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一触即発の中国・朝鮮半島情勢。米・韓・中、そして北朝鮮とどう渡り合えばいいのか!

2011年01月12日(水)現代ビジネス

---年が明けて早々ですが、今年、北朝鮮では金正日(キム ジヨン イル)総書記から三男への権力委譲が予想され、中国では、次期統治者と目される習近平(シー チン ピン)党中央軍事委員会副主席による軍事力増強が懸念されます。

 日本の新防衛大綱には「動的防衛力」というこの2国を意識した考え方が盛り込まれ、国防を考える絶好のタイミングと思い、この対談を企画しました。まず、記憶に新しい出来事は、11月に起きた北朝鮮による韓国・延坪島(ヨン ピヨン ド)への砲撃です。

三原 祝日(11月23日の勤労感謝の日)で国会はなく、翌朝、自民党の国防部会に出席して、何時に何が起きたのかという時系列を把握しました。あらためて現内閣の危機管理のなさに呆れましたね。

アメリカオバマ大統領韓国李明博(イ ミヨン バク)大統領と電話で協議し、砲撃直後に「言語道断の行為を強く非難するために国際社会と協力する」と声明を出しています。

 一方、「強く非難する」と、仙谷由人(せん ごく よし と)官房長官が公式見解を発表したのが発生から7時間過ぎの夜9時半頃、菅直人首相に至っては翌日でした。防衛省の危機管理は、どうなっているのでしょう。

田母神 現在の自衛隊は、総理大臣の決裁なしでは何一つできない、むしろ何か命じられないうちは動いてはいけないという雰囲気が蔓延しているんです。

 「自衛隊が動くとロクなことにならないから、言われたことだけやれ」というのが政府の本音。もっと言えば、「現場に任せると戦争になる」とさえ思われています。

三原 「制服組の自衛官は何も考えるな」というのが日本流のシビリアンコントロール(注1)だということですか。

田母神 シビリアンコントロールの根幹の考え方は、外交問題が生じた際、問題を解決するのに軍隊を使うか、使わないかの決定権を政治の側が持っているという点にあります。

 政治家が他国と話し合いで解決しようとしたが、どうにも打開できない場合、「では、ここから先は軍を使う」と決断する局面が存在するわけです。

 さらに、政治家が達成する目標を軍に伝え、あとの方法論は軍に任せるというのが、普通の国のシビリアンコントロールなんですね。

 ところが、日本では「自衛隊は軍隊ではない」からと、今そこにある危機を自衛隊には判断させない。では、政治家が判断できるのかね。

三原 無理ですね。まず、情報が入ってくるかどうかが心許ない。先ほどの話、李明博大統領はオバマ大統領にはすぐ電話で有事を伝えましたが、日本への連絡は優先順位が低かった。

 自衛隊を動かさない日本に電話をかけても無駄だと思われたのでしょう。

 9月に起きた、中国漁船が海上保安庁の巡視艇にぶつかってきた事件でも同じですが、結局、民主党の中に中国韓国アメリカと渡り合えるパイプがないことを証明したんです。自民党時代はパイプがあったはずです。

田母神 だとしたら実に恐ろしい。政権が替わっただけで、外務省をはじめ役所の組織に何ら変更はないのに、彼らが機能しなくなったことになる。

三原 ですよね。本来、ずっとそれを専門にしてきた外務省の官僚が、各国との間にパイプを築いていないはずがない。要は、政権のために動かないんです。

民主党=中国自民党=米国
田母神 日本の政治は、「政治主導」と言い出してからおかしくなったね。だいたい、「官僚支配=悪」の図式は、アメリカ発、中国発で日本の統治機構を弱体化させるために仕掛けられた情報戦争なんですよ。政治家が大臣になった途端、その省庁のあらゆることに精通できると思いますか? 官僚という専門家をうまく使えばいいじゃないですか。

三原 自国だけは得をしようという国際政治において、日本は情報戦争の渦中にあるという自覚がないですね。G2(注2)どちらにとっても、日本に力をつけられては困る。なのに民主党政権が率先して、強国の戦術に乗ってしまっている。

田母神 自民党は、どちらかというとアメリカ寄りの政党です。そして民主党はどちらかというと中国寄りの政党です。アメリカの政治家はアメリカ派でしょうし、フランスの政治家はフランス派です。

 日本だけ、日本派の政治家がほとんどいないんですわ。自民党石破茂政調会長は「核武装すべきではない」と主張していますが、アメリカが核武装を容認しても反対するのか、甚だ疑問ですね。

三原 国内で与野党が米中に分かれて争っている最中、メディアの大多数が中国派にシンパシーを感じているのでしょうね。だから、民主党の政権運営がどれだけひどくても、当時の自民党と同じレベルで批判されることはありません。

田母神 気になったのは、尖閣の海で今、何が起きているかを、マスコミが伝えないことです。石垣島や宮古島にいる知人に聞けば、中国の漁船が大挙して日本の漁師が仕掛けた網を破り、追い払おうとすると中国の巡視船が体当たりしようと威嚇してきて、日本の領海、あるいは経済水域であるにもかかわらず、安心して操業できないのだそうです。

 海保なり海上自衛隊が監視し、警告を出さないと事態は打開できない。尖閣事件の背景を報じようとしないのは、日本のメディアが中国寄りだからかと勘繰りたくもなる。

三原 自民党はビデオ流出後、政党としては最初に石垣島に柴山昌彦先生・森まさこ先生を調査団として派遣して、巡視船「みずほ」の船長と乗組員の方々に話をうかがいました。海保が撮影した尖閣の映像は2時間ありますが、最後に相手の船に乗り移るシーンがあります。

 波の荒れ方も凄く、さらに相手が何人いるかも、武器を携行しているかも分からない船に、丸腰で向かったことが一番怖かったと話していました。その話を党に持ち帰ったのですが、マスコミは与党からの情報をメインに報道しますから・・・。

田母神 ところで、私は尖閣事件の映像を流出させた海保の職員の行動を支持しているんです。この意見を公に発言したら、自衛隊、海保、警察の職員からメールや手紙がたくさん寄せられましてね。彼らは「上官の指示に従わないことが許されていいのか」と質問してきます。

 ただ、今回の事案は、世論調査で8〜9割の人が公開したほうが日本のためだと考えています。「首相官邸が見せないと言っているから」と放置するか、「上の指示には反するが、国家のことを考えて己の処分を顧みずに行動する」という選択肢のうち、後者を選んだ彼を支持したい。そういう人のほうが、まともですよ。

---政府は衆・参両院の予算委員会の理事ら約30人を対象に、2時間以上ある一部始終のうち約7分間だけを編集して映像を見せました。海保職員が動画共有サイト『YouTube』に映像をアップしたのは、その3日後のことでした。

三原 その映像が流出した後も政府は見せないと言い続けていましたよ。現実にパソコンで見ることができるのに、あまりにナンセンスで非難囂々でした。結局、映像をした海保職員も被害者なんですよ。

 もっと本当に早い時点で政府が映像を公表し、中国側の一連の行動が国際社会で通用するものかを問いかけ、外交のカードとして使うべきでした。そうしていれば、彼という個人が義憤にかられた行動を取ることもなかったのです。

田母神 まあ、三原先生には申し訳ないが、程度の差はあれ、歴代自民党政権もことなかれ主義でしたよ。「竹島(注3)周辺では韓国と、日中中間線(注4)付近では中国といざこざを起こすな。むしろ自衛隊も海保もそこに行くな」というのが従来の自民党からの指示でした。

 結果、竹島は実効支配され、尖閣の海ではこのようなことが起きる。いざこざが起きたとしても、即戦争にはならないことを、国会議員が信じていないんですよ。世界中の国が国際法に基づいて、領土・領海・領空の警備をし、中には銃撃戦も行われている。しかし、それらがすべて戦争にまで発展していますか?

