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11月9日 NHKニュース

 仙谷官房長官は、記者会見で、政府が9日の閣議で、TPP=環太平洋パートナーシップ協定についての基本方針を決めたことに関連して、来年6月をめどにTPPの交渉に参加するかどうか政府として判断したいという考えを示しました。

この中で仙谷官房長官は「農林水産省も『座して死を待つよりも、打って出て競争力をつけるという発想で政策を組み立てる』として強力に実行していく姿勢だ」と述べました。そのうえで、仙谷長官は、記者団が「TPPの交渉に参加するかどうかの判断は、来年6月をめどに、農業対策についての基本方針を決定するあとになるのか」と質問したのに対し、「できれば、その前後になると思う」と述べました。一方、仙谷長官は、閣僚懇談会で菅総理大臣から、来年度の農業関連予算について関係閣僚による会合を設置するよう指示があったことを明らかにし、今後、戸別所得補償制度を含む政策の充実などを検討することになりました。また、玄葉国家戦略担当大臣は「高いレベルの経済連携に踏み出したことの意義は大きい。国益からみて、現状ではベストな基本方針になった」と述べました。そのうえで、来年度の農業関連予算をめぐる関係閣僚会合について「今の戸別所得補償制度は関税措置を前提にしているので、関税措置がなくなる品目が出たときにどうするか、シミュレーションしながら考えなければならない。早ければ今週中に関係閣僚の最初の会合を開きたい」と述べました。その一方で、鹿野農林水産大臣は「TPPが国民にとってどういう協定であるか情報として流されておらず、情報収集が非常に大事だ。これからの第1次産業をどうしていくのか、総括的に議論がされていくことが大事だ」と述べました。

 
*TPP参加、打ち出さず 政府方針決定、協議は開始!

2010年11月7日 asahi.com

 菅内閣は6日、包括的経済連携に関する閣僚委員会を首相官邸で開き、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について「情報収集を進めながら対応し、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」と明記した基本方針を決めた。参加に前向きな姿勢は示したが、民主党内などの慎重派に配慮して「参加表明」までは打ち出さない内容になった。9日に閣議決定する。

 TPPは、菅直人首相が10月の所信表明演説で「交渉への参加を検討」と表明。民主党のプロジェクトチームが今月4日にまとめた提言は「情報収集のための協議を行い、参加・不参加を判断する」としていた。これに対し、基本方針は「情報収集」と「協議」という言葉を切り離し、「情報収集のための協議」ではなく、「参加をめぐる協議」という意味合いをにじませた。

 ただ、13日から横浜市で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の前に「交渉入り」まで踏み込めず、参加の可否の結論は先送りとなった。TPP交渉は来年11月の米国でのAPECで合意する見通しだが、平野達男内閣府副大臣は閣僚委後の記者会見で、TPP参加の判断時期について「今の段階で『いつまで』ということをコメントできる状況にはない」とした。

 菅首相は6日の閣僚委で「農業再生を念頭に『国を開く』という重大な基本方針をとりまとめることができた。日本の新たな繁栄を築くための大戦略のスタートだ。『平成の開国』は必ずプラスになる」と強調。APEC域内の貿易自由化について「道筋をつけるため議長として強いリーダーシップを発揮する覚悟だ」と述べ、APEC首脳会議で今回の基本方針を説明する考えを示した。

基本方針は「すべての品目を自由化交渉対象とし、高いレベルの経済連携を目指す」と明記。一方で、原則10年以内に輸入品に対する関税をゼロにするTPPに参加すれば、安い農作物が大量に輸入されて国内農業に打撃となることが予想される。そのため、基本方針では「競争力向上や海外での需要拡大など農業の潜在力を引き出す大胆な政策対応が不可欠」と指摘。首相を議長とする「農業構造改革推進本部」を設置し、来年6月をめどに農業対策の「基本方針を決定する」と打ち出した。

 TPPは農業分野だけでなく、金融や医療分野など「非関税障壁」の撤廃も求められる。このため、規制制度改革に関する政府の方針を来年春までに決めることも基本方針に盛り込んだ。

 また、2国間で貿易やサービスの自由化を進める経済連携協定(EPA)について、基本方針は「積極的に推進する」と表明。現在交渉中のペルーや豪州との交渉妥結や、韓国との交渉再開、モンゴルとの交渉開始、欧州連合(EU)と交渉に入るための調整を「加速する」とした。

 基本方針をめぐっては、6日の閣僚委に先立ち、菅首相は玄葉光一郎国家戦略相らと会談。仙谷由人官房長官は同日午前、TPP参加に慎重な国民新党の亀井静香代表と電話で協議し、国民新党の同意を取りつけた。

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2010/11/03(水)サーチナ

 中国太平洋経済協力全国委員会事務局長の呉正竜氏が「日本がTPP参加に意欲的なのはなぜか」と題する論評を発表した。中国網日本語版(チャイナネット)が報じた。以下は同論評より。

