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RQ-4 グローバルホーク
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%AF


読売新聞 12月30日

防衛省は29日、無人偵察機の導入の可否を判断するため、2011年度から本格的な調査・研究に着手する方針を固めた。

 最新鋭の高高度無人偵察機「グローバルホーク(GH)」を活用する米軍に自衛隊幹部らを派遣して、運用や維持・整備の現状などを調べる。日本周辺海域で活動を活発化させる中国海軍の動向や朝鮮半島の警戒・監視活動の強化を目指すもので、費用対効果なども含め、導入を視野に検討する。

 無人機は、滞空時間の長さなどの利点があることに加え、紛争地域で犠牲者が出ないため、米軍、英軍などがすでにイラクなどで積極活用している。ドイツ軍も近く導入予定だ。

 日本政府も、17日に閣議決定した11年度以降の次期中期防衛力整備計画(中期防)で、「無人機を含む新たな各種技術動向等を踏まえ、広域における総合的な警戒監視態勢の在り方について検討する」と明記した。防衛省は計画最終年度の15年度までに導入の可否を判断する方針だ。

 米空軍のGHは、全長約14・5メートル、翼幅約40メートルの軍用機で、自衛隊にとってこれほど規模の大きな無人機導入は初めてとなる。センサー類を除く機体本体は1機約25億円。防衛省幹部によると、日本全域の警戒・監視のカバーには3機が必要だという。司令部機能を持つ地上施設の整備などを行うと、「初期費用の総額は数百億円に上る」(防衛省幹部)といい、予算面の検討が課題となっている。防衛省筋によると、無人のため、配備後の費用は漸減していくという。

 無人機導入をめぐっては、自衛隊内で人員削減を警戒する向きもある。現在、日本周辺の警戒・監視活動は有人機の海上自衛隊P3C哨戒機などが行っているが、「無人機になればその分、操縦やシステム運用の人員が減らされるのではないか」(空自関係者)との見方があるためだ。

 ◆無人偵察機=要員が乗らない偵察機。米空軍の最新鋭のグローバルホークの場合、旅客機の巡航高度よりはるかに高い上空約1万8000メートルを飛び、高性能センサーやレーダーで最大半径約550キロ・メートルの偵察・監視を行える。

 乗員交代が不要なため、30時間以上滞空でき、1回の任務で幅広い地域をカバーできる。今年1月のハイチ大地震では、被害状況の把握などでも活躍した。

日本の脅威はテロより中国・北朝鮮!


2010年12月22日(水)日経ビジネス 孫崎享

国内の新聞は「選択と集中」を評価した!

 新たな防衛大綱が12月17日、閣議決定された。当面、この防衛大綱は新聞報道の解説に従って理解される。

 朝日新聞の見出しは「動的防衛力 照準は」、「監視能力生かし即応」、「中国の台頭警戒」などである。社説では「中国の軍事動向への警戒心を色濃くにじませるとともに、脅威には軍事力で対応するというメッセージを前面に打ち出した」「“基盤的防衛力”に代えて、“動的防衛力”という概念を取り入れた」としている。

 日本経済新聞は「新防衛大綱、戦略を転換」「脅威にらみ“選択と集中”」「中国けん制鮮明」「海空を重視」「南西シフト」とした。

 防衛大綱のポイントとして次を紹介した。


・ “動的防衛力”を構築
・ 朝鮮半島で軍事挑発を繰り返す北朝鮮の動向は喫緊かつ重大な不安定要因
・ 従来の基盤的防衛力構想によらず、即応性、機動性、柔軟性、持続性、多目的性をそなえた動的防衛力を構築
・ 日米同盟は必要不可欠
・ 島しょ部に必要最小限の部隊配置
とした。