三原 自民党も世代交代で、田母神先生が当時抱いたイメージから脱却しようとしています。野党になったことで、本当に言いたいことが言えるようになりましたしね。また、竹島問題についても自民党の新藤義孝先生(元外務政務官)が政府を厳しく追及しています。

 昨年の秋以降、韓国がヘリポートの改修工事を予算化し、沖合には15階建て相当の海洋科学基地建設が新たに計画されているのに、民主党政権は状況を国民に公表せず、韓国に対して何も抗議を行っていません。岡田克也幹事長は外相時代、「不法占拠とは言わない」と答弁しましたが、国民と領土を守るという自覚がないのかと呆れましたよ。

 

田母神 結局ね、「何をやっても日本は抗議はしない」と思われているから、どんどん踏み込まれていくんですよ。こんなデータがあります。'04〜'07年の4年間で、韓国の海上警察が違法操業を理由に拿捕した中国漁船の数は2037隻、逮捕者は2万人を超え、支払わせた保釈金の合計は日本円にして約18億円だそうです。

 中には銃撃戦になったケースも含まれているし、死者も出ている。ですが戦争には至っていない。さらに言えば、韓国に対して中国は黙ってカネを支払っています。日本には素直に支払うでしょうかね。要は、ナメられているんです。

三原 田母神先生がある雑誌で、こちらが武器を持っていないということが、逆に相手からすると攻撃を誘発する可能性を高めるとお書きになっていましたね。

田母神 強い者には手を出さないんですよ、国際社会は。自国が不利益を被ったら、相手国に「ふざけたこと言ってるとぶん殴るぞ」という態勢で臨むから相手も交渉に応じますが、日本の場合、「ふざけたこと言ってると話し合うぞ」という姿勢ですからね(笑)。

自分で自分を守る"大人の国"
三原 アメリカとの付き合い方をより真剣に考えていかなくてはいけない段階に入ったと思うんですが、特に尖閣事件では、日米安全保障条約の第5条(注5)の話が出ましたが、はっきりしたことは、日本の自助努力なくして日米同盟はあり得ないという事実だと思いました。そのへん、日本人の認識は甘いですね。

田母神 日本国民のほとんどが知らないと思いますが、第5条で日本が攻撃を受けたらアメリカが自動的に戦争に参加して日本を守ってくれることにはなっていません。まず、大統領が日本を守るよう軍に命令を下さなければ米軍は行動できません。さらに大統領命令は、有効期間は2ヵ月に限定されています。

 それを過ぎると、連邦議会の同意が必要となります。反日的な法案が年がら年中通る議会で、すんなり日本を守る法案が通るはずがない。仮に日本を助けるなんて言ったら、中国は「米国債を全部売りましょうか」「ワシントンに核ミサイルをお見舞いしましょうか」と脅すでしょうね。尖閣問題が、アメリカがリスクを負ってまで乗り出す案件でないことは確かです。

三原 普天間基地の問題がクローズアップされて、多くの国民は沖縄県民に負担が傾斜していることを実感しましたが、同時に尖閣のことがあって、沖縄本島にアメリカ軍がいる限り、中国が沖縄本島に手を出してこないことも実感したのではないでしょうか。日米安保が抑止の機能を果たしているのは事実です。

田母神 日米関係を維持しながら、自分の国を自分で守る体制がある"大人の国"、あるいは"普通の国"を目指すべきなんです。アメリカの介入をまず望めない国際的な衝突が起きることを、私たちは目の当たりにした。だからこそ、日米安保による抑止の問題とは切り離して、まずは日本の自衛隊が国を守るべく行動できる法整備を考えなくてはならない。

三原 仮に、北朝鮮が今回以上の攻撃行動に出た場合、自衛隊はどこまで動くことができるのでしょうか。

田母神 日本は戦争に出掛けることはできません。朝鮮半島に進出した米軍は、軍人を輸送機で近い日本に運ぶでしょう。その輸送機を北朝鮮の戦闘機が追いかけてきて撃墜するかもしれない。日本のF-15は米軍機を守ろうとするでしょうが、今の法体制だと、北朝鮮機だろうと撃ち落とせば殺人罪が適用されます。

 米軍の輸送機を見殺しにすれば、この瞬間、日米同盟はジ・エンドです。要は、自衛隊も軍なのだから、国際法に基づいて動けるようにしたらいいんです。

---ただ、'10年度の防衛予算は4兆7000億円あまりと8年連続で減少しました。自主防衛は、やろうと思っても難しいのが現状ではないでしょうか。

三原 国家の財政が苦しいからという理由は成立しないですよ。要は、子ども手当として約4兆8000億円をばらまくのと、国防に関わる予算、どちらに優先的におカネを割くかという話なんです。

田母神 子ども手当の半分以下でも毎年防衛予算に組み込めば、10年で立派に中国の軍拡に対抗できるようになります。川崎重工は航空自衛隊の輸送機と海上自衛隊の対潜哨戒機(注6)を同時に開発しましたが、開発費は約4000億円です。

 現在、ロシア、中国が第5世代と言われる次世代戦闘機の開発を進めており、制空権を奪われる可能性は現実にある。しかし、10年間で1兆円使うくらいの予算で国産戦闘機は十分開発できる。

原 軍事費増強の話なんてすると、「右翼」だと片づけられそうですね。しかし、尖閣、北朝鮮と現実の脅威のほうが理屈を凌駕し始めている。もはや根本的に何かを変える時期が近づいてきています。国防とか経済って全部丸い円でつながっているんです。

 国防が強ければ経済も強くなれる。国防はボディで、経済が顔ってところですかね。私風に言えば、「顔も大事だけどボディを鍛えな」(笑)。

田母神 経済大国は軍事大国にならざるをえない。札束を置いたまま戸締まりもせず外出する金持ちが、治安を悪くしているとも言えるんです。「軍事大国にならない」と宣言することは、世界の治安維持上、無責任だと自覚すべきです。

 航空幕僚長だった私は「大東亜戦争は侵略戦争ではなく、中華民国アメリカを操ったコミンテルンによる策謀が原因だ」と、村山談話(注7)を否定する論文を書いてクビになりました。しかし、「核武装すべきでない」という意見がある一方で、「核武装すべき」という意見も冷静に言うことができなければ、成熟した民主主義の国とは言えないと思いませんか。

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3月危機を乗り切れるかが第1関門、次は6月・・・

2011.01.11(Tue)JBプレス山崎養世

今年最初の東奔西走は重大な警告書になった。一気に読まないと、多面的な状況を把握して解決策を理解することはできないので、最後までお付き合いいただきたい。

 防災の基本は情報収集と事前準備であり、いざ発生した時の断固たる行動が生死を分ける。経済の巨大災害も変わらない。

 日本は、これから2年の間に、戦後最大の経済危機に直面するだろう。考察し、準備し、行動しなければ、日本は破綻する。詳しくは筆者の『ジャパン・ショック』(祥伝社)をお読みいただきたい。またこの問題に対するフォーラムも開催するが、ここではその解決策を紹介したい。

 日本の歴史をひもとけば、絶体絶命の危機ほど大復活を遂げ、世界を驚かせてきたことがよく分かる。それが日本の「国民力」ではないだろうか。

 今回の危機も同じだと思う.立場を越え、力を合わせれば、日本は奇跡の復活を遂げ、世界をリードする国家に生まれ変わると信じている。

驚異の高度成長を遂げた国債発行!

