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2010年12月24日 DIAMOND online 野口悠紀雄 [早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授]
前回見たように、2001年以降の国債消化は、家計の預金増加によってではなく、主として企業の借入が減少することによって消化されてきた。
もう少し詳しく見ると、つぎのとおりだ。金融機関の負債総額は、1999年末までは増え続けた(96年末から99年末までに約150兆円増加)。しかし、その後はほぼ一定になっている。以下では、96年末から01年末までを「前半」、01年末から06年末までを「後半」と呼ぶことにしよう。
前半期間に金融機関負債総額が増えたのは、家計の預金が増えたことが主たる原因である。しかし、後半期間では、家計の預金残高はほとんど横ばい状態になってしまった。こうなった原因は、貯蓄率が低下したことと、金融緩和によって家計の利子所得が減少したことである。
金融機関は、前半期間では増加した預金を原資として国債を購入することができた。これは、「健全な」国債消化と見なすことができる。
しかし、後半期間では負債総額が増えないので、貸付を減少させることによってしか国債を購入できなくなってしまった。
この状況を【図表1】に示す。
(なお、前半期間でプラスであった負債面の「現金・預金」が後半でマイナスになり、負債面の「株式以外の証券」がプラスになっているのは、財政投融資制度の改革に伴い、公的金融機関の資金調達が預金から債券に変わったためである)。
あと9年間程度で国債消化が行き詰まる!
「貸付を減らすことによって国債を購入する」というメカニズムは、異常なものだ(「不健全なものだ」と言ってもよい)。
しかし、これまでは大きな問題を引き起こすことはなかった。それは、企業の資金需要が低水準のままであったからだ。このため、長期金利が高騰することはなかった。つまり、国債が暴落することはなかった。実際には、長期金利はむしろ低下傾向を示したので、国債を保有する金融機関はキャピタルゲインを得ていたことになる。
しかし、これは、いつまでも継続できるメカニズムではない。金融機関の貸付がゼロになった段階で、国内消化は不可能になる。では、Doomsday(世界終焉の日)は、いつ到来するのだろうか。
ここで注意すべきは、新規国債発行額は、経済危機後の期間においてそれ以前より増加していることだ。2001年度以降、年間の新規国債発行額は30兆円程度であり、06、07年度は30兆円を下回っていた。しかし、経済危機後は、50兆円を超す水準になっている。地方債や公的金融機関が発行する債券も合わせると、年間60兆円程度の水準が今後続く可能性がある。
ここでは、簡単化のために金融機関の資金調達面は現在と同じ状態が継続するものとし、資産面の調整だけで国債購入がなされるものとしよう。
金融機関の貸出残高は09年末で約1200兆円だ。したがって、仮に毎年60兆円ずつ減少すれば、20年後の2029年末にゼロになる。
ただし、貸出の圧縮は、ある段階を超えれば困難になるだろう。とくに、家計に対する住宅ローンは長期の貸出が多いから、簡単にはゼロに圧縮できない。この残高は、【図表1】に示すように、民間金融機関と公的金融機関を合わせて09年末で190兆円だ。これが圧縮できないとすると、圧縮可能額は09年末で1010兆円になる。したがって、毎年60兆円ずつ減少すれば、17年後の2026年末にゼロになる。
なお、以上で見たのは金融機関全体である。しかし、国債の保有は、本来は民間金融機関が中心になるべきものと考えられる。
なぜなら、まず中央銀行が国債を長期にわたって保有するのは、通貨増発を招くから望ましくない。また、公的金融機関は、中小企業金融などそれぞれの政策目的を実現するために設立されたものであるから、資産の多くが国債になってしまうのでは、設立趣旨に反する。
実際、国債の残高を、「中央銀行」「預金取扱金融機関」「その他金融仲介機関」(公的金融機関はここに含まれる)別に示すと、【図表2】のとおりだ。
央銀行は、他の金融機関に比べて、短期債の比重が大きいことが分かる。