  日本の菅直人首相は10月24日、全閣僚にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加についての調整を急ぐよう指示した。日本はこれまでに何度もTPP参加に意欲を示してきたが、実際の行動にはまだ出ていない。

 菅首相は、11月に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、日本がTPP参加を表明することを示唆した。日本がTPPに参加すれば、アジア太平洋自由貿易区の建設に大きな影響を与えるため、各方面からの注目を集めている。

 TPPの交渉は今年始まり、すでに3回の交渉が行われた。参加国は米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリで、次の交渉は12月上旬にニュージーランドで行われる。米国によると、TPPは「21世紀に向けた、高水準の自由貿易協定の締結」「参加国をすべてのアジア太平洋地域の国に拡大」を目的としている。

 日本のTPP参加意向には、多くの意図が含まれている。

 まず、日米同盟強化の姿勢を経済分野で具現する。TPPは米国がアジアに回帰し、アジア太平洋地域の自由貿易区の建設を再始動させ、APECを主導する上で一つの足がかりとなる。しかし、オーストラリアなど7カ国の市場規模はあまりに小さく、米国の雇用増加と輸出拡大の戦略目的を実現することはできない。米国は日本を引き入れ、雪だるま式にTPPを大きくし、最終的に中国を含むすべてのアジア太平洋諸国のTPPの潜在的な市場規模を大いに引き出すことを考えている。そのため、米国は日本のために力を尽くしている。日本はTPP参加に積極的に取り組み、米国の戦略目標の実現に一肌脱いでいる。

 次に、これは日本のアジア太平洋市場を開き、輸出を拡大し、経済成長を実現するための戦略でもある。日本は「失った20年」と世界金融危機の影響を経て、財政赤字の増加、負債の増加、デフレ、高齢化などの経済に関する難題が山積みになっている。TPPという「自由貿易の急行列車」に乗り込めば、日本企業の不利な競争地位を変え、工場の急速な海外移転の動きを転換し、経済の起死回生の道を切り開くことができる。

  最後に、現在は日本がTPPに参加するのに重要な時期である。これまでの3回の交渉では枠組み協定や、執行中の自由貿易協定との関係が主に話し合われ、農産品や繊維製品、労働者の保護、政府調達、知的財産権の保護など実質的な項目の話し合いはまだ行われていない。この時期に参加すれば、具体的な項目の話し合いに直接参加し、自国の利益を保護することができる。ところがこの時期を逃せば、新参者はすでにまとまった項目や案文に従うしかなく、選択の余地はなく、受け身になる。

 日本のTPP参加意向は交渉を複雑にするに違いない。交渉はこれまでの米国とほか7カ国に対するものではなく、米国と日本の駆け引きになるだろう。世界一と世界3位の経済国である両国の貿易の利益と要求には大きな差があり、交渉は複雑さを増すと考えられる。

 そのほか、日本がTPPに参加すれば、TPPの吸引力は大幅に増加するだろう。マレーシアがTPP参加を表明したほか、すでにタイ、フィリピン、カナダなども参加意向を示している。日本はドミノ効果を引き起こし、アジア太平洋諸国は参加を競うことになり、アジア太平洋のそのほかの国は関心を高め、対策を練る必要がある(編集担当:米原裕子)



*TPPに参加するならば、2つの“地雷”に注意せよ!

2010年11月01日 藤田正美,Business Media 誠

横浜で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議を前に、菅首相がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加のアドバルーンを上げている。シンガポールやニュージーランドとの首脳会談で「参加を検討している」と表明したのだ。

 TPPとは2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国の貿易協定から始まった。現在はさらに米国、ベトナム、マレーシア、オーストラリア、ペルーを加えて9カ国で多国間の自由貿易、経済連携の協定締結に向けて話し合いが進んでいる(ちなみにこのTPPのもともとの英語はTrans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement、まだ訳語が定着していないが、ここでは外務省の訳に従った)。

多国間と2国間との大きな違い!

 TPPの特徴は多国間の経済連携協定であること。FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)は2国間の協定だ。日本は先頃、インドとのEPA締結で合意した。これで12カ国・地域と自由貿易協定を結ぶことになるが、韓国や中国もこうした2国間協定を積極的に進めており、日本は「出遅れ」を指摘されている。

 多国間と2国間との大きな違いは、多国間の場合、それぞれの国の事情に伴う「例外」が認められにくくなるということだ。153カ国もの国が参加しているWTO(国際貿易機関)のドーハ・ラウンドは、簡略化して言えば先進国と発展途上国との対立をなかなか解くことができないでいる。しかし2国間であれば、関税撤廃の例外品目を交渉することも可能だ。実際、日本が各国とFTAやEPAを結ぶ場合はそうしてきた。しかしTPPの場合は、原則として例外品目を設けないとしている。

 こうなると「参加を検討」と首相が言っても、そう簡単に事は進まない。すでに与党内からも慎重論や反対論が相次いでいる。民主党の山田正彦前農水相が会長となって「TPPを慎重に考える会」が結成され、鳩山由紀夫前首相がその顧問に就任している。農水省は、もしTPPに参加して農産物が自由化された場合、現在の食糧自給率40%が14%に低下するとの「衝撃的」な試算を発表した。また北海道庁も、年間で2兆円を超える打撃を受けるとの試算を発表している。

郵政問題を抱える民主党!