 日本経済は「失われた」「ゼロ成長」の20年間とよく呼ばれるが、実はこの間に8倍もの高度成長を達成した巨大セクターが日本経済にはある。

国債発行である。1990年度は21兆円だったものが2010年度は162兆円に増え、国内総生産GDP)の34%にも達した。

 しかし、不思議なことに世間に流布している国債発行額は2010年度で44兆円しかないのである。それは世間で言う国債発行額は、「新規財源債」という種類の国債に限っているためだ。

 それ以外の、既存の国債の償還のために発行する「借換債」の103兆円や特殊法人や自治体に貸し付けるための「財投債」の15兆円は、政府が発表しマスコミが伝える「国債発行」には含まれていない。

 しかし、これら3種類の国債の違いは資金使途の違いに過ぎず、投資家から見たら全く同じものだ。

 このような情報開示は、企業会計ならば考えられない。もし、上場企業が、社債の借り換えや子会社への貸し付けのために発行する社債を財務諸表に記載しなければ、経営者は刑事罰に問われてしまう。

ところが、国は、発行総額の4分1程度しか「国債発行」と呼ばず、マスコミはそのまま報道するから、日本国民は国債発行の本当の大きさを知らない。

 これでは「借金隠し」「大本営発表」のそしりを免れないのではないか。

自分のお金が国債に使われているのを知らない日本人!

 しかも、国債の93%を保有している割には、日本人には「国債を持っている」という意識が薄い。なぜなら、個人の国債保有は全体の5%に過ぎず、76%は金融機関と年金が持っているうえ、国民の多くは自分の預貯金や年金がどう使われているかに関心がないからだ。

国民の金融資産は過去20年でほとんど増加していない。だから、金融機関や年金は国債の保有を大きく増やした分、民間への貸し出しや株式や不動産への投資を減らしてきた。

 税金を払う民間への資金を減らし、税金を払わない政府部門の借金に国民の貯蓄をつぎ込めば、税収が減るのは当たり前だろう。

 2009年度の一般税収は37兆円しかなく、20年前の60兆円を4割も下回った。税収が不足して財政赤字が膨らみ、さらなる赤字国債の大量発行を招いている。完全な悪循環の構造が出来上がった。

20年間で逆さまになった常識!

 1980年代の行政改革を引っ張った土光臨調の目標は、財政再建であり「赤字国債撲滅」だった。財政赤字=赤字国債=「悪」という健全な常識がそのころの日本にはあった。おかげで、1990年代初めには、赤字国債発行がゼロに近づいた。

 しかし、今では国債は「安全確実」、株や不動産はもちろん民間貸付も「危ない」、という常識がまかり通っている。

 どうしてこのような常識の逆転現象が起きてしまったのか。それは、世界の金融機関を規制する国際決済銀行(BIS)が作ったルールのおかげである。

 その結果、経済開発協力機構(OECD)の国債ならギリシアのように投資非適格のBB格でもリスクはゼロ、一方で企業の社債ならトヨタ自動車のようにAAA格でもリスクは100%という、後世から見たら摩訶不思議な「常識」が誕生したのである。

 なぜ、こんな「常識」が必要だったのか。それは、米国が自国の赤字国債を何とか世界中に買わせたかったからだ。BIS規制が米国発のルールだと知れば、BISのからくりも解けてくる。

 日本政府は、1980年代にはBISルールの採用を拒否していた。規制の中味が日本の金融機関には不利で、当時世界の資産を買い漁っていた日本の金融機関を狙い撃ちにしていたからである。

しかし、1993年になると突然、BIS規制を一転して採用する。何のことはない。日本が自ら大量の赤字国債の発行に踏み切ったからである。

 以後、一貫して「リスク管理」と称して、“リスクがゼロの”赤字国債の買い入れを金融機関や年金に奨励してきた。堕落としか言いようがない。

政府が国民の貯蓄を吸い上げ尽くそうとしている!

 過去20年間の驚異の高度成長によって、地方も合わせた日本の政府部門の借金(国債地方債と借り入れなど)の総額は、ついに1002兆円に達した。国民の金融資産は、住宅ローンなどの借金を差し引けば1079兆円である。その差は、あと77兆円しかない。

 しかも、国債につぎ込める日本人の貯蓄は急速に細っている。20年前は日本の貯蓄率は15%程度であった。ところが、直近の2008年には2%台に低下した。

 高齢化が進んで貯蓄を取り崩す人が増えたうえ、国民の所得が伸びないためだ。だから、1年間に金融機関に流入する貯蓄は10兆円を下回る。年間160兆円の国債発行を消化するにはあまりにも小さい。

 それでも、これまで国債が消化されてきたのは、金融機関や年金が民間への資金を減らした分で国債を買ってきたからだが、それも限界に近づいている。国債の消化不能が見えてきたのだ。

財政悪化はこれからが本番!

 しかも、首都圏を中心とした大都市での高齢化の進行によって、日本の経済と財政はこれからさらに悪化する。

 この問題に関しては、日本の第一人者で、元大蔵省主計官・政策研究大学院大学教授の松谷明彦先生の最新著『人口減少時代の大都市経済』(東洋経済新報社)を読むことをお勧めすしたい。

 首都圏では、今後20年間で生産年齢人口が2割減少する一方、高齢者が8割近くも増加するからだ。

 そうなると、消費も税収も保険料収入は激減するが、高齢者のための社会保障支出や医療介護施設などのコストは激増し、首都圏の自治体の財政は破綻が予想される。

 一方、島根県などの地方では、高齢化は既に進行しているため、影響は比較的に軽微だ。

今後、首都圏が、全国を富で潤す「富士山」から巨大な支出が必要な「ブラックホール」に変わると、戦後日本のビジネスモデルは崩壊し、首都圏も地方も共倒れになる。

消費税増税はできない!

 財政再建の切り札、と良識ある多くの人が考えているのは消費税増税だ。しかし、松谷教授によれば「消費税の増税は財政と社会の崩壊を早めるだけ」なのだ。

 なぜなら、消費税増税は首都圏の経済活動を一層低下させる。そして、現役世代の首都圏脱出を促し、地方の若者の首都圏への流入を思いとどまらせる。首都圏の現役世代はさらに減少し、財政悪化を早める。

 だから、消費税増税は不可能になる。その時は、年金も維持不能だ。東京一極集中の国土と経済の構造を、地方に分散し地方から成長する構造に転換するしかなかったのだが、もう間に合わない。

 そもそも、年間9.6兆円しか税収がない消費税のフローを2倍にするだけでは、1000兆円を超える政府部門債務のストックは解消できない。

国債バブルは最終局面!

 日本国債は、金融商品として見ると、巨大バブルの最終局面にあることは明白である。

 第1に、ファンダメンタルは最悪である。国債を返済すべき財政は、今後さらに悪化が見込まれる。一方、国債の買い手である金融機関や年金に流れ込む国民の貯蓄が尽きようとしている。

 第2に、史上最高値水準だ(つまり、金利は最低水準まで低下している)。1992年1月に価格100でスタートした日本国債先物インデックスは、2011年1月5日で242にまで上昇した。

 さらに、その間、円高が54%も進んだから、日本国債価格をドルベースで見れば、さらに上昇する。

 第3に、規模が巨大だ。市場性国債の市場として世界最大であり、日本の株式市場の3倍近くに達している。

 日本国債下落が始まれば、世界の国債市場だけでなく、株式や不動産市場、さらには、世界の金融機関の経営と各国の財政に巨大な「ジャパン・ショック」を与え得る。

 

こうした点から見て、現在の日本国債は、1980年代末の日本の不動産・株式や、2000年代の米国の住宅・不動産・サブプライムといった、第1級バブルの崩壊前夜に似ている。

下がる時は速い!

