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16大綱のあと、国際情勢は大きく動いた!
現在の16大綱(注:「16」は平成16年の意)、すなわち「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」は、2001年9月11日の「米国同時多発テロ事件」以降の急変した国際情勢を背景に政府が閣議決定した。国際テロ組織などの非国家主体が、世界の安全保障態勢に対する重大な脅威となった。アフガニスンやイラクにおいては、宗教や民族などの要素も密接に絡んだ、解決の糸口がみつからない紛争が多発している。
また弾道ミサイルや大量破壊兵器の拡散、北朝鮮の核実験など、新たな課題への対応が求められるようになった。加えて、環境破壊による地球温暖化現象・異常気象や大規模災害・地震多発、東南アジアや中東地域における海賊の跋扈(ばっこ)、新型インフルエンザをはじめとするパンデミック(全世界的流行病)など、より身近に脅威や不安定要素を実感するようになった。
中国の急激な経済成長は、同時並行的に軍事力の増大・近代化を促進した。その結果、海洋権益に対する積極的な挑戦が近隣諸国に不安を与えている。
さらに、一極支配を維持してきた米国はイラクやアフガン紛争に足を取られ、世界への影響力を相対的に減衰させている。財政事情の悪化がそれに拍車をかけている。
ロシア、インド、ブラジルなどの経済的・軍事的な国力増大は世界を多極化に向かって進展させている。
このように最近の東アジア・西太平洋情勢は複雑さと先行きの不透明さがいっそう加速している。特に中国の覇権拡大はこの地域の安全保障に大きく影響し、当面この傾向は継続するであろう。
富国強軍を推し進める中国軍!
中国の軍事力の脅威について、日本・東京よりも地球の反対側に位置する米国・ワシントンの方がはるかに強い危機感を持ってとらえている。軍事情報の多くを米国に依存せざるを得ない日本が、“二番煎じ”に甘んじなければならない現実の結果であろう。日本国民には、台湾海峡、南シナ海、東シナ海、インド洋など、わが国にかかわる地域海域の軍事情勢が「遠い所」の問題としてしか映っていない。
中国軍の増強近代化は、改革開放政策による経済成長に伴って急速に進んでいる。最近では、経済の伸びよりもはるかに高い軍事費の伸び率を示していると言われている(平成22年防衛白書)。特に、宇宙、空軍、海軍、ミサイル、サイバー戦などの能力は、2005年以降に急速に充実してきた。中国は、「富国強軍」の国家目標を堅持しており、2007年10月の中国共産党大会で胡錦濤主席が改めて確認した。
第2列島線から米海軍を締め出す戦略を遂行!
中国は「軍事力の及ぶ範囲まで防衛する」という軍事ドクトリンを持っていると言われている。21世紀に入って「近海防衛戦略から外洋積極防衛戦略」に転換した。既に、いわゆる第1列島線(日本列島・沖縄・台湾・フイリピンを結ぶ線)以内の黄海・東シナ海・台湾周辺海域・南シナ海の防衛区域を固めている。これに続けて、第2列島線(小笠原列島・マリアナ諸島・南太平洋を結ぶ線)までの西太平洋において米空母機動部隊などの近接を阻止するとともに、同海域の海上優勢および航空優勢を確保する戦略を立て、態勢を確立しようとしている。
海軍を例に取ると、中国の第2世代の戦略原子力潜水艦である「晋」級は、2010年以降5年間に5隻が就役する見込みである。晋級は弾道ミサイルの発射装置を持つ。「商」級の原子力潜水艦も2006年以降戦列に就く予定だ。「元」級、「宋」級、および「キロ」級の在来型潜水艦に対しても静粛性などの戦術能力の近代化を進めており、2004年以降、就役艦数が急速に増えている。
最新の「旅州」級ミサイル駆逐艦は2006年に1番艦「瀋陽」が就役した。「旅洋」級イージスミサイル駆逐艦と「ソブレメンヌイ」級ミサイル駆逐艦は、2004年以降、近代化システムを追加するとともに、数を増やしている。
また、「江凱」型フリゲイト艦は新装(外観は旧型と同じであるがコンピューターや電子機器などを新しくしている)なって2008年に4隻が就役した。
このように2000年以降、90年代までの旧式装備を整理。かつロシア技術から電子技術をはじめとする西欧技術に転換することで、新装備の艦船を集中豪雨的に増やしている。
南シナ海の権益確保を武力で確保!
