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自衛隊の装備、制服を海外調達せよとは何ごとか!

2010.10.14(Thu)JBプレス坪井寛

 昨年11月、事業仕分けで「制服は中国で縫製して輸入すればもっと安くなる」という論議が起きたことはまだ記憶に新しい。この論議は本当に独立国日本政府内での会話なのかと、耳を疑ってしまった。

自衛隊の制服を中国に発注せよ!
 これをニュースで知った全国各地の陸海空自衛隊員は、どんなにか落胆したことであろう。国防の何たるかが欠落しているのである。

 この一件は防衛省が宿題として持ち帰らされ、いまだ解決されていないのである。いつ何時また蒸し返されるか分からない問題となってしまった。

 本稿は、この国が一向に我が国防衛の基本的なあり方に真剣に取り組まないことへの危機感から、制服類のような繊維関連装備品の生産基盤・技術基盤を例に取り、その実態を明らかにして、正面装備ではなく後方装備の視点から国に対し一言提言するものである。

1.制服とは何か? 戦闘服とは何か?

制服(戦闘服)とは、陸海空自衛官が平・有事を問わず、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努める(自衛官宣誓文の抜粋)」ため全員が一身に纏う装備品である。

 戦時においては、納棺服とも言える極めてナイーブな一面を持ち、極めて重要なものである。

 背広タイプの制服も同様に自衛官が天皇陛下拝謁をはじめ各種の式典や儀式において着用するもので、自分は日本国の防人であるとの誇りが表せる大切な正装服である。

米国は中国製の着用を禁止した!


 米国にこの種の象徴的事例がある。2001年に陸軍省は中国製素材を用いて作製された黒ベレーの着用を禁止し、回収・破棄を指示して陸軍の士気・規律の維持を図ったのである。(米国陸軍省覚書「陸軍の黒ベレーについて」;2001年5月1日)

 「国民のため」「国のため」と誓い現場(戦地)に赴く自衛官にとって、国民の手で作られた制服を着ることは、自己を奮い立たせるため絶対に欠かすことができない。

 また運用的にも、もしこれらが輸入品であれば、生産国側の何らかの事由により生産がストップするか、あるいは日本への生産はもう止めたと言われれば、たちまちに自衛官に着せる制服類が底をつくのである。

 今の政府には、自衛隊員がどんな思いで働いているのか想像もできていなく、国防という職務の重みとともに「自衛隊とは何か?」すら理解されていないのではと疑いたくなる。

2.世界に誇れる日本の戦闘服の技術レベル

 現在、陸上自衛隊が採用している戦闘服は、1991年に初めて導入した(それまではOD色の作業服)迷彩型の戦闘服に改良を重ねてきたものである。

 正式には「戦闘装着セット」という隊員個人を対象とした装備品の構成品(防弾チョッキ、88式鉄帽、背のうなど48品目からなる)のうち根幹をなすもので、一般用と装甲用および空挺用の3種類がある。

 共通のコンセプトは、従来の作業服の域を出なかった戦闘服に、陸上自衛隊が初めて戦闘を目的として、火炎防護性(難燃素材を導入)・可視光偽装性(近距離戦闘時の秘匿性を向上させるため日本の平均的な植生を基に迷彩パターンを自己開発)・対近赤外線偽装性(赤外線暗視装置での探知を困難にするため繊維素材に特殊な加工を施す)を付加した本格的な戦闘服である。

一般用と空挺用の素材構成は、難燃ビニロンと綿の混紡(一般用は比率70/30)であるが、装甲用はさらに火炎防護性を高めるためアラミド繊維を採用して難燃レーヨンとの混紡とされている。

 航空自衛隊も、現在では迷彩パターンの違いはあるものの陸上自衛隊とほぼ同等仕様のものを迷彩作業服として採用している。

 海上自衛隊も一般作業服に難燃ビニロン素材を採用しているが、特殊部隊用にはアラミド系を採用している。

3.戦闘服開発の永遠のテーマ/立ちはだかる繊維技術の障壁

 主要先進国の戦闘服(歩兵用)のレベルを一瞥すると、米国はナイロンと綿の混紡、英国・ドイツなど多くの国もポリエステル等の合成繊維を使用している。

 つまり明らかに諸外国では、戦闘服(歩兵用)としては防護性は二の次とし、快適性・着心地を優先してコストを抑えているのが現状である。

 そのうえで各国ともパイロットや戦車・潜水艦など限定的な任務に従事する隊員用としては、アラミド系の高度な難燃素材を使用した戦闘服を採用するなど、ハイローミックスが基本である。

性能は高いが着心地が悪いアラミド系!

 フランスでは2008年アラミド系難燃素材(ケルメルと呼称)を使用した戦闘服を陸海空3軍に採用したとする情報もあるが、細部は不明である。恐らくコストの面から、汎用ではなく特定任務部隊用として限定された職種範囲の装備化と推量されよう。

 アラミド系の素材は難燃ビニロンより火炎防護性に優れており、消防隊員の防炎服等で広く知られているが、快適性や耐久性などに難点が多いため汎用には至っていない。

 日本は快適性・耐久性だけにとどまらず、「隊員の安全・安心を重視」、いわば“命を大事に”というコンセプトにより安全性と快適性の二律背反という難しい壁に積極的に取り組み、約20年前、難燃ビニロンを採用することでコストを抑え安全性と快適性のバランスの取れた汎用の戦闘服開発に成功したのである。

 主要先進国はこのコンセプトをあきらめたわけではなく、20年ほど前に先進戦闘服、いわゆる21世紀型戦闘服の開発に一斉に着手している。そのイメージは、火炎防護性に優れデジタル化に対応しかつ快適な戦闘服であり、まさに夢の戦闘服開発への挑戦である。

 しかしながら、米国のランド・ウォリアー計画(Land Warrior Project)やフランスのFELINなど研究試作としては既に世間に出現しているが、開発着手から20年経った現在に至っても、いずれの国もいまだ汎用(歩兵用)としては正式に実現していない。

 今では、諸外国とも特殊部隊用として、用途を限定して開発を進めている模様である。

 戦闘服の開発は、防護性を上げると快適性・着心地・耐久性が落ちてしまうというジレンマに陥る。これは繊維技術者の永遠のテーマであり、大きな技術の障壁である。


4.日本の戦闘服はこのままでいいのか? 具体的な技術的課題は何か?

 我が国の戦闘服がこのままでいいわけはない。理想(夢)の戦闘服を追い求め続けるとすれば、具体的な技術的課題は一体どこにあるのか?

 各素材メーカーは日夜、改善・開発にしのぎを削っているが、繊維メーカーの立場からすれば当面の課題は現行戦闘服に見られる問題点の解消(「夏に涼しく冬に暖かい、快適性に優れた服」)が最大の目標である。

 具体的には火炎防護性能のさらなる向上、防虫性能の付加、ムレ感のさらなる改善、軽量化などが挙げられる。いわゆる「安全」と「快適」を両立させる戦闘服の追求というレベルである。

 しかしながら、夢の戦闘服はこれで終わりではなく、もはや繊維メーカーの域を超え、兵士のデジタル化に対応する被服内配線の付加やウェアラブルアンテナの実現、電磁波吸収・探知など、電気・通信業界との密接な調整が必要となりつつある。

 また、抗菌・滅菌であれば衛生業界と、またパワーアシスト型ロボットスーツとなれば機械業界といった具合に、将来的に多くの業界が関わる複雑な開発構造となるであろう。

 この場合、今の繊維メーカーの自社努力(投資)だけでは到底対応しきれず、官側の適切なリードが必要となる。

 官側がこの辺のところを深く認識して適切な策を講じていかなければ、夢の戦闘服開発は遠のくばかりだろう。


5.戦闘服のような繊維関連装備品の生産基盤・技術基盤の実態は?