 長い時間をかけて積みあがった巨大バブルも、崩壊する時は驚くほど速い。2008年9月14日のリーマン・ショック発生後、日米の株価はわずか3週間で半分以下となった。

 巨大暴落が金融機関の経営危機を誘発し、資金繰り不安や連鎖倒産の恐怖のために、あらゆる資産に一斉に売りが広がるからだ。リーマン・ショックの場合は、欧米政府が300兆円を負担して金融機関を救済することを発表してようやく暴落は止まった。

 ゆっくり上がり猛スピードで下がる点で、バブルの生成と崩壊はジェットコースターに似ている。そのスピードは、温暖化海面上昇と大津波くらい違う。

2011年3月末が危機になる!

 2011年3月末には、日本国債は重大な局面を迎える。赤字国債の発行ができなくなる危険性が高いからだ。

 赤字国債の発行には「特例国債法案」という予算関連法案の可決が毎年必要だが、予算そのものではないため、両院の議決が必要だ。もし野党が多数を占める参議院で否決された場合、赤字国債は発行できない。

 実は、こうした事態が日本でも過去に1度だけ起きたことがある。細川護煕内閣の時だ。当時は赤字国債が極めて少額だったため、補正予算で対応できた。

 しかし、今回は、赤字国債が最大の財源であり、否決されると本当に予算が組めなくなる。

 日本の予算が成立しないことが世界中に知られた時に、世界の債券市場の賢い人たちが何の反応も示さないだろうか?

今まで安全確実と言われてきた日本国債の発行不能状態は、日本の財政の絶望的な悪化と国債のバブル状態との異常な落差に世界の耳目を集めるだろう。

 しかも、その時に、もし国会が解散し総選挙に入って、国家の管理能力に空白が生じれば何が起きるだろうか。

 少なくとも、市場参加者には格好の「売り」の舞台を提供するだろう。その時、国民の財産と生命を守れるのか。久しく問われなかった難問に日本は直面するはずである。

国家予算を弄ぶのは亡国の遊戯!

 政治報道によれば、来年度予算関連法案を人質にとって解散総選挙に追い込むのが野党の戦略だそうだ。

 しかし、危機を目前にして国会の権能を政争の具にすることなど、氷山を前にしたタイタニック号でダンスにうつつを抜かすようなものではないか。

 とりわけ、過去20年間に財政を崩壊させた旧政権党が政権欲しさに世界経済の大混乱の引き金を引けば、市場と国際社会と歴史から厳しい指弾を受けるだろう。

 仮に、3月末の危機を政治が切り抜けたとしても、その先、事態はさらに悪化する危険性が高い。

 6月末には、QE2と呼ばれる米国金融緩和(あとで説明するがFRB=連邦準備制度の国債「全量買取」)が終わるためである。

 それから先は「逢魔が時」だ。計算上、2012年末で、日本の政府部門の借金が国民の純金融資産を上回る。その中で日本国債を買い増すのは、(日本の株価が最高だった)1989年末に日本株を買うようなものだ、と思う投資家もこれから増えるだろう。

臨界点は迫っている。

国債暴落そのものが財政を崩壊させる!

 下落が始まれば、国債はどこまで下がるのだろうか。例えば、金利が1%上昇すれば国債インデックスの価格は5.5%下落する。

 1970年代末に代表銘柄の「ロクイチ国債」は3割暴落した。当時は、国債の残高は小さかったから暴落の影響は小さく、1980年代の成長と税収の伸びで財政は再建された。

 しかし、現在、政府の借金はGDPの2倍に達し、今後、未曾有の人口減少・高齢化と経済衰退が予想される。それなのに、日本国債の価格は史上最高だ。下落幅の予測が難しい。

 仮に国債が3割下落すれば、日本の金融機関や年金には200兆円近い損失が発生する。多くの金融機関が破綻するだろう。

 とりわけ暴落に弱いのが、国債の最大の保有者であるゆうちょ銀行だ。資産の9割近くを国債で(総額160兆円も)運用しているうえ、現金は5兆円ほどしかなく、自己資本(自己資本に組み入れた国債分を除く)も8兆円しかない。

 国債が値下がりすれば、すぐに自己資本不足に陥る。いったん、ゆうびん貯金の解約が大量に起きれば現金が底を尽き、国債を売る以外に解約に応じる資金が捻出できない。

 しかし、大量の国債売却を実行すれば、さらなる国債暴落を呼び手持資産が減少し、貯金が払い戻し不能になり破綻するだろう。「ゆうちょショック」の発生だ。

 筆者が2005年の郵政特別国会の最初の参考人として指摘し、別の会合で当時の生田正治総裁が「その通りのリスクがあります」と筆者に答えた構造的な問題だ。郵政民営化はこの根本問題を未解決のままだ。

 そして、国債を70兆円持つ、かんぽ生命も経営危機に陥るだろう。このほかにも、国債を80兆円持つ公的年金も資産が大きく減少するはずだ。もちろん、民間の金融機関も、国債への集中度合いが高いところは、経営危機に陥るだろう。

金融機関の破綻は財政負担に直結する。個人向けの預貯金や保険・年金は一定限度まで政府が保証している。損失を政府が肩代わりするのだから、仮に国債が3割下落すれば、100兆円を超える財政負担が新たに発生するだろう。

「ジャパン・ショック」が発生する!

 その時は、赤字国債の発行しか救済財源はない。しかし、その時は、これまでの国債の主な買い手である金融機関や年金が破綻しているのだ。とても、巨額の国債を買い入れる資金などない。

 かといって、今さら日本救済のために日本の国債を買うことを外国人に期待することもできない。

 そもそも、与野党の合意がなければ、ねじれ国会では赤字国債の発行そのものが承認されない。そうなると財政負担での金融機関の救済ができず、本当に、預貯金や保険が返ってこなくなる。

 日本は金融恐慌に突入するだろう。取り付け騒ぎが全国で起き、銀行だけでなく、証券取引所も閉鎖となるかもしれない。

 2008年のリーマン・ショックでは、米国EU諸国が300兆円の財政負担を実行したから恐慌は防げた。

 しかし、日本国債の暴落は国債消化の限界で起きる。このままでは、日本は財政負担での救済ができず、日本の金融財政システムは破綻する。

 その時は、GDP比で戦後最高レベルにまで積み上がった欧米の国債市場も同時に暴落し、瞬時に世界の株式や不動産の暴落と金融危機の連鎖反応を誘発するだろう。「ジャパン・ショック」の発生である。日本は戦後初の金融恐慌を起こす国になってしまう。

65年ぶりに「暴落シフト=国債全量買取」に踏み切った米国

 既に暴落シフトを敷いているのが米国だ。FRBはリーマン・ショックから今年6月までで、200兆円もの国債や証券化商品(MBS)を米国の金融機関から買い取る計画を実行中だ。

 これで、FEBのバランスシートは300兆円に達する。米国人が持つ国債の金額に等しくなる。国債の「全量買取」である。

 米国には過去の成功体験がある。FRBは終戦直後の1946年から5年間に国債の全量買取を行って金融危機を回避し、インフレも起こさず、戦後の繁栄の基礎を築いた。

 終戦当時の米国は、金融機関が保有する戦時の長期国債がGDPの1.4倍に達していた。今の日本と同じ水準だ。

 

