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世界に1000万人。富裕層は“日本”をまだ知らない!
2009年2月3日(火)日経ビジネス ジェネックスパートナーズ
世界中で10万人が、年間1億円以上を旅行に使っている!
ラストエンペラーの舞台である紫禁城にあった、懐中時計と柱時計。この「皇帝が愛した時計」は、180年余の歴史を誇るスイスの時計メーカー「BOVET(ボヴェ)」によるものである。ボヴェの時計の大部分はマスターピース、つまりオーダー品。いわゆる高級ブランドである。
このボヴェには、加賀蒔絵を施した時計もある。中でも、2003年の新作発表会に出品された「風神雷神」モデルが有名だが、これ以外にも、世界の富裕層や愛好家からの製作依頼があり、1年待ちも当たり前のようだ。1本数百万円から数千万という時計を待ち望む人々が、世界には存在するのである。
2008年6月に発表されたメリルリンチとキャップジェミニが発表した「World Wealth Report 2008」によれば、2007年度の世界の富裕層全体が保有する総資産は40兆7000億ドルにものぼり、金融資産100万ドル以上を保有する個人資産家は、1010万人となっている。
融危機の影響を受けている現時点での最新状況はわからないが、いずれにしても、日本が目標とする訪日外国人旅行者数1000万人を超える富裕層が世界中にいることになるのである。
また、経済産業省・国土交通省の平成18年度ラグジュアリー・トラベルマーケット調査事業による「日本における今後のラグジュアリー・トラベルマーケットの在り方に関する調査研究<報告書>」によれば、アメリカ、ヨーロッパを中心としたラグジュアリー・トラベルマーケットには、レジャー目的の旅行に年間1億円以上を投じる富裕層が、なんと、10万人以上存在するといわれている。
この10万人について単純計算しただけでも、その経済規模は、最低10兆円を超える。この10万人のわずか5%でも日本に振り向けることができれば、新たに5000億円のマーケットが生まれることになるのだ。
カンヌ映画祭の会場で行われたジャパンナイト!
この新たな可能性に着目した経済産業省と観光庁は、新たに調査や推進活動を開始している。
毎年フランス カンヌで開催される、「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット(ILTM)」。主催者によって厳選された、世界の富裕層旅行のバイヤーやサプライヤーが一堂に会する商談会であり、世界で最も権威があると認知されているイベントである。
2007年12月、日本は、このILTMの公式オープニングパーティを、「ジャパンナイト」として開催した。京都や金沢を中心に、日本の「本物」の歴史・文化・伝統を体験するイベントを、カンヌ国際映画祭の公式パーティ会場でもある場所で行ったのである。
あでやかな歌舞伎衣装や蒔絵の展示、日本料理のデモンストレーション、ウェルカムドリンクとしての抹茶でのもてなし等々、和の魅力を発信するジャパンナイトは、多くの外国人バイヤーを魅了した。
そして2008年には、経済産業省を中心にラグジュアリー・トラベル国内ネットワーク化研究会が始動。10月には、海外のバイヤーを招待して、「ジャパン・ラグジュアリー・トラベル・フォーラム(JLTF)」も開催した。
前出の平成18年度実施の調査では、日本のラグジュアリー・トラベルの取り組みにおいて、2つの課題が浮かび上がっていた。1つは、海外バイヤーにほとんど日本の情報が届いていない、という点であり、もう1つは、国内の受入体制が十分に整っていない点である。
そもそも、海外への情報発信が不十分であることについては、それまでも訪日観光客の誘客において度々指摘されていた。ましてや、日本人でさえ、何が本物で、そこにたどり着くためにはどこにどうすれば良いのか、知る人の少ない伝統文化が対象のため、情報発信はさらに難しい。
かといって、安易な情報発信は、その「本物の価値」を損なうことにも繋がりかねない。いかに、その精神性の高さや伝統の重みを伝えることができるのか、この「見せ方」も重要なのだ。
一方、伝統工芸などのコンテンツの多くは、門外不出という閉じられた世界にある。その閉じられた世界と、海外の富裕層を結びつけるコーディネーターが、日本にはほとんど存在していない。また、たとえ結び付けられたとしても、訪日した顧客に対して、歴史や地理的な背景等、高いレベルの知識を土台にして、的確に説明できるガイドは極めて少ない。
ILTMでのジャパンナイトやJLTFの開催は、1つ目の課題であった情報発信の取り組みだ。そして、2つ目のネットワークについても、来年度の実証実験を睨んで準備が進められている。とはいえ、まだまだ、始まったばかり、というのが、ラグジュアリー・トラベルへの取り組みの実際なのである。
こだわりとポリシーを持つ顧客!
