「安全保障と防衛力に関する懇談会(安防懇:勝俣恒久座長)」が、防衛大綱の改訂を目途として同様な議論を尽くしながら、政権交代後の鳩山由紀夫政権では、防衛計画の大綱の見直しを、「新しい政府として十分な検討を行う必要がある」との理由で1年間先送りした民主党主導政権としては、これ以上大綱策定を先送りするわけにもいかず、時間切れ待ったなしとなった昨年12月の決定となった。
見送られた非核三原則、集団的自衛権の見直し!
蓋を開けてみれば、予想されていた通り、新大綱では非核三原則や集団的自衛権の行使の見直しは全く取り入れられず、敵弾道ミサイル基地への打撃力の保有も見送られた。
また、防衛省・自衛隊や防衛産業界の意向を踏まえ、北澤俊美防衛大臣が政府内で熱心に説いていた「平和創設のための」武器輸出三原則の積極的な見直しは、ねじれ国会において予算関連法案の成立に必要となる「数合わせ」のため、菅総理の主導で政策連携を図る社民党の意向を汲む形で、「防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策を検討する」とトーンダウンした。
しかし、その他の内容に関して言えば、大方の予想以上に新安防懇報告の考えが取り込まれたと言える。
「我が国の安全保障における基本理念」においては、我が国の安全保障と防衛力を考えるに当たっての基本理念として、次の3つを安全保障の目標として掲げている。
●直接脅威の防止や排除による平和と安全の確保
●アジア太平洋地域の安定とグローバルな安全保障環境の改善
●世界の平和と安定確保への貢献
この目標を達成するために、次の3つを統合的に組み合わせることが必要とした。
●我が国自身の努力
●同盟国との協力
●多層的な国際安全保障協力
この考え方は、新安防懇報告に示された考え方と軌を一にするものである。
ちなみに、前大綱(16大綱)では、2つの目標(「直接脅威の防止や排除と被害の最小限化」と「国際安全保障環境の改善」)と3つのアプローチ(「我が国自身の努力」、「同盟国との協力」および「国際社会との協力」」であったが、新大綱では、アジア太平洋地域の安定や世界平和への貢献を重視することにより、民主党カラーを強調させているものとも思われる。
北朝鮮と中国への強い懸念!
「我が国を取り巻く安全保障環境」では、近年の我が国周辺における安全保障事態の発生を反映し、北朝鮮および中国への強い懸念が示されている。
北朝鮮については、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発、配備、拡散や繰り返されている軍事的な挑発行動などの動きは、地域の安全保障における喫緊かつ重大な不安定要因となっていると強調した。
また中国については、国防費を毎年2桁の伸びで20年以上継続的に増加し、核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした軍事力の広範かつ急速な近代化を進めて戦力投射能力の向上に取り組む一方、周辺海域において活動を拡大・活発化させている動向は、中国の安全保障や軍事に関する透明性の不足もあって、地域や国際社会の懸念事項となっているとした。
このように、従来に比し、かなり実態に即した表現となった。
「我が国の安全保障の基本方針」では、統合的、戦略的取り組みを行うため、政府横断的な情報体制強化に資する宇宙の開発、利用の推進やサイバー対策の総合的強化を謳っている。
官邸に誕生した国家安全保障のための組織!
加えて、各種事態の発生に対し、関係省庁が連携し、内閣が迅速な意思決定を行い得るような態勢とするため、安全保障に関する内閣の組織、機能、体制を検証し、首相官邸に国家安全保障に関して関係閣僚間の政策調整と総理大臣への助言などを行う組織を設置することが明言された。
本件は、従来から識者の間でその必要性が認識され、自民党政権時代にも安倍晋三総理が提唱して試みられたJNSC(日本版国家安全保障会議)を政権中枢に置くという構想である。
政権交代後、民主党主導政権が経験した数々の苦い教訓を反映したものと思われる。
これほどまでに明言した以上は、骨抜き、腰砕けとならないよう早急な検討を進め、できるだけ速やかに適切な組織を創設し、日本の安全保障に関わるあらゆる問題について、政府内での指導監督力を持った知恵袋として、円滑に機能させてもらいたいものである。
また前述したように、防衛力整備の基本構想として、従来の大綱が踏襲してきた「基盤的防衛力」構想に代わって、新たに「動的防衛力」という概念が導入された。
その説明として、新大綱では、今後の防衛力は、防衛力の運用に着眼した動的な抑止力を重視するのみならず、2国間・多国間の協力関係を強化し、国際平和協力活動を積極的に実施するため、実効的な抑止、対処を可能とし、活動を能動的に行い得る動的なものとしていく必要があるとし、即応性、機動性、柔軟性、持続性、多目的性を具備した動的防衛力を構築するとしている。