(1)川上・川中・川下産業からなる繊維産業そのものが防衛生産基盤

 日本の繊維産業は周知のように、素材(生地)メーカーである川上産業と、その素材を最終製品化するための染色など各種中間加工を専門とする川中産業、および中間製品を縫製して最終製品に仕上げる川下産業(ボタン、ファスナーなど含むアパレル業)からなる。

 また、川上から川下に至る広範な製品化の流れを多数ある企業の中から選択して、必要なものを必要なだけ必要な時期に必要な処に納められるよう、商社が間に入って調整する。

 繊維関連の防衛需要はすべてこの民需のラインで生産されており、艦艇・航空機・戦車など重厚長大型の防衛産業のような防衛専門のラインや工場は1つもない。民需の生産ラインに調整して割り込む形である。

(2)川上産業(素材メーカー)における防衛需要が全体に占める割合は1%未満

 現行の戦闘服は、川上としてクラレ、ユニチカ、帝人の3社が担っているが、各社とも戦闘服関連の年間売上高は会社グループ全体の1%未満でしかない。利益率(GCIP)も民需ラインで生産するため、官との価格交渉の余地は大変小さい。

民間企業の経営努力に支えられている
 このことは会社全体から見れば防衛需要をいつ手放そうが痛くも痒くもないことを物語っているが、各社とも決して「儲けるために」やっているのではないという証左でもある。

 各社ともメーカーとしての社会的使命感から国に貢献、国防の一翼を担えればと手を上げているのである。それが会社の信用力にはね返ればいい、または民需部門の拡販に反映すればいいとしているだけである。

 「安ければいい」という風潮があまりにも長引くと、このあたりの企業の高い意識がいつか折れてしまうのではと心配される。

(3)川下産業は、防衛需要依存度が極めて高い零細企業であるが技術は非常に高い

 繊維関連装備品を受注する川下の縫製産業の多くが従業員100人未満の零細な小企業であり、これら会社はいずれも総売上の80~100%近くを防衛需要で占めているので、受注量削減がそのまま会社の経営危機にはね返る。

瀕死の危機にある零細企業の技術は世界一!

 しかしながら、永年縫製技術の高さが要求される防衛需要に携わってきたことから、従業員一人ひとりの技術レベルは非常に高い。

 自衛隊の制服類は軍服という特殊性から、一般の背広に比べ部品点数・サイズ構成ともに約50%増になるのが特徴で、これらをすべてミシンで縫わなければならない。大変手間がかかり細かい技術が要求される。

 ミシン作業はもともと日本人の性向に合い大変得意としてきた分野であるが、中国をはじめ海外の安い人件費に押されて、今日多くの縫製産業が姿を消して久しく、防衛費が削減されている昨今も制服類縫製会社の倒産が続いている。

 仮に、国が戦闘服(制服)の縫製を海外でと選択すれば、間違いなくこれら優れた技術者を抱えた縫製会社が倒産の危機に晒されるのは、火を見るより明らかである。

(4)民需部門の研究開発体制に支えられた防衛技術基盤(スピンオン)

 繊維関連装備品の開発は、艦艇・航空機・戦車などの開発手順とは大きく異なる。現行戦闘服は、20年ほど前に繊維メーカー各社が防衛省(陸上幕僚監部装備部需品課)の依頼に基づき、現に今存在してすぐに使える難燃素材を防衛省に持ち寄ったことから始まったのである。

装備とは逆に制服は民生品の技術が応用される!

 それを官側がいろいろな角度から検討を重ねて、一般用・空挺用として難燃ビニロン、装甲用としてアラミドの採用に至ったものである。

 このように戦闘服のような繊維技術は、航空機・戦車の技術が民生品に生かされるのとは逆に、民生品の技術が防衛分野に応用された。いわゆるスピンオンである。

 この方式は、官にとっては開発・改善が早く進むという利点があるが、逆に民側で開発に相当のコストがかかる場合、装備化の段階で民側の価格交渉は困難を強いられ、開発に要したコストがほとんど持ち出しになるという欠点がある。

 この点に関して国側が制度として民生分野の活性化策を講じていかなければ、将来民側はペイできないと手を降ろす事態も予測されることになる。

6.戦闘服のような後方装備関連産業の生産・技術基盤をどうすれば活性化できるか?

(1)国は国産条項を制定し、何を国産にしなければならないか、守るべき生産基盤・技術基盤は何かを明らかにせよ。戦闘服がその対象に入るのは異論を挟む余地はない。

 保護貿易にうるさい米国ですら法律によって、「公的需要に関しては、素材から製品まですべて米国産・米国製であること」と定められており、軍需に関して基本的に外国の商品は提案できない。防衛産業保護条項とも言える。

 元来、我が国も昭和45(1970)年防衛庁長官決定(「国を守るべき装備は、我が国の国情に適したものを自ら整えるべきものであるので、装備の自主的な開発及び国産を推進する」)として装備品の国産化を基本方針としている。

 防衛計画の大綱(平成17年)にも、「装備品等の取得にあっては、・・・(中略)・・・我が国の安全保障上不可欠な中核分野を中心に真に必要な防衛生産・技術基盤の確立に努める」と方針だけはしっかりと明記されている。

掛け声だけにしかなっていない「防衛技術基盤の確立」

 しかし、これも閣議決定(平成16年12月)でしかない。

 我が国は、形だけでいつまで経っても何一つ具体化されていない。検討すらしていないのではと疑いたくなる。

 この原因の1つに防衛庁に権限がなかったことが挙げられるが、省に格上げとなった今は政策を自由に出せるはずであり、出すことが権限なしの三流官庁から真に脱皮したことを世に知らしめ、多くの国民に安心感を与えることと信じたい。

 二度と変な議論が起こらないよう、早い時期に法制化に漕ぎ着けてもらいたい。

 筆者は「国防の基本方針」(昭和32年閣議決定)を例えば「国防基本法」として速やかに格上げし、この中で防衛基盤の維持・育成に関する条項を設け、前述の長官決定事項を具体的に盛り込むのが有力な方策と考えている。

(2)調達制度に防衛生産・技術基盤の維持・育成の視点を反映すべく、速やかに制度の見直しを行え。

 防衛省は、たび重なる調達上の不祥事が起こり、そのたびに制度の運用見直しを過剰なまでに行った結果、現在では官僚たちは会計検査院に指摘されたくないの一心で、コスト高になる国産のリスクなど取ろうとしなくなったとの印象を受ける。

安ければいいの発想では国は守れない!

 つまり、安ければいいという風潮がはびこってしまった。この結果、一般競争で落札された調達品に粗悪品が納入されてしまう事例が後を絶たない。

 そこで、官僚が責任を取らないのなら、取りやすいように調達制度そのものに、どのような産業・技術なら防衛基盤の維持・育成のため、一般競争ではなく指名競争による入札を行っても構わないのかを明記するなど制度の見直しを行うべきである。

 防衛省が行う競争入札制度というものは、単に価格だけではなく防衛基盤的要素を加えて、例えば会社の技術開発能力やその取り組み姿勢、緊急生産能力、秘密保全体制、コンプライアンス体制などを点数化して、価格と同レベルで総合的に評価する方式で競うのがベストであると信じる。

7.おわりに

 ここ1~2年で、戦車や戦闘機など重厚長大型の防衛産業において中小のメーカーが防衛産業から撤退するという事案が顕在化したせいか、防衛省も遅まきながら防衛産業の衰退に関心を示し始めた。

 本年1月に北沢俊美防衛相が三菱重工など大企業17社の会長・社長クラスとトップ会談を開催したことは評価できる。

 しかしながら検討の内容を見ると重厚長大型の産業に偏重しており、このままだと制服類に代表される繊維関連装備品のような後方装備の生産・技術基盤が見落とされてしまう。

 政府(防衛省)には、これまで我が国には防衛産業の育成策なるものが何もなかったという事実を強く反省して、この危機をバネに是非とも検討を深め、真に必要な防衛産業育成策を速やかにまとめてもらいたい。防衛産業は、防衛力の重要な一部である。

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今こそ「領海法」の制定を~元海自幹部学校長が緊急提言

2010.10.12(Tue)JBプレス岡俊彦

 民主党の菅直人内閣は、沖縄・尖閣諸島沖の日本の領海を侵犯、海上保安庁の巡視船に衝突し(9月7日午前)、公務執行妨害の疑いで逮捕(9月8日)、送検されていた中国漁船の船長を、処分保留のまま釈放した(9月24日午後)。

砲火を交えない領土戦争だった!

