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日本のメディアは中国とロシアの関係をもっと認識すべし!
2010.11.17(Wed)JBプレス 菅原信夫
ロシアにいると、最近の日中間の不協和音は他人事ではない。日本の対応をじっと観察しているロシアがいつ北方領土を巡って日本に居丈高な態度に出るか、不安が横切る。
中ロが歩調を合わせて日本への挑戦、はあり得ない!
しかし、領土問題を巡り、中ロが歩調を合わせて、南北から日本に挑戦する、という推測には違和感がある。モスクワで見る中ロ関係は、蜜月状態にあるとはとても思えないからだ。
ロシアの対外政策を考える際に注意しておきたいのは、政治と民衆の感情とは必ずしも一致せず、また、長期的に見ると政治は民衆の感情と同じ方向に集約していく傾向がある、ということだ。
最近ではグルジアを巡るロシアの政策がその典型であろう。いかに政治的にグルジアとの関係を凍結しようとしても、ロシアの歴史に刻まれたグルジアの影響は、それを消し去ることはできない。
一方中国については、中国をロシアのエネルギー政策における最大の客先としながらも、民衆レベルでの対中警戒感を解くことは絶対にできない。
最近、モスクワで日本企業に対して極東ロシアの開発プロジェクトを紹介するセミナーがあって、出席した。いくつものプロジェクトが紹介されたが、何も日本企業、それもモスクワに駐在する駐在員を対象にする必要もなさそうに思われた。
日本と組んで中国を牽制したい
地理的な感覚から言えば、極東においては中ロで進めるのが何よりも現実的に見えるプロジェクトも多く含まれていた。実際、セミナーでは言葉の端々に中国を意識した発言が聞こえる。
ただ、それは中国にプロジェクト参加を要請する、という方向とは正反対で、日本と組むことで中国の参加を不要としよう、というアプローチなのだ。
「プロジェクトを各国に紹介すれば、中国が触手を伸ばすことは分かり切っている、その前にぜひ日露間で手を結んでしまおうではないか、それを言いたいがために、モスクワまで来たのだ」
今回のセミナーを取りまとめたロシア地域発展センターのメラメド氏は、セミナー後の私の質問にこう答えてくれた。
ロシア極東部における中国排除の動きは、極めてはっきりしている。その理由を同じくメラメド氏に尋ねると、彼は一言「それは中国の覇権主義にある」と答えた。
法律を超えていつしか実効支配してしまう中国への警戒心!
プロジェクトを共同でスタートしても、いつのまにか中国人により主導権を取られてしまう。
法律上、ロシア側の権益をしっかりと謳ったプロジェクトであっても、大勢の中国人に囲まれてしまい中国の「実効支配」下に置かれたプロジェクトは過去数多くあるという。
ロシア政府は、中国を買い手とするロシア産天然ガス、石油の輸出には大変積極的である。
本年9月末、ドミトリー・メドベージェフ大統領は中国を訪問し、胡錦濤国家主席とともに、ESPO(東シベリア―太平洋石油パイプライン)の中国側完工式に出席している。
このパイプラインを通して、今後20年間にわたり大量の石油がロシアから中国に供給される。
ロシアのエネルギー産業に中国の投資は認めない!
一方、天然ガスについては、ガスプロムと中国側CNPC(中国石油天然気集団公司)との間で、西シベリアのガス田と中国ウイグル自治区を結ぶパイプラインを通して、ロシア産天然ガスが30年間にわたり中国に供給される契約が合意されている。
このように、ロシアは中国を輸出先とするエネルギー供給には多額の投資を行っている。しかし、そのロシアのエネルギー産業に中国が投資を通じて事業参加することには、極めてネガティブな姿勢を貫いている。
実際ロシア政府は自国のエネルギー産業への中国の参入を何度も防いできた歴史がある。2006年のROSNEFTの新規株式公開(IPO)では、中国石油の資本参加を許さなかった。
また、2002年にはSLAVNEFTの中国石油への売却を認めなかった。買い手に決まったロシア同業他社の出した価格より中国石油は13億ドルも高い価格を提示したにもかかわらずで、ある。
鳥取県境港から韓国の東海(トンヘ)経由でウラジオストクに向かうDBSクルーズフェリーは、最近の日本製中古車貿易の復活でかなり貨物が多くなっていると聞く。
日本の中古車輸出が復活!