 農業だけでも説得するのは難しいのに、もう1つ「郵政」という大問題もある。TPPは貿易だけでなく経済全体のバリアを撤廃の方向に持って行こうとするもの。その中では郵政民営化を180度逆転させようとするいわゆる「見直し法案」はTPPの方向性とは相容れない。もちろんこの交渉を主導する米国からは郵政民営化を推進するように要求が出るはずだ。

 そうなったら連立相手の国民新党との約束を反故にしなければならない。それに民主党そのものも民営化には反対していた。なぜなら労組の問題があったからである。TPPに参加するというのなら、郵政民営化を逆転させる「見直し法案」の再提出が困難になることは火を見るよりも明らかだ。TPP推進派と言われる前原外相や仙石官房長官は、果たしてこの問題まで見据えているのだろうか。国民新党との連立解消などということになったら、政権を維持すること自体危うくなるだろう。

農業と郵政という地雷!

 農業では超党派の反対論が巻き起こり、郵政では与党や連立政権内の対立が浮き彫りになる。これだけ政治的に難しい課題を11月半ばまでに解決する気が本当にあるのかどうか、かなり疑問だ。

 それでもTPPへの参加は必要だと思う。1つの大きな理由は、急速に経済力をつけ、外交的な圧力を増しつつある中国に対抗するためだ。TPPでは日本のほか、フィリピンや中国にも打診をしているが、関税の撤廃が大きな眼目である以上、中国がすぐに参加するのは難しいという見方が強い。その意味で、日本が参加するかどうか、中国は気にするはずなのである。

 東シナ海や南シナ海で中国の影が大きくなっていることを考えれば、米国も参加しているTPPに日本やベトナム、フィリピンが加わることで、中国に対する“牽制球”になるだろう。日本にとって尖閣諸島が重要な領土であることは自明のことだが、南シナ海も日本の生命線という意味で極めて重要だ。米国が「航行の自由」を盾に南シナ海での中国の勢力拡張を牽制しているのも同じ理由である。

 そうした状況の中で、日本が外交的にコミットしていこうとすれば、経済関係を強めるしかない。ベトナムで原発を受注したのは、ビジネスとしてプラスであることはもとより、外交的にもコミットを深めるという大きな意味がある。

 TPPに参加するためには、農業と郵政という地雷が埋まっている地雷原を無事に渡りきらねばならない。「消費税とは違う」と言って覚悟のほどを語った菅首相だが、失敗すればそれこそ内閣が吹き飛びかねないエリアに足を踏み入れたことを本当に自覚しているのだろうか。

2010年11月1日(月)安藤 毅(日経ビジネス記者)

環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)を巡る民主党の対立が激化している。国内農業や統一地方選への影響を懸念する声に推進派の菅直人首相もぐらつき始めた。貿易立国として生き残るチャンスをつかめるのか、否か。問われているのは政権の覚悟だ。

「環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)等への参加を検討する」

 政府・与党内の路線対立は、10月1日の菅直人首相の所信表明演説にこの一文が盛り込まれたことで先鋭化した。11月中旬のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で菅首相がTPP締結協議への参加を表明するのか。これに先立ち11月上旬にまとめるEPA(経済連携協定)基本方針にどんな内容を盛り込むのかの2点が大きな政治課題に急浮上したためだ。

 「農産物の関税への例外措置を認めないTPPは、これまで日本が取り組んできたFTA(自由貿易協定)とは違う。国内農業は壊滅してしまう」(山田正彦・前農林水産相)

 「大きな誤解がある。TPPのルールはまだ固まっていない。例外扱いできるように交渉する余地は十分にある。交渉に参加しないデメリットの方が大きい」(直嶋正行・前経済産業相)

 この1カ月、EPAなどを協議する民主党の会合では、こうした堂々巡りの議論が続いた。この間に、「反TPP」の動きは強まる一方だ。TPP反対の特別決議を採択した10月19日の全国農業協同組合中央会の全国集会には多数の与党議員が参加。21日には鳩山由紀夫前首相、山田前農相ら110人もの議員が TPP反対の勉強会を立ち上げた。小沢一郎元代表に近い議員が7割を占め、参加したある議員は「首相が聞く耳を持たずに突き進めば政局にする」と息巻く。