また、中国外務省は、中国船長が処分保留で釈放され帰国したことを受けて、「中国の領土と主権、中国国民の人権を著しく侵犯したことに対し、強烈な抗議を表明する」との声明を発表した。

 まさしく今回の事件は、砲火を交えない領土戦争であった。

 民主党菅内閣は、中国政府の「そこまでやるのか」という外交攻勢に白旗を掲げ、敗北した。そこで、この敗北の意味を考え、今後につなげていく方向を考察してみたい。

1.領土問題は存在しないという意味

 蓮舫行政刷新担当相は9月14日の記者会見で、今回の事件を巡る中国政府の対応に関して「尖閣諸島は領土問題なので、毅然とした日本国としての立場を冷静に発信すべきだ」と述べ(毎日新聞)、その後政府見解に反することを指摘され、この発言を訂正した。

1895年に日本国の領土となる!

お粗末である。政府見解を知らなかったことも問題であるが、尖閣諸島の位置づけを正しく理解していないことは、政治家として全くお粗末である。

 尖閣諸島は、沖縄本島の西約410キロ、中国大陸の南東約330キロ、台湾の北西約170キロにある魚釣島、北小島・南小島、久場島、大正島など大小8つの島からなり、最大の島は周囲約11キロ海抜362メートルの魚釣島である。

 我が国は、1885(明治18)年以降、現地調査により無支配の無人島であることを確認し、1895(明治28)年1月閣議決定により日本国の領土に編入した。この時、清国側は異議を申し立てなかった。

 1951(昭和26)年の講和条約では日本が放棄した領土に含まれず、1972(昭和47)年の沖縄返還時に南西諸島の一部として日本に施政権が移った。この時も中国は異議を唱えていない。

 しかし中国は、1968(昭和43)年6月の国連アジア極東経済委員会(ECAFE)による「尖閣諸島周辺海域に石油埋蔵の可能性がある」という報告が発表されたことを契機に尖閣諸島に関心を示し始め、1971(昭和46)年12月に尖閣諸島の領有権を正式に主張した。

人民日報も1953年付で日本の領土と明記!

 1978(昭和53)年8月の日中平和友好条約締結時も一時領土問題の棚上げを主張したが、日本政府はこれに応じなかった。中国は1992(平成4)年2月には領海法を制定し、魚釣島を領土と明記している。

 一方、最近の調査によると、中国共産党の機関誌「人民日報」のデータベースにある1953(昭和28)年1月8日付の紙面に「琉球人民の米国占領に反対する闘争」と題する記事があり、「琉球群島には尖閣諸島、沖縄諸島、大隈諸島などが含まれる」と明記されている。

 また、同記事は琉球人民の米軍に対する反抗が「日本人民が独立を求める闘争の一環である」と位置づけており、中国が当時、「尖閣諸島は日本の一部だ」と認識していたことがうかがえる(2010年9月28日・産経新聞)。

 慣習国際法では、
(1)いずれの国にも属していない無主地区に対し
(2)国家が領土を編入する意思を示し
(3)実効的支配を継続することにより領有を継続することが、島の合法的領有(先占=国家が領有の意思を持って無主地を実効支配すること)についての条件であるとされている。

 尖閣諸島の場合、日本の主張はこのいずれの条件をも満足するものであり、尖閣諸島の領有(先占)権は日本にあると言える。


一方、中国の主張は上記(2)の条件を満たすのみであり、(1)に関しては古来中国の領土であったとしているが、慣習国際法に示す古来の領土とする条件に反しており、適合性を欠くものである。

国際法だけに頼るとしっぺ返し食らう危険性!

 従って、国際法上は尖閣諸島に関して日中間の領有権争いはなく、これが我が国政府の解釈であり、まっとうな解釈である。

 ところが、国際法上認められるからと言って悠長に構えていると、とんでもないしっぺ返しを被る可能性がある。

 国際法は国家間の法であり、国際社会を律する規範であると言われているが、国際法には条約と慣習国際法がある。

 条約は、条約を締結した国家間の合意という形態で締約国のみを律することができるが、すべての国家を拘束することはできず、現在のところすべての国家を拘束する国際法としては、慣習法の形態でしか存在していない。

 慣習国際法は、国際司法裁判所規定上は「法として認められた一般慣行」と定義されており、慣習国際法として成立するためには、同一行為の反復(慣行)とそれに対する法的信念の存在が必要である。

 ここで言う法的信念の存在とは、一定の行動が習慣的に遂行されているうちに、例えば「それに違反すれば制裁を加えることができる」といった法的な拘束力があると諸国家が認めることである。

政府が意思表明し続けることが大切!

 しかし、慣習国際法が成立するためには、すべての国家の慣行と法的信念が必要とされているわけではなく、積極的に反対の意思を表明しない限り、黙示的合意が付与されたものとして取り扱われている。

 従って、大国を含む多数の国家が積極的に反対の意思表示をしなければ、慣習国際法は成立する。ここに慣習国際法の恐ろしさがある。

 つまり、尖閣諸島に対して、日本政府がなんら意思表示をせず放置したままにしておき、中国が実効支配を積み重ねていけば、第2の竹島になりかねない。

 実際に外国の論評(ニューヨーク・タイムズ25日付社説)では、「尖閣諸島の領有を巡っては長年紛争が続いてきた」と述べ、尖閣諸島を巡る緊張を領土問題と位置づける見方が国際的に定着してしまったとうかがわれる。

 従って、ことあるたびに尖閣諸島は日本の領土であることを世界に発信し、これを保全する措置を取らなければならない。

2.中国の海洋進出とその狙い

 もともと大陸国家である中国は、毛沢東の時代までは、中国の広大な国土に敵を誘い込みゲリラ戦で殲滅するという「人民戦争戦略」を取っていたが、1980年代に入ると、自国に膨大な被害を及ぼす恐れのある人民戦争戦略では世界の趨勢に対応できないと考えるようになる。

中国が打ち出した積極防衛戦略とは!