すなわち、「動的抑止力」プラス「積極的な国際協力活動」を「動的防衛力」と称するということであるが、いまひとつしっくりこない。
単純に言えば、新安防懇報告では、「動的抑止力」とされていたものの、「基盤的防衛力」に代わる概念が必要となったため、「○○抑止力」ではなく「○○防衛力」という言い方が必要となり、「動的防衛力」に落ち着いたとも考えられる。
「防衛力のあり方」では、新安防懇報告にもあるように、平素からの常続監視(情報収集・警戒監視・偵察活動)による情報優越の確保が強調され、防衛力の役割として、周辺海空域の安全確保、島嶼部攻撃への対応に加え、サイバー攻撃や複合事態への対応も含まれた。
思い切った見直しは評価できるが・・・
また冷戦型の装備・編成を縮小し、部隊配置や各自衛隊の運用を見直し、南西地域を含め、警戒監視、洋上哨戒、防空、弾道ミサイル対処など防衛態勢の充実を図る一方、各自衛隊の予算配分について、環境変化に応じ思い切った見直しを行うとした点は大いに評価できる。
惜しむらくは、防衛力の役割として、常続監視による情報優越の確保を強調しておきながら、「動的抑止力」の根幹となるべき我が国の領域や周辺海空域における常続哨戒(プレゼンス)についての記述が明示されていないことである。
新大綱では、統合運用の推進や陸自の体制変換(方面隊・師団・旅団)などについては、若干触れられているが、どのような方向性を持つのか、どの程度の規模に及ぶのか、など肝心の部分は不明確なままである。
真に動的な(すなわち常時見える形での)抑止効果を発揮し、必要の際には、(常時存在することから)即時に対処し得る「動的防衛力」を保有する意図を明確にしたからには、より具体的に自衛隊の体制変換の方向性を述べるべきであった。
特に、「島嶼部に対する攻撃への対応」においては、島嶼や列島線を巡る攻防は、陸海空統合の作戦が基調となることに加え、尖閣諸島の実効支配および東シナ海や南西諸島方面の防衛の能力と意思をより明確に示す必要がある。
そのために、陸海空3自衛隊の統合による島嶼防衛に特化した常設の統合機動運用部隊を展開させるなど、常続的な機動展開を念頭に置いた部隊の創設やこれら部隊による常設的な統合運用体制の創設が必要となることは明らかであり、統合運用を推進させる面からも、こういった点がより強調されるべきであった。
「防衛力の基盤」では、前述のように武器輸出三原則の見直しがトーンダウンしたことを除けば、現時点で必要な措置が概ね列挙されたと言えようが、人的資源の効果的な活用や防衛生産・技術基盤の維持は、自衛隊を真の動的防衛力として機能させるための基本となることを肝に銘じ、必要な施策を推進すべきであろう。
防衛省では、新大綱決定を踏まえ、昨年末、安住淳・防衛副大臣を委員長とする「防衛力の実効性向上のための構造改革推進委員会」および「人的基盤に関する改革委員会」の2委員会を設置し、統合運用の強化、後方支援任務の自衛官の給与抑制、防衛装備品の国際共同開発・生産の拡大などに関し、本年3月を目処として論点を整理することを決定したとのことである。
これを見ると、本稿で既に指摘してきたいくつかの重要な課題については、与党内、民主党主導政権内、政府内、さらには防衛省・自衛隊の中ですら、十分に整理、調整し尽くされないまま、新大綱が決められたとも思われる。
ついては、早急に防衛省内の議論を固め、新大綱の描く「動的防衛力」の実効性確保のための施策を推進していくことを期待する。
新大綱が目指す方向性に対する疑問!
以上、新大綱について、新安防懇の報告との関わりを持つ主要点を中心に述べてきたが、本稿は、ここで終わりとはならない。新大綱と新安防懇報告との比較から離れてみると、新大綱が目指す方向性についての疑問がいくつかわく。
1つは、「動的防衛力」の自律性の方向性と同盟国たる米国との共同との関係についてである。
新大綱においては、「同盟国との協力」において、日米同盟の深化・発展を目指すとしているものの、そのために取るべき施策については、取り立てて目新しいものは見当たらない。
しかし、現下の我が国を巡る安全保障環境を観察してみれば、まさに新大綱が目指す我が国の安全保障の3目標、「直接脅威の防止や排除による平和と安全の確保」「アジア太平洋地域の安定とグローバルな安全保障環境の改善」および「世界の平和と安定確保への貢献」を達成するため、我が国は「より自律性の高い動的な防衛能力」の保持を目指すべきではないか。
そのことにより、米国軍事力を補完し得る動的な防衛能力が、現状に比して飛躍的に改善され、結果的に新大綱にある「不測の事態に対する米軍の抑止および対処力の強化」を可能とし、日米同盟の双務性を格段に向上させることができるようになる。
これこそ日米同盟の深化であり、発展となるのではないか。
もう1つは、上記とも関連するが、アジア太平洋地域や国際社会の安定化にとって、日米同盟の果たすべき新たな役割は何か、特にその中で、日本はいかなる貢献ができるのか、と言った点についてである。
日米同盟の役割など具体的な点が不明確!
