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オリエンタル技研工業
http://www.orientalgiken.co.jp/

【第120回】 2010年8月6日 週刊ダイヤモンド編集部

モノづくりを支える“研究施設のプロ”オリエンタル技研工業社長 林進

木目が温かな棚に大理石調のテーブル。高級マンションのシステムキッチンかと見まがうほどだが、研究施設用の「実験台」である。従来の機能一辺倒で無機質な製品に対し、“快適性”を重視したデザインが研究者たちに好評だ。

 有害な化学物質などを取り扱うための「ヒュームフード」(下の写真)では、環境対策を徹底している。排気風量を作業状況に合わせて自動調節し、非使用時には扉が閉じて使用エネルギーを大幅に節約。各設備はLANで結ばれ、CO2削減量を表示、研究者に省エネを促す。

安全で、作業効率のいい研究所をつくりたい──。林進が、研究実験用設備機器メーカー、オリエンタル技研工業を設立したのは1978年。当時、メーカーでも大学でも、研究所は薄暗く、化学薬品のにおいが立ち込めているのが当たり前だった。「高度成長期で、大手メーカーでも生産施設には力を入れていたが、研究施設は古いままだった。事故も多発し、これでいいのかという思いがあった」。

 林は理化学機器メーカーに13年勤め、開発や営業に従事した。機器の立ち上げで長期間研究現場に立ち会うこともあり、旧態依然とした設備環境に対する疑問を強めていた。

「どこでも作っているようなモノではダメだ」と、37歳で会社を立ち上げた。資本金の1000万円は、兄弟で住宅資金を出し合って捻出した。

 スタート時の社員は、自身も含めて3人。「昼は営業、夜は設計」という毎日が続いた。当初は資金繰りにも苦労した。妻の実家に頼み込んで資金を借り、窮地を脱したこともある。

 最も苦しかったのは「人が採れなかったこと」だ。斬新で使い勝手のよい製品が好評を得て、初年度から黒字達成。以後一度も赤字を出したことはなく、堅実に成長を遂げてきた。ところが時代はバブル期、大手志向の学生には見向きもされなかった。

 状況が変わったのは設立10年目、茨城県つくば市に工場兼ショールームを建設してからだ。「これを見て、徐々に学生が入ってくれるようになった」。今では社員100人、博士課程修了者や海外で研究経験を持つ一流の人材が望んで入社してくる。

ライバルと一線を画す提案力と開発力で
大手から引き合い殺到
 設備機器の分野では、競合メーカーは多数ある。しかし林は「われわれのようなビジネスモデルはほかにない」と胸を張る。

オリエンタル技研工業は、単に設備機器の製造販売にとどまらず、「どういった施設・設備にすればいいのか」というコンサルティングから、機器導入後のメンテナンスまで一貫して行う体制を備える。「そうでなければ、研究者のニーズに合ったものは作れない」。子会社に日本で唯一の“研究施設専門”一級建築事務所を持ち、コンペで大手を打ち負かして施設そのものの設計から手がけることもある。

 顧客は、まず製薬、バイオテクノロジー、化粧品、食品などのメーカー。日本を代表する企業の名が並ぶ。むろん大学や、国の研究機関も同様だ。

 特に現在は、製薬業界からの注文が活況だ。主力商品の特許が相次いで切れる“2010年問題”に直面して各社とも新薬開発に躍起であり、大規模な研究施設を競って建設しているからだ。さらに、少子化のなかで学生を集めるため、施設・設備の充実に力を入れる私立大学からの引き合いも多いという。

 ユーザーの高い評価を支えるのは、45年に及ぶ林の経験とノウハウ、そして「最先端の研究開発には、最先端の施設・設備が必要」という理念である。いまや作業効率だけでなく、居住性やデザインも、研究者の能力を引き出す重要な要素だ。

世界の先を行く「最先端の研究施設」で
モノづくりを支援
 日本の研究開発環境は、米欧と比べいまだに3割遅れているというのが林の実感だ。留学した研究者が、「ろくな設備がないから」と帰って来たがらないような現実もある。「だからわれわれが、魅力ある環境を提案していく」。そのために、世界の最新動向を常に探り、米欧企業とのタイアップも積極的に行う。

 もちろん、現場の研究者のニーズをくみ上げることにも余念がない。というよりも、林の考えに賛同する研究者たちとコラボレーションを行っているというほうが近い。つくば市の工場には、打ち合わせのために日本中から研究者が足繁く訪れる。林は長年、筑波大学産学連携会の理事を務め、また東京農工大学に寄付口座を設けるなどで、大学とのパイプも太い。

 さらに、世界の一歩先を行くために打ち出したのが、地球環境にも配慮した「グリーンラボラトリー」のコンセプトだ。冒頭で紹介したヒュームフードはその一端だが、これらの機器は数百台もの単位で納入されるため、省エネ・環境負荷低減の効果は大きい。CO2削減は研究施設でも喫緊の課題であり、ランニングコスト削減にもなるため好評を博している。

「日本が生き残るためには、やはりモノづくりで負けるわけにはいかない。その意味で、研究開発環境というのはきわめて重要であり、ニーズがすたれることはない」。日本中が不況にあえぐなかで、今年度は大幅な増収増益を見込む。成長を急ぐつもりはないが、売上高100億円が当面の目標だ。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)
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