 今や政権の大きな火種となったTPPとは、そもそも何なのか。

実質は日米FTA

 TPPはシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイで2006年に結んだFTAが発端。農林水産物を含め原則として、すべての品目について即時、または10年以内に段階的に関税を撤廃するのが大きな特徴だ。

 ここに米国、豪州、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加を表明し、交渉を始めている。世界全体のGDP(国内総生産)に占めるこの9カ国の割合は約4分の1。自国経済の立て直しへ輸出倍増を掲げる米国は有力な市場確保策と位置づけており、2011年11月の米国主催APECまでの交渉妥結を狙う。

 このTPPに日本が参加するということは「日米FTA、日豪FTAを結ぶのと同じ意味を持つ」(外務省幹部)。しかも、先述の先行4カ国の協定内容は 100%の関税撤廃が原則。この取り決めがそのまま他の参加国にも適用されれば、参加国への輸出増や関連産業の投資拡大が見込める一方、短期的に米国や豪州から安い農産物の輸入が拡大するのは間違いない。農業県選出の議員を中心にTPP反対の大合唱が急速に広がったのは、各議員がTPPの衝撃にようやく気づいたためだ。

 「明治維新、第2次世界大戦での敗戦に次ぐ第3の開国だ」

 所信表明演説にTPP参加に向けた表現を盛り込む判断を下した菅首相は周辺にこう語ったという。TPP参加は現代版「黒船来襲」というわけだ。

「韓国と競争条件を同じに」

菅政権がTPP参加の検討を政治課題に載せたのは、産業界からの強い要請が大きな要因だ。

 特に、自動車など日本と産業の得意分野が重なる韓国の存在が産業界の危機感を高めている。韓国はFTA推進を経済成長戦略の柱に据え、米国、欧州連合(EU)とのFTA交渉を既に終えている。EUとのFTAが2011年7月から発効すれば、EUへ輸出する日本製乗用車には10%の関税がかかるが、韓国製乗用車は段階的に関税が削減され、5年以内にゼロになる。

 「このままではEU市場で韓国車に輸出を奪われる。不利な競争条件に置かれないようスピードを重視して交渉を推進すべきだ」。日本自動車工業会の志賀俊之会長は危機感をあらわにする。

 円高に加え、EPA競争で後れを取れば、輸出競争力は一層失われる。日本から海外への工場移転にも拍車がかかり、国内雇用を損なう。政治家や農業団体は地域社会の維持をEPA反対論の柱に掲げるが、モノ作り企業の海外移転が進んで雇用が失われる方が、地域に深刻なダメージを与えかねない。

 海外とのヒト、モノ、カネの行き来を自由化するEPAのメリットを説く早稲田大学の浦田秀次郎教授は「EPAが進めば、企業は日本にとどまって生産し、輸出する戦略が取れる。輸入品が安く手に入り、消費者のメリットも大きい。海外製品との競争の過程で、企業の生産性も向上する」と強調する。

 TPP参加には鳩山政権時に亀裂が生じた対米関係修復の狙いもある。「アジア全域への影響力拡大を目指す中国への最も有効な牽制材料になる」(外務省幹部)ためだ。日本とのEPAに消極的なEUや韓国を振り向かせ、交渉を加速する効果も期待できる。

 TPPに参加するうえで最大の障害である農業問題。浦田教授は「9か国になったTPPのルールは固まっていない。日本は早期に交渉に参加し、自由化の例外品の確保や段階的自由化といった措置を勝ち取ればいい。その間に、国内農業改革を急ぐべき」と指摘する。

 政府内では、EPA基本方針の公表と同時に、国内農業の体質強化に向けた工程表策定に着手する構想が浮上している。農水省は直ちに農林水産物の関税を撤廃した場合、約4兆円の農林水産物生産額が減少するとはじく。農家への所得補償も含む対策財源の確保を巡って、財務省や農水省の水面下でのさや当ても始まっている。

 しかし、ここにきて、肝心要の菅首相の姿勢がぐらつき始めた。「米価下落の今、農家を一層敵に回すTPP参加など許されない」「来春の統一地方選への影響が避けられない」といった民主党内の批判が直撃しているためだ。

 10月21日、首相官邸での新成長戦略実現会議。米倉弘昌・日本経済団体連合会会長らがTPP参加への決断を促した後、菅首相はか細い声で発言した。

 「1つの政党や少数の政治家が決められることではない大きな問題だ。皆さんがそれぞれの立場で、国民に意味を説明してほしい」。気概を全く感じられない首相の発言に、室内はしらけた空気に包まれたという。