新大綱では、アジア太平洋地域の安定や世界平和への貢献を重視するとの方向性が明確に打ち出されたが、何を目標とするのか、日米同盟は何をするのか、日本はどういった役割を担うのか、そのために必要となる防衛力は何か、といった具体的な点は不明確のままとなっている。
昨年2月の「4年ごとの防衛計画見直し(10QDR)」において、中国の接近拒否・地域拒否戦略を抑止し打破するため、米国が新たに打ち出した統合空海戦闘構想、長距離打撃、水中作戦(対潜水艦戦、対機雷戦)能力の向上といった新たな軍事力の強化構想に、日本としていかに対応していくのか、直接的な言及は全くない。
本年1月来日した米国のロバート・ゲーツ国防長官は、それまでの普天間問題の解決に拘泥する強硬な態度を一変させ、地域におけるより広範な安全保障問題への日本の取り組みを期待して、「地域の事態への対処計画」とまで明言する形で、日米間の実質的な協議を加速することを求めた。
本年3月を目処とする新たな共通戦略目標設定のための協議、それを具現化する新たな役割、任務、能力(RMC)についての協議、さらには新たな日米共同宣言の発布のための、日米当局間の真摯な努力が必要となっている。
一方、具体的な防衛力整備の面で見てみれば、「動的防衛力」の確保を重視し、いくつかの新たな構想を打ち出しながら、それらの構想を具現化させるために必要となる装備体系は、その必要性は認識されながらも規模が縮小され、あるいは見送られてしまった。
例えば、情報優越のための早期警戒管制機(AWACS)増強、無人航空機(UAV)の導入や宇宙の防衛利用推進、機動性発揮のための海空輸送力強化や常続的な機動運用の体制を維持するための燃料費増加、サイバー戦への本格的取り組み、北朝鮮や中国の弾道ミサイル脅威の増大に対するイージス艦の増勢などである。
また本来的に言えば、陸自の体制変換や海空自のより戦略的、戦域的な防衛体制強化のため、島嶼戦に適合した戦闘車、戦術空母や原潜、対地巡航ミサイルや戦闘/攻撃機など、先見的な装備体系の導入についての研究を強力に促進すべきであるが、その動きは封じられているかのように見える。
今後、「動的防衛力」の実効性をいかに担保するかは、予算・人員の確保と体制変革への熱意にかかってくる。
しかし、定員微減・主要装備削減の陸自に対し、潜水艦増勢を含む海自微増、新戦闘機を含む空自横這いといった印象のある別表からは、「動的防衛力」を中心とする防衛体制改編の具体的内容は、明確には浮かび上がってこない。
次期中期防期間内に何らかの手当てが行われると思うが、それがよく見えてこない。このままでは、「名」はあれど「実」の見えない、まさに有名無実な計画となる危険性がある。
詰まるところ、新大綱の最大の問題点は、新大綱に基づく次期中期防が、現中期防に比しわずかながら「減額」されたことである。
中国をはじめ周辺諸国が軒並み国防費を「増額」する中で、過去最大の借金予算を編成しながら、8年間「減額」の続く防衛費に歯止めをかけ、強固な防衛意志を表明しようとしないのが我が国の政府なのである。
2012年の米国をはじめ、中国、ロシア、韓国、台湾など周辺諸国の政権交代の時期には、我が国を巡る安全保障環境は大きく揺れ動き、大きな変化を見せるであろう。
早くも、それを念頭に、大綱や中期防の見直しを期待する声が出てくるのも、まんざら冗談とも聞こえないから困る。
2011年01月18日(火)現代ビジネス 田原総一朗
田原: 日本の自動車会社は20年後どうなるんでしょうか。
孫: 彼らがIT自動車メーカーにならなかったら・・・。
田原: どうするとなれるんですか。自動車メーカーはどうやれば20年後に生き残れるか。
孫: シリコンバレーから、あるいは日本にいるコンピュータに詳しい頭脳を持った学生を優先的に自分の会社に入れることです。
日本の自動車メーカーだって、アメリカのシリコンバレーの電気自動車メーカーと提携したりすればいいんです。そして、みずからIT自動車を開発していかなきゃいけない。
20年前、30年前には、日本は車を電子部品化してドイツ車に勝ったわけです。アメリカ車に勝った。
これからの自動車は、電子部品で勝つのは当たり前です。それ以上にITで勝たなければいけない。つまり車1台に20台入っているマイクロコンピュータを1台あたり50台にする、さらにもっと優れたチップにしてセンサーと全部連絡をし、クラウドと交信する、と進化させていかなければいけない。
田原: いずれにせよ日本の自動車会社はこのままじゃあ20年後にないですよ。なぜならば、それは中国や韓国やバングラデシュやインドで、決定的に安い車が出来ちゃうからです。
孫: そうです。これからは日本の自動車メーカーはエンジンのスピードを競うのではなくて、車のなかに入っているマイクロ・コンピュータの計算速度を競うようになります。そのマイクロ・コンピュータがクラウドと通信をする速度を競う。だから新しい自動車メーカーの速度競争は、エンジン速度ではなく・・・。そもそもね、200キロなんて出したら捕まるんだから(笑)、エンジンの速度を競うのではなく、コンピュータの計算速度と通信速度を競う。
そもそもグーグルが今やっている新しい自動車って何かっていうと・・・。
田原: グーグルが自動車をつくってるんですか?