しかし、引き続き問題なのは、ウラジオから積み出す貨物である。 関係者によると、ウラジオから輸出されるロシア産品の少ないことは当初から予想されていたという。
しかし、中国黒龍江省産の食糧、石炭を国境を越えて輸送し、ウラジオから韓国に輸出する、という計画があり、これが引き金となってフェリーの就航が決まったとのこと。
予想外なのは、たとえ第三国への輸出のためとしても、ロシアが中国産品の国境越えを許可しないという事実で、これではフェリーの復路の貨物の確保ができず、DBSフェリーは頭を抱えていると聞く。
前回の小稿で触れたウラジオ市内で販売されている中国工場産のアサヒビールであるが、10月の実施調査では、その姿は完全にウラジオから消えている。アサヒビールは全量、日本からの輸出となっている。
これで、既に出回っているサッポロに加え、アサヒ、そしてこれから本格展開が開始される予定のサントリービールと、ウラジオ市内で販売される日系ビールは全量が日本からの輸出品となる。
中国製品を持ち込みにくくなったウラジオストク!
極東の消費者は、日本製品と中国製品を完全に分けて考えており、中国製品は人気がない、ということも前稿で指摘したが、今や行政面でも中国製品をウラジオに持ち込む際の国境の壁は厚くなる一方のようである。
私が愛用しているモスクワの中華料理店「友好飯店」には、H君という中国人のウエイターがいる。この店は中国政府の支援で建設された中ロ友好会館の中にあり、料理人からウエイター、ウエイトレスまで全員が中国人、本格的な中華料理が楽しめる大型レストランである。
スタッフがほとんどロシア語を話せない中、H君はなんとかロシア語で会話ができる。中国の田舎の話やら、いろいろと話をするうちに私のテーブルは必ず彼が担当してくれるようになってしまった。
先月末、店で食事をした時、H君が寂しそうな顔で私にこんなことを言った。
菅原さんとは、今月末でお別れしなければなりません」
「なぜ?」
「滞在延長のためのビザ申請が拒否されて、帰国せざるを得なくなったのです」
君だけ?」
「いえ、今後滞在期間は延長されないみたいで、今回は数名が私と一緒に帰国します」
ここまで聞けば、ロシア移民当局が中国人の帰国を促進していることは明確になる。この夏、ウラジオで聞いた不法滞在中国人労働者の追放と根は同じに聞こえる。
ウラジオの中華料理店は中国人の料理人が国に戻ってしまってから、食材も乏しくなり、味は落ちるし、あれだけ中国に近い場所にありながら、見るも無残な中華料理になってしまった。
モスクワから中華レストランが消えるのは時間の問題?
モスクワで圧倒的な店舗数を誇る和食レストランに比較して、中国人シェフがいないと成立しない中華料理店は本当に少数派、客数も比較にならない。不法移民問題が密接に絡むロシアの中華料理の将来は、かなり難しいものがある。
中国との関係を見直す風潮は、既に昨年からはっきりしていた。モスクワ市内にあった雑貨市場「チェルキゾフスキー」は2008年9月の当局による手入れを経て、2009年6月に完全閉鎖されてしまった。
閉鎖に至る過程ではいろいろと政治的な憶測もあり、本誌でも大坪氏が「超高級リゾートに腹を立てたプーチン首相」の中で詳しく紹介をされている。
中国からの密輸品を並べる市場だから、働いていたのも中国人が多く、一時はこの市場だけでも6万人を超えていたという。この市場で年間に販売される密輸品の総額は100億ドルを下らず、その70%は中国から運ばれたものだったという。
チェルキゾフスキー市場で売られていた商品は、主に低価格品で、市場で品定めをするロシア市民も高所得者層は少なく、この市場閉鎖が政治的な問題になることはなかった。
モスクワの高級ブティックの商品は、ほとんどが中国製の偽物!