 18日付日本経済新聞は1面に秋田浩之編集委員の解説を掲載した。「“選択と集中”。経営の世界では、資金や人材をこれと思う重点部門に集中し、成果を高めようとする戦略をこう呼ぶ。(中略)新たな防衛大綱にも同じ言葉が当てはまる。(中略)そこで重点をおいたのが、中国と(中略)北朝鮮だ」。

 「“動的防衛力”という看板を掲げ(中略)直面する脅威に優先度をつけ(た)。(中略)手薄だった南西諸島や島しょ部の防衛強化を掲げたのは、中国を意識した布陣だ。一方、北朝鮮のミサイルを念頭に(中略)イージス艦を6隻に増やす」。

 簡潔、要領を得た解説である。特に出だし「“選択と集中”」と切れ味よく文
章を切り出したのに感心した。もっとも、朝日新聞を見ると種明かしが出ている。「仙石由人官房長官は17日の会見で、新防衛大綱のポイントの一つに“選択と集中”を挙げ(た)」。


海外メディアは大綱の主眼を「中国の脅威への対抗」と報道!

 海外のメディアはどう評価しているか。

 米軍の準機関紙である星条新聞は「日本、防衛政策を中国、北朝鮮にシフト(Japan shifts defense strategy toward N. Korea, China)」の標題を掲げ「冷戦時の戦略を動的防衛力に置き換え、安全保障の焦点をロシアから北朝鮮・中国にシフト。米・韓・豪・印との地域的安全保障の結びつき強化を呼びかけ。新たに6隻の潜水艦と2隻のイージス艦を獲得。米国は日本、韓国に日韓合同演習を呼びかけているが両国ともこれを受け入れていない。マレン統合参謀本部議長は20世紀の問題を越えてこの地域をより守る方向に動くべきだと強要した。日韓連合をつくるべきだとの米国の努力は効果をもたらしていない」と報じた。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「中国に焦点を絞り直し(China warning raised in new defense policy / Pushes shifting SDF presence to Nansei isles)」の標題で報じ、ファイナンシャル・タイムズ紙は「日本、中国不安に備え軍を再編(Japan retools military to face China fears)」の標題で「日本は勃興する中国の力に脅かされる南方の島々の防衛を強化するため、その軍事力の焦点を変える歴史的指示を行った」と報じた。

 ニューヨーク・タイムズ紙も「日本、中国に対抗する防衛政策を発表(Japan Announces Defense Policy to Counter China)と報じた。これらの報道はいずれも新防衛大綱の最大の眼目を中国の脅威に対抗するためとしている。

新防衛大綱には「戦略」がない!

 これまで、日本の新聞、および海外で新聞の報道ぶりを見た。今後日本の新防衛大綱が論ぜられるとき、こうした報道を基礎に論ぜられるからである。

 では、私個人はどう見るか。最大の問題点は新防衛大綱における戦略の欠如である。あるいは戦略を考える弱体さである。

 防衛大綱は日本における国防政策の基本的指針を決定するものである。我が国をどう守るか、その基本を示すべきだ。では、この重要な課題を、世界各国と同様の高いレベルで考察しているか。

 私は著書『日本人のための戦略的思考入門』で戦略を「人、組織が死活的に重要だと思うことに目標を明確に認識する」と定義し、戦略を考えるのに最も優れた枠組みはマクナマラ戦略であるとしてこれを紹介した。マクナマラは第二次大戦時代空軍に入り、大量の軍用機を管理した後、米国自動車会社フォードに入社し、社長に就任した。その後ケネディ大統領時代に国防長官に登用された。マクナマラは軍、企業での経験を生かして戦略を生み出した。

 マクナマラは戦略を次のステップに分類した。
第1段階、外的環境の把握(将来環境の変化)、自己の能力の把握
第2段階 課題の把握(組織生存のために何が課題か検討)
第3段階 目標設定、代替戦略の提示、戦略比較、選択
第4段階 任務別計画策定、資源配分、スケジュール

 新防衛大綱の最大特色の一つが“動的防衛力”の採用である。「従来の基盤的防衛力構想に頼らず、即応性、機動性、柔軟性、持続性、多目的性をそなえた動的防衛力を構築」としている。