孫: やっているんです。グーグルが資本参加して共同開発しているんです。僕は来月、シリコンバレーに乗りにいってきますよ。
田原: どんな自動車ですか?
孫: 車を人間が操縦しないんです。ロボットカーです。ロボットがすべてを操縦するんです。
田原: 人間はどうしているんですか?
孫: 法律上は一応、運転免許を持っている人が乗っていなきゃいけないので乗っているんだけれど、腕組んでいる。
田原: 薬屋さんみたいなもんだ。
孫: え?
田原: 薬屋さんは、薬剤師の資格を持っている人がいないと薬屋を営業出来ない。でも座ってりゃあいい。
孫: ははは(笑)。だから運転手も腕組んで、コーヒー飲みながら、本を読みながらでいい。車のなかにあるコンピュータが並列処理で、200個くらいある高速カメラ、レーザーカメラが360度スキャンする。通りすがる相手側の自動車、横切るおばあさん、信号、曲がり角、下り坂上り坂全部をコンピュータの目がブワーッとスキャンしながら、それで目的地に交通渋滞を避け、ブレーキも掛けたりする。
この自動車、グーグルが6台かな、常時走らせて、グーグルマップのストリートビューの画像はそのロボットカーで撮影していっているんです。
コンピュータは最後、二束三文になる!
田原: 僕は車の運転手っていうのは最後まで残る筋肉労働だと思っていたけれど・・・。
孫: 違います。人間がクルマを運転すると交通ラッシュの時でも7%しか道路を有効活用していないんですよ。ラッシュの時ですら、道路って93%は空き地なんです。それは人間が非効率的な、しかも事故を起こすような間違った下手くそな運転をやっているからです。
これが人間の運転手を排除して、ロボット運転自動車だけになったらどうなるかというと、交通ラッシュがなくなって、常に事故を起こさないでシューっと同じ速度でガーッと行く。曲がり角も効率よくピャッと曲がる。で事故を起こさない。
田原: 高いんじゃない、値段は?
孫: 高い。今めちゃくちゃ高い。今売っていないですよ、高すぎて。
田原: 将来は安くなる?
孫: コンピュータですから最後は二束三文になる。コンピュータ・チップというのは最後は砂ですから。一回設計してしまえば、コピーなんです。
田原: 今日ここにきている先生たちに申し上げたいのは(この対談には観客として教育関係者150人を招待しました)、今ある大企業が20年後に今のままではほとんどなくなるということです。
孫: そうです。だから日本の自動車メーカーだって、まさにグーグルカーと闘わなきゃいけないわけです。
電気自動車も大事だけれど、電気自動車だって台湾勢、韓国勢、中国勢に抜かれますよ。だってパソコンで使っている電池を積んでいるわけですから。モーターだってピュッと組み合わせたら出来るでしょう。そういうパソコンの組立と同じように自動車も組み立てられる。
だから大事なところは、組立業ではなくて、今言ったロボットカーのようにインテリジェンスのコンピュータで勝負するという時代になったということです。
田原: 肉体労働で勝負しようとするならバングラデシュ並みの給料になっちゃう。それが嫌だったら肉体労働じゃない、インテリジェンスで勝負しようと。こういうことですね?
孫: そうです。だからね、今すぐ電子教科書だIT国家だというと、「それを使えない人たちは落ちこぼれて、どうしますか」という質問が必ず出るんだけれど、いやいや、30年後の日本の中心的労働者を育てるために今の10歳、7歳、15歳を教育しましょうということです。30年なんてすぐくるんです。20年なんてあっという間です。
最初に知り合ったときは社員が3人だった!
田原: 孫さんと知り合ってもう20年以上たつ。
孫: なりますよね。僕がヤフー・ジャパンを作ってからでも15年です。
田原: 孫さんに最初取材したときは、社員が3人だった。
孫: あ~、そうそう。そうですよ。最初のうちの会社案内は・・・。
田原: 僕が推薦している。
孫: 推薦どころか写真付きで登場していただいたんですよね。
田原: その会社がこんなになっちゃったんですからね。
孫: 一番最初の会社案内は田原さん。あの頃はこんなに有名じゃなかった。
田原: 全然有名じゃなかった。
孫: 僕も先見の明があった(笑)。
あっという間に20年なんてたちます。
だから日本の子どもたちの教育というのは大学の受験に通らすための教育ではなくて、その受験を通らすための子どもを作るための教育ではなくて、日本の国家を作るための、日本の天下国家を作るための教育であるべきです。
日本の50年後、100年後は先生方が作るんです。その先生方と「どういう国家にしようか」という議論を、文科大臣がしなきゃいけない、総理大臣がしなきゃいけない。そういう話だと思うんです。
農業でGDP3%成長が達成できるのか!
田原: 一番問題なのは日本の政治なんですよ。今の政治を見ると、民主党はどんどん支持率が下がる。「国民からかけ離れているんだ」とみんな思っている。でも全然かけ離れていないですよ!! 国民に沿いすぎているんです。
民主党の支持率が下がっているのは、国民に沿いすぎているから、密着しすぎているからです。なぜか?