 戦後の日本ほど、自由貿易体制の恩恵を受けた国はない。その貿易立国ニッポンが今、全就業者数の5%を擁してもGDPの1.5%しか生み出せない農林水産業保護を名目に、世界の流れに背を向けるのは皮肉というほかない。「日本は、1%を守るために、成長力を捨てるのか」。かつて米通商代表を務めたロバート・ゼーリック世界銀行総裁は、貿易自由化に後ろ向きな日本にこう疑問を投げかけた。

 法人税率の引き下げ、EPA推進…。日本が成長を続けるために必要なメニューは出揃っている。後は国のCEO(最高経営責任者)である首相が決断し、国民を説得するだけだ。それができないのなら「有言実行内閣」の看板を掲げる資格はない。

日経ビジネス 2010年11月1日号8ページより

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の概要と意義
http://www.iti.or.jp/kikan81/81ishikawa.pdf


2010.11.9 17:57 産経ニュース

 仙谷由人官房長官は9日の記者会見で、政府が環太平洋経済連携協定(TPP=トランス・パシフィック・パートナーシップ)の対外交渉参加を見合わせたことに関連し、「日本人の精神のありようが鎖国状態になっている」と強調し、改めてTPP参加を目指すべきだとの考えを示した。

 仙谷氏は、「あと何年かは親の世代が作っったストックで国民全体は何とか食っていけるかも分からないが、(鎖国)傾向が産業界も農業もむしばんでいる」と指摘。その上で「開国を受け入れ、競争力を持った産業を興すことで生き抜く術を身に付けなければならない」と持論を展開した。



「有言実行内閣」またも腰砕け 新農水族に屈す 閣内に残る不協和音!
2010.11.6 21:52 産経ニュース

有言実行内閣」はどこへ行った-。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP=トランス・パシフィック・パートナーシップ)の基本方針は「参加を目指す」との表記さえ見送られた。所信表明演説で唐突にTPP参加をぶち上げた菅直人首相だったが、「新農水族」の抵抗であっさり腰砕けに。折衝の経緯を検証すると、与党内のパワーゲームにばかり心を砕く閣僚の姿と、首相の指導力の欠如ばかりが浮かび上がる。(坂井広志)

 3日夜、東京・紀尾井町の「ホテルニューオータニ」の一室。ひそかに集まったTPP関係閣僚らは政府の基本方針をめぐり、本音をぶつけあった。

 前原誠司外相「『参加を前提』という案では国民新党はのめないのか」

 玄葉光一郎国家戦略担当相「ダメでしょう…」

 前原氏「『前提』にしないと関係国との協議にならないじゃないか!」

 どういう文言にすれば与党は理解してくれるのか-。パズルを解くような「言葉選び」が延々と続く中、民主党を代表して出席していた山口壮党政調筆頭副会長が口をはさんだ。

 「参加をにじませるだけで反対派はアウトですよ」

 このひと言で前原案は吹き飛んだ。さらに与党との調整を担ってきた玄葉氏がダメ押しした。

 「そうしないと政局になる!」

 閣僚らは国の将来より、いかに政局を回避するかに腐心していたのだ。

 それでも慎重派の抵抗は続いた。翌4日、民主、国民新両党有志の「TPPを慎重に考える会」(会長・山田正彦前農水相)には約80人が出席し、「事前交渉への参加を表明することに反対する」との緊急決議を採択。6日夜の閣僚委員会が決めた基本方針はこうした声に押され、3日の原案をさらに後退させ、「交渉参加」の文言は消えた。

TPP参加は菅政権の大きな「足跡」となりえる政治決断だった。それだけに首相は10月1日の所信表明演説で「TPPへの参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏の構築を目指す」と宣言。その後も「農業の活性化と国を開くことの両立だ」と繰り返してきた。

 首相の意欲を受け、経済界などTPP推進派は勢いづいたが、反対派の圧力が強まるにつれ、閣内の足並みは乱れていった。

 「旗振り役」だった大畠章宏経済産業相は10月26日の記者会見で「(TPP参加検討は)非常に大変だ」と慎重姿勢に転じた。与党との調整に自信を見せていた玄葉氏も5日には「ストレートに交渉入りを言うのはどうかという思いを実は最初から持っていた」と白旗を上げた。

 ところが、一連の基本方針の策定過程で首相が指導力を発揮した形跡はない。

 首相は5日夕、閣内一の慎重派である鹿野道彦農水相を官邸に呼んだが、TPPへの参加意思さえはっきりしない基本方針案をあっさりのんでしまった。

 6日夜の閣僚委後、記者団にコメントを求められた前原氏は「いや、結構です。これから進めますよ」と不満をにじませ、鹿野氏は「どうするか決めたわけではありません」。閣内に不協和音は残った。

 首相は記者団へのぶら下がり取材をキャンセルし、閣僚委で発言しただけ。有言実行内閣は語るべき言葉さえも失ってしまった。


まるで自民党政権「TPP論議、文言いじり」に終始 民主党方針、一応決着!