しかし、先日読んだプラウダ紙には、モスクワの高級ブティックで販売されているプラダの靴、グッチのバッグ、アルマーニのジーンズ、それらのほとんどは中国製の粗悪品であり、ロシア女性はだまされている、と警告を発している。
いよいよ中国製品への非難が高所得層にも広がってきたようだ。そして、その記事は高級ブランドを非常識な低価格で買いたい、というロシア人の欲望が、中国製偽物ブランドを跋扈させる理由になっている、と自戒を求めている(注1)。
何度も小稿で指摘しているように、中国製品への警戒と反比例するように日本製品への信頼感は増している。
ロシアにとって、中国への警戒を解くことができない理由、それはロシアと中国の地政学的関係、すなわちロシアの隣国が中国であり、中国との間には数千キロにわたる国境を接している、という事実である。
ロシアが中国への対抗手段として日本カードを持とうとすることは十分考えられるし、ロシア民衆の感情は既にその方向に向かっているのである。
メドベージェフ大統領の国後島訪問を反日的と喧伝するメディアの責任!
少なくとも、ロシアと中国が結託して、領土問題で日本にあたる、ということは民衆レベルの観察ではちょっと考えられない。
こういう時期に、日本のマスコミがメドベージェフ大統領の国後島訪問を反日的である、という論調をことのほか大量に流し、そこに複雑な思いをしているのは、実はロシアの親日派民衆なのである。
日本としては、ロシアの地政学的立場を理解し、利用することで、ロシアに対してもっと有利に駆け引きを行い得ると強く感じる。
http://www.donkigroup.jp/shared/pdf/news/co_news/343/beaujo2010_2_l9J0z.pdf
http://www.donki.com/season/beaujo/pc/
ドン・キホーテ (企業)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%86_(%E4%BC%81%E6%A5%AD)
ドン・キホーテがお届けするのは、フランス・ボジョレー地区の名門ネゴシアンから仕入れた、オリジナルの「ボジョレー・ヌーヴォー」です。ロマネッシュトラン近郊のガメ種のみを使って作られ、葡萄の香り豊かに、そして新鮮なままに閉じ込めた1本です。昨年に引き続き、今年もペットボトル製の容器を導入。軽いから、持ち運びにもとっても便利で、ご自宅用やお土産用に、お気軽に今年の新酒の出来栄えをお楽しみいただけます。
生産を行ったロベール・サロー社(フランス)の醸造責任者Mr. Laurent Dennhautによれば、今シーズン始めは例年よりも寒かったものの、8月下旬に入ってから好天が続き、葡萄の成熟が進んだとのこと。フルーティで活気のある香りと、ほど良いタンニンを兼ね備えた、魅力的なワインに仕上がっています。色は昨年より若干明るめのピンクがかった赤。まさにワインの若きエトワールといった趣きです。
葡萄栽培、醸造、ボトリングまで一貫した生産・管理体制を敷き、すべてドン・キホーテのワイン担当バイヤーが直接吟味しました。8月に現地を訪問した際は、葡萄の収穫間際という時期で、たわわに実っていた紫色の果実が、3ヶ月経ったいま、どのような新酒に生まれ変わっているのか、私たちも楽しみでなりません。
ボジョレー地区は、フランスの南東部・リヨンの北にあり、美味しいワインの産地として知られています。「ボジョレー・ヌーヴォー」とは、そのボジョレーで造られた、その年の葡萄の出来栄えをチェックする「試飲用新酒」のこと。 それぞれの国の現地時間で、11月の第3木曜日の未明(午前0時)に販売が解禁されます。日本は時差の関係で、主要な先進国の中でも最も早く解禁時間を迎えるといわれています。
「ボジョレー・ヌーヴォー」は単なる新酒ではなく、その製法自体にも他のワインと違った大きな特徴があります。その製法は「マセラシオン・カルボニック」という、収穫した葡萄を破砕せず、そのままタンクの中に貯蔵・発酵させ、短期間でワインとして完成させるというもの。この製法で造られたワインは、タンニンの含有量が少ないため、渋みや苦みも軽くなります。よって、新酒の状態でも飲める味わいに仕上がり、葡萄のフレッシュな魅力を楽しめるというわけです。
ボジョレーといえば「赤ワイン」。しかし実は、全体のわずか1%ではありますが、白ワインも生産されているのです。「ボジョレー」と名乗ることのできるワインは、赤ワインであれば「ガメ種」、白ワインであれば「シャルドネ種」の葡萄を使用したものに限定されています。
尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E8%89%B2%E6%AD%A3%E6%98%A5
2010年11月17日 DIAMOND onlin 山崎元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
普通は」得にならない内部告発!