そもそも、ラグジュアリー・トラベルの顧客とは、どういう人々なのだろうか。
富裕層と一口に言っても、ロイヤルファミリーや代々の資産家、大企業の幹部、芸能界関係者、IPO長者と幅広い。富裕層は国を問わず全世界に存在しているが、旅行に大金を投じるのは、欧米、ロシア、香港に多いという。
こういった富裕層に共通するのは、「知的欲求の高さ」である。ある人は、彼らを「思ったことを、実行できる人々」と表現していたが、まさに持てる資産の力によって、望むことを追求することができる人々、これがラグジュアリー・トラベルの顧客なのである。
それゆえ、必ずしも「高価格」であれば良い、というのではない。一般の観光客には成しえない体験、通常では出会うことができない人物との邂逅こそが、彼らの求めるものであり、それらはすべて「本物」でなければならない。茶道体験を一例にとっても、家元の点てたお茶を正式な茶室で味わうことを、彼らは望むのだ。
富裕層が1回の旅行で消費する額について、正確な統計は存在していないが、1回の訪日旅行で7000万円を消費した例もあるという。投宿するホテルの宴会場で歌舞伎を再現したり、本物のクジャク2羽を妻の誕生日プレゼントとして用意したり、と富裕層はそのこだわりに対してお金を惜しまない。
一方で、納得のできない支払いに対して厳しいという一面も持っている。ある意味で、お金の使い方について、明確なポリシーを持つ人々なのである。
こういった、目も舌も肥えた富裕層の多種多様な要望に応える「プライベート・コンシェルジュ・サービス」と呼ばれる会員制クラブが、欧米では活況を呈している。コンシェルジュたちは、特別な旅行だけでなく、ショッピング、芸術、イベント、不動産など、富裕層のライフスタイル全般の要望に的確に応えることを常としている。
さらに、北米・南米・オーストラリアでは、Virtuoso(ヴァルトュオーソ)という富裕層専門の旅行会社、コンサルタントのアソシエーションが存在している。
富裕層の多くは、富裕層同士のクチコミを除けば、自らの手を労して情報を集め、旅の手配をしたがらない。つまり、こういったコンシェルジュやVirtuosoのメンバーこそが、実際には日本のラグジュアリー・トラベルにおける重要なプレーヤーとなるのだ。
欠くことのできないコンテンツホルダーの存在!
一方、顧客が存在していたとしても、こういった富裕層が求める「本物」を提供できるコンテンツホルダーの存在なくして、ラグジュアリー・トラベルは成立しない。それゆえ、彼らこそが、日本国内においては、最も重要なプレーヤーとなる。
このようなコンテンツホルダーも、実は、海外富裕層を受け入れたいと考えている。経済的な効果もさることながら、本物を志向する富裕層に、今まで守り続けてきた本物の伝統や文化を伝え、魅了したい、という思いが強いのだ。結果的に富裕層によって再評価され、経済性が担保されることによって、保存・育成される日本の伝統文化は少なくない。
例えば、伝統芸能のひとつである津軽三味線。この奏者で、通常の公演だけで生活が営めるのは、ほんの一握りである。しかし、顧客を海外の富裕層に拡大することによって、新たな経済的効果を得ることが可能になる。津軽三味線と会席料理などを組み合わせたイベントは、評価も高い。経済的な効果だけでなく、演奏を観客から評価されることは、奏者の喜びでもあり、継承者としての誇りにも繋がる。ラグジュアリー・トラベルが、後継者不足を解消する手段となる可能性は高いのだ。
コンテンツホルダーは、伝統芸能や伝統工芸、老舗旅館など、日本古来の「本物」を綿々と守り続けてきた人々だけでない。日本を代表するサブカルチャーやファッションを牽引する人々も含まれる。例えば、ベッカムなど欧米人のファンも多いア・ベイシング・エイプのNIGOこと長尾氏もその一人なのである。
顧客とコンテンツホルダーを繋ぐ人々!