戦後復興によって景気が回復し金利が上昇すれば長期国債が暴落し、金融機関が破綻して再び大恐慌の悪夢が繰り返す。かといって、金融機関を財政で救済すれば巨額の負担が発生する。

 しかし、FRBが全量買取して持っていれば、国債が暴落してもFRBのバランスシートに損失が発生するだけだ。FRBの穴は、FRB自身が新規の通貨を増発して埋めればいい。

 一方、金融機関に供給した資金は適切に吸い上げてインフレを起こさせない、という方針を立てた。

 当時の米国はその通りに実行した。FRBが金融機関から戦時国債を買い取った。一方、FRBから資金を得た民間金融機関は旺盛な民間投資を実行して、米国経済の黄金の50~60年代の高度成長が始まった。

 国債全量買取の終了時に生まれたFRB財務省の合意がアコードだ。最大の危機は成長への大チャンスに変わった。米国のすごさだった。

 その一方、終戦直後の日本は100倍のインフレを起こして戦時国債を紙くずにし、国民の「国債不信」を生んだ。今でも、お年寄りの中には「国債はとんでもなく危ないもの」という人たちがいるのはそのせいだ。

 英国も、過大な戦時国債に手をこまぬいて処理せず、戦後経済は衰退した。金融政策の成否が、米英の戦後経済の明暗を分けた。

金融危機対応を進めるFRBバーナンキ議長!

 ベン・バーナンキ議長のFRBは背水の陣を敷いている。

 米国民主党は議会少数派に転落した。リーマン・ショックの処理に要した70兆円の財政負担は議会の保守派から批判されている。

 バラク・オバマ政権が、将来、国債暴落が金融機関の破綻につながった時の財政負担に共和党が支配する議会の承認を得るのは困難だ。

 とすると、国債暴落が起きた時の金融システム破綻を未然に防止するには、「全量買取」という中央銀行の伝家の宝刀に頼る以外に選択肢がない。

 インフレと金利上昇リスクは高まっている。既に中国やインドなどの経済は高度成長軌道に戻った。米国ですら、戦後最大の金融緩和策によって景気は回復に向かっている。

石油価格は再び1バレル100ドルに近づき、穀物価格も史上最高値に迫る。先進国は通貨安競争を繰り広げた。しかも、PIIGSと蔑称されるEU諸国の国債不安はくすぶったままだ。世界の債券市場暴落の条件には事欠かない。

 こうした状況を理解したFRBバーナンキ議長は、金融危機に備えて「無限に通貨を供給し得る」という中央銀行のラストリゾートを65年ぶりに使っている。

 現在、FRBは、月間の国債発行額1100億ドルを上回る1300億ドルの国債を毎月買っている。国家の仕組みをよくわきまえた大胆な行動である。

 一方、ねじれ国会によって国債発行そのものが不能になる事態を目前にして、日本の中央銀行は、一体いかなる行動を取っているのだろうか。

より深刻なのに行動しない日銀!

 日本の中央銀行たる日銀が深刻な危機意識を持っているとはとても見えない。

 リーマン・ショック後に国債やMBSを200兆円も買い増したFRBに対して、日銀はなんと30兆円もバランスシートを縮小した。

 この日米金融政策ギャップが、過去2年の激しい円高・デフレ、マイナス成長・税収不足の主因となった。ようやく昨年、日銀は渋々5兆円のバランスシートの拡大を行ったが、むろん焼け石に水である。

 そんな状態だから、米国に倣って金融機関や年金が持つ600兆円の国債を「全量買取」することなど全く考えていないだろう。

 米英にもない「日銀券ルール」というものを持ち出して、長期国債の保有は日銀券の範囲を超えられないと言い張っている。国債の保有をこれ以上増やさないと主張しているのだ。

 しかし、金融システムの安定は日銀の根幹業務なのである。同盟国・米国が最後の手段に打って出ている時、手をこまぬき、小出しの対策を逐次投入(英語では、too little, too late)するだけであれば、日銀の無策によって、日本経済が一面の焼け野原になる事態を迎えることになるだろう。

 そして、日銀の正副総裁や政策委員の任命権者たる政府には、日銀に義務を果たさせる重大な責任がある。

日銀がことあるごとに振りかざす「独立性」という、まるで戦前の軍部の「統帥権」のような言葉に呪縛されて行動を起こさなければ、政府の不作為責任は重大だ。

日本も危機を大転換のチャンスとせよ!

 米国の戦後は、FRB国債を全量買取して金融危機を未然に防止し、金利連動国債などを活用してインフレも起こさなかった。FRBから銀行に供給された資金は民間の成長に投資され、戦後の高度成長が始まり、経済と財政が再建された。

 一方、日本の戦後はインフレを起こして戦時国債を紙くずにしたところから始まった。虎の子を紙くずにされた国民の怒りが赤字国債の発行を「原則」禁止する法律を生み、ために、赤字国債の発行には、両院の議決が毎年要るのである。

 それでも、終戦直後の日本は若かった。復員とともにベビーブームが始まり、人口が急増し、日米同盟と太平洋ベルト地帯での輸出国家モデルが戦後の経済成長を生んだ。

 しかし、これから老いが進み人口が減る今の日本にそんな元気はない。

 ここで日銀の無策や政治の混乱によって金融・財政システムが崩壊すれば、経済大国日本は終焉を迎えるだろう。そうなれば、これから人口が急増し資源・エネルギー・食料不足を迎える世界の中での日本人の生活はとても難しいものになってしまう。

国債「全量買取」からの具体策!

 日本経済を救うには、日銀が国債の「全量買取」に踏み切る以外に方法はない。具体的には、日銀が、今後3年間、年間200兆円、金融機関や年金から既発国債を購入する。合計600兆円だ。

 一方、政府は価格下落のリスクのある長期国債の発行をやめ、下落リスクのない短期国債と金利連動国債にすべて切り替える。

 日銀は、過大な通貨供給を制御するために、金融機関や年金が持つ国債の一部を現金でなくこうした下落リスクのない国債と交換し、インフレを防止する。

 政府と金融機関や年金は、「脱国債」の投融資を進め、今後の高齢化社会に適合した分散化型の地域開発や環境技術や新エネルギー、食料、インフラなどの分野に投資して、新しい成長企業を育てていく。

 地域に競争を促して海外からの資金や人材は積極的に受け入れ、また、世界に売り込める人材を地方に育てる。

当然、日本国内だけでは成長に限界があるから、新興国での地域開発やインフラ投資をシンガポールなどに負けずに進め、日本企業の成長基盤を高め、また、新興国の成長を高める。

 こうした真に有効な「地域発展戦略」「高齢化戦略」「新企業戦略」「国際投資戦略」「新エネ・農林水産戦略」などに金融機関と年金が投資して「成長戦略」を進めれば、企業所得と国民所得が持続的に向上し、老後も子育ても安心できる地域が開発され、エネルギー・食料の自給率を高める方向性が固まる。

 そこから、税収の持続的な向上が可能になる。

 こうした方向性を確認したうえで、現役世代を直撃する所得税や法人税から全世代が負担する消費税などに税収の中心を移し、持続可能な均衡財政を実現する。

国債ゼロの国へ!