もともと本人が名乗り出ており、既に一部の週刊誌では実名が報じられているので、名前を秘する必要はあるまい。神戸海上保安部所属の海上保安官・一色正春氏(43歳)が、尖閣諸島沖での中国漁船と巡視船の衝突の模様を映したビデオを流出させた問題に関して、警察・検察当局は、同氏を逮捕せずに、任意で取り調べを継続する方針を決めた。今後、起訴され有罪になる可能性が無くなったわけではないが、問題の画像が保護すべき秘密であったことを立証する難しさ、さらには問題の中国人船長を釈放しておきながら、事実の一部を公開しただけの一色氏の罪を問うバランスの悪さなどを勘案すると、起訴にいたらないのではないかという観測が流れている。
ただし、法的には罪を問われないかもしれないし、問われても軽い(公務員の守秘義務違反は50万円以下の罰金)公算が大きいが、一色氏が負っているリスクは決して小さくない。
一色氏の行動はおそらく海上保安庁の内規の禁止事項に触れているだろうし、時の政権から海上保安庁が管理責任を問われている以上、何らかの処分を求められる公算が大きい。端的にいって、一色氏は失職する可能性がある。『週刊現代』(11月27日号)の記事によると、一色氏はいったん民間企業への就職を経験した後だが、商船高等専門学校を経て海上保安庁に就職している。商船高専卒業者にとって海上保安庁は良い就職先だろうし、世間の注目を惹いた後なので失職した場合、再就職は簡単でないかも知れない。家庭もお持ちで、お子さんもいるようだ。本人は現在も相当の不安を抱えているだろうし、悩んだ上での内部告発だっただろう。
今回の内部告発とその後の自首について、世間の様子を見て名乗り出る卑怯な行動だ、という評があるようだが、これは内部告発者の立場に対する配慮を欠いた議論だと思う。
一般に、内部告発は、最高に上手く行っても、告発した本人の得にはならない。本連載でも取り上げたが、オリンパスで上司の不正行為を社内の告発窓口に通報した社員は、社内で不当な扱いを受けたとして裁判で争うに至ったし、ミートホープ社の不正を告発した社員は、世間に同社の不正を知らしめることには成功したが、会社が潰れて職場を失ってしまった。その他、各種の食品を巡る問題や、金融を巡る不祥事の告発者も、不正の周知に成功することはあっても、告発した本人が、本人にとっての正義の達成以上のメリットを得たケースを知らない。
今回の告発の特異性!
今回の一色氏の内部告発は、主に企業を中心に行われてきた過去の内部告発といくつかの点で異質だ。
内部告発者は、組織にとって不利な情報を流したとされて、組織内で疎まれ、憎まれる存在になることが多いが、推察するに、今回の告発に対して、海上保安庁内部では、「大変なことをしてくれた」という声もあるだろうが、「国民に事実を知って貰ってよかった」、「よくぞ、やってくれた」声が多いのではないだろうか。所属組織内で支持を受ける内部告発者は珍しい。
また、前述のように、個人としては得にならないばかりか、生活をリスクにさらすことになるので、内部告発者は、自分から名乗り出ないことが多い。しかし、今回、一色氏は捜査が迫ってきていたとはいえ、自分から名乗り出た。
加えて、一色氏が望むところではないかも知れないが、国民の多くは、同氏の動画投稿を支持している。今後のことはよく分からないが、一色氏が多くの人の支持を受ける「スター」的な存在になる可能性もある。
だから彼は名乗り出たのではないか、という声もあるが、それは「小さな問題」だろう。仮に、彼が好意的に迎えられる有名人となることがあるとしても、いちいち嫉妬しない方がいい。
告発者のメリットになってはいけないか?