 基盤的防衛力構想の骨子は「わが国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となってわが国周辺地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有する」というものである。私は日経ビジネスオンラインの10月20日付のコラム「新防衛大綱は自主防衛の重要性を意識せよ」において「基盤的防衛力構想」を脱するべきことを説いた。確かに新防衛大綱は「基盤的防衛力構想」を捨てた。

 しかし、私は同時に、(1)敵が誰か、(2)いかなる手段で攻撃してくるか、(3)いかなる防衛手段があるかを考察した形をとって新防衛大綱を作成するべきであることを主張した。

 即応性、機動性、柔軟性、持続性、多目的性をそなえた動的防衛力はその要件を満たしているか。上のマクナマラ戦略を見ていただきたい。動的防衛力はまさに「第4段階 任務別計画策定、資源配分、スケジュール」の範疇である。

 私は『日本人のための戦略的思考入門』の中で「ジョンズ・ホプキンズ高等国際研究大学院が第一次大戦から第二次大戦までの期間と第二次大戦間で、10数名の学生(米軍の佐官クラスを含む)とともに行った評価で戦術、作戦では各国別に差はない。日本はトップクラスにいる。しかし、戦略になると、極端に低くなる。前者の期間では10点満点中の3点、後者の期間では2点である」ことを紹介した。「基盤的防衛力構想」に代わる戦略構想は「“動的防衛力」と言われてもただ驚くだけである。これは運用方針であって戦略ではない。日本の安全保障関係者の戦略的思考の欠如を改めて知らされた。


何が脅威か、明示すべき!

 新防衛大綱は「防衛力の在り方」において次の項目を列挙している。
・情報収集などによる情報優位の確保
・周辺海空域に関して侵害行為に実効的に対応
・島嶼部の防衛
・弾道ミサイルに実効的に対応

さて、戦略を「人、組織が死活的に重要だと思うことに目標を明確に認識する」として、日本に対する死活的脅威は何であろうか。

 中国に関しては核兵器であり、弾道ミサイル、クルーズミサイル攻撃である。

 11月4日付ワシントン・ポスト紙は「中国ミサイルは米国基地を破壊できる(Chinese missiles can ravage U.S. bases)」との見出しの記事で「80の中・短弾道弾、350のクルーズ・ミサイルで在日米軍基地を破壊できる」と報道した。クルーズ・ミサイルは地形を自ら照合しながら、レーダーによる捕捉が困難な低高度を飛ぶことができるとされている。この記事では対象は米軍基地であるが当然日本のどこでも対象として破壊できる。現在中国は通常兵器でも、これだけの対日攻撃が可能である。

 では北朝鮮はどうか。北朝鮮は射程約1000~1300km で日本全土を射程に収めるノドンを有し、配備数は150-320基と言われている。これが日本にとって最大の脅威である。それは中国の潜水艦などの海軍力よりはるかに日本にとって脅威である。

 なぜその脅威を詳細に述べないのか。「我が国を取り巻く安全保障環境」の分析の中で、長々と述べているテロなどのグローバルな脅威よりはるかに重要である。あたかもこれに対抗するにミサイル防衛が役立つように記述しているが、日本の政治・経済・社会の中心地が攻撃対象地になったときには全く無力である。仮にミサイル防衛システムの構築が可能となる日が到来するとしても、それははるか将来の話である。この防衛大綱が対象とする期間中に、実効性のあるミサイル防衛システムはとても構築できない。

 こうした中国の短距離弾道弾やクルーズ・ミサイル、さらには北朝鮮のテポドンに対抗する唯一の答えとして、新新防衛大綱は「日米関係の強化」に言及しているだけである。確かに、米国は北朝鮮には抑止として有効である。しかし相手が中国になり、80の中・短弾道弾、350のクルーズ・ミサイルにどう対応するかのなると、術がない。


日米同盟は必要、ただし「同盟強化」を唱えるだけでは不十分!