 かつて、日本の誇りは赤字国債がないことだった。今はま国債で沈みかけている。

 今も国債発行ゼロの国がある。シンガポールだ。シンガポール社会保障基金は、国家戦略ファンド(SWF)として有名なTamasekやGICを通じて、全て長期成長をする対象に投資されている。

 だから、日本最大の不動産投資家の1つがシンガポール政府だ。中国でも天津などで環境未来都市を展開する。

 日本では、環境未来都市にも高齢化対応地域の開発にも、公的年金ゆうちょ銀行やかんぽ生命の資金は一銭も出ない。だから、シンガポール政府に資金をお願いに行く、というマンガのような状況が日本の金融の現実だ。

 かくして、中国からも遠く離れた赤道直下、淡路島と同じ広さの人口400万人の島国シンガポールの1人当たり国民所得は日本よりも高い。国債ゼロ、長期資金は成長戦略投資という戦略を営々と続けてきた結果だ。

 日本も、借金を将来の世代に背負わせるのを止め、もう一度赤字国債ゼロの国に戻り、長期の貯蓄は長期の成長に投資する、当たり前の国に生まれ変わる今が最後のチャンスだ。


 

「鉄コの教室」
http://www.jnouki.kubota.co.jp/jnouki/html/agriculture_info/tetsuko/index.html

鉄まきちゃん 〔クボタ 鉄コーティング用直播機〕 NDS-6<6条> NDS-8<8条>
http://www.jnouki.kubota.co.jp/jnouki/html/product/taueki/tetsumakichan/equipment.html


 業界初! 鉄粉でコーティングした種子を直播する作業機を新発売
当社はこのたび、お客様の「低コスト農業」、「規模拡大」、「軽労化」のニーズに応え、育苗箱で育てた苗を田に移植せずに、鉄粉でコーティングした種子を直接田面に播く栽培方法に適した直播機を、業界で初めて発売いたします。

                 記

*商品名

鉄コーティング用直播機 「鉄まきちゃん」

*発売日

平成22年9月1日

*型式と価格

条数 型式 希望小売価格(税込)
6条 NDS-6 - 648,900円
施肥機付 680,400円
8条 NDS-8 - 732,900円
施肥機付 785,400円

*開発の背景

食料自給率の向上が求められる中、米価の下落、農業資材や燃油の高騰、就業者の高齢化など、国内農業は厳しい環境にあります。
このような状況において、種子を直接土壌に播く「直播栽培」は、育苗作業・苗運搬が必要となる「移植栽培」に比べて、低コストで労力がかからないため、注目が集まっています。
なかでも鉄コーティング直播栽培は、鳥害の軽減、種苗費や資材費の削減、コーティング種子の長期保管が可能で、農閑期に準備できることに加え、移植栽培との組み合わせで作期分散ができ、機械や施設の効率利用、規模拡大が可能といったメリットがあります。
お客さまの「低コスト農業」、「軽労化」、「規模拡大」のニーズに応え、業界で初めて、鉄コーティング用直播機を開発しました。

*主な特長

(1)高速で高精度な点播【業界初】
種子を繰り出す位置を田面から20cmの距離に設置したので、高速作業でも拡散せずに高精度な点播(※)が可能となりました。
※点播とは一定間隔で種を播くこと。点播によって、すじ条に播く条播に比べて風通しがよくなり苗の成長が良くなる。
   
(2)除草剤散布機、溝きり機を標準装備
除草剤散布機の装備によって、種を播きながら除草剤を散布できるので、時間と手間を大幅に削減することができます。また、水田に均一にスムーズに入排水を行うために、田面に溝を掘る溝きり機の装備により効率良く水管理を行うことができます。
.  
(3)現行直播機に比べて最大43%安い価格設定
鉄コーティング直播に特化したシンプルな設計にすることで、当社の現行湛水直播機(DS-80NKF)と比較(※)して約43%安い価格設定を実現しました。
※現行直播機に除草剤散布機と溝きり機を装着した場合の希望小売価格と比較
 
(4)メンテナンス性の向上
残モミの排出、種を落とす繰出し部分の着脱が簡単にできるようになり、従来よりもメンテナンス性が高まりました。
  (参考)鉄コーティング直播について
・種子を鉄粉でコーティングして重くし、湛水・落水状態で土壌表面に播種する栽培方法です。
・鉄コーティングは、カルパー(酸素発生剤)コーティングに比べて水質汚染や播種後の自然落水で用排水を汚染することがありません。

*販売目標

初年度 300台

*製品に関するお問い合わせ先

作業機事業推進部 TEL:06-6648-2136

2011年1月11日(火)小平和良(日経ビジネス記者)

農産物や加工食品の輸出を促進しようという機運が高まっている。TPP(環太平洋経済連携協定)の議論や海外での日本産品への人気が背景にある。しかし、曖昧な安全基準や不十分な国内制度が食品輸出の壁になっている。

 2010年12月、中国・大連に1軒の小さな小売店がオープンした。屋号は「石原製菓」。製菓材料などを販売しているイシハラ(大阪市)の中国進出1号店である。

 イシハラはナッツやドライフルーツ、チョコレートなどを菓子メーカーに販売している。企業を相手にした卸売りが事業の中心だ。

 国内ではBtoB(企業間取引)のビジネスに徹してきたが、中国では自ら小売りも手がける。国内では製菓材料の販売先となっている菓子メーカーの商品のほか、様々な日本製の食材を仕入れ、中国に輸出。現地の消費者や小売り向けに販売する考えだ。

 菓子に限らず食品メーカーには中小規模の企業が多い。少子高齢化が進み、国内市場が縮む中で、海外に打って出ようと考えても投資負担の重さや販路開拓の難しさから現実には尻込みしてしまう。

 こういった中小の菓子メーカーの商品を中国で売ることができれば、自身の新たな成長につながると同時に、先行きが見えない菓子メーカーの売り上げ拡大にも貢献できる。イシハラはそんな効果を狙って、中国に小売店を出した。

衛生証明書を出す機関がない!

 日本で生産した農産物や加工食品の輸出を増やそうという機運が高まっている。きっかけはTPP(環太平洋経済連携協定)参加を巡る議論が巻き起こったことだ。

 原則として農林水産物を含むすべての品目の関税を撤廃するTPPに参加すれば、国内の農業は壊滅的な打撃を受けるとして、農業団体などは強く反対している。その一方で、TPPの議論を契機に農業の構造改革を進め、輸出もできる強い産業にせよとの声もある。中国を中心に日本産の農産物や食品に対するイメージや信頼性が高いことも、食の輸出への期待を高める。

 しかし、食品輸出への課題は多い。

 大連に店舗を出したイシハラはオープンを前に、取引先が製造するおかきやチョコレート菓子を仕入れ、中国国内で販売する手続きを始めた。

 通関に2週間ほどかかったが、これは想定内だった。問題は中国当局が「衛生証明書」の提出を要求してきたことだった。

 中国への食品輸出では、日本で問題なく通していることなどを公的な機関が証明する衛生証明書を求められることがある。水産品については、日中両国間で取り決めていることもあり、日本冷凍食品検査協会などが証明書発行機関となっている。だが、水産品以外の食品については、衛生証明書を発行する機関が日本にはない。

 イシハラの中国法人で総経理に就いた渡辺宏氏は困り果てた。結局、自分で衛生証明書を書き、そこに記す署名を商工会議所に証明してもらう方法でも問題ないことを知り、事なきを得た。

 それでも渡辺総経理の気分は晴れない。「正確には商品を証明しておらず、要求にきちんと応えているわけではない。中国側の考えが変われば、すぐに商品を売れなくなってしまうのではないか」。

税関や検疫でのトラブルは貿易ではつきものではある。特に中国との貿易は、レアアース(希土類)の通関停止問題が如実に示した通り、外交などに影響を受けることもあって、一筋縄ではいかないのは確かだ。

 しかし、経済産業省の幹部は「輸出相手国の問題よりも、日本の仕組みが食品を輸出する前提になっていないことが深刻だ」と指摘する。衛生証明書を発行する機関がないのは、問題の一端にすぎない。経産省幹部は「日本産の食品や農産物の強みと思われている安全性が問題になるケースもある」と話す。

 伊藤忠商事子会社の食品卸、日本アクセスは昨年5月、上海で開かれた展示会に日本の食品メーカーが製造するアイスクリームを持ち込んだ。数社が作っている27品目を出品し、中国国内での販売を目指した。しかし、実際に現地で売ることができたのは20品目にとどまった。日本アクセス国際貿易部輸出入課の奈良崎亮介氏はその理由を「添加物や香料などで引っかかった」と話す。

 「日本の食品安全基準は意外とゆるい」。ある流通関係者はこう語る。「日本では『保存料』や『香料』などと表示すればよくても、海外では細かな成分を求められることもある。また、海外では禁止されている増粘剤などが問題になるケースも多い」

日本の農産物は安全なのか?