たとえばさっき言った予算で言えば、歳入が37兆円、歳出が92兆円、借金が44兆円プラス10兆円。ムチャクチャでしょう。
これをなんとか健全化するためには、誰が考えてもやっぱり歳入を増やす、増税しかない。だけど国民は増税を嫌がっている。じゃあ増税が嫌なら歳出を減らす、福祉を減らす、地方へのカネを減らす。それも国民は嫌がっている。何にも出来ない---。
大事なことですよ。マスコミはムチャクチャ書いているからね。国民のニーズに、政治が合わせようとするから、結果として何にも出来なくなった。
孫: そうです。だから選挙で勝とうと思うと、甘い言葉を囁かないといけない。甘い言葉って何ですかというと、「すべての福祉には要望通り全部払います。で、増税はしません」と。
だから増税をせずに、なおかつ要望を全部聞きます。そうすると借金がどんどん増える。皆さんの家庭だって収入以上に家族で使っちゃって借金が増えていったら破産します。会社だって、売り上げの倍も経費に使ったら倒産して当たり前です。
田原: 日本は三倍使っているんですよ。収入の。
孫: 日本の国はそれでは保たんということですよね。
田原: ところがね、「これじゃあ保たない」といってみんなが「そうだ」と言うけれど、じゃあ税金を上げるかいうと「ハンターイ」と。福祉を下げるかというと、「ハンターイ」と。だから民主党の菅さんは何にも出来ない。
会場 (笑)
孫: どんどん人気が下がっちゃうんです。だけど、唯一そこに答えがある。
唯一ある答えは何か。今すぐの問題解決は難しい。じゃあ30年後はどうか。30年後まで、日本のGDPを毎年平均で1%ずつ伸ばしたいか? 1%伸ばすと日本のGDPは700兆円になります。2%伸ばしたいか。2%伸ばすと900兆円になります。
田原: すると借金を超える。
孫: 3%伸ばすと1200兆円になる。つまり日本の天下国家を30年のビジョンで、1%成長する国家にしたいか、2%にしたいか、3%にしたいか。
3%にしたい、それで1200兆円にしたいということで、もし1200兆円に出来ても国際社会の中での日本のGDP のランキングはそれでやっと4位が保てるんです。4位です。
もし1%でいくなら8位なんです。インドネシアに負けるんです。日本がODAで助けている国に見下ろされる存在になる。それでいいのかと。
だから3%成長させたいとすると、今よりも700兆円増やさなきゃいけない。今よりもGDPを700兆円増やすということは、倍以上にするということです。その700兆円を増やすのに、農業で増やせますか。漁業で増やせますか。
田原: 今、農業総産出額は8兆円。
孫: うん、農業、漁業全部足して、日本のGDPの2%しかない。農業漁業、全部足して10兆円。その10兆円を倍にしたところで10兆円しか増えない。倍にするのって難しいですよね。
だから先生方が教育すべき日本の労働人口をどこに持って行くべきかというと、倍にしてもたった10兆円しか増えないところに持っていくんじゃなくて、700兆円増やすためには、そのうちの40%をまかなうITなんです。
700兆円増えるうちの40%はITで稼ぐ、頭脳で稼ぐ、頭脳労働者で稼ぐ。これをやると、残り60%の成長も単純労働のものづくりではなくて、頭を使うものづくり、頭を、IT を使った流通、ITを使った金融サービスになる。
だから皆さんの役割は、実は天下国家で一番大きいんです。
田原: 大きい。
孫: 日本のくに作りは、皆さんが担っている! だから今日呼んだんですよ。
会場 (笑)
田原: 皆さんが今教えている生徒たちが一人前になる頃、つまり20年後ですよね。
孫: そう。頭を使う日本人にする。身体を使う日本人ではなく、頭を使う日本人にするというのが皆さんの一番大切な役割です。
そもそも教育って頭を鍛えるためにやるのとちがいますか。身体を使うための教育をしてどうするんだと。頭を使う教育をするんじゃないのかと言いたい。
頭脳労働の世界で平均値を高くしなければいけない。それは全員がというわけにはいかないけど、せめて基礎能力はそこに全員が持たせないかん。全員が英語をしゃべれる必要はないけれど、全員に中学一年生から教育しているじゃないですか。
学校でどんどんディスカッションをして欲しい!
田原: 今日、孫さんは強烈な刺激を皆さんに与えたと思う。この強烈な刺激について、これから皆さんね、それぞれの学校でディスカッションしてほしい。
「孫はこう言っているけれど、こんな問題があるじゃないか」と。それで、「こんな問題があるけれど、その問題を孫さんが言うようにやらなかったら今の教育変わらないよ。どうすんだ」とかね。
これからは、これを刺激として、皆さんがどんどんディスカッションしてほしいと思う。
孫: 具体的なテーマを一つ申し上げます。
「30年後に100万倍の能力のコンピュータが生まれる。これ一台で4億年分の新聞が入ります。そうすると社会はどう変わるか、仕事はどう変わるか。皆さんが社会人になった時、仕事は、社会はどう変わると思うか。その絵を描け。それを議論してくれ」と。
そういうと、それは答えが一つある問題ではないから、まさに生徒たちが目をキラキラさせながら絵を描く、作文をする、議論をする、ディスカッションをする。
そのことは、30年後もその子どもたちは、「ああ、そう言えば僕が10歳の頃、私が10歳の頃、先生がああいう問題を投げかけたな。あのとき、私はこう思った。
こうやって画用紙に描いた。そのうちの半分は現実のものになったな。振り返ると、子どものときは俺は天才だったな。大人になってちょっとズレたけど」と。
田原: ハハハ。
「教育とは何か」をツイッターで問うてみた!