 かつて、キッシンジャーは、代表的著書『核兵器と外交政策』の中で、核の傘はないと主張した。キッシンジャーは、ニクソン、フォード両大統領の国務長官と国家安全保障問題担当補佐官を務めた。米国内で外交・安全保障の第一人者とみなされてきた人物である。

・ 全面戦争という破局に直面したとき、ヨーロッパといえども、全面戦争に値すると(米国の中で)誰が確信しうるか、米国大統領は西ヨーロッパと米国の都市50と引き替えにするだろうか
・ 西半球以外の地域は争う価値がないように見えてくる危険がある

 また1986年6月25日付読売新聞1面トップは「日欧の核の傘は幻想」「ターナー元CIA長官と会談」「対ソ核報復を否定。米本土攻撃時に限る」の標題の下、次の報道を行った。

 「軍事戦略に精通しているターナー前CIA長官はインタビューで核の傘問題について、アメリカが日本や欧州のためにソ連に向けて核を発射すると思うのは幻想であると言明した。我々は米本土の核を使って欧州を防衛する考えはない。アメリカの大統領が誰であれ、ワルシャワ機構軍が侵攻してきたからといって、モスクワに核で攻撃することはありえない。そうすればワシントンやニューヨークが廃墟になる」。

 「同様に日本の防衛のために核ミサイルを米国本土から発射することはありえない。我々はワシントンを破壊してまで同盟国を守る考えはない。アメリカが結んできた如何なる防衛条約も核使用に言及したものはない。日本に対しても有事の時には助けるだろうが、核兵器は使用しない」。

 こうした問題に解を出してこそ、日本の防衛大綱になりうる。「日米同盟強化」を唱えれば、すべて解決するとするのはあまりにも教条的すぎる。

インドとの協力を初めて明記!

2010年12月24日(金)日経ビジネス 潮匡人

菅直人内閣が12月17日、新防衛大綱を閣議決定した。日本の安全保障政策の中期(5~10年)の指針である。

 このコラムでは、外交官や自衛隊のOB、国際政治学者などの専門家に新大綱を評価していただく。日本を取り巻く安全保障環境にかんがみて、新大綱は適切な指針なのか? どこが優れているのか? 何が課題なのか?

 専門家らは既に、「あるべき防衛大綱」の「私案」を明らかにしている。特集「私が考える新防衛大綱」も併せてお読みください。

 第2回の著者は、潮 匡人氏。

 政府は2010年12月17日の安全保障会議と閣議で、新たな防衛計画の大綱(防衛大綱)と中期防衛力整備計画(中期防、2011~15年度)を決定した。マスコミ報道ではクローズアップされなかったポイントをいくつか紹介しよう。

 まず、新大綱は「中国・インド・ロシア等の国力の増大ともあいまって、米国の影響力が相対的に変化しつつあり、グローバルなパワーバランスに変化が生じている」と指摘した。前大綱では「唯一の超大国である米国」と明記していた。米国に対する認識の変化は注目すべき、隠れたポイントの一つであろう。

 同様に、新大綱は「アジア太平洋地域における協力」として「韓国及びオーストラリアとは、二国間及び米国を含めた多国間での協力を強化する。そして、伝統的パートナーであるASEAN諸国との安全保障協力を維持・強化していく。また、アフリカ、中東から東アジアに至る海上交通の安全確保等に共通の利害を有するインドを始めとする関係各国との協力を強化する」と明記した。かかる脈絡の中で「インド」の国名を明記したのも今回が初めてである。

 新大綱は以下の「留意事項」も示す。「この大綱に定める防衛力の在り方は、おおむね10年後までを念頭に置き、防衛力の変革を図るものであるが、情勢に重要な変化が生じた場合には、その時点における安全保障環境、技術水準の動向等を勘案し検討を行い、必要な修正を行う」。