 農産物では農薬が問題になることもある。

 北海道倶知安町のようてい農業協同組合は昨年9月、カボチャから基準を超える残留農薬が検出され、約12トンの商品を回収すると発表した。この時、検出されたのは有機塩素系の殺虫剤「ヘプタクロル」。1975年に農薬としての登録が切れ、既に使用されていないものだった。

 冷凍ギョーザの毒物混入事件や野菜の残留農薬の問題が大きく報じられたこともあり、中国産の食品の安全性に不安を持つ人は多い。しかし、中国の生産現場をよく知る大手スーパーの関係者は「輸出品に使われる野菜を作っている農場は日本以上に管理が厳しい」と話す。例えば、土壌の残留農薬を念入りに調べ、栽培中は隣接する農場からの飛散農薬にまで目を光らせる。一方、日本は「消費者が思っているほど厳しく管理していない。いまだに数十年前に使っていた農薬が検出されるぐらいだから」(流通関係者)。

 経産省幹部は「農産物の輸出国であるニュージーランドは、農薬の使用に限らず、運送や保管なども厳密に管理しており、輸出相手国の要求に応えられるようにしている」と話す。日本の場合は、データを求められてもデータそのものがなく、税関で足止めを食うものも少なくないのだという。「栽培や保管などのプロセスを厳しく管理すると、中小の農家では対応し切れない。結局、中小農家を守ろうという制度が、輸出促進の障害になっている」(経産省幹部)。

 今のところ、海外の消費者は日本の農産物や加工食品の安全性や味を高く評価している。しかし、「高い評価はただのイメージにすぎない。自国の経済が発展してくれば、日本の食品も実は大したことがない、ということになるかもしれない」(イシハラの渡辺氏)。

日本は約6兆7000億円の農林水産物を輸入している一方、輸出はその10分の1以下の約4500億円にとどまっている。農林水産省は輸出促進に力を入れるが、海外の展示会への出展を支援するといった施策だけでは不十分だ。

 TPPへの参加は農産物や加工食品の輸出を一気に押し上げる可能性がある。だが、日本の食品安全基準や生産管理の仕組みが非関税障壁となって食品輸出を阻む。TPP参加の議論を進めるとともに、こうした非関税障壁となりかねない制度を見直す必要が出てきている。

業界横並びの価格競争は淘汰を招く!

2011年1月11日(火)日経ビジネス 小屋知幸

居酒屋デフレ戦争が勃発!

 最近夜の繁華街を歩くと、「全品270円」などと激安価格をアピールする居酒屋の看板が目につくようになった。景気の低迷で消費者の懐具合は厳しく、なかなか「パッと飲みに行こう!」という気分にはならないものだ。低迷する需要を喚起する特効薬が“値下げ”だ。激安価格の集客力は高い。このため居酒屋業界各社は、いっせいに低価格業態の開発・出店を急いでいるのである。

 外食業界では、2009年末に「すき家」と「松屋」が牛丼の価格を200円台に値下げし、「牛丼デフレ戦争」(詳しくは「“価格破壊第2幕”の到来を告げる牛丼デフレ戦争」を参照されたい)が勃発した。それに続き、「居酒屋デフレ戦争」も風雲急を告げている。

 居酒屋デフレ戦争の陣頭に居るのが、「月の雫」などを展開する三光マーケティングフーズである。同社は「全品270円」、「全品290円」などの均一価格居酒屋を次々と出店し、居酒屋の価格破壊に突き進んだ。

 今までの居酒屋では、500~1000円程度のメニューが一般的だった。これに対して「全品290円」といった均一価格は消費者から見て分かりやすく、低価格をアピールしやすい。その結果、低価格居酒屋は、集客力の点で従来の居酒屋を圧倒することとなった。

 たまらず競合企業も反撃に出た。「甘太郎」などを展開するコロワイドは、全品を299円(一部店舗は399円)で提供する「うまいもん酒場えこひいき」の出店を急いでいる。モンテローザも、全品268円均一の「268円厨房うちくる」の展開を始めた。さらに「和民」などを展開するワタミフードサービスも、250円均一の「仰天酒場和っしょい」で、低価格居酒屋に参入した。

 居酒屋業界の価格競争は、一時的に市場を活性化させた。低価格業態への転換により、売上高が3割も増加した店舗もあったと聞く。だが現在、業界各社がいっせいに低価格業態の出店に走った結果、低価格居酒屋は珍しくなくなった。消費者は1品200円台の低価格に慣れてしまい、低価格居酒屋の集客力にも陰りが見える。

 低価格業態の集客効果がなくなれば、価格を下げても売り上げが増えず、結局のところ、企業が身を削るだけの状況になってしまう。居酒屋デフレ戦争は、”死屍累々”の結末をもたらすのかもしれない。


なぜ牛丼は儲かって、居酒屋は儲からないのか!

 牛丼デフレ戦争と居酒屋デフレ戦争の共通点は少なくない。両者とも消費者の節約志向に対応するものであり、消費者は低価格化を支持している。だが居酒屋デフレ戦争の結末が、牛丼デフレ戦争と同様になるとは限らない。

 牛丼デフレ戦争の勝者である「すき家」の既存店売上高は前年に対して20~30%も増加し、利益も拡大した。低価格化への対応が遅れた吉野家は売上高を落としたものの、業界全体の売上高は拡大した。

 「すき家」の月次売上高データを見ると、牛丼の値下げによって客単価が10%程度減少したものの、客数がそれを補って余りある伸びを見せたことが分かる。牛丼の値下げは、「値下げ→客数・売り上げの増大→店舗の生産性向上→コストダウン→収益性の維持・向上」という好循環をもたらしたのである。

 これに対して居酒屋の値下げが、牛丼業界のような好循環をもたらしたと考えることは困難だ。日本フードサービス協会のデータによると、居酒屋業界全体の客単価の減少は明確であるものの、肝心の客数が全く上向いていない。

牛丼の価格競争と居酒屋の価格競争における最大の相違点は、前者のみが新たな需要を創出していることだ。牛丼の値下げにより牛丼業界は、ファストフード、ファミリーレストラン、持ち帰り弁当などの他業界から、顧客を奪うことに成功した。これに対して居酒屋業界の客数は増加していない。居酒屋業界は身を削って、既存顧客を取り合っているにすぎないのだ。


深刻な構造不況に突入!