告発を行ったことで本人が何らかのメリットを得てはいけないのかというと、少なくとも「常にそうだ」とは言えまい。
たとえば、ミートホープの社員の内部告発がなければ、多くの消費者がそれとは知らずに殆どゴミのような異物が混ざった食品を口にしていたかも知れない。消費者は、告発者に感謝すべきだろうし、告発者がより幸せになることを願っていいはずだ。
今回の告発はどうなのだろうか。法的な立件の可否はともかくとして、行為の性質として公務員の守秘義務からの逸脱であることは間違いない。また、時の政府が隠そうと決めていた情報が漏洩したのだから、行政の失敗として、ひいては国の統治の乱れとして重大な問題であったことも間違いない。
しかし、一色氏は、失職の可能性を含む組織内での処分、あるいは冷遇の可能性といった自ら受けるかも知れないデメリットを承知の上で、それでも問題の映像を国民は見るべきだと判断して行動したのだから、行動自体の善し悪しを総合的に判断するのがフェアだろう。
筆者個人は、一色氏が画像を公開したことに関して、公務員としての守秘義務を逸脱したことの拙さ以上の公共のメリットがあったと判断している。衝突の画像は、事件の事実関係を判断する上で国民が「見たい」画像だったし、政権の対応が適切であるか否かを判断するためにも「見ておいた方がいい」画像だった。
ネットの情報には信頼性がないと言っていたはずのテレビが、繰り返しユーチューブの画像を流していたのは奇妙な光景だったが、既存メディアとしても「これは国民に見せる価値のある映像だ」と判断したからだろう。政府が、この画像の公開が本当に国益に反すると考えるなら、この件に関して、一色氏や海上保安庁の責任を言い立てるだけではなく、テレビ報道のあり方にも文句をつけるのでないとバランスが取れない。
海上保安庁は、自衛隊や警察に連なる物理的「力」の行使を伴う組織だから、この組織が政府の意思に反した行動を取ることの重大性を、太平洋戦争前の軍部の暴走などに重ね合わせて危惧する意見も一方にある。しかし、政府の判断に問題がある場合、国民がそれを公務員の内部告発を通じてしか知り得ないとしたら、内部告発が起こらないこと自体を問題視しなければならない。少なくとも、その内部告発及び告発者を「守秘義務違反」としてしか評価しないのは問題だ。
問われるべき政府の責任!
仙谷官房長官は、今月10日に一色氏への取り調べが始まった時点の記者会見で、「大阪地検特捜部の(証拠品改ざん・犯人隠避)事件に匹敵する、ゆゆしき事案」(『読売新聞』11月16日朝刊)だと述べたという。仙谷氏が、現在もそう思っているとすれば、今回の警察・検察の判断とは大きく異なる理解だといわざるを得ない。中国人船長の逮捕以来、独自のルートを使って中国政府と交渉してきたとされる仙谷氏としては、重大犯罪だという認識になるのだろうが、仙谷氏のこの問題に対する対処は適切だったのだろうか。
『毎日新聞』(11月8日)の報道によると、仙谷氏は、民間コンサルタントである篠原令氏に中国との橋渡しを依頼し、その結果、細野剛志氏を中国に送り込むなどして、中国側当局者と、「衝突事件のビデオを公開しない」、「仲井真(沖縄県)知事の尖閣諸島視察を中止して貰いたい」との先方の要求に同意したのだとされている。
率直にいって、俄には信じがたい判断と行動だが、政府としてあらためて動画を公開すべきだという野党の要求を呑めずにいるところを見ると、先方と本当にこのように約束していたのだろうと推測される。
仙谷氏に対して好意的に解釈すると、中国との経済関係に配慮して問題を早く解決しようとしたということなのかも知れないが、過剰かつ不適切な譲歩だったのではないかという疑念が拭えない。
タラ・レバの話になるが、画像を早期に公開していれば、中国側の立場がもっと弱かった可能性があるし、そもそも、国政に関わるこれだけの大問題なのだから、日本国民に対して画像を公開しないという判断がおかしい。撮影された動画が捜査資料であるという建前があったとしても、必要だと判断すれば、これを公開できる手続きを考え、実行してこそ、意味のある「政治主導」といえる。
問題の大きさは、海上保安庁の情報管理よりも、日本政府の対中国外交の方が遙かに大きい。
政府を批判する立場にある野党や、本来ならば政府をチェックすることが期待されるメディアは、今回の問題を、海上保安庁や同庁を管轄する国交省の情報管理の問題に矮小化することは不適切だ。端的にいって、馬淵国交相の責任など問うてもつまらない。自民党をはじめとする野党は、もっと適切にターゲットを絞るべきだろう。
先の経緯が本当なら、仙谷官房長官と前原外相の責任が問われるべきだろうし、これだけの問題になれば、菅首相にも責任がないとはいえない。船長の逮捕、釈放、対中交渉といった一連のプロセスについて、菅内閣は説明責任を果たすべきだ。
自由貿易のバス」に乗り遅れた政治の機能不全ぶり!