このような顧客と、コンテンツホルダーを繋ぐ役割として、日本にも、数は少ないが、富裕層向けの旅行に取り組む企業がある。
世界40数カ国でコンシェルジュサービスを展開しているクィンテセンシャリーや、富裕層向けの特別な旅をアレンジするジェットセッター、世界に向かって日本の旅館の素晴らしさを発信するアール・プロジェクト・インコーポレイテッド、日本の伝統芸能を発信しているオーセンティック・ジャパン、そして、世界最大の旅行会社であるJTBグループの中にあるブティックJTBなどである。
それぞれ、着々と実績を上げているが、年間の顧客数は多くない。まだ日本を訪れるラグジュアリー・トラベルの顧客が少ないこともあるが、移動手段や食事、ホテルに設置するワインの銘柄、アメニティの種類に至るまで、1組のラグジュアリー・トラベルの顧客の受け入れには膨大な手間がかかり、かつ、すべてがオーダーメイドのため、1企業で対応できる顧客数は自ずと限られてしまう。
ならば担い手を増やせば良い、と考えがちであるが、ラグジュアリー・トラベルは、誰にでも参入できる領域ではない。なぜなら、コンテンツホルダーと同様に、富裕層のネットワークも信頼を第一とする閉じた世界であるからだ。
豊富なコンテンツを活かしきる!
ラグジュアリー・トラベルには、ここまで述べた、経済効果と伝統文化の保存・育成に加え、もう1つの効用がある。それは「インフルエンサー効果」だ。
一世風靡したビリーズ・ブートキャンプは、有名芸能人にファンが多く、トーク番組などで話題にされたことから急拡大した。その勢いはすさまじく、1万セット販売できれば成功と言われる通信販売において、全世界で1000万セット以上を売り上げたのである。
このように、富裕層や芸能人など影響力を持つ人々から火がつき、広い裾野に向かって急速に広がっていく現象、これが、インフルエンサー効果だ。この効果は、個別の商品やサービスに限らず、旅行においても起きている。
直接的な経済効果、伝統文化の保存・育成、そしてインフルエンサー効果による波及、と魅力溢れるラグジュアリー・トラベル。当然のことながら、各国の戦いは、一般観光客を対象にしたそれとは比較にならないほど熾烈である。
日本には、伝統工芸や伝統芸能のみならず、精神性の高い文化が数多く存在している。また、飛鳥時代から綿々と続く世界最古の老舗企業をはじめ、1000年を超えて生き続ける老舗の数は、世界に類を見ないほど多い。コンテンツの豊富さにおいて、世界の中で十分に勝てる国だと言っても過言ではないのだ。
こういったコンテンツを新たに作り出すのは、極めて難しい。しかし、存在するコンテンツを最大限に活用するための仕組みを作り上げることは、これからでも可能だ。そう言った意味で、ラグジュアリー・トラベルにおいて日本は有利なのである。あとは、豊富なコンテンツを最大限に活かす仕組みを整えることさえできれば、ラグジュアリー・トラベルにおいて大きく躍進できる可能性は、非常に高い。
ジャパンブランドを追え! では、どう整えれば良いのだろうか。
端的に言ってしまえば、「コンテンツを評価・再定義」し、「コンテンツと顧客を結びつけ」、「顧客の期待値をコントロール」した上で迎え入れ、「質の高いサービスを提供」し、帰国後に「アフターフォロー」する、というプロセスが断絶せず、かつ、それぞれのプロセスで得た顧客の声がコンテンツ評価などに反映されるようにすることである
このプロセスには、立場も価値観も異なる多様なプレーヤーが絡み合う。だからと言って、バラバラに動いていては、断絶が発生するだけに止まらず、致命傷を負いかねない。
今も、日本全国のあらゆる地域が、海外に向かってバラバラに働きかけている。実際に、ある海外の旅行会社は、分刻みで日本の各地域の人々が次々と訪れていて忙殺されている、という。この「一つにまとまらない」状態は、ラグジュアリー・トラベルでは致命傷になるのだ。
顧客は、日本と他国を比較しているのであって、日本国内の地域を比較しているのではない。また、複数のプレーヤーがチグハグなことを説明すれば、それは不信感に繋がる。だからこそ、「ジャパンブランド」とは何か、それをどう戦略的に売っていくのか、日本という国が1つになって考え、実行していかなければならないのだ。
勝者の条件!
ラグジュアリー・トラベルにおける勝者となるためには、育成・強化すべき機能が3つあると我々は考えている。それは、「コンテンツ集約機能の育成・強化」、「コンシェルジュ機能の育成・強化」、そして「サービスレベルの向上」である。
(1) コンテンツ集約機能の育成・強化!
コンテンツホルダーのネットワークは、すでにいくつか存在している。長い歴史の中で作り上げられた、同じ価値観を持つ人たちが集まったネットワークである。このネットワークと接点を持つには、紹介する人との信頼関係が不可欠となる。つまり、簡単には手の届かないネットワークなのだ。
そして、たとえリーチできたとしても、それが