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「日本で売れるから中国でも売れる」「高いものほどよく売れる」の迷信 !
2011年1月28日DIAMOND online 姫田小夏 [ジャーナリスト] China Report 中国は今
中国消費市場への売り込みが熱い。特に1人当たりGDPが1万ドルを超えた、所得の高い上海市場に向けての、日本企業の猛攻撃が始まっている。しかし現実は甘くはない。むしろ指摘されるのが日本企業の上海市場に対する認識の甘さだ。「日本で売れるから中国で売れる、だからそれで一儲けできる」といった迷信に踊らされる日本企業が足元をすくわれている。
「なぜか、日本人は上海で日本酒が売れると勘違いしている」
2010年11月に上海で行われた食品見本市を訪れた。日本勢が多数のブースを構えるなか、とりわけ目立ったのが日本酒のピーアールだった。彼らの期待感は小さいものではない。なぜなら昨今は大陸の中国人も日本料理を受け入れるようになったからだ。
上海のショッピング街に出店する日本料理の大手チェーン。フロアを見渡せば、ほとんどが中国人客だ。テーブルでは慣れない手つきで日本酒を手酌する30代とおぼしきグループがちらほら。これまで日本酒の飲み手といえば香港人や台湾人が主だったが、ここにきて地元の消費者が関心を示すようになった。
「上海の日本酒市場は広がっている」という見方もある一方で、「いや、上海市場はかなり厳しい」と率直に漏らす酒造メーカーもある。
筆者は上海の食品商社を取材した。中国人経営者のAさんは「なぜか、日本人は上海で日本酒が売れると勘違いしている」と話す。中国の一般消費者で日本酒をたしなむのはごく少数に限られているため、この食品商社はもっぱら業務用として日本料理店に納めている。
上海の日本料理店ではここ数年「久保田」「八海山」など、日本から輸入した日本酒のラインナップが増えた。だが、現実には、日本料理店に限定されたマーケットで、日本から輸入した日本酒の販路を広げるのは難しいようだ。
「ワインならば一般家庭にも歓迎され、中華料理にもよく合う。それに対して日本酒は普及の範囲が非常に狭い。しかも徳利にお猪口と特殊な飲み方が求められる。まだまだ人気とは言えないし、そう簡単には売れないのです」(Aさん)
地元中国人らが日本料理店で注文するのはたいていが「食べ呑み放題」、このメニューに含まれる日本酒は合成清酒である傾向が強いとも言われている。Aさんは「輸入した日本酒を扱うのは高級店を中心に、せいぜい50店舗程度」だと指摘する。
上海には日本料理店が500~600店あると言われているが、今後の戦略の重点はむしろ中華料理店ではないだろうか。日本酒を食品スーパーの棚におくよりも、まずは刺身を出すようになった中華料理店が狙い目だ。だが、足かせもある。
「蔵元はいいお酒を作るが小規模、小ロット。日本酒は大きく商売ができない。仮に人気が出たとしても量が出せないので商売としての限界があります」(同)
日本ブランドは売り込みが難しい。多品種小ロット型は日本では魅力に富んでいても、異国の市場では「知名度がない」「量が足りない」というハンデにすり替わってしまう。
中国産の4倍の価格で通用するか?シャボン玉石けんの挑戦!
北九州市に、無添加石鹸を製造するメーカーがある。
シャボン玉せっけん株式会社の主力商品である「シャボン玉石けん」は70年代に発売された。発売に至った背景には、日本の高度経済成長で便利かつ安価な化学物質が氾濫した結果、アトピーやアレルギーなどの皮膚疾患が急増したことがある。
時代は成長真っの只中にある上海も当時と重なる。
かたや日本の市場では液体石鹸が主流となり、固形石鹸が押され気味。シャボン玉石けんもまた「座して死を待つのか」という選択を迫られている。当然、海外市場を模索せざるを得ない。
見かけは地味なこの商品は、1個20元の価格が設定されたのだが、上海市民は歓迎するのだろうか。上海では国産地元ブランドの石鹸が1個5元程度で売られている。果たしてその4倍の価格を払ってでも「安心安全」が欲しいという客層は存在するのだろうか。そんな疑問を駐上海北九州市経済事務所所長の岩田健さんにぶつけると、こんな回答が帰ってきた。
「たった1週間で、日本円にして合計60万円を売り上げたんですよ」
2010年8月下旬に行われた上海の梅龍鎮伊勢丹での催事では、平日で1日当たり5000元、土日で1日当たり1万5000元を販売したと言う。日本でならこの売上げはあり得ない。1日1万円がいいところだ(1元=約12.5円で換算)。
購入者はOLが目立った。また、石鹸の販売員として雇われたアルバイトの女性が買って行くケースもあった。彼女たちのバイト料は1日150~170元。そんな薄給の彼女たちが20元のシャボン玉石鹸を買って行った。
色は真っ白、匂いはない、何より界面活性剤(合成界面活性剤)を主成分とする合成洗剤とは異なる。洗った感触が他とは異なり、ツッパリ感が少ないため、「体にいいかどうか」がすぐに実感できるのだ。
愛用者の1人、Lさん(上海在住、28歳)は「さすがに20元は高いと思いますが、父に固形石鹸をプレゼントしたら喜んでくれました。母には粉石鹸を。品物選びにはうるさい母が満足したのでびっくりです」と話す。どうやら一家で愛用しているようだ。
コピーできない、する手間がかかる“中国が作れないもの”を売る!