当時党中央軍事委員会主席であった鄧小平は、国土の外で敵を迎え撃つという「積極防衛戦略」を打ち出した。

 また、当時の海軍司令員・劉華清は、この戦略を海洋にまで推し進め、「近海積極防衛戦略」を提唱した。

 1985年には、中央軍事委員会において、領土主権とともに海洋権益の擁護が初めて決議され、海軍力による海洋権益確保の方針が確立された。

──近海積極防衛戦略──

●「再建期」に中国沿岸海域の完全な防備態勢を整備

 第1列島線(日本列島、南西諸島、台湾、フィリピン、ボルネオを結ぶ線)より内側(中国寄り)の海域(黄海、東シナ海、南シナ海)を「近海」と呼称し、この海域の支配権を西暦2000年までの20年間で確立する。

●「躍進期」に西太平洋の支配権を確保する

 第2列島線(小笠原諸島、マリアナ諸島、グアム、カロリン諸島を結ぶ線)と第1列島線との間の海域、すなわち、「西太平洋」の支配権を2001年から2020年の間に確保する。

●「完成期」に世界最強の海軍に成長する

 第2列島線より外側の海域、すなわち、太平洋、インド洋において2021年から2040年の間に米海軍による独占的支配を阻止する。

中国は1992年には「領海法」を制定し、第1列島線内の島嶼(尖閣諸島も含む)の領有を一方的に宣言した。また、1997年には「国防法」により海洋権益確保を海軍の主任務の1つに確定している。

国防動員法を制定し民間漁船を活用!

さらに、2010年には「海島保護法」により島嶼の管理を強化するとともに、「国防動員法」により有事(チッベト動乱など核心的利益の侵害を含む)の際、海洋権益の確保のために民間漁船の活用などを可能にした。

 今回、中国漁船の船長が尖閣諸島近海の我が国領海を侵犯した事件、および、尖閣諸島近海に大魚船団が出没したことも、「国防動員法」によるものと推測することも可能である。

 では、中国が目指す海洋権益の確保とは、具体的に何であろうか。中国の言う「核心的利益」という言葉を軸に考えてみたい。

 9月23日の国連での一般演説で中国の温家宝首相は、「主権や領土保全といった核心的利益については、中国は決して妥協しない」と述べた。

 一方、本年3月上旬中国を訪問したジェームズ・スタインバーク国務副長官とジェフ・ベーダー国家安全保障会議アジア上級部長に対し、載秉国国務委員は「南シナ海は中国の核心的利益である」と初めて表明した(2010年7月3日・時事通信)。

中国が欲しい海洋権益は資源と航行の自由!

 従来中国は、台湾、チベット、新疆ウイグル自治区を核心的利益と説明してきた。これらの地域はある面、中国の国内問題と関係するところもあり、納得できるところもないわけではない。

 ところが、全くの公海である南シナ海を中国の主権の及ぶ領海と言及することは、中国は海洋において覇権主義を採ると宣言したことと同様である。

 また、中国が目指す海洋権益は、1つは海中、海底の海洋資源であり、他の1つは航行の自由である。

 航行の自由はどの海洋国家も目指すものであり、海は等しくこれらの海洋国家に自由を与える存在である。


しかし、中国が主張する航行の自由は、国連海洋法条約が言う「衡平な解決達成のための合意」の原則を無視した、自国に都合良く国連海洋法条約を解釈した自由であり、東シナ海の排他的経済水域あるいは大陸棚の境界の画定、昨年3月の米海軍海洋調査船「インペッカブル」号に対する中国漁船の妨害行動がその事情をよく物語っている。

中国の海洋進出4つの段階!

さらに、中国流航行の自由が海洋覇権主義と結びつけば、航行の自由の確保により地域に中国の覇権を及ぼし、ひいてはそれが全世界に波及する恐れもある。

 それこそが、海洋覇権主義と結びついた中国の海洋進出の狙いである。

 また、南シナ海、特に西沙諸島及び南沙諸島への中国の海洋進出をなぞっていくと、中国の海洋進出には4つの段階があることが分かる。

 これを尖閣諸島に当てはめると、第1段階は領有権を主張する段階であり、1992年に領海法を制定し尖閣諸島を領土と明記している。

 第2段階は海洋調査の段階であり、1990年代後半から尖閣諸島を含む東シナ海での海洋調査活動を活発化させている。

 第3段階は艦艇の展開であり、1999年以降中国海軍艦艇が尖閣諸島周辺で活動している状況が観測され、近年は海軍艦艇だけでなく中国の5つの海上法執行機関のうち海警(沿岸警備隊に相当)、漁政局(漁業監視、取り締まり)、国家海洋局(海洋資源監視、取り締まり)の艦船に加えて「国防動員法」で徴用された可能性のある漁船が尖閣諸島周辺で行動していると言われている。

 そして最後の第4段階で部隊の駐留を行い、実効支配を完結させることになる。尖閣諸島は既に第3段階に入っており、今後の中国の不法な活動を阻止しなければ第2の「竹島」となる可能性は十分ある。

3.民主党菅内閣の対応と今後の方向

 中国漁船の船長を処分保留のまま釈放したことに関して民主党菅内閣は、釈放直後の仙谷由人官房長官の記者会見から30日の衆議院予算委員会での答弁まで一貫して、「検察への指揮権は発動していない。沖縄地検の判断、処置は適切である」との発言、態度を貫いている。

地方検察に丸投げとは無責任の極み!

これに対して、領土、領海、領空を守り、主権の侵害を許さず、国民の生命財産を守ることは国家の基本的な任務であり、その責任は内閣総理大臣の菅直人氏が負っているのではないか。

 それを一地方検察に丸投げするとは、民主党菅内閣は無責任もはなはだしいとの批判が多く聞かれる。

 他方、中国の理不尽な種々の外交圧力、とりわけ日本人4人が中国当局に身柄を拘束されたことに加え今後の日中関係と主権の確保とを天秤にかけ、釈放したことを評価する声もある。

 いずれにせよ菅内閣は、我が国の主権が侵されたことと、これらを天秤にかけた判断を説明する必要があるが、そもそも日本国民には主権が侵されたことに対して、寛容というか無頓着なところがある。

 1999年の能登半島沖の工作船事案、2004年の中国人活動家の尖閣諸島不法上陸および同年の中国潜水艦の領海侵犯などの我が国の領土、領海が侵されたことに対して、自民党政府をはじめ我が国の政府は、領海の侵犯を「漁業法」で取り締まる(能登半島沖工作船事案)など、領海侵犯に対する法律の整備を何一つしてこなかった。

今こそ主要国にならい領海法の制定を!

 我が国の領海が侵された場合、海上保安庁の巡視船は退去を要請することしかできず、海上自衛隊にも領海を侵害する行為を排除する「領域警備」の任務は付与されていない。

 国民もそれに対して異論を唱えることもなかった。

 世界の主要国は、領海が侵されたことに対して領海侵犯を問う法律で以て沿岸警備隊と海軍が協同して対応できる重層構造の法体系を整備している。

 我が国もこの例にならい、「領海法」(もしくは「領域警備法」)を定めると同時に、海上保安庁と海上自衛隊が協同して対処できる重層構造の法体系を整備することが、今回の事件に対する最も基本的な対応である。

 それが、領域保全に対する我が国の明確な意思を世界に発信することとなる。

我が国は中国との間だけでなく、韓国およびロシアとの間にも領土に関わる問題を抱えている。両国は、今回の日本の対応を注意深く観測し、今後の対日外交の参考にすることは間違いない。

クリントン長官は日米安保適用を口にはしたが・・・

また、南シナ海における中国の覇権的進出に対応しなければならない東南アジア諸国は、日本のふがいない姿勢がさらに南シナ海における中国の覇権を助長するのではないかと気をもんでいることであろう。

 そういう地域、世界に、我が国が「領海法」を制定し日本の領海保全の意思を発信することは、東南アジア諸国と協同して中国の海洋派遣を阻止するうえで極めて重要である。

 現地時間の9月23日、日米外相会談が行われ、ヒラリー・クリントン米国務長官は日米安保条約第5条が尖閣諸島に適用されると明言した。

 また、報道によると今回の中国漁船衝突事件の早期解決を望む米国の意向が日本側に伝えられ、これを渡りに船と菅内閣は中国船長を釈放したと伝えられている。

 この米国の一連の発言は、現在の米国の対アジア政策をよく表しており、クリントン国務長官の日米安保適用発言をそのまま素直に喜べない面がある。

中国にも最大限の気を使う米国!