2010.11.4 21:22 産経ニュース

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP=トランス・パシフィック・パートナーシップ)をめぐり、民主党の方針を打ち出すはずの「政府への提言」は迷走した。4日夜、提言に「情報収集のための協議を始める」との文言を盛り込むことで一応の決着はみたが、対立は解消されず、自民党政権当時と同じような「文言いじり」に終始した。

 民主党プロジェクトチーム(座長・山口壮政調筆頭副会長)は4日、国会内で会合を断続的に開いた。

 文言調整で乗り切ろうとした党側は「情報収集等のための事前協議を行い、交渉の参加、不参加の判断をする」と、政府方針よりも一歩も二歩も引いた提言案を提示した。

 これに慎重な議員がかみついた。将来TPPに参加することがにおう「事前」という文言を批判。さらに「情報収集等」という文言から、「等」という一文字を外すかどうかで紛糾した。「等」が付くと「情報収集のほかに、参加への協議が進む危険性がある」との声に配慮した。それでも慎重派は「『協議』を『調査・研究』にすべきだ」(山田正彦前農水相)と、文言への注文を続けた。

 「協議という言葉を使ってはいけない。どうですか」。参加議員の一人はこう叫んで、会場を埋めた議員たちに賛同を求めた。

推進派も正面からの議論ができていない。

 「TPPは魅力的な女性か悪女か分からないが、協議は合コンのようなものだ。協議ぐらいはしよう」との発言も飛び出した。

 TPPによってもたらされる日本の将来像が明確にならない中で、取りまとめだけを急ぐ党政策調査会への不信感も広がった。

 民主、国民新両党の有志でつくる「慎重に考える会」(山田会長)は4日、「TPP参加や事前交渉への参加表明に反対する」との決議文を採択した。

 「菅直人首相が所信表明で『参加検討』と言っているのに、横浜APEC(アジア太平洋経済協力会議)で『調査、研究する』と言ったら、『アホか』と言われる」。文言調整に疲れた山口座長が記者団に吐き捨てるように言う場面すらあった。

シェールガス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%AC%E3%82%B9

クリーンエネルギーで世界の覇権を取れ!~(12)

2010.11.08(Mon)JBプレス 一尾泰啓

今回は、近年「シェールガス革命」と呼ばれ、脚光を浴びている米国を中心としたシェールガス開発が、なぜ「革命」とまで呼ばれるのか、そして、このシェールガスがクリーンエネルギー産業に与える影響を分析します。

 ここ数年、米国を中心に、従来の天然ガスの採掘技術では回収が難しい非在来型天然ガスの一種である、シェールガスの開発が活発化しました。

シェールガスとは?
 シェールガスのシェールの語源である頁岩(けつがん)とは、泥土が堆積してできた泥岩のことで、シェールガスとは、この泥岩である頁岩に閉じ込められた天然ガスの呼称です。

 それに対して、従来技術で生産されるいわゆる在来型天然ガスは、砂が堆積してできた砂岩の中に埋蔵されています。

 シェールガスと在来型の天然ガスの大きな違いは、その埋蔵されている場所である頁岩と砂岩の浸透率の違いによります。浸透率とは、堆積岩中の流体の流れやすさを示し、浸透率が高いということは、ガスが堆積岩中を移動しやすくなり、その分ガスの生産性が高まります。

 頁岩の浸透率は、砂岩に比べて非常に低いため、井戸を掘っても十分な生産量が確保できずに、経済性が成り立ちませんでした。これが、シェールガスの存在自体は長年知られていたにもかかわらず、最近まで開発が進まなかった理由です。

シェールガス台頭の理由!

 では、なぜ米国において、1990年初頭から一定レベルの生産量で安定推移していたシェールガスが、2005年頃から急速に伸び始め、今後もその生産量の上昇が予測されているのでしょうか?(図39)

その理由の1つが、米国の天然ガス価格の上昇です。米国の井戸元天然ガス価格は、1980年代・1990年代を通じて100万BTU(British Thermal Units――天然ガスの熱量単位)当たり2ドル前後で安定的に推移していました。

 しかし、2000年代に入り上昇を続け、2005年には年平均の井戸元ガス価格が100万BTU当たり7ドルを超え、2008年にはほぼ100万BTU当たり8ドルに達しました(図40)。最高値としては100万BTU当たり13ドルを突破しました。

米国の天然ガス価格が上昇したことによって、在来型の天然ガスに比べ生産性が低く、結果的に生産コストが高くなるシェールガスでも、その経済性が一気に高まったのです。

 もう1つの大きな理由は、シェールガスの採掘技術の目覚ましい進歩によるガス生産量の増加です。特に、フラクチャリング技術と水平坑井の掘削技術です。フラクチャリング技術とは、水圧によって頁岩を砕き、フラクチャー(割れ目)を入れて浸透率を高める技法です。

 水平掘りは、井戸を地面に対して水平に掘削する技術で、従来の垂直に井戸を掘るやり方に比べて、ガス層に触れる面がより広くなりますので、結果的にガスの生産量が増えます。

 この天然ガス価格の上昇と採掘技術の進歩という複合的な要素によって、シェールガス開発の経済性が大幅に改善され、生産が急増したのです。

約100年分ある天然ガス!