孫: 同窓会をしたときに、そうやって昔を思い出して先生方と子どもたちが語り合えたら、先生方は「幸せな仕事を私は全うした。この子どもたちに真に役に立った。かけ算、九九を覚えさせてなんぼのもんじゃ。みかんの特産地を覚えろ、そんなものを俺に言わせりゃコンビニや。二十四時間売っとるで」と思える。
会場 (笑)
孫: みかんの特産地にもぎに行ったこと、僕は生まれてから一度もないですよ。まあそれも大事だし、みかんの特産地を覚えるなとは言わない。
だけど順番として、もっと大切な議論があるだろう。30年後の皆さんの生活はどうなるんだと。何に頭を使えばいいんだと。そういう議論の方が生徒たちにとってはるかに有益です。あらゆる動画を見て、目をランランと輝かせて・・・。
僕ね、「教育って何だろう」って、ツイッターで問うたことがある。教育で一番大切なことって何だろうってツイッターで問うたら、いろんな答えが一晩で集まりました。その中で一番僕が「なるほど」と思ったのは、「感動を与えることだ」と。
つまり子どもたちは感動したことを一番覚える。感動したことに一番、頭がガーッと活性化する。無理矢理覚えさせられたもの、嫌々やらされたもの、そんなものは覚えない。そんなものは学ばない。それよりも何かにガーンと、僕が最初にチップを見て涙を流したように、そういう感動を与えるものが・・・。
田原: 皆さんが一番軽蔑されている予備校、日本で有名な予備校だけど、その先生が行っていた。「予備校っていうのは何か? 感動を与えるところだ」と。
孫: いいことを言う。
田原: 「今の学校が感動を与えないから、予備校が感動を与えるんだ」と。なぜなら、別に予備校なんて来なくたっていんだから。「感動を与えなきゃ来ない」と、そう言っていた。
孫: だから、紙の教科書で与えられる感動と、電子教科書で与えられる感動とどっちが大きいか。紙の匂いが懐かしい、鉛筆の匂いが好きだと言う人もいるかも知れない。そんなに鉛筆と紙の匂いフェチならば、いくらでも嗅いでおけばいい。いくらでもあげますよ。
そうではなくて、電子教科書で、中国の子どもと英語で、身振り手振りしながら会話をする。繋がる。アメリカの子どもと、ロシアの子どもと、英語でこうやってしながら、自分の30年後の絵をばーっと見せて、これで感動を与える。
田原: よく分かるんだけれども、やっぱり「教育とは何か」ということがちゃんと出来ていないとやんないよ、そんなことは。
孫: そう。だからやっぱり天下国家を政治で議論をし、国家のビジョンを作り、その国家ビジョンに合わせて、教育をそっち方向に持って行くと。
30年後の社会を見据えた教育を!
田原: 孫さんがおっしゃっていることを一言でいうと、20年後、30年後は今の社会とバーンと変わると。大きく変わっていると。トヨタがなくなっているかも知れない。ホンダがなくなっているかも知れない。ホントだよ。
そういうときに世の中に出る生徒たちのために、どういう教育をするのか。
孫: そういうことです。アメリカでゼネラルモーターズが潰れるなんて、30年前、誰一人思わなかった。国家から救済されたわけです。オバマ大統領からね。そんなこと30年前のアメリカ人、日本人、誰も思わない。でもそれが現実になったわけですね。
だから単に単純労働で労働賃金の低い組立業、農業でも労働賃金の低い、700%の関税で人工的に守られているというようなところにすがりついていちゃあだめだ。
農業もITを使って、日本の優れたタネとか農業の工法を科学的なもの、ITを使って磨き、そのタネをベトナムで植える、カンボジアで植えると。そうやって世界に打って出る。TPPの時代でも競争力を保てる農業に変えなきゃいけない。そういうことだと思うんですね。
田原: 皆さん、これが強烈な刺激だと思うんで、「どうすりゃいいんだ」と本気でディスカッションして、ね、孫さん。
孫: はい。僕はちょっと過激に言いますけど、でも本音です。本音で申し上げました。
田原:孫さんの本音はこれまで30年は当たってきたね。
孫: 当たってきたと思いますよ。
田原: これからあとの30年は当たるかどうか分からないけれど、少なくとも彼に僕が取材してからこの30年間は当たっているんだ。
孫: まあいつも当たるとは限りません。しかし、少なくとも今日の話は、アーカイブとして100年後も500年後も残ります。
僕はユーストリーム、ツイッターの経営陣ともしょっちゅう、毎月のように会っています。彼らは「このサーバーに入ったアーカイブは500年は残す」と言っています。ですから30年後に今言っていることが、「なるほど、そういう社会になったな」と思われるか、「あいつはバカだ。嘘っぱちだ。エキセントリックだった」と思われるか、そのときに検証出来ます。そういうことです。
田原: 少なくとも今までの30年間、孫さんが言ったことは間違っていなかった。これからは分かりませんが、たぶん、そうとう信用出来るとは僕は思っています。 (了)
景気に無関心、給料は大企業並みの実態!