 他方、前大綱はこう書いていた。「この大綱に定める防衛力の在り方は、おおむね10年後までを念頭においたものであるが、5年後又は情勢に重要な変化が生じた場合には、その時点における安全保障環境、技術水準の動向等を勘案し検討を行い、必要な修正を行う」。

 一見、似ているが、よく読むと、新大綱には「5年後」の修正の字句が消えていることが分かる。今後10年間は見直さない姿勢のようにも見えるが、字句通りに受け止めれば、「情勢に重要な変化が生じた場合には」、たとえ5年以内であろうと「必要な修正を行う」姿勢とも読める。仮に近い将来、政界再編や政権交代が起きれば、そのとき、新政権が大綱を見直す根拠となり得よう。


日本版NSCの設置を明記!

 また、新大綱は「安全保障会議を含む、安全保障に関する内閣の組織・機能・体制等を検証した上で、首相官邸に国家安全保障に関し関係閣僚間の政策調整と内閣総理大臣への助言等を行う組織を設置する」とも明記した。

 組織の名称は明示されていないが、かつて安倍晋三内閣が検討を進めた「日本版NSC(国家安全保障会議)」を念頭に置いたものであろう。いわゆる霞が関文学の常識において、「設置する」と明記したことの意味は重い。菅直人内閣は先日、防衛省から首相秘書官を初めて起用した。ともに安全保障に対する前向きな姿勢として評価したい。


基盤的防衛力整備構想から脱却!

 他方で、新大綱が残した課題も大きい。

 昨年、鳩山由紀夫内閣は「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」を設置。懇談会は今年8月27日に「新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想―『平和創造国家』を目指して」と題した報告書を菅首相に提出した。

 先般、当サイトの特集「私が考える防衛大綱」の拙稿で指摘したように、この報告書は「基盤的防衛力構想」が「有効性を失った」と明言した上で、同構想からの「脱却」を明記したことで注目を浴びた。

今回、新大綱はこう明記した。「防衛力の存在自体による抑止効果を重視した、従来の『基盤的防衛力構想』によることなく、各種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とし、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善のための活動を能動的に行い得る動的なものとしていくことが必要である。このため、即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築する」。

 従来の「基盤的防衛力」に代わる「動的防衛力」の構築を打ち出した背景には、先の報告書が影響している。

 私事ながら前記拙稿で潜水艦について「現在の16隻体制から22隻体制への増強が水面下で検討されている」と書いたが、これは新大綱の別表が掲げた数字に合致する。新大綱における変化はおおむね、筆者が拙稿において予測した範囲に収まった。


非核三原則や集団的自衛権の見直しには踏み込まなかった!

 以下、積み残された課題を指摘しよう。前記拙稿で述べたように、案防懇の報告書は、政権交代を「国民がこれまでの政策の不合理なところを見直す絶好の機会でもある」と定義し、憲法解釈を含めた従来の基本的な防衛政策の変更を提起した。

 「国是」とされてきた非核三原則についても「一方的に米国の手を縛ることだけを事前に原則として決めておくことは、必ずしも賢明ではない」と見直しの必要性に言及した。自衛隊が「必要に応じて危険にさらされた海外の邦人救出に努めなければならない」とも提言した。「弾道ミサイルおよび巡航ミサイルに対しては、防御に加えて、打撃力による抑止を担保しておくことが重要である」とも踏み込んだ。国連PKO参加五原則の修正も訴えた。対人的情報収集(ヒューミント)や秘密保護法制の必要性にも言及した。

 懸案の集団的自衛権行使に関しても「日米安保体制をより一層円滑に機能させていくためには、改善すべき点が存在するが、その中には自衛権行使に関する従来の政府の憲法解釈との関わりがある問題も含まれている」と指摘しつつ、「日米同盟にとって深刻な打撃となるような事態が発生しないようにする必要がある。こうした対応策を事前に決めず、先送りすることは、平素からの想定や訓練の点でも難があり、望ましいことではない。政府が責任をもって正面から問題に取り組み、事前に結論を出して、平素から準備をできる状態にすることこそが大切である」と大胆に踏み込んだ。

 だが、新大綱はこうした提言を反映していない。


武器輸出三原則の見直しは喫緊の課題だ!