2010年11月16日 DIAMOND online 真壁昭夫 [信州大学教授]
最近、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に関する議論が白熱している。わが国の将来に大きな影響を与える重要な問題について、様々な意見を持った人が議論を戦わせることは、悪いことではない。
しかし、TPPについて無視できない懸念がある。先日政府は、農業分野を含めた原則関税撤廃を目指す協議開始の基本方針を閣議決定したが、現在の民主党政権がしっかりした政治のリーダーシップを発揮して、明確な解決策を国民に示すことは、難しいと言わざるを得ない。
ひとことで言えば、現政権にこの問題に対峙する十分な能力があるとは考えにくいのである。
この問題については、おそらく積極推進派の産業界と、絶対反対を唱える農業関係者の狭間で、しっかりした方針を打ち出すことができず、うやむやのうちに何らかの妥協案で落ち着く可能性が高い。
国内の議論が迷走を続けている間、世界の趨勢は自由貿易の方向に向かっている。その流れに乗り遅れ始めているわが国は、今回のチャンスを逃すと取り返しのつかないほどのハンディキャップを背負うことになりかねない。
国内の農業改革を先送りする一方、産業界の競走力をすり減らす。その結果、わが国は徐々に国力を落とし、世界の一流国からドロップアウトする。そうした「悲観的なシナリオ」が、現実味を帯びてくる。
政府にTPPに対峙する能力はあるか?
「自由貿易のバス」に乗り遅れてはならない!
現在、情報・通信技術の発達によって、世界経済のグローバル化は一段と加速し、物理的な国境の垣根は著しく低下している。そうした流れに呼応して、世界の主要国は貿易の自由化の流れを促進している。
貿易自由化によって享受できるメリットの方が、それによって起きる国内産業へのデメリットなどよりも大きいと認識されているからだ。
わが国の経済は、工業品の原材料などを海外から輸入し、それを加工して技術集約度の高い部材や完成品にして海外に輸出するという、基本構造を持っている。その基本構造を勘案すると、自由に海外から様々なものを輸入できる一方、製品を低コストで輸出できることは、経済全体にとって大きなメリットがあるはずだ。
問題は、賃金水準の高い先進国に共通する農業部門だ。海外から安価な農業製品が入ってくると、高コスト構造の農業部門が耐えられなくなる。
特にわが国では、伝統的に農業部門に対する保護政策が定着しており、TPP参加によって、国内の農家の多くが淘汰されることが、大きな懸念材料になっている。いまだ農業部門からの反対意見は強力で、民主党政権内にも根強い反対意見がある。
わが国経済全体から考えると、自由貿易のバスに乗り遅れることは得策でないことは、論を待たない。バスに乗り遅れることは、わが国の経済的な衰退を加速することも考えられる。
問題は、いかにして農業関係者から出ている問題を解決するかにかかっている。短期的には、農業保障制度を作って、農家が淘汰されることを避けつつ、時間をかけて農家が生き残れる状況を作ること、つまり「農業改革」が必要だ。
「一票の重み」が重い農村が保護され、農業改革が先送りされてきた構造的な問題!
従来、わが国の政治は、農業部門を重要な票田と認識してきた。政権担当政党は、「一票の重」みが軽い都市部から様々な名目で税を徴収し、それを「一票の重み」が重い農村部に、補助金などの名目で所得移転をしてきた。
そして農村部は、その見返りとして、選挙時に「政権政党への投票」という格好で報いてきた。それが、長期にわたる自民党政権を維持するメカニズムの1つにもなっていた。
その間、従来の事業者の減少などもあり、わが国の農業の競争力は低下した。政策当局は、競争力が低下した農業を維持するために、高率の輸入関税の実施や補助金などによって農家が淘汰されることを、回避する政策を採った。
そのため、わが国の農業は多くの分野で国際競争力を失う結果になった。つまり、一時の痛みを覚悟してでも農業分野を改革する努力を、怠ってきたのである。
農林水産省などにぶら下がる格好で、様々な組織ができ上がっており、そうした組織が大規模な既得権益層を形成していることも明らかだ。彼らは、ゆくゆく貿易自由化による関税の撤廃などによって、既得権益を失うことを恐れており、そう簡単に自由貿易のバスに乗ることを認めることはないだろう。
既得権益層との調整をいかに行なうか?農業従事者も口にする「農業改革」の必要性!