 その結果、何が起きたのでしょうか? 米国の天然ガスの埋蔵量が急増したのです。

 米国エネルギー省(Department of Energy: DOE)のまとめたリポート「米国における近代シェールガス開発」(Modern Shale Gas Development in the United States)によると、確認分と未確認ながら技術的に回収可能とされる埋蔵量を加えた米国の天然ガスの総埋蔵量は、1680兆立方フィート(Trillion Cubic Feet: TCF)から2247TCFと見積もられています。

 2007年の米国の天然ガスの生産量が19.3TCFでしたので、米国には87年から116年分の天然ガスが埋蔵されていることになります*40。

しかし、つい数年前まで米国では自国の天然ガス供給が需要に追いつかないという見方が市場を支配していました。不足する天然ガスはLNG(Liquefied Natural Gas)の輸入で賄う以外に手段がないとの考えから、多くのLNG受け入れ基地の建設が計画されていたのです。

LNGの輸入から輸出へ!

 NGI(Natural Gas Intelligence)によりますと、2006年3月の時点で、米国を中心とした北米市場において稼働していたLNG受け入れ基地の総LNG受け入れ量は1日当たり5.24十億立方フィート(Bcf/d)でした。

 当時管轄規制当局から建設許可取得済みの計画中LNG受け入れ基地だけでも、その数は17プロジェクトに上り、これら新設LNG受け入れ基地の総LNG受け入れ量は、既存受け入れ量の約5倍に当たる24.2Bcf/dにも達していました。まさに、新規LNG受け入れ基地の計画ラッシュといった状況だったのです。

 しかしながら、その後シェールガスの台頭があり、実際に建設に入ったプロジェクト数は4つ。うち3つのプロジェクトは現在稼働中で、残りの1つも2010年中には稼働を開始する予定になっています。

 その一方で、シェールガスによる供給増加に加え、景気後退によるガス需要の減退も相まって米国天然ガス価格は低レベルで推移しています。

 一般的にコストの高いLNGは、現状の天然ガス価格レベルでは経済性が厳しいため、当初の予定の通り米国にLNGが輸入されるケースはほとんどなく、LNGがより高値で取引されているアジアやヨーロッパ市場向けに販売されています。

 その結果、上述の新設の3つのLNG受け入れ基地は完成したものの、実質ほとんど稼働しておらず、米国エネルギー省(DOE)に対し、輸入したLNGを米国市場で販売するのではなく、再び他国に輸出するためのライセンスや、LNG受け入れ基地そのものをLNG出荷基地に転換する申請を行っています。

 事実、LNG出荷基地への転換を申請中のプロジェクトの1つはDOEの許可を取得し、現在、連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission: FERC)の審査を受けています。

 つまり、米国の市場プレーヤーは、天然ガスを輸入しなければならないどころか、米国は海外へ輸出するだけ十分な天然ガスが埋蔵されていると考えているのです(ただし、エネルギー安全保障の観点から、米国のLNG輸出には慎重論もあります)。

 同様の動きは隣国カナダでもあります。ブリティッシュコロンビア州沿岸の街キティマット(Kitimat)で計画されているLNGプロジェクトは、計画当初はLNGを輸入するLNG受け入れ基地として開発されていました。

しかし、プロジェクト開発会社の言葉を借りると、“天然ガス市場環境の激変”によって、2008年9月にLNGを輸出するLNG出荷基地として開発し直すとの発表があり、計画を180度変更しました*41。カナダにも莫大なシェールガスの埋蔵量があるとされています。

後退する原子力ルネッサンス!

 さらにシェールガスの影響はLNGにとどまりません。2010年10月に米国大手電力会社コンステレーション・エナジー(Constellation Energy)が、計画中の新規原子力発電プロジェクトへの政府ローン保証申請の取り下げをDOEに通達しました。

 建設費が100億ドル(9000億円)に上るとされるハイリスクな当プロジェクトにとって、政府ローン保証申請の取り下げは、計画の凍結を意味します。

 このコンステレーション・エナジーがメリーランド州で計画している原子力プロジェクトは、2010年2月に政府ローン保証が付与されたジョージア州で計画されている大手電力会社サザーン(Southern Co.)に次いで政府ローン保証を獲得して、プロジェクト実現へ大きく前進すると期待されていただけに、今回の発表は市場関係者に驚きとショックをもって迎えられました。