 喫緊(きっきん)の問題は「武器輸出三原則等」の見直しである。慎重な言い回しが目立った報告書ではあったが、この問題については「現状の方式を改め、原則輸出を可能とすべきである」と明言。加えて「時機を逸すれば、世界的な技術革新の波に乗り遅れ、取り返しのつかないことになりかねない。共同開発・共同生産についての見直しの決断は、できるだけ早く行われることが望ましい」と訴えた。

 しかし、新大綱は「国際共同開発・生産に参加することで、装備品の高性能化を実現しつつ、コストの高騰に対応することが先進諸国で主流になっている。このような大きな変化に対応するための方策について検討する」との記述に留まった。

 結局、武器輸出三原則等の見直しには踏み込めなかった。次期主力戦闘機(FX)の選定作業に悪影響を及ぼしかねない。F2戦闘機の納入が完了すると、国内生産は途絶える。20社を超える部品メーカーが既に生産をやめている。このまま行けば、防衛産業の根幹が揺らぐことになる。

 報告書が明記した通り「時機を逸すれば、世界的な技術革新の波に乗り遅れ、取り返しのつかないことになりかねない」。今回も同じことを書く。「見直しの決断は、できるだけ早く行われることが望ましい」(報告書)――もし、政府が「先送り」するなら、日本の安全保障に致命的な禍根を残す。

日本は今後3つの問題に悩む!


2010年12月27日(月)日経ビジネス 天木直人 

政治主導も情報公開もなかった!

 一国の国防計画がこれほど不透明な形で作られた事は、およそこれまでの防衛政策の歴史の中でなかったのではないかと思う。新防衛計画の大綱の策定が、政治主導と情報公開を二大看板とする民主党政権下で行なわれたことは、なんとも皮肉なことである。

 そもそも今回で4回目になる新防衛大綱は自民党政権下でつくられる予定であった。ところが2009年9月の政権交代により、その課題は民主党に引き継がれた。

 しかし鳩山民主党政権は政治献金問題と普天間基地問題で迷走した末、新防衛大綱の策定を菅民主党政権に委ねざるを得なかった。その菅民主党政権は小沢問題と政権維持で頭が一杯で、とても防衛政策を考える余裕はなかった。

 だが、これ以上、新防衛大綱の作成作業を遅らせるわけにはいかない。鳩山政権下で設置された有識者懇談会にすべてを委ね、その報告書を基に作成を急いだのである。

 およそ首相の諮問機関である有識者懇談会などが作成する報告書は、実質的に官僚がその内容をお膳立てすることになっている。そして官僚のつくるあらゆる政策文書は、その有権的解釈を官僚が独占する。官僚が自由裁量によって運用する。

 今回の新防衛大綱もまさにそれである。

 だから、新防衛計画大綱の正しい評価など、「実は誰にもできない」と言ってよい。


分かれる評価!

 実際のところ、新防衛大綱が閣議決定され、公表された翌日(12月18日)の各紙の社説や論説の評価は分かれている。

 例えば朝日新聞や東京新聞、毎日新聞が、それぞれ「新たな抑制の枠組みを示せ」、「軍拡の口実を与えるな」、「『対中』軍事だけでなく」、といった見出しを付けて警戒的に評価しているのに対して、読売新聞は「『日米深化』に踏み込めず」という見出しでこの大綱は物足りないと言っている。

 さらに産経新聞は「日本版NSCを評価する」という見出しの下に、安保政策に関する首相官邸の機能強化という一部を取り上げて評価をするが、その一方で、集団的自衛権や武器輸出三原則の見直しに踏み込むことができなかったことを嘆く。