しかし農業従事者の中にも、少数だが「今回のTPPをきっかけに、わが国の農業のあり方を変えたい」との意見もある。それらの人々を糾合して、わが国が長い目で見て生き残れる、新しい農業を作ることが必要だ。
ある農業従事者は、「仮にTPPが流れても、今のままでは日本の農業は10年持たないかもしれない」と指摘していた。彼によれば、高品質のブランドを作るなど、農業分野にも工夫の余地はいくらでもあるという。それを実践することが、まさに農業改革だ。
わが国の農業を変える必要性については、おそらく多くの人の賛同を得ることができるだろう。その一方で、一部の稲作や畜産農家、さらには既得権益層などからの反対が強いことも間違いない。
それらの意見を聞き、調整を行ない、さらに必要な施策を講じたうえで、将来わが国が進むべき方向を国民に示すことが、本来政治に求められる役割(機能)である。
現政権の政策運営ぶりを見る限り、明確な方針が出される可能性は低い?
しかし残念だが、わが国の場合、目下その政治の機能に大きな期待を持つことができない。長期間続いた自民党政権下でも、農業に関する大規模な改革を行なうことはできなかった。
現在の民主党政権の政策運営ぶりを見ていると、今回のTPPに関しても明確な政策方針が打ち出される可能性は低いだろう。仮に、口では自由貿易推進を唱えたとしても、本格的にそれが結実することは考えにくい。
かつてわが国の経済が元気で、高成長を遂げている間は、それでも何とかなった。強力な経済力によって、国民の間にも希望があり、人々は「生活水準の向上」という目に見えるベネフィットを手にすることができた。
強い経済力がバックにあったため、国際的な地位が上昇し、外交能力は稚拙でも、それなりの政治的な発言力も維持することができた。「経済一流、政治三流」でもよかったのである。
ところが、現在のわが国の経済は安定成長期に入り、人口減少・少子高齢化という問題にぶつかっている。こうしたときこそ、政治のリーダーシップによる調整機能が求められるのだが、わが国にはそれがないのである。
今回のTPPにしても、現在の民主党政権がわが国の将来の基礎を作ってくれるとは、考えにくい。とはいえ、あまり悲観的であっても何も生まれない。少なくとも、世論形成をするぐらいの気概は持ちたいものだ。
「小泉マジック」に学び政調会に歳出削減策を出させよ !
玄葉光一郎
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%84%E8%91%89%E5%85%89%E4%B8%80%E9%83%8E
2010年11月16日 DIAMOND online 上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授]
菅直人政権が、「事業仕分け」第3弾と、2011年度予算の「元気な日本復活特別枠」配分を決める「政策コンテスト」に取り組んでいる。「政治主導」による予算編成を目指すものだが、その手法の限界が見えてきている。
「事業仕分け」の限界
「事業仕分け」第3弾では、天下りや無駄な事業を生む土壌になっていると指摘されてきた「特別会計(特会)」が仕分け対象となった。国土交通省所管の「社会資本整備事業特会」、経済産業省所管の「貿易再保険特会」、厚生労働省所管の「労働保険特会」などの「廃止」や「漁船再保険及び漁業共済保険特会」など農林水産省所管3特会の「統合」などが次々と決定した。
しかし、特会を「廃止」して一般会計に戻しても、その事業そのものが廃止されるわけではない。例えば、貿易再保険特会を廃止しても、実質的には独立行政法人「日本貿易保険」が業務を行っている。農水省の3特会統合も中の勘定が別なら実際は同じである。
また、蓮舫行政刷新相は「目標金額は示さない」として、仕分けの主眼が財源捻出よりも特会の透明性確保にあることを強調している。仕分けの予算削減効果は限定されているからだ。例えば、昨年11月の事業仕分け第1弾では、予算削減効果はわずか7000億円程度であった。
官僚はさまざまな手を使って予算を復活させている。「廃止」や「見直し」の判定を受けながら別名称で事業を続けたり、廃止された複数の事業を統合して予算を増額要求したり、判定で示された予算の縮減幅を小さくしたり、廃止時期を延長して事業を存続させたりしている。