 すなわち、尖閣諸島に対する日米安保の適用発言は、中国が日米安保にくさびを打ち込み、日米の関係を離反させたい中国の戦略に今回の事件が影響を及ぼすことを恐れた米国が、普天間基地移設問題もあり、尖閣諸島に対するコミットメントを明確にし、日米関係は強固であることを中国に知らしめる一種のヘッジ戦略である。

 一方、北朝鮮情勢等を考慮した場合、良好な米中関係を維持するメッセージを発信しておく必要があり、それが早期解決を望む米国の発言となり、これはある面関与戦略と言える。

 将来、我が国周辺を取り巻く情勢によっては、米国は今回のように中国に対して関与とヘッジ戦略を使い分ける可能性は十分あり、尖閣問題が米国のコミットメント通りにいくとは限らない。

 従って、我が国単独で尖閣を防衛する態勢の整備を急ぐ必要がある。

そのためには、陸上自衛隊の体制を、尖閣諸島を含む島嶼防衛の体制(西部方面隊の海兵隊化)に重点を移すとともに、統合運用の態勢を整備すべきである。

 中でも、陸上自衛隊員の輸送とヘリボーン作戦のために、陸上自衛隊ヘリコプターを海上自衛隊の「ひゅうが」型ヘリコプター搭載護衛艦および「おおすみ」型輸送艦に発着艦できるよう、統合運用の態勢を整備すべきである。

飛行場もある下地島に自衛隊を常駐させるべき!

そのためには、着艦拘束装置の装備や通信、航法装置の改修、発着艦訓練や資格付与、整備・補給態勢の整備など課題は多い。

 しかし、これらは基本的には運用の問題であり、一つひとつ着実に解決して、早急に統合によるヘリコプターの運用を可能にすべきである。

 また、尖閣諸島の保全のために自衛隊員を輪番で魚釣島に常駐させる意見もあるが、それよりは尖閣諸島近傍の下地島を活用する方が後方支援等の面で容易である。

 下地島は、宮古島の北西10キロ(沖縄本島から約300キロ、尖閣諸島から約200キロ)にあり、隣の伊良部島とは幅40~100メートル、水深2~4メートル、長さ3.5キロの海峡で隔てられており、6つの橋で連接されている。

 人口は、下地島100人弱、伊良部島約7000人である。下地島には空港があり、1979年7月に民間パイロットの養成訓練用として供用が開始され、1980年には南西航空の定期便が就航したが1992年運休し現在に至っている。

 空港としては、3000メートル×60メートルのA級滑走路1本と約130平方メートルのエプロン(大型ジェット用5バース、中型ジェット用1バース)に加え、VOR/DME、ASR、SSRの航法援助施設がある。

 航空自衛隊は、下地島を調査した結果、有事の際の「作戦根拠地」として適当と判断し、「平成16年度航空自衛隊防衛警備計画」に作戦根拠地として使用する方針を明記した(2005年3月17日・産経新聞)。

 このように下地島空港の有用性は実証済みであり、ここに航空自衛隊および陸上自衛隊の部隊を常駐させることが、現実的であり費用対効果の面からも効率的である。是非次期防で整備に着手すべきである。

4.おわりに~命をかけて守るべきもの

 今回の中国人船長釈放の直接の動機となったのは、日本人4人が軍事施設への無断立ち入りの罪で中国当局に拘束されたことにある。最悪の場合、拘束された4人の生命に関わると判断し、主権の放棄を決心したことに間違いはあるまい。

日本赤軍のハイジャック事件の時と対応は同じ?

 似たような事件は、四半世紀以上も前にも生起している。1977年9月の日本赤軍ダッカ日航機ハイジャック事件がそうである。

 日本赤軍の人質乗客を殺害するという脅しの前に、福田赳夫首相(当時)は「1人の生命は、地球より重い」との考えの下、日本赤軍の要求を受け入れ、拘留中のメンバーを釈放した。

 人命を軽視するつもりはさらさらないが、命をかけて守らなければならないものもある。今回、人命を賭して主権の確保に当たった海上保安官は、中国人船長が釈放され悔しかったに違いあるまい。

 自衛隊法第52条では服務の本旨として、次のように規定されている。

 「隊員は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもって専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえることを期するものとする」

 また、同53条で「隊員は、防衛省令で定めるところにより、服務(52条の内容:筆者)の宣誓をしなければならない」とされている。

国を守るために命を懸けている人たちはどうなるのか!

 自衛隊は、我が国の防衛という主権の侵害を実力で阻止する機関である。そのために我が国の法律で、「命を懸けて責任を全うしなさい」と規定している。

 そのような中で、人の命が大切だからと主権を放り投げることが許されるならば、自衛官として、あるいは海上保安官として、また警察官としてむなしさを感ぜずにはいられまい。

 こういう積み重ねが、日本は守るに値しない国だという価値観につながり、それが蔓延することを恐れるものである。

 政府も、マスコミも、教育界も、家庭でも「命を懸けなければならないものが世の中には存在する」ことを若い世代に伝えていくことが、我々大人の役目である。

安保への過信や核武装は論外、原子力潜水艦の配備を!

2010.10.08(Fri)JBプレス勝山拓

戦後の国際情勢概観!

 第2次世界大戦後、ソ連が後押しする社会主義(あるいは共産主義)革命の広がりと、これを阻止したい米国を中心とする自由主義陣営との対立による、いわゆる東西冷戦構造が約45年間続いた。

 それは、各地域における様々な摩擦や紛争がグローバルに波及することのない、安定した世界情勢を生み出した。

 しかし、東側の西側に対する経済的敗北に起因する1990年の冷戦構造崩壊後、世界各地でそれまで抑えられていた様々な問題が次々と発生した。

 まるでパンドラの箱が開いてしまったかのように、希望さえも残らず、あらゆる問題が一斉に顕在化し始めた。

 民族間の対立の顕在化に加え、資源ナショナリズムやテロリズムが横行することとなった。

 そして、いわゆる9.11事件を契機として、世界の警察官として君臨してきた米国の権威が急速に失墜し始める。

 国際テロ組織撲滅と大量破壊兵器拡散防止を掲げて、アフガニスタンにおける対テロ作戦やイラクのフセイン政権打倒および同国の安定のため多国籍軍による軍事行動のイニシアティブを取ったまでは良かったが、結局、アフガン情勢は悪化するばかりで、イラクの国内情勢も安定からはほど遠い。

先進国が経済回復に専念する中、躍進する中国の軍事力!

 米国は戦闘部隊をイラクから撤収しアフガン対策に努力を傾注しているが、大量破壊兵器拡散問題に加え、この2カ国の政情不安が大きな要因となっている国際テロ問題に対しては米国が国際社会による対応の先頭に立たざるを得ず、その負担は大きい。

 冷戦構造崩壊後の世界経済に関しては、いわゆるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と言われる国々などの発展が著しい。他方、先進国の経済が停滞する中で発生したリーマン・ショックは、現在も深刻な影響を与えている。

 このため米欧および日本などの政府は、主として経済不振を中心とした国内問題の処理に政策の主眼を置かざるを得ない状況に至っている。

 このような情勢下で、最近の中国はグローバルな経済的影響力の増大、軍事力の拡大あるいは世界中の資源漁りのための布石とこれを可能にするための海軍力(海洋力)運用能力の拡充に忙しい。

東・南シナ海のみならず西太平洋における排他的能力を高めているほか、インド洋においても影響力を拡大しつつある。

中国は最近「核心的利益(中国にとっての)」という用語を使い始めている(今年5月に北京で行われた米中戦略・経済対話の場で、中国側が米側に対し使ったと報道されている)。

 これは、最近の軍事力を背景にした影響力拡大を、外交の場において認めさせようとする彼らのしたたかな戦略の一環と見られる。

 なお、資源大国ロシアが、経済力回復に伴って、グローバルな問題への影響力維持拡大の動きを見せていることも懸念されるところである。

国内安全保障論議の動向!