一方で岩田さんは「中国の国産品にはないもの、真似したところで手間がかかり、中国メーカーが造れないものを商品として送り込むことが重要なヒントです」と語る。
形あるものはすべてコピーされても仕方がない――。上海市場で闘おうとする日本企業はこうしたことをも覚悟しなければならないのかもしれない。それだけに敢えて真似されないものを出していくという視点が必要になるのである。
ところで、シャボン玉石けんの中国進出にはもうひとつ隠れたエピソードがある。このシャボン玉石けんに魅せられた中国人がいたのだ。THF株式会社(東京都)の社長、陳相秋さんが「中国で売らせてほしい」と挙手したのが始まりだという。
「きっかけはテレビ番組。シャボン玉石けんが紹介されたのを見て、これはおもしろい!と。直後、北九州の工場訪問を見学に行きました。訪れてびっくり、工場は一切匂いがない。石鹸すなわち化学工場、化学工場なら異臭は当然だと思っていましたから。健康そのもののものづくりに、即座に代理店になりたいと申し出ました」
目下、対面販売を通して、石鹸を認知させることに取り組んでいる。「ターゲットとする消費者は女性。冷静で、情報量も購買力もある。女性を説得できれば中国制覇も夢じゃない」と陳さん。この手応えに2、3年後には年間500万元の売上げを視野に入れる。
生活の質向上ニーズを捉えろ!次に中国市場を狙う健康食品!
北九州市が生活の質を向上させたいという急激に変化する上海社会ニーズに対し、次に上海に売り込みをかけようとしているのが「くろがね堅パン」だ。
「健康はアゴから」の発想で作られた無添加、無着色の鋼(はがね)のように堅いパンは、大正時代末期、官営八幡製鐵所の従業員のカロリー補給食として開発され、八幡製鐵所で作られたのが始まりだと言う。「時の洗礼を受けた地味な商品」もまた、真似されにくい商品であることは確かである。
昨今、上海市場では青汁も販売攻勢をかけるようになった。健康食品とはいえ、日本人ですら手に取るのはなかなか難しい、くせのある商品だ。上海でプロモーション活動を積極的に行うのは株式会社健康美人フォーラム(東京都)の日吉美生さん。「商品説明を丁寧に行えば買ってくれるんです」と感触を語り、「自らが販売姿勢を示さないと」と現在1カ月に2回は上海に足を運ぶ。
販売現場での最大の難問は、“誰がそれを売るのか”!
所得の高い上海市場をターゲットに、まずは対面販売でマーケットを拡大。そこでは消費者への商品説明がカギとなりそうだ。だが、日本人担当者が現場を離れたとき、その丁寧な商品説明は維持できるのだろうか。
現地での最大の問題は、商品はあるが売る人がいないということだ。マニュアルを作成しトレーニングを繰り返すものの、営業力は一朝一夕では育たない。経営者自らが乗り出すケースもあるが、百貨店など小売業態の中には、メーカー側のスタッフが直接売り場に立って販売する行為を禁止するところもある。一歩進めば1つまた壁にぶつかる、上海市場の開拓はその繰り返した。
最後になったが次のようなエピソードを紹介しておこう。最近、上海で筆者はこの手の話をよく耳にする。
ある日本人が商品のサンプルをスーツケースに押し込んで上海に持ち込んだ。そして、知り合ったばかりの中国人を前にサンプルを押し付けた。「これ、ちょっと配っておいてよ」――。当然、応分の対価は支払うだろうが、それにしてもあまりに舐めきった態度ではないだろうか。軽い気持ちで頼んだものは、軽い気持ちで扱われても当然だ。今、某社にはサンプルが詰め込まれた段ボールが埃を被ったまま、放置されている。
この複雑にして攻略至難な市場を甘く見てはいけない。中国市場、決して「出せば売れる」わけではないからだ。
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