南シナ海は海上運輸のチョークポイントである。わが国にとってのみならず、中国、韓国、台湾、フイリピンのほか米国などの太平洋諸国にとって重要なシーレーンが通る。周辺には、中国、台湾、フイリピン、インドネシア、ブルネイ、マレーシア、ベトナムなどの国が島嶼と領域においてせめぎ合っている。1970年代にアジア極東経済委員会(ECAFE)が海底調査を実施して、豊富な石油埋蔵の可能性を発表して以来、これらの国々がこの海域の島嶼の領有を主張し競っている。
1992年に米軍がフイリピンから撤退した直後から、南シナ海の混乱が表面化した。特に中国は、南シナ海の全域を囲い込む領域を軍事力を持って領有することを1992年の領海法(注:これは中国の国内法)で明記。最近は、南シナ海を「核心的利益」として、台湾、チベット新彊ウイグル地区と同等に位置づけ、強硬な姿勢を示している。
ベトナム、マレーシア、インドネシアは、それぞれの領域での不法操業を理由に中国漁船を拿捕した。しかし、中国が軍艦を派遣し恫喝したために、釈放せざるを得なかった。中国は現在、海軍艦艇を南シナ海の哨戒に当てて、中国漁船に独占的に操業させている。
プーチンの大統領就任で復活したロシアの軍事力!
ソ連崩壊後のロシア極東の軍事力はプーチンが大統領に就任するまで、財政難で兵士の給料が十分に支払われず、また装備の更新も修理もままならない状況だった。ウラジオストック港内で朽ち果てた原子力潜水艦の映像がテレビで放映されるなど、その活動そのものが休眠状態であった。
しかしプーチンによる国家財政の立て直し、とりわけ石油・天然ガスの開発と価格高騰に助けられて経済が回復すると、ロシアの軍事力は復活した。中露国境の安定が定着すると、近代化された軍事力を行使して、周辺への影響力を積極的に顕在化させている。グルジア紛争やチェチェン紛争はその一例だ。最近では、日本周辺海空域における偵察行動も活発化させている。また、戦術核戦争を想定した大規模な軍事演習も極東で行っている。今年8月には北方領土を含む千島列島・オホーツク海・樺太でも演習を実施し、領土返還を求めるわが国に対して示威行為を強めている。
核とミサイルで大国を翻弄する北朝鮮!
金正日の北朝鮮は、国民の生活をないがしろにしてまで軍事優先の政策を取ってきた。特に、核開発および弾道ミサイルを開発することにより、政治的には米中露韓および日本の5カ国を振り回している状態である。軍事を後ろ盾にした独裁国家の存在は、「不気味で何をしでかすか分からない」という脅威感を周辺国に与えている。
大量破壊兵器の開発・生産と輸出によって、大国である米国を翻弄。韓国をはじめとする周辺国から経済的支援を獲得する外交手腕はしたたかで「暴発と混乱」を武器にしているとも言える。韓国海軍の哨戒艦「天安」撃沈事件は、国際的に大きな批難を浴びたものの結局は「不問」の形で収まりつつある。
北朝鮮は、金正日主席の後継者に息子の金正恩を据えて注目が集まっている。後継問題は、朝鮮半島の将来に不安と混乱をもたらす。いずれ来るだろう体制崩壊によって大きな影響と負担を強いられるのは、韓国、中国および日本であることは間違いないであろう。
米国の軍事力は相対的に低下しつつある!
米国は、依然として世界の大国であり、政治力、経済力、軍事力において絶大な影響力を持っている。中国の国力の成長が現在のペースで続いても、見通しできる将来において米国を越すことはできないだろう。
しかし、冷戦構造が崩壊し、ソ連に勝利して一極支配を確立したのも束の間、多くの新興国の台頭、民族や宗教の対立を原因とする紛争要件が重なって、米国は新たな課題を突きつけられている。自由と民主主義を国是とする米国が世界に関与することは、次第に反発や抵抗を生んだ。それにいちいち対応してきた米国は、経済的にも軍事的にも疲労が蓄積している。
9.11同時多発テロ事件以降の米国はその傾向が顕著だ。中国やインドをはじめとする「発展途上国」の追い上げと経済的・軍事的圧迫により、相対的に国力を低下させた。イラク戦争以来の紛争に関与・介入してきたため、その負担は米国の財政を大きく圧迫している。
世界中に軍隊を展開・配備しつつ、米国本土の防衛にも大きな力を割かなければならない状況は、米国にとって建国以来初めての経験である。今や米国は、同盟国の支援・協力を強く期待するまでになった。
米国にとって、世界の安定、とりわけ中東および東アジアの安定と安全は重要である。米国としては台頭してきた中国経済への依存度を深めながらも、東アジア・西太平洋における覇権を求める中国の軍事力に対しては、断固とした対応を維持しなければならない。特に、自由と民主主義を共通の価値観とする同盟国の安全保障と立国条件である海洋の自由を確保するために、これからも強力な軍事力と海外基地の確保に固執するだろう。
中国がもたらすグローバルコモンズへの脅威!