 我が国の歴代政権は日米安保体制が国是と言うのみで、集団的自衛権問題など、我が国が本来は主体的に解決あるいは明確に主張しなければならない安全保障に関わる重要な問題への対応を曖昧にしてきた。

 外交に至っては中国、韓国への単に相手を利するだけの謝罪外交を続けて、自らの手足を縛っている。現政権に至っては日米同盟の深化などと唱えながら、普天間問題に関し大失態を演じ、その解決のメドを立たなくしてしまった。

 このような情勢下、国内では様々な安全保障を巡る議論が沸き起こった。

 例えば、いわゆる9.11以降の米国主導のアフガンにおける対テロ戦争やイラク進攻に協力することに批判的なグループ。

 我が政府や要人が「中国・韓国に対する世界の歴史に例を見ないような謝罪を続け、日本人の健全な誇り・伝統・文化を蔑ろにしようとする外交姿勢」に反発するグループ。

 あるいは「北朝鮮の理不尽極まりない瀬戸際外交」に反発するグループなどだ。

 一方で、回復の兆しが見えない我が国の経済不振や急速な高齢化社会が生む様々な矛盾の顕在化もあって、国内にはストレスが充満しつつある。

最近のマスメディアに現れる我が国の安全保障論議を大別すれば、次の2つである。

極論に走りやすい日本の安全保障論議!

 1つは、戦後の極めて偏った平和教育の影響を強く受けた人たちが唱えるところの「憲法9条を掲げて世界にアピールし我が国の安全を図ろうとする、誠に太平楽な発想」に基づくものである。

 彼らは戦後、日本の平和と発展が日米安全保障条約の下で確保できた事実、あるいは国際社会が冷厳な競争社会であることを端から認めようとしない。

 彼らの主張は国際社会の現実から見れば論議に値しないが、この人たちの考えに、戦後教育が生んだ「国民としての責任や義務を果たすことを嫌い、日本人としての誇りや尊厳は脇に置いて自分たちの目先の安逸を享受することをよしとする人たち」が同調する、あるいはそのような傾向を市民感覚としてそれに迎合する政治家が相当数いるのも事実である。

 もう1つは、日本人としての誇りを回復し、対米追従を避け、あるいは中国、韓国・北朝鮮などに対し毅然とした外交を展開するため、その基盤となる自主防衛力を高めるべしとする論議である。

 私が危惧するのは、この議論に参加する人たちの中に、我が国が置かれている地勢学的位置や我が国自身が持つ脆弱性(国土、資源など)に対する「真剣な考慮」の不足が見られることである。

第2次世界大戦へ突入した経緯を思い出す時!

 昭和に入り、経済不況や凶作などで国内にストレスが充満する状況を抱えながら大東亜戦争突入・悲惨な敗戦に至った経緯を思い出してほしい。

 一部軍人を含む我が国のリーダーたちの世界情勢に対する視野狭窄、したたかさの不足とそれに起因する外交・軍事にわたる失敗(大陸に合法的に確保していた権益を防護する政戦略の柔軟性不足と一部軍人の暴走、欧州における戦争の趨勢の読み間違いなど独りよがりな判断による孤立化)に、まずは冷静に向き合うべきである。

 それがなくて安全保障や軍備を論じ、中には軽々しく核武装や米国からの離反まで論じることが国益にかなうのであろうか。

 また、このような議論に参加して、現代の日本の内政・外交から生じている言いようのないストレスを解消してしまっている人が相当数いるのも気がかりだ。

我が国の地政学的条件と現状を考えれば、資源に乏しい島国に生きる我々が、独力でロシア、中国あるいは米国から受ける影響を排除して生存と繁栄を確保していくこと、あるいはこの3国を除くアジア各国のリーダーとして行動していくことが、見通しうる将来にわたって不可能なことは明らかである。

もし核武装したいなら国民負担を考えよ!

にもかかわらず、核武装して米国、中国、ロシアのいずれとも一線を画し独自の道を歩むなどという誠にシンプルな論を述べて、鬱憤晴らしの喝采を受ける人たちがいる。

 しかし、これといったバーゲニングパワーを持たず、核攻撃に対する吸収力がない我が国が、どのような核戦力をどれくらい持てば大国中国・米国・ロシアに対する核抑止力となるのか。

 そのための経費はいくら必要なのか。核による第1撃を吸収できる体制を築くには、政府の機能維持のほかに国民の防護を含めて、どのような都市機能や社会的インフラの再構成が必要なのか。またそのための経費はいくらかかるのか。その結果、我が国はどのような国柄になるのか。

 このようなことを考えると、核武装をバーゲニングパワーとする発想、あるいはそれを支持する人たちの考えるところは、先に述べた昭和初期から大東亜戦争突入に至る間の、独りよがりが招いた国際的孤立による破滅の経験を真摯に学ぼうとしない、極めて無責任なものと言わざるを得ない。

 歪曲された我が国近代史教育と村山富市談話以降のお粗末な謝罪外交の定着が、前者の安全保障論をいまだに根強いものに保っている。

日本の実力と立場を考えずに安全保障を語る人が多すぎる!

 後者の安全保障論は前者に反発するものである。そもそも我々日本人は、独立回復後、国際法に反した極東軍事裁判とは切り離して、大東亜戦争の悲惨な敗戦に至った過程を、我々自らの意思で、冷静に総括(一億総懺悔などといういい加減なことではなく、厳しい国際社会をしたたかに生き抜くため国民一人ひとりが認識すべき教訓を前向きに心に刻む)していない。

 このことが、独立後の我が国の主体性のない外交姿勢や、先に述べたような両極端の安全保障議論の原因になっていると私は考える。

 なお、私は、一部軍人、これを抑えられなかった、あるいはこれらに便乗した政治家およびマスメディアにミスリードされて突入した無残な戦いだったとはいえ、大東亜戦争において祖国の将来を信じて散華された幾多の英霊の尊さを否定する気など毛頭ないことを付言しておきたい。

 冷戦が崩壊し国際情勢がますます複雑化しているにもかかわらず、「国際社会において有効となるバーゲニングパワーをほとんど持たない我が国が、複雑化する国際社会の中で日本人の尊厳を保ちつつ、どうやって生存と繁栄を求めていくべきか」を明確に語らない政治の現状や最近の危なっかしい安全保障論議を考えると、我が国の将来に深刻な不安を感じるのは筆者だけではあるまい。


現在、日本国内を支配する空気は、国際政治の現実から見れば誠に「内向きかつ独りよがりなもの」となっている。

 国家としての行動態様は全く異なるとはいえ、我が国の現状は、昭和初期から国内にストレスが充満する中で、独りよがりな判断に支配されて孤立化し、勝算のない大東亜戦争に突入していくまでの国内状況に似てきていると思われる。

 我が国の安全保障戦略がこのような状況に左右されることだけは、絶対に避けなければならない。

我が国の防衛戦略再構築・防衛計画の大綱見直しへの期待!