 有識者の評価に至ってはさらに大きく分かれる。12月18日の各紙の紙面に登場する学者、評論家、軍事専門家の言葉は、否定的な評価から肯定的な評価まで、およそ多様な評価が見られた。

 すなわち、「タカ派的な新防衛大綱で、民主党政権の安全保障に対する基本姿勢を自己否定する内容」(毎日新聞、前田哲男軍事ジャーナリスト)から始まって、「自公政権時代と内容はほとんど同じで(中略)安全保障の姿や戦略が見えず、官僚的作文だ」(朝日新聞、柳沢協二前内閣官房副長官補)。

 「国際情勢の変化に応じ(中略)効率的な形で防衛力を構成しようというのは一歩前進だ(中略)ただ(中略)防衛力だけでなく外交や経済、援助などを含めた『安全保障大綱』を策定するべきだ」(朝日新聞、田中均・日本総研国際戦略研究所理事長)。「わが国を取り巻く安全保障環境が厳しい状況にある中、より効率的・効果的な大綱が策定されたと思う」(毎日新聞、森勉元陸上幕僚長)。

 「基盤的防衛力から(動的防衛力へ)の転換は実現が10年遅い。冷戦終了後すぐにすべきだった」。「武器輸出三原則の見直しを明記できなかったのは議論が後退した印象(中略)日米同盟深化の協議にもマイナスの影響を与える」(日経新聞、西原正平和・安全保障研究所理事長)など。

およそこれが同じ防衛大綱を評価しているのかと思われるほど多様である。

 ちなみに12月18日の産経新聞は、自民党が「日本の安全を確保できるとは到底思えない」、「政権奪回後、即時に見直す」という見解を取りまとめたと報じていた。

 このようにメディア、有識者の間でさえ評価が定まっていない。ましてや一般国民が理解できるはずはないのである。


理念なき総花的な新防衛計画大綱!

 私自身その全文を読んでみて改めて驚いた。

 この新防衛大綱は、官僚主導の不明瞭な文章で書かれているだけではない。外交・安保政策に関する明確な理念がなく、あらゆる考えを総花的に網羅しているのだ。それに加えて、相互に矛盾する考えが随所に見られる。評価が困難な理由のもう一つの大きな理由がここにある。

 例えば、日本国民の安全、安心の確保が防衛政策の最重要課題だと言いながら、世界の平和と安定や人間の安全保障の確保に貢献する事も大事だという。また、日米同盟が重要と言いながらアジア太平洋における地域協力や、世界的、多層的な安全保障政策を推進するという。

 さらに、節度ある防衛力を整備する事こそわが国の防衛政策の基本政策であり今後もその方針を堅持する、と言いながら、高まる安保環境の不透明・不確実性の中で実効的に対処し得る防衛力を構築する、という。

 中国との関では戦略的互恵関係の下で建設的な協力関係を強化すると言いながら、中国の軍事力の増大や不透明さを名指しで批判して、それに対応するため防衛力の強化が必要と言う。

 ちなみに中国の軍事力増強を名指しし、警戒感を示したことに対して、即座に中国政府から「中国は防御的な国防政策をとり脅威にはならない」、「個別の国家(日本)が中国の発展に無責任につべこべ言う権利はない」といった反発を受けた。これは異例なことで、今までの防衛大綱には見られなかったことである。


パンドラの箱を開けてしまった新防衛大綱!