 申請取り下げの最大の理由として、コンステレーション・エナジーは、政府の要求するローン保証の申請費用の高騰を挙げていますが、シェールガス開発による天然ガス価格の下落が電力価格を抑え、この傾向が長期的に継続するとの見通しから、原子力発電の経済性の見直しを迫られたことも一因と考えられています。

 米国では、スリーマイル島原子力発電所事故以来、30年以上にわたり原子力発電所が新設されていません。

 しかし、昨今のエネルギー価格の高騰によるエネルギー安全保障と環境意識の高まりから一気に原子力が注目され、コンステレーション・エナジーのプロジェクトも含め20以上の新規原子力プロジェクトが計画されています。

 この久々の新規原子力計画ラッシュは、「原子力ルネッサンス」と形容されていますが、シェールガスはこの米国原子力産業の再生に冷や水を浴びせています。

 シェールガスは天然ガス市場にとどまらず、エネルギー産業全体に影響を及ぼしているのです。そして、このシェールガスは米国やカナダといった北米大陸だけではなく、東欧を中心とした欧州諸国や、中国にも豊富に存在することが確認されています。

このシェールガスの台頭によって、ここ数年という短期間に、「天然ガスは意外と豊富にあるんだね」という話になってきたのです。まさに、世界のエネルギー産業に“革命”を巻き起こしているのが、シェールガスなのです。


リリーフピッチャーから先発ピッチャーへ!

 それでは、シェールガスのクリーンエネルギー産業への影響はどうでしょうか? 以前紹介したように、天然ガスは化石燃料の中では最もクリーンな燃料です(第3回連載:図10参照)。

 そのため、今までも天然ガスはクリーンエネルギーが本格的に普及するまでの、いわばリリーフ的な存在として期待されていました。

 天然ガスの価格は、基本的に需要と供給のメカニズムによって決定されます。従って、供給が100年程度確保されているということになると、よほど需要が増加しない限りは、当分の間、価格の上昇はある程度のレベルで抑えられるでしょう。

 そうしますと、先の原子力発電の例と同様に、クリーンエネルギーは天然ガスとの価格競争の面で厳しい立場に立たされます。今までリリーフピッチャーと見なされていた天然ガスが、先発しかもエース候補として名乗りを上げそうな勢いなのです。

 筆者は一時期、米国の某製油所で、カナダのオイルサンド(超重質油)の精製によって副産物として生産される石油コークスを利用した事業開発を担当していました。

 石油コークスは、原油からガソリン・灯油・ディーゼルなど「軽い」製品を順番に精製した最後に出てくる、いわば原油の「搾りかす」なのですが、たとえ「かす」でも、熱量が高く、燃料としての価値があります。

 しかし、炭素の塊であるコークスをそのまま燃やしてしまうと、CO2を多く排出する問題があります。そこで、石油コークスをガス化して、その過程でCO2を回収し、クリーンな合成ガスを製造するプロジェクトを仕込んでいました。

 しかし、問題は、ガス化設備コストが高いため、投資回収するためには15年という長期にわたって、競合する天然ガスの価格より安いコストで合成ガスを製造できなければ、経済性が成り立ちませんでした。

 当時は、シェールガス開発が今ほど脚光を浴びる前だったのですが、それでもシェールガスの米国天然ガスの長期価格に与える影響が未知数でリスクが高いとの判断から、投資決定を見送った経験があります。

このガス化プロジェクトは一例ですが、天然ガスは、電力の燃料になったり、自動車の燃料(天然ガス自動車)になったりしますので、その価格は、リニューアブル発電やバイオ燃料の普及に大きく影響を与えることになります。

シェールガスのリスク!

 日の出の勢いのシェールガスですが、環境汚染リスクの可能性を背負っています。それは水です。先ほど説明しましたように、フラクチャリング技術は水を使って頁岩にフラクチャーを入れますが、その際に大量の水が必要となります。

 このフラクチャリング用の水源の確保と同時に、フラクチャリングで利用する水による地下水汚染の可能性が問題になっています。

 特に、フラクチャリング用の水には溶剤などの化学物質が含まれていますので、この化学物質が混入した水が地下のシェールガス層から帯水層へ拡散し、飲料水を含む水供給システムを汚染するリスクが指摘されています。

 前回連載で紹介しました、ポストBP原油流出事故の新しいエネルギーコスト方程式(図38: 供給コスト + CO2コスト + 環境汚染コスト = エネルギーコスト)をベースに、シェールガスとクリーンエネルギーの正味コストを比較する必要があります。

 いずれにしても、今後、世界のシェールガスの開発動向が、天然ガスの価格および相対的なクリーンエネルギーの競争力に影響を与え、クリーンエネルギーへの本格的な移行スピードを左右することは間違いありません。

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