先頃発表された米国防総省の「中国の軍事動向に関する年次報告書」は、中国が年内に航空母艦の建造に着手する可能性を指摘している。

 原子力潜水艦の増強や、海南島南端の大規模な海軍基地(原子力潜水艦用の地下トンネルを有すると言われる)建設も着々と進められている。

 さらには、10年以上前から始められ、最近はその範囲がいわゆる第2列島線にまで達している海洋調査活動に呼応するかのような、我が国周辺海域や西太平洋での海軍艦艇の活動も活発化している。

 例えば、4隻の艦艇が日本海から津軽海峡を通り沖縄本島と宮古島の間の海域を通過して帰投した行動、米空母に対する原潜の挑発的な接近、ごく最近の我が海自艦艇への中国艦載ヘリコプターの異常接近事案などが挙げられよう。

 さらに、艦艇基地確保のためのインド洋沿岸国へのアプローチ、ソマリア沖海賊対処のための艦艇の派遣などを見れば、中国の海軍運用能力の向上も著しい。

 今や中国の意図は明確である。それは周辺諸国を意のままに、あるいは彼らに好ましいようにコントロールできること。世界中の資源を意のままに利用できること。隙あらば海底資源を伴う領土を拡大すること。

 それらが可能な態勢を作るため強大な海軍を建設し、その運用能力を高め、「海洋の自由利用を掲げ自由世界の連携の中心たらんとする米国」の西太平洋へのアクセスを拒否する、あるいはインド洋および周辺諸国への影響力を低下させることである。

 我が国では北朝鮮の核問題(運搬手段を含む)が安全保障上の重大脅威と捉えられているようだ。もちろんそうには違いないが、もっと深刻な脅威は上述した中国の海軍力増強であろう。

 なぜなら北朝鮮問題は、いわゆる6カ国協議の場で(ストレスを感じつつも)コントロールできるが、中国の海軍力増強とそれを背景にした東・南シナ海のみならず西太平洋やインド洋での排他的能力あるいは影響力の拡大は難しいからである。

その理由は第1に、13億の民を有する発展途上国・中国の国民生活レベルの向上に必要な資源獲得のためという理由で、一党独裁体制の下、周辺諸国の懸念などお構いなしに、一方的かつ急速に進められて既成事実が固められつつあること。

 第2に、同国が国連安保理事会で拒否権を持つこと。

 第3に、経済不振に悩む日本や米国をはじめとする各国の中国市場への依存度が高まっていることが挙げられる。

 以上述べた現実を踏まえれば、我が国安全保障上の課題(焦眉の急務)は中国の東南アジア、西太平洋およびインド洋における行動をいかにして抑制し、我が国にとって望ましい情勢を実現していくかについて現実的な(独りよがりではない)対策を早急に確立することであり、それに向けた今後の防衛戦略あるいは防衛大綱の見直しのポイントは次のようなものとなろう。

より強固な日米同盟体制の確立(国家のソフトウエアの速やかな改善)
 中国の行動を抑制するため考え得る現実的な方策は、価値観を共有できる部分がより多く、領土拡大の野心がない(中国、ロシアはその意思が明白)強国・核大国である米国との同盟関係をより強固なものとするほかにない。

 日米の同盟はいわゆるアジアの公共財と言われており、その強化は韓国、東南アジア諸国あるいはインドなどから反発を招くものではない。

 強化の方策としては、まず我が国の外交安全保障に関わるソフトウエアを速やかに改善することであろう。

 憲法改正は相当な困難を伴い速やかにできるものではないが、昨年「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」から提言された事項の速やかな実施が必要だ。

 特に米国への過度の依存を避けまたは米国の負担を軽減するため、あるいは外交安全保障上の発言力確保、さらには米国の核抑止力の信頼性確保の観点からも、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更、基盤的防衛力構想の破棄、武器輸出三原則の見直し、非核三原則の見直しは速やかに実施する必要がある。

中国に対する米国の安全保障面での対応のぶれを極限するためにも、信頼できる米国の友邦として積極的に行動できるように、我が国が国家のソフトウエアを早く改善することが必要だ。

海空重視の防衛力強化と防衛予算の増額!

平成15(2003)年度以降我が国の防衛予算は減り始め、平成17(2005)年に策定した現防衛計画の大綱で冷戦型の対機甲戦、対潜戦、対航空進攻を重視した防衛力整備構想を転換し「本格的な侵略事態に備える装備・要員について、抜本的に見直し縮減を図る」として予算削減を継続させてきた。

 一方で、国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取り組みが行われて現在に至っているが、この間、中国は先述の通り軍拡を急ピッチで進め、これに懸念を示すアジアの国は国防力の強化に努めている。

 すなわち、我が政府が現防衛計画の大綱に示した判断は、中国の軍拡(高度な戦闘力強化)を見れば極めて独りよがりなものだったのは明らかだ。

 今後、我が国は本格的な侵略事態に備える装備・要員の縮減という愚策を直ちにとりやめ、中国が我が国に指向できるミサイルに対する防禦力および中国の海空軍に対する戦闘力強化のため、海空に重点を置いた装備の充実を図り、米海空軍の前方展開部隊と一体になって、あるいは離島の防衛などについては独力で中国の行動を抑止あるいは拒否出来る装備の充実を図らなければならない。

 原子力潜水艦の保有(6~9隻保有すれば常時展開できる隻数2~3隻。原潜は海南島基地から西太平洋やインド洋に展開する中国の空母、原潜に戦略的に対応する場合、非核動力型潜水艦など比較にならない能力を有する)や巡航ミサイル(反撃力)の導入などを決心すべきであろう。

 なお周辺海域のみならず我が国のシーレーンに関係する海域の安定に資するため、当該海域に艦艇を常時展開できる態勢を維持できるよう、護衛艦の増勢(47隻から約55隻へ)も必要だ。航空自衛隊戦闘機の第5世代化(艦載可能な機種の導入を含む)も急がなければならない。

その他の重要事項!

 我が重要施設に対するテロやサイバー攻撃に対する対処能力のほかに、自前の情報収集・通信能力強化のため、衛星の必要数確保(C4ISR態勢充実の一環)なども急がなければならない。

 また自衛隊に平時から領域警備や排他的経済水域の海上権益防護任務を付与する、あるいは各自衛隊に国際法に則った平時のROE(交戦規則)を示しておくことも重要だ。

 これらの施策実現のためには当然防衛費の相当な増額が必要となるが、いわゆるバラマキと言われるように「ただ国民の目先の安逸に応えるだけの、国家の将来を損なうような予算」を使うことをやめればできないことはない。

次期中期防衛力整備計画(5年間)においては、少々荒っぽく、また為替レートの変動や第5世代戦闘機の調達可能時期にも影響されるが、まずは、平成17(2005)年策定中期防の当初計画経費24兆2400億円(見直し後23兆6400億円)プラス5000億~6000億円程度(中期防経費はいずれも平成21年度防衛白書による。ちなみに平成13年度策定の中期防経費は平成12年度価格で25兆100億円)の経費を確保すべきではなかろうか。

 当然ながら、この際避けて通れないのが、そのほかの各自衛隊の装備がどれだけ必要なのかという議論、特に現在規模の陸上自衛隊の装備が、国家防衛戦略上本当に必要なのか、という大所高所からの真剣な議論であろう。

 なお、この議論において忘れてはならないのが、海・空自ともに、増強のためには定員増が不可欠なことだ。少子化の影響が今後も続くなど自衛隊のトータルな増員が困難な中で、陸自定員を海・空に回すという選択肢についても議論が必要となろう。

 日本では内向きで独りよがりな空気が国内に充満しつつあるようだが、我々は今こそ、日本の将来を信じて究極の自己犠牲を受け入れ散華された英霊の想いに応えるべく、公のため国のために国民一人ひとりが義務や責任を果たすという強い精神を奮い起こし、日本人が日本人らしく生きていける国づくりに尽くさなければならないと思う。

 このためには政治家が我が国のあるべき姿を明確に語らなければならない。政治家(STATESMEN)による、我が国の安全保障に関する強いリーダーシップの発揮が、現在ほどに必要とされる状況は、戦後かつてなかったように感じる。
 

1、ニアショア(near shore)開発: 言葉・文化の近い近隣の国でのソフトウェア開発。日本では、「国内地方(都市)でのソフトウェア開発」という意味合いとなっているようです。
2、オフショア(off shore)開発: 言葉・文化の違う外国でのソフトウェア開発。
http://www.socnet.jp/service/nearshore.html

3、新潟県十日町市はソフトウェア産業の基地。地域と首都圏のソフトウェア開発業務を多数引き受けています。
十日町地域ソフトウェア産業協議会
http://tokamachi-softkyo.com/

海外流出したシステム開発を国内に取り戻せ!