阿久根市 市政情報(職員給与・定員・退職手当)
http://www.city.akune.kagoshima.jp/sisei/kyuyo.html
2011.01.19(Wed)JBプレス 木下敏之
政治情勢はますます混沌としていますが、私の住む福岡市は少し景気の回復が感じられます。
昨年末の12月30日の晩も博多駅周辺や天神周辺の飲み屋は大いに賑わっていました。居酒屋の店主は、昨年よりは少し客が多いようだと言っていました。政治の混乱にも負けずに、少しでも景気が良くなってほしいものです。
福岡市でも、新年は各種団体が新春の賀詞交換会を行います。博多の芸妓さんたちが一堂に出席するものもあり、とても華やかです。1月9日に開かれる「十日恵比須大祭」というお祭りには、芸妓全員がお参りする「かち詣り」という行事が行われます。歴史と経済力のある博多らしい、個性ある新年の風景です。
給料が少ないのは九州、沖縄、東北!
さて、2010年暮れの12月28日に、厚生労働省が毎月統計を取っている「毎月勤労統計調査」(11月の速報値)が発表されました。
すべての給与を合わせた「現金給与総額」(事業所規模5人以上)は、前年同月と比べて0.2%減の27万7585円で、9カ月ぶりに前年水準を下回ったことが大きく報道されていました。原因は、冬のボーナスなど特別に支払われた給与が11.2%減だったことが大きかったようです。
この統計は都道府県別にも発表されているのですが、東京などの首都圏と、地方、特に九州や東北とは大きな差があります。
下位10県は基本的にいつも同じ顔ぶれで、東北と九州・沖縄がほとんどを占めています。現金給与総額を見てみると、2005年は下位10県中、九州・沖縄が6県を占め、東北が3県でした。
下の2つの表は2009年の現金給与総額(月間の平均、事業所規模は5人以上)です。左の表が上位10県、右の表が下位10県となっています。
下位10県は九州・沖縄が5県を占め、東北が4県です。沖縄県はこの5年間、連続して最下位です。2009年の現金給与額は24万8021円でした。東国原英夫知事の宮崎県は、下から3番目の25万3455円です。
上位10県も、いつも同じような顔ぶれで、東京が毎年トップです。静岡県や岡山県もこの5年、毎年トップ10に顔を出していますし、広島県や栃木県もトップ10の常連です。ちなみに私の住んでいる福岡県は29万7643円で、12位となっています。
なぜ自治体職員は景気に無関心なのか!
ただし、首長や自治体の職員はこの数字はあまり気にしていません。というよりも、企業で働いている人と比べると、景気の変動や先行きの見通しにあまり関心を持たない人が多いようです。
多くの自治体の首長は、この市民の給与額の推移にもっと関心を持つべきだと思います。福祉も教育も、まずは暮らしが安定してこそ成り立ちます。失業者の数字と毎月の給料の数字が、政治家にとってはとても大事な数字のはずです。
自治体の職員にしても、景気の動きや民間企業の給与の動きを気にするのは、予算担当の職員と産業振興の担当職員、そして生活保護担当の職員くらいでしょうか。
本当は、住民の生活に直結する数字なので、この数字が前年度と比べて伸びているのかどうか、その地域のGDPがどうなっているのかを気にしなくてはならないと思うのですが。
なぜ景気の動きをあまり気にしないかというと、まず、不況でも自治体が「倒産」することはなく、公務員の給料が遅れたり不払いになることなどないからです。
それに加えて、自治体職員の給料が、民間の給料や景気の変動に大きく連動していません。
厚生労働省が発表する毎月勤労統計調査の給与総額は、従業員が「5人以上」の事業所を対象にしています。一方、自治体職員の場合は、国家公務員にならって、従業員数が「50人以上」の企業の給料のデータを参考にして決めていくことになっています。比較的規模の大きな企業の給与を比較の対象としているのです。
しかし、事業所の中で50人以上の企業が占める割合は、全国平均で3%程度にすぎません。この割合は、地方に行けば行くほど小さくなります。
人口が約80万人の佐賀県の場合、佐賀県庁の職員数(約1万4000人)に匹敵するような規模の企業はありません。佐賀県庁の次に規模が大きいのが佐賀大学、そして佐賀市役所と続きます。ほとんどの企業は、従業員が50人に達しない規模なのです。
また、福岡県に本社を置く大きな企業には、九州電力(約1万2600人)、JR九州(約8600人)などがありますが、50人未満の中小の企業の割合が多いことに変わりはありません。
地方の小規模の自治体に行くと、50人以上の会社の割合はどんどん少なくなりますので、ますます自治体職員と民間企業の給与の差が開きます。
「ブログ市長 VS 議会」の対立で有名な阿久根市のように、市民の年収の平均が200万円未満なのに、阿久根市役所の職員の平均年収が700万円を超えるようなことになります(阿久根市は職員給与の詳細を発表していますので、関心のある方はどうぞ)。
自治体職員の給与はいつまで「大企業並み」なのか!
