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アラップ (企業)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%97

スターよりもチームで拡大する英アラップグループ!

日経ビジネス2010年9月6日号が特集した「スマートシティ~40兆ドルの都市創造産業」。その関連企画、第2弾は英ロンドンに本社を置くアラップグループを紹介する。

 日本では知る人ぞ知るのアラップだが、「鳥の巣」の愛称で有名になった北京五輪スタジアムの設計にも加わった会社と言えばイメージが分かるだろう。

 こう説明すると建築設計事務所のように捉えられるかもしれないが、同社の業務内容を正確に表すと、都市建設分野の総合エンジニアリング会社。ビル、交通やエネルギーインフラなど様々な分野の設計に携わる。

 設計のみならず、都市全体のコンセプト作りに基本プランの作成、そしてプロジェクトの資金調達スキーム作りから自治体の政策立案支援と、都市開発にかかわるバリューチェーンの多くを手がける。スマートシティの分野でも存在感を発揮し、特に中国では20以上の開発プロジェクトに関わっている。

 都市計画の作成において、アラップが何を重視しているのか。同社のロンドン事務所で、グローバルに都市の基本計画作り指揮するマルコム・スミス氏に話を聞いた。

―― 中国を始め、スマートシティの開発でアラップの存在が際立っています。その強さの背景はどこにあるのですか。

マルコム・スミス まず、アラップはどのような会社か、簡単に説明する必要があるでしょう。というのは、それが街づくりや都市計画におけるアラップの強さと深く関わっているからです。

 都市計画における強さの1つは、この会社の組織形態に根付いています。我々は非公開企業ですが、誰か1人のオーナー経営者が会社を所有しているのではなく、1人ひとりの従業員を代表するトラストが会社を所有しています。

「トラスト」が所有する会社の強み
 過去20~30年の間、デザイナー個人が非常に有名になり、ヒーローのようにもてはやされてきました。もちろん、アラップもこうした、いわゆる“スター建築家”たちとの仕事を享受してきました。


 しかし、都市計画のような大きく複雑な問題に対処しようとする時には、また別のアプローチが重要となります。それは、異なる知識やアイデアを持つ専門家が集まり、それぞれが協力して複雑な問題を解決していくことです。

 誰か1人が会社を所有するのではない、パートナーシップという考え方は、都市作りの考え方に非常に似ています。スター建築家1人の力で都市全体をデザインできるわけがないからです。


創業者のオヴ・アラップは、会社を始めた当初からその重要性に気が付いていました。当時はまだ、エコシティのような都市全体を開発するプロジェクトはありませんでしたが、ビル1つを例に挙げても、著名建築家1人で作れるものではありませんから。

 そこで、自社内に建築家から構造エンジニア、そしてビル建設に必要となる幅広い専門家を抱えることで、異なる専門分野を統合した形でビル設計を手掛ける体制を作ったのです。それが、今になって都市計画で威力を発揮しています。

都市作りの「オーケストラ」
 ―― 具体的には、どのように都市開発に取り組んでいるのですか。

スミス 一言で言えば「オーケストラ」のような取り組み方です。6~7年前、社内に「インテグレーテッド・アーバニズム(統合された都市計画)」と名付けたチームを立ち上げました。社内にある異なる専門チームを、オーケストラの指揮者のように指揮する組織です。

 その時点でも、社内には幅広い専門チームを数多く抱えていましたが、徐々に顧客からのニーズが変化していました。

 例えば、構造エンジニアよりはむしろ、エネルギーシステムの専門家の知識を求められたり、空調システムよりも都市や地域といったミクロレベルでの気候システムの知識を必要とされたりといった具合です。私たちはかつて、1つの建築物を作るための専門家集団でしたが、その幅を都市のスケールに対応できるように広げてきました。

 専門家の幅が広がれば、よりオーケストラの指揮者の役割が重要となります。長い間、デザインとは1つの場所の物理的な構造をデザインすることを意味しました。しかし、都市を取り巻く環境は刻々と変化します。

 今では変化する周辺環境や経済状況を考慮しながら、それぞれの専門家が力を発揮して都市を丸ごと作っていかなければなりません。それは、それぞれの楽器が独自の役割を果たしながら、入念に全体として1つの曲を作り上げていく作業に似ています。

都市計画は「美しさ」だけでは失敗する
 都市とはそこで営まれる経済活動が投影されたもの、言い換えれば最終製品とも言えるものです。これまでのデザインは、都市のイメージ、美しさが最も重要でした。そんなプロジェクトが、世界のいたるところにあります。

 しかし、そこでは経済活動が都市計画に統合されていません。だから、多くはうまくいっていません。都市計画においては、物理的環境と経済環境、そして社会環境の全てが、折り目のようの統合される必要があるのです。

 ―― 世界各国でスマートシティの開発競争が過熱していますが、アラップが都市計画を作る上で重視していることは何ですか。

スミス まず、変化や成長がどこで起きているのか、注意深く観察します。都市計画とは、物理的にはもちろんですが、非物理的にも成長や変化を効率的な方法で引き起こすための戦略を作ることです。

「行き当たりばったり」から戦略的思考へ
 これまで、都市の歴史は「行き当たりばったり」とも言えるものでしたが、私たちは変化を引き起こすための戦略を作ることができます。物理的な環境としての道路や広場、ビルなどだけではなく、その構造や交通、エネルギー、上下水道、ゴミ処理のシステムまで、すべての戦略を立案します。

さらには、そこに生活する人がいかに環境に影響を与えるのか、都市のガバナンスについても助言できます。私たちが作る都市計画とは、地球環境へのインパクトを最小化しつつ、希少な資源を最大限に生かせる方法で都市を発展させるためのものです。

 「エコシティ」という言葉が流行していますが、重要な点は「エコシティ」をいかに定義するのかということです。


 これまで「エコシティ」といえば、誰もがCO2(二酸化炭素)の削減や省エネなど、技術的な側面を真っ先に考えがちでした。しかし、もっと重要なことは、それぞれの都市に固有な条件のバランスを取ることです。


「エコシティ」とは変化に対応できる都市のこと

 例えば、東京の「エコシティ」という概念と、インドのムンバイの「エコシティ」では、全く異なります。ムンバイでは、土地の所有制度やスラム街など社会的な条件が多いでしょうが、東京ではインフラや土地の価値についての話になるでしょう。都市計画とは、単なる技術的な問題を超えて、社会的、文化的な条件も考慮する必要があるのです。

 さらに言えば、本物のエコシティとは、環境の変化に応じて素早く対応できる能力がある都市でしょう。例えば、東京では巨大地震に対応する能力でしょうし、オーストラリアでは山火事、ムンバイでは突然の豪雨による洪水への対処機能が求められます。もちろん、経済危機への対応もその1つです。

 エコシティは、その土地が抱えるリスクに備え、変化に迅速に対応できなければなりません。それは、美しい建築のイメージを超えて、都市のガバナンス構造や経済構造、リスク評価に密接にかかわってくる話です。アラップは、それらに対処するための必要な幅広いスキルを持っています。

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