 今回の新防衛大綱は、今後も評価が一定しないまま、国際情勢の変化とともに多様な形で語られていくに違いない。 

 しかし、新防衛大綱をどのように評価しようとも、みなが一致して認める一大特徴がある。それは基盤的防衛力構想を捨てて動的防衛力構想を導入した事である。

 新防衛大綱の起案者たちが喜び勇んで打ち出したと思われるこの“名案”こそ、日本の国防政策についてパンドラの箱を開ける事になるに違いない。

 そもそも基盤的防衛力構想の本質は、憲法9条と日米安保条約の矛盾を包み隠す一つの知恵であった。すなわち日本は憲法9条の下で戦力を放棄する。しかし日本に対する脅威は歴然と存在する。そのためには米国に守ってもらわなければならない。米軍が助けに来てくれるまでの間、憲法9条が許す自衛権を発動するために、必要最小限の自衛力を持つ。これが基盤的防衛力構想だったのだ。

 この事を12月15日付の朝日新聞「ザ・コラム」で外岡秀俊編集委員がいみじくも次のように指摘している。「『基盤的防衛力』とは軍備拡張に歯止めをかけ、憲法9条とぎりぎりで折り合う『抑制の原則』だった」のだ、と。

護憲政党が憲法9条違反の政府を攻めきれない理由がそこにあった。日本国民が憲法9条と日米安保という矛盾した方針をともに受け入れてきた理由がそこにあった。

 ところが今度の新防衛大綱は、政府にとってのこの宝物を軽率にもあっさり捨て去った。防衛問題で苦労させられてきた良識ある先輩官僚たちは、後輩官僚たちの軽率さと、対米従属ぶりに怒っていることだろう。俺たちの苦労はなんだったのか、と。


日本の防衛政策を悩ませる3つの問題!

 パンドラの箱が開かれて多くの問題が飛び出してくるだろう。この中で、私は特に次の3つの問題をここで指摘しておきたい。

 一つはフリーハンドになったこれからの防衛政策の一つひとつが、一方において護憲派から憲法9条違反だと責められる。そして他方において、改憲派からは憲法違反の安保政策が次々と要求されることになる。その板ばさみになって政権は絶えず漂流することになる。これである。

 二つ目は中国、北朝鮮との緊張関係に悩み続ける事になる。平和主義者はもとより、良識ある国民や経済人なら、日本の将来は中国との共存共栄しかないことを知っている。北朝鮮との対決よりも北朝鮮との国交正常化の実現が望ましい事を知っている。

 しかしその一方で、愛国・反動主義的な立場の国民は、中国、北朝鮮に対する国民世論の警戒感を利用する形で、両国に対する軍事力の強化を求めるよう要求する。

 三つ目は米国の「テロとの戦い」に巻き込まれる危険性が一層高まることである。今度の新防衛大綱には、奇妙な事に「テロとの戦い」への言及がほとんどない。しかし、言うまでもなく、米国の安全保障政策の最大の関心は中東である。パレスチナ問題であり、そこから来るテロの脅威であり、そしてイラン・イスラエル戦争の可能性である。

 米軍は、在日米軍基地をそのために利用してきた。米軍は日本の基地からアフガニスタン、イラク、パキスタンなどにおける「テロとの戦い」に出兵していった。

 そして米国の「テロとの戦い」はこれから激しさを増す事はあってもなくなることはない。日本の防衛政策は、日本の防衛とは何の関係もない米国の「テロとの戦い」への協力要請に悩まされる事になる。


私はあえて新防衛大綱を歓迎する!

 逆説的に言えば、私はあえて今回の新防衛計画大綱を歓迎する。新防衛大綱はわが国の防衛政策のパンドラの箱を開けてしまった。国民も目覚めるだろう。 わが国の防衛政策はどうあるべきか、と。

 対米従属の日米安保体制や無条件の日米同盟重視の政策が、果たして日本の将来にとって本当に有益なのか。日本は自主防衛を目指すべきではないのか。その場合、憲法9条を変えて軍事力の強化、核兵器保有の方向に行くべきなのか、それとも憲法9条を堅持して外交力によって日本の安全を守っていくべきなのか。

 これをきっかけに国会や国民の間でわが国の安保政策(または防衛政策、国防政策)について論議が活発化するなら、それこそが新防衛大綱の最大の功績であるのかもしれない。

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