2001年以降の期間を見ると、国債の保有額を増やしたのは、預金取扱金融機関だ。だから、今後も、民間の金融機関を中心に消化がなされるべきと言えよう。
そこで、民間金融機関の住宅貸付以外だけと考えよう。すると、09年末の残高は540兆円程度だ。したがって、毎年60兆円ずつ減少すれば、あと9年程度しかもたないことになる。
金融機関の資産が悪化。
日銀が出動すればインフレに! 国内での国債消化が困難になると、金利が上昇する。
「貸出が減り続けて国債が増加する」という状況が続くと、金融機関のポートフォリオは、「資産のほとんどが国債」という異常な状態になる。これは、金融機関の健全性からみて大きな問題である。
なぜなら、金利上昇は国債の価格下落である。したがって、金融機関の資産が一挙に悪化するからである。
第1に、返済の担保が存在しない。企業貸付なら企業資産がある。しかし、国債にはそれに対応するものがない(建設国債であれば、社会資本があり、その生産力によって所得が発生し、償還されると考えることができる。しかし、現在の新規国債の大部分を占める赤字国債については、こうした資産の裏付けがない)。
第2に、通常の貸付のデフォールトは、資産の一部が劣化するものだ。だから、資産のすべてが悪化するわけではない。しかし、国債は、償還期限の違いはあっても、「国の徴税能力を担保にしている」という意味で同一の資産である。したがって、国の償還能力に疑問が生じると、一挙に悪化する。したがって、個別企業に対する貸付の不良債権化とは比較にならぬ大きな問題を引き起こすのである。
金利上昇を食い止めるためには、これまでの政策を大転換して、日銀が国債を大規模に購入する必要がある。日銀は通貨を発行することによって国債をいくらでも購入できる。
市中ですでに消化された国債だけでなく、新発債の日銀引き受け発行までゆくかもしれない(これは財政法で禁止されているが、国会の議決があれば可能である)。
言うまでもないことだが、これはさまざまな問題を引き起こす。最大の問題は、通貨増発がもたらすインフレだ。
名目で決められているものの実質価値が低下する。定期預金、公的年金など。高齢者世帯はこれに頼っているので、大きな打撃を受ける。
為替レートが円安になる。輸入物価が高騰するため、インフレがさらに加速される。
海外消化を求めれば円安になる! では、海外での消化を求めるとすれば、何が起きるか?
海外での消化が、これまでの国内消化と同じように順調に進む保証は、何もない。外国の投資家は、日本が国全体として国債を滞りなく返済できるかどうかを審査するだろう。
ところが、上で述べたように、国債発行で調達した資金は、現在の予算に見られるように無駄な用途に用いられており、将来の返済能力増強に役立っていない。したがって、「日本国債は危ない」と評価される危険は大きい。そうなれば、日本国債は買い叩かれて暴落する。
例えば、1ドル=100円という為替レートのとき、100円の財政支出資金調達のため、額面1ドルの外貨債を発行したとしよう。これが買い叩かれて50セントでしか売れないことになれば、日本国内で100円の価値があるものが国外では50セントの価値になったわけだから、為替レートが1ドル=200円と円安になったことになる。これは外国からの輸入物価を2倍に高め、国内にインフレをもたらす。
つまり、国内での消化を試みても、海外で消化しようとしても、結局はインフレを避けられないことになる。
これまで述べてきたように、こうした状態がもたらされる基本的な原因は、家計貯蓄率の減少と社会保障支出の増加だ。これらはいずれも人口高齢化によってもたらされるものである。つまり、人口高齢化の帰結は、経済をインフレに陥れることである。デフレでなくインフレこそが、人口高齢化社会の行きつく先なのだ。
なお、上で予想した時点までマーケットが待ってくれる保証はない。以上の事態が実際に起こる前に、マーケットが先取りする可能性は十分ある。
国債が将来暴落すると予想されれば、それ以前に価格は下落する。円安になると予想されれば、資産が海外逃避する可能性もある。そうなれば、円安インフレが前倒しで発生するだろう。
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