 居酒屋業界の苦境の背景には、居酒屋市場の大幅な縮小がある。財団法人食の安全・安心財団のデータによると、1990年代に1.4兆円程度あった居酒屋、ビアホールなどの市場規模が、2009年には約1兆円にまで縮小している。居酒屋業界は深刻な構造不況のただ中にあるのだ。

居酒屋ビジネスに対する逆風は、いくつも指摘できる。
(1)主要客層である若年層の人口減少
(2)消費者の所得減少(特に若年層で著しい)
(3)消費者の酒離れ(特に若年層で著しい)
(4)飲酒運転に対する罰則強化
などである。

 20歳代の若年層の人口は、2000年の約1800万人から2010年の約1400万人へと、この10年間で20%以上も減少した。加えて若年層の所得減少の傾向も著しい。国税庁のデータによると、20~34歳の若年層の給与所得は、1999年から2009年の10年間で10%以上も減少している。若者市場の衰退傾向は明らかだ(詳しくは「消える若者市場」を参照されたい)。

 ただしここまでの要因は、牛丼市場でも同様だ。おそらく居酒屋市場の衰退に最も大きな影響を与えているのは、消費者(特に若年層)の酒離れであろう。価格.comが実施したアンケート調査によると、「週に4、5回以上飲酒する人」の割合は、60歳以上が68%であるのに対して、30歳代は44%、20歳代は25%にとどまっている。

 過去の常識では若年層ほど飲酒機会が多く、中高年になると飲酒機会は減ると考えられていた。「俺が若いころは、毎日のように飲み屋に繰り出していたものだ」と、嘆息している読者諸氏も少なくないであろう。だが、近年における若者の趣向変化は著しい。今や多くの若者はあまり酒が好きではないし、おそらく居酒屋もあまり好きではないのだ。

 それだけでなく現時点で飲酒習慣の乏しい若者が、年齢を重ねるにつれ酒を飲むようになるとは考えにくい。むしろ酒を飲まない若者が年を取るにつれ、今後は酒を飲まない中年層も増加すると考えるのが順当であろう。居酒屋市場の衰退傾向は、容易に止まりそうもない。

 

過当競争の結末!

 消費者の酒離れを背景に、居酒屋の市場規模は減少し続けてきた。にもかかわらず、居酒屋業界では出店競争が止まらなかった。日本フードサービス協会のデータを見ると、居酒屋の市場規模が急減する中でも、店舗数は5%以上のペースで伸び続けていたことが分かる。居酒屋の店舗数が減少に転じたのは、2008年以降のことだ。

 このため居酒屋業界は構造的なオーバーストア状態となり、価格競争が激化したのである。従ってこの過当競争は、相当数の店舗、企業が淘汰されるまで続くと考えざるを得ない。

 成熟市場における価格破壊戦略の有効性は、ある程度実証できている。かつてマクドナルドはハンバーガーの価格を劇的に下げることで、業界からライバル企業を駆逐してしまった。そして現在は独占的シェアのもとで、高い収益を享受している。同様にユニクロや「すき家」も価格破壊によって、市場シェアを大幅に高めた。

ただし価格破壊戦略が成功するのは、圧倒的な価格競争力を武器に寡占的シェアを獲得できる場合に限られる。言い換えると競合企業や新規参入企業が「この価格にはとてもかなわない」と、白旗を上げるくらいの価格競争力が必要である。ライバルの追随があるうちはシェアを高めることができず、価格破壊は自社の利益を破壊してしまう。

 マクドナルドの世界的な原料調達力やスケールメリットを背景とする“100円バーガー”や“65円バーガー”は、他社の追随を許さなかった。またユニクロは競合企業を1けたから2けた上回る生産ロットを確立し、低価格と高品質を両立することで、商品の競争力を大幅に高めた。

 牛丼業界では、「すき家」の価格に「松屋」と吉野家は何とか追随している。だが実質的に競合する他業態(ファストフード、ファミレス、持ち帰り弁当など)の企業が、この価格に対抗することは相当に難しい。

 翻って居酒屋業界では、価格競争はヒートアップしているものの、“他社の追随を許さない”価格競争力を持つ企業は見当たらない。「290円均一」、「270円均一」、「250円均一」などと、均一価格を売り物とする居酒屋が乱立しており、どれも“ドングリの背比べ”の域を出ない。

 そして居酒屋は値下げしてもなお、他業態企業に対して価格競争力で劣勢だ。例えばイタリアンレストランチェーンのサイゼリヤは、グラスワインを100円で提供している。またラーメンチェーン「日高屋」のおつまみメニューは、おおむね100~200円だ。特に「日高屋」は夜の飲酒需要の取り込みにも力を入れており、居酒屋から需要を奪って成長している。

 また居酒屋業界では市場の寡占化も進んでいない。「すき家」、「なか卯」を展開するゼンショーと吉野家、松屋フーズの3社で事実上市場を独占する牛丼業界に対して、居酒屋業界では中堅から零細までの企業が市場に乱立しているのが実態だ。積極的に価格破壊を仕掛けている三光マーケティングフーズの売上高も300億円たらずであり、居酒屋市場において数%のシェアを占めるにすぎない。

 従って居酒屋業界では、価格破壊戦略によって、他社を圧倒する勝ち組企業が出現する可能性は少ないと考えられる。つまり居酒屋業界の過当競争が終結するまでには、「ノーガードの打ち合い→負け組企業の淘汰→上位企業による寡占化」というステップを経る必要がありそうだ。


“破壊”だけではなく“創造”を進めよ!

 居酒屋業界におけるオーバーストア状態は当面解消しないし、消費者の低価格志向が弱まることも想定しにくい。従って居酒屋業界の価格競争は続くと見込まれる。業界企業にとって価格破壊の取り組みは引き続き重要だ。だが居酒屋業界で進んでいる価格破壊は、サービスや品質や利益を削って値下げしている面が強い。このように付加価値を削っているだけでは、未来は開けない。

 企業の成長にとって最も重要なことは、新たな需要や付加価値を創出することにあるはずだ。かつての居酒屋業界における成長の原動力は、客層を拡大することにあった。産業化された居酒屋チェーンが出現する前の居酒屋は、薄汚れた安酒場であり、“酔うことを目的とする客”を主たる客層にしていた。だが居酒屋チェーンが明るく清潔な店舗を展開したことで、居酒屋の客層は“食べることを目的にする客”や“語らうことを目的とする客”や“デートする客”などにも広がった。

 現在の居酒屋の過当競争の原因は、かつて急速に拡大した市場の器が反転し、急速に縮小したことにある。若者市場の縮小傾向は明らかだし、それに抗する企業努力には限界がある。このため居酒屋業界が再び市場の器を広げるためには、若者以外のシニア層などへのアプローチが不可欠なのである。

 現在の居酒屋業界の競争は横並び的性格が強すぎて、新たな需要の創造につながっていない。居酒屋業界には、単純な模倣が横行している。数年前に“個室居酒屋”が行ったときは、業界各社がいっせいに個室居酒屋を出店した。そして今回は、いっせいに均一価格の低価格居酒屋である。その結果、店舗の差別性が乏しくなると、価格競争はますます激しくならざるを得ない。

 居酒屋業界では業界企業がいっせいに同じターゲットを追いかけることで、自ら土俵(=市場フィールド)を狭くしてしまっている。そして狭い土俵に対して店舗が多すぎるので、不毛な過当競争を招いてしまうのだ。しかも業界企業の多くが追いかけている若者市場は、急速な衰退途上にある。

 居酒屋業界が現在の苦境を乗り越えるためには、新たなコンセプト、新たなサービス、新たな価値を形成し、新たな需要を創出することが不可欠なのである。

 

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