そして、自治体の職員が景気に関心を払わないもう1つの理由があります。政府の収入は、法人税や所得税など景気の変動に直結する税金が中心となっていますが、市町村の収入は、景気の動向にあまり左右されない性格の税金が中心となっている、ということです。
市町村の主な収入は「固定資産税」と「住民税」、そして国からの「地方交付税」と「補助金」です。
まず、固定資産税はあまり変動しない仕組みになっています。地価が下がっていたり、建物が古くなっていたりするのに、固定資産税がなかなか下がらないことに疑問を持っていらっしゃる方も多いと思います。
しかし、例えば建物への固定資産税は、マンションが空き部屋だらけになったり、建築年数がかなり経ったとしても、評価額がほとんど変化しない仕組みになっているのです。
また、国からの地方交付税交付金は、政治的配慮もあり、急激に減るようなことのない仕組みになっています。
このように仕組みとして、自治体職員が景気の変動や民間の給料の動きに「鈍感」になるようになっているのです。ですから、景気対策などにしても、どうしても動きが遅くなります。
市町村合併を繰り返した結果、地方自治体の規模は大きくなりました。しかし、職員数が増えたからといって、社員の多い大企業にならって公務員の給料を決めてよいものかどうか。
社員数が少ない会社の給与を、公務員の給与にも反映させる時期が来ているのではないでしょうか。
2011.1.17 産経ニュース
政府はコメの中国への輸出拡大に向けて、検疫条件を満たした精米工場や倉庫の整備促進に乗り出す。平成24年度前半までに、当面の目標である年20万トンを賄える検疫面でのインフラを構築したい方針だ。日本産米の価格競争力の低さを解消する特効薬がないため側面支援する。需要が大きい中国向け輸出が伸びるかどうかは、TPP参加をめぐる議論にも影響を与えそうだ。
■8指定工場整備へ
中国向け輸出に際しては精米する工場、燻(くん)蒸(じょう)(煙でいぶして殺虫・消毒すること)する倉庫のいずれも中国側の承認を得る必要がある。だが、国内には現在、両施設とも神奈川県に1カ所ずつあるだけだ。
承認を得るには、工場は1年間、倉庫は3カ月間、中国にいない害虫が施設内で見つからなかったことを証明しなければならない。そのための調査には工場で数百万円、倉庫で数十万円の費用がかかる。
農林水産省は「元が取れるかわからない段階での投資をためらっている業者が多い」とみて、これらの費用を助成することにした。倉庫については22年度内、工場は23年度から始める。24年度前半には、すでに承認を受けている施設と合わせて、8つの工場、数十カ所の倉庫で中国向け輸出のための処理ができるようになることを目指している。
■価格競争力低く
中国のコメ消費量は年1億3千万トンと世界の3割を占めるが、日本からの輸出量は数十トンにとどまる。日本産米は粘り気が特徴の短粒種に分類される一方、中国で主に食べられるのは長粒種。富裕層の拡大で短粒種を好む人も増え、「贈答用として人気が高まった」(農水省)とはいえ、主な需要期は2月の春節(旧正月)など年2回に限られている。昨年の輸出量は90トン強の見通しだ。
最大の課題は中国産米などとの価格差。もともとコスト高の上、関税や手数料が上乗せされ、現地での小売価格は日本で船積みする前の2倍以上に膨らむ。結局、中国産米の4~15倍の価格で売られている。
農水省では、上海での国際見本市にブースを設置して日本産米を紹介したり、海外からバイヤーを呼んで輸出の意思がある業者と引き合わせるなどの活動を行っているが、価格競争力の低さを補うのは難しい。コスト分を助成して安く売ることは「WTO(世界貿易機関)協定違反になる」ため、今回のように検疫態勢整備などで側面支援するほかないのが現状だ。
■「2千倍」目指すが
中国は検疫制度を強化するため、15年に日本産米の輸入を停止した。19年に試験的に再開したが、20年前半には通関手続きが滞り、上海港などの倉庫に50トンの日本産米が1カ月以上留め置かれたことがあった。中国製ギョーザ中毒事件で日中関係が悪化していた影響が取りざたされた経緯もある。
そんな中、昨年12月に訪中した筒井信隆・農水副大臣は対中輸出量の目標について現在の2千倍に相当する20万トンとぶち上げ、将来は100万トンを目指すと表明。ただ、省内からも「増やそうという“思い”を打ち出したもので、達成時期を定めるのは困難」との冷静な見方も漏れる。
農業経済学が専門の大泉一貫・宮城大副学長は「安いコメにシフトしていかなければ、対中輸出の拡大は望めない。それには、コメの価格を下げて国際市場を開拓できるように農政が転換していく必要がある」と指摘している。
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http://www.uonumakoshihikari.com/
魚沼コシヒカリ理想の稲作技術『CO2削減農法研究会』(勉強会)の設立計画!