2010.10.12(Tue)JBプレス乘浜誠二

システム開発を中国やインドなどの開発会社に委託する「オフショア開発」。IT業界ですっかり定着した開発手法である。だが、私は海外に流出したシステム開発を国内に取り戻し、地域活性化につなげられないかと考えている。

 システム開発を国内の遠隔地に発注することを「ニアショア開発」と呼ぶ。ニアショア開発は2008年頃からIT業界で徐々に行われるようになってきた。しかし、地域の複数のソフト開発会社が力を合わせ、地域活性化につなげようという動きはまだ見られない。

 ある大手システム開発会社が私の考えに賛同してくれ、一緒に活動を始めることになった。まずは、私の出身地である鹿児島県のソフトウエア会社、数十社に呼びかけてコンソーシアムを結成する予定だ。

地方で低下しているエンジニアの人月単価 !

 日本のソフトウエア開発会社(特に地方の会社)の多くは、「中小企業緊急雇用安定助成金」の適用を受け、何とか生き長らえているというのが現状ではないだろうか。この助成金制度がなくなったらどうなるのか? 考えただけでもゾッとするという経営者は多いはずである。

 先日、鹿児島でソフトウエア会社の社長をしている友人に会い、プログラマーの人月単価が35万円ぐらいまで下がってきているという話を聞いた。これは、中国の海岸沿いのソフト開発会社の受注金額(プロジェクトマネジャーからプログラマーまでの平均単価)とほぼ同一である。

 情報処理推進機構(IPA)の『IT人材白書2010』によると、日本のシステム開発会社がオフショア開発で海外に発注した金額は年間で約1000億円とほぼ横ばいで推移している。この開発費用が地方に流れれば、どれだけ地域が活性化されることか。

 オフショア開発が進んだ最大の理由は、日本国内の開発コストの高さであった。加えて国内で人材が不足しているという理由もある。

 そうした事情もあって、オフショア開発事例の多くは大規模なシステム開発に関わるものだ。1001人月以上の大規模なシステム開発は、70%のプロジェクトでオフショア開発を活用している。一方、それ以下(300~1000人月以下)のプロジェクトになると、28.3%と大きくダウンする。

大規模開発ならばオフショアは効果があるだろう。だが、それ以下の開発は国内でやった方がコスト面、効率面など様々な面でメリットが大きい。

オフショア開発で発生する様々な問題!

 大手開発会社の社長に聞くと、実はオフショアでの「失敗」は珍しいことではない(ただし、プロジェクトが失敗したという事実は、口が裂けても言えないという)。

 オフショア開発の問題点としては、主に以下のようなことが挙げられる。

(1)最後までコミュニケーションが取れない

 日本人同士でも用語の解釈が異なったり、仕様書の読み込み不足などで問題が起きる。母国語が違うエンジニア同士が仕事をするのだから、詳細設計以降でも問題が起きないはずがない。

(2)文化の違い、商慣習の違いを埋められない

 時間管理を含め、勤務姿勢や品質向上への取り組み方が大きく違っている。また、商慣習などが違うため、仕様を理解してもらえないこともよくある。現地のエンジニアが自分の判断で独自に構築してしまい、後になってから問題が発覚する。

(3)セキュリティーや情報管理(知的財産含む)に問題がある

 発注先の海外のエンジニアは、ネット上で誰かが公開したソースコードを拾ってきてコピーして使っていたり、また、自分が書いたソースコードをネット上に公開したりするなど、著作権の意識が欠けている(悪いことをしているという認識がない)ことが多い。

(4)受託会社がノウハウや技術を蓄積しない

 要件定義・基本設計のノウハウは発注会社に蓄積されるが、プログラミングのノウハウは受託会社に蓄積される。国内の気の利いた会社であればソースコードを部品化して、次回の類似した開発でその部品を使い、飛躍的に開発のスピードを上げるだろう。発注元にとってもメリットは大きい。だが、オフショア開発の受託会社は、ソースコードを部品化して再利用しようという姿勢に欠ける。

(5)規約を無視したコーディングを行う場合がある

 システムの保守を行うのは、開発を受託した会社ではなく、基本的に発注元の会社である(保守は、いい定期収入になる)。問題は、受託会社がコーディング規約(プログラム手順)を無視して開発している場合だ。発注元は、いざ保守が始まった時に、そうしたソースコードの解読に大変な思いをすることがある。

ニアショア開発でシステム構築費用を抑えよ!

 オフショアの開発費用は、いくらぐらいなのだろうか? 現在は日本を100とすると、韓国が80、インドが50、中国が30、ベトナムが20ぐらいではないか。だとすると、前述したように国内の地方での開発が中国並みの30に近いのであれば、その部分だけでも国内でできるはずだ。

 その際は、開発方法論(メソドロジー)や開発手順書、各種成果物サンプル、各種定義事項、品質管理とテストの方法、ユーザー教育方法、導入支援方法などをすべてマニュアル化して、ソフトウエア会社と共有する(著作権も)。

 地方のIT業界の空洞化を防ぐためにも、一刻も早くシステム開発の国内回帰を進めなければならない。また、私が何よりも危惧しているのは、例えば10年後にシステムの寿命が来て再構築する時に、「メイド・イン・ジャパン」ではないために苦労する会社が相当出てくるのではないかということだ。

 オフショア開発では、納品時にすでにプログラムが継ぎはぎ状態になっていて、発注企業には解読不能なコードになっているケースが散見される。システム自体は動いても、再構築する時になって、高額な開発費に驚くことだろう。

 将来的にシステム開発費用を抑えるカギの1つが、地方を巻き込んで「オール・メイド・イン・ジャパン」のシステムをつくることなのである。

雪国まいたけ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%AA%E5%9B%BD%E3%81%BE%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%91

グラミン銀行
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%8A%80%E8%A1%8C


時事通信 10月9日(土)15時0分配信

キノコやモヤシを生産、販売する東証2部上場の雪国まいたけが、バングラデシュのグラミン銀行と合弁会社を設立し、貧困の根絶に取り組む「ソーシャルビジネス」を始めることが9日、分かった。モヤシ原料の緑豆生産を通じ、同国の農家や女性らに新たな仕事を提供する。大平喜信社長やノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス同行総裁が出席し、13日に現地で調印式を行う。
 同行と日本企業の提携は、カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングに次いで2番目。
 現地の関係者らによると、合弁会社は「グラミン・雪国まいたけ」で、雪国が過半を出資するもよう。農家に生産を委託し、合弁会社が作物を買い取る。日本でのモヤシ生産に適した大粒の豆は雪国が購入し、残りは国内で売る。
 雇用創出効果は農家で1000~1500人、合弁会社での豆の選別に100~200人。このほか、小粒の豆を仕入れて売る女性ら多くの貧困層に仕事や収入をもたらすという。合弁会社の利益も、教育環境や衛生面の改善などすべて現地で使われる。 
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