これまで、日本の周辺国が16大綱以降どのように動いてきたいか概観した。これからは、こうした動きが日本の安全保障にどのように影響するか、みていく。
海洋、航空、宇宙、サイバー空間は、人類にとって共有の財産である。これらの公共財(グローバルコモンズ)に対して強い影響力を持とうと目論む脅威が現実化している。先に述べたように、西太平洋への関与来援に対して中国は、非対称な軍事戦略を持って第2列島線以西の軍事的優勢を確保しようとしている。日米同盟の下、共同作戦によって侵略を排除することを基本としているわが国にとって、これは大きな脅威である。国際的ルールが確立、または確立しようとしているグローバルコモンズの自由な利用と利益の共有が、例えば国連海洋法条約のEEZの権益を拡大解釈する中国のルールの下に置かれることになれば、わが国をはじめ多くの国が不利益を被ることになろう。
既に南シナ海において、軍事力によって海域を一方的に占有している。同様の動きが、尖閣諸島に対する領有権の主張など、東シナ海にも及びつつある。
宇宙においては、衛星破壊兵器の開発を進め、宇宙における軍事的優勢の獲得に手を伸ばしている。さらにサイバー戦の分野においては世界で主導的な能力を持ち、実際にわが国や米国に対してサイバー攻撃を実施したとされている。中国における米企業Googleに対するサイバー攻撃は、その実力の程を顕在化させたと言える。
南シナ海で成功した手法を東シナ海で展開!
海洋における覇権を確立しようとする中国の目論見は、南シナ海で着実に成果を上げている。その手法を、東シナ海においても適用しつつある。すなわち、まず、1)多数の民間漁船によって不法操業を繰り返す。相手国が拿捕や取り締まりを実施すると、「漁業保護」を目的に軍艦を派遣する。2)島嶼の不法占拠。3)島嶼の領有宣言、4)漁業拠点のインフラ整備、5)軍事占領。こうしたステップを踏んで実効支配の実績を内外に示す。同時に、海洋資源・海底資源の調査・探査・採掘を行う。
もともと日中間には領土問題は存在しなかった。だが、1969年に年アジア極東経済委員会(ECAFE)が東シナ海の石油、ガス埋蔵の可能性を発表すると、中国は尖閣諸島の領有を主張した。ちなみに台湾もこの時期に尖閣諸島の領有を主張し始めた。1978年10月?小平副主席副主席(当時)が訪日したときに提案した「尖閣問題棚上げ論」を、日本政府が明確に拒否できなかったことが今日の係争につながっている。
加えて今年の5月に鳩山由紀夫首相(当時)が「尖閣諸島の領有について未解決」という不用意な発言をしたことによって、中国を勢い付かせている。
今日、尖閣諸島海域において160~250隻の中国漁船が不法操業していると報道されている。不法操業した中国漁船を海上保安庁が拿捕し、船長の身柄を拘束したことに対して中国政府の反発が激しいのは、中国共産党への不満や反発に沸く国内世論をかわす狙いもある。したがって、恫喝外交の性格を持っていると言えよう。そしてその恫喝に屈した形で船長を釈放した日本政府の外交に、国内はもとより日本に期待する東南アジア各国に落胆と不安を与えてしまった。同時に中国は、強圧に弱い日本を見下し、さらなる覇権を加速追求することになろう。
分岐点にある中国:責任あるステークホルダーか? 国際ルールの破壊者か?