実際、来年度予算要求では、厚労省の「健康増進対策費」、外務省の「日本国際問題研究所補助金」、総務省の「宝くじの販売促進・普及宣伝事業」、厚労省の「女性と仕事総合支援事業」など仕分けで廃止と決定された事業が、名前を変えてゾンビのようにゾロゾロと復活しているのだ。行政刷新会議は、特会の仕分けと別に、これらの「再仕分け」を実施するが、どれだけ官僚の抵抗を排除できるかは不透明だ。
「政策コンテスト」の限界
菅政権はムダ削減の一方で、新成長戦略などへの予算の重点配分のために「元気な日本復活特別枠」(1.3兆円規模)を設けた。この特別枠には各省から「主要都市間の高規格幹線道路整備」「高速道路無料化」(国交省)、「在日米軍駐留経費負担」(防衛省)、「小学1、2年生の35人学級実現」(文科省)、「農業戸別所得補償」(農水省)などを含む189事業(総額2.9兆円)の要望が提出されている。
これらを絞り込むために、政務三役が要望の説明を行い、玄葉光一郎国家戦略担当相を議長として評価する「政策コンテスト」が公開ヒアリング方式で行われた。ヒアリングはインターネット上で公開し予算編成の透明化と「政治主導の演出」を図る狙いがある。
しかし、ヒアリングで各省に割り当てられた持ち時間はわずか30~45分。政策の効果などについて深い議論ができたとは言えない。与党内からは「単なるパフォーマンス」との批判も出てきた。復活した民主党政務調査会では、個別利益を要求する「族議員」の声が強まる(第54回参照のこと)。この特別枠を巡る争奪戦も激しさを増すだろう。結局、省庁や族議員を抑えられず、最終的に財務省が仕切ることになるとの見方がある。
「抵抗勢力」政調会に歳出削減策を立案させた
「小泉マジック」に学べ
この連載では、玄葉光一郎政調会長が国家戦略相を兼務することで、むしろ族議員を抑えるのは難しくなり、「政治主導」は困難に陥ると指摘した(第58回参照のこと)。しかし、玄葉政調会長には参考にすべき格好の事例がある。小泉純一郎政権が最終の年(2006年)に取り組んだ歳出削減策だ。
2005年、衆院総選挙の地滑り的大勝利で、小泉政権は郵政民営化を実現した。自民党内の「抵抗勢力」の一掃に成功した小泉首相(当時)は、内閣改造・党役員人事で経済財政相に与謝野馨氏、政調会長に腹心の中川秀直氏を起用し、経済財政諮問会議と自民党が一体となって動く政策立案システムの構築を目指した。
一般的に小泉首相は「官邸主導」体制構築を目指したとされる。しかし、実は「官邸主導」は小泉首相にとって、あくまで「構造改革」を実現するための「手段」に過ぎなかった。小泉首相が究極的に目指していたのは、政調会の主流が改革派となり、それを首相が掌握する政策決定メカニズムの実現であった。
そして、小泉首相は歳出削減策の立案を自民党政調会に命じた。族議員の温床である政調会は、それまで予算を「要求」しても、その「削減」に取り組んだことはなかった。小泉首相は族議員の政調会への影響力が雲散霧消したことを好機とみて、前代未聞の「マジック」を繰り出したのだ。
中川政調会長は政調会に「歳出改革プロジェクトチーム」を発足させた。各政策分野の責任者(主査)には「族ボス」以外の政調副会長の面々を任命し、各分野別会合メンバーは各部会長や各省の副大臣・政務官を起用した。歳出削減決定のプロセスに、なるべく多くの自民党議員を参加させ、取り込むことが狙いだ。そして、最終的な意思決定は、従来のボトムアップではなく、中川政調会長、甘利政調会長代理、伊藤達也政調会長補佐と主査のトップダウンで進める形にした。
歳出削減プロジェクトチームは、2ヵ月に渡り、5つの分野別会合だけで合計63回の議論を行った。自民党内からは参議院を中心に死に物狂いの抵抗が起こったが、中川政調会長はそれらを拒絶した。
結局、小泉政権最終年度の「骨太の改革2006」には、11.4兆円~14.3兆円の歳出削減策が盛り込まれた。小泉首相は「財政改革は財務省だけじゃできなかった。諮問会議だけでもできなかった。党も巻き込まなければできなかった」と絶賛した。
玄葉政調会長は、族議員化が進む民主党政調会を改革勢力に変えるために、「小泉マジック」を参考にすべきだ。少数のパフォーマーによる「政治主導」演出の限界を自覚し、より多くの議員が改革に参加する仕組みを作り上げることに、玄葉政調会長は「政治力」を発揮すべきである。
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