中国の資源およびエネルギー獲得のための世界戦略はしたたかさを増している。アフリカ、中東、中南米、オセアニアなどの資源・石油産出国との外交関係を緊密化させ開発支援を行っている。これらの資源の輸送を海運に全面的に頼らなければならない中国にとっても、シーレーンにおいて自由と安全と安定を確保することが望ましい。しかし現実は、シーレーンの通る沿岸国やホルムズ海峡、マラッカ海峡などの沿岸国の政情不安や治安悪化によって常に脅かされる脆弱性を持っている。
このため中国は、自国のシーレーンを確固たるものにするために、インド洋沿岸国との関係醸成に努めており、「真珠の首飾り」と呼ばれる施策を進めている。パキスタン・スリランカ・バングラデイッシュ・ビルマ・南シナ海に資本を投下し、港湾を整備・確保する取り組みだ。このような広範囲の拠点は、中国がシーレーンの安全を安定的に確保するのに大きく寄与するだろう。これらの港湾拠点は、経済的支援からやがて中国軍艦などが進出する拠点になる。各国と政治的・軍事的な結びつきを強めることで、中国は米国と競合することになろう。
中国はいま、分岐点にあると言われている。日米ともに期待する「責任あるステークホルダー」として国際ルールに順応して穏やかな競争社会を形成する一国になるのか? それとも、“中華帝国”を復興し中華モデルの強い影響力を行使する国家になるのか?
後者の道を選択した中国は、わが国および欧米が中心となって発展させてきた国際的なルールとの対立を激しいものにしていくだろう。特に、台湾の統一に武力を行使する事態になった場合には、わが国の南西諸島およびその周辺海域が大きな影響を受けることは確実だ。日米同盟において日米両国間のへだたりが大きくなった場合には、尖閣諸島のみならず宮古島、石垣島などの先島諸島も中国による軍事的影響にさらされることが予想される。
北朝鮮はもちろん、韓国とロシアにも油断はできない!
北朝鮮の軍事力増強は、何をするか意図が不明で、かつ同国が突発する性向であることが大きな脅威である。わが国は、日本海側の諸施設に対する拉致、テロやゲリコマなど工作活動や弾道ミサイル発射事案を既に経験している。核兵器の使用を含む恫喝外交は、65年間戦争の経験が無く繁栄を享受してきたわが国にとって、少なからぬ不安と混乱を与えている。
韓国およびロシアとは、総じて緩やかな緊張状態のまま、今後も関係を継続するだろう。しかし、北方領土と竹島が不法占拠されたままの状態は、正常な関係とは言い難い。特に竹島は、何かにつけて韓国ナショナリズムの高揚につながり、対日意識が先鋭化する際の主たる材料になっている。
北方領土についても、危険な事態が内在していると考えられる。今年9月2日に、ロシアが「対日戦勝記念日」の式典を開いた。これに伴い同国民の間では国防意識が高揚した。一部には、「日本軍が北進して北方領土を取り戻しに来る」と危機感を煽る動きもあった。
新しい脅威:テロ、パンデミック、海賊、大規模災害!
国と国との間にある経済格差の拡大、民族・宗教の対立、地球温暖化、グローバル化などの影響は、テロやパンデミック(全世界的流行病)、大規模災害などの姿なき脅威が容易に国境を越える機会を多くしている。海賊の活動も、ソマリア沖アデン湾、ペルシャ湾、マラッカ海峡、南シナ海、と広域において多発している。その手段は蛮刀から高性能武器、情報ネットワークなどの高機能手段まで多様であり、その実態の把握もままならない。
以上、国際情勢における今後10年間の概観を予測しきた。しかし、わが国の将来についての不安感・不透明感を拭うことはできない。かつて、中国の李鵬首相が「40年後には日本は無くなっているかもしれない」と発言したことが報じられた。中国をはじめとする周辺国が、軍事力を背景に厳しい国際情勢を生き残り、発展していこうとするパワーポリテイックスの世界にあることを考えると、新しい防衛計画の大綱は、単なる政治的ジャスチャーで終わらないでほしいものである。
参考資料
1 平成22年度防衛白書 (防衛省)
2 2009、2010海上保安レポート (海上保安庁)
3 新「防衛計画大綱」への期待 「軍事研究」2010年9月号
4 「中国の外洋艦隊!活発化する海外作戦の狙い」 「軍事研究」2010年8月号
5 「日の丸原潜を考える」 「世界の艦船」2010年2月号
6 「安全保障と防衛力に関する懇談会報告書」2009年8月
7 「新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想」2010年8月
古澤 忠彦(ふるさわ・ただひこ)
ユーラシア21研究所研究員。1964年防衛大学校を卒業後、海上自衛隊入隊。護衛艦艦長・隊司令、統合幕僚会議事務局長、舞鶴地方総監、横須賀地方総監を歴任、海将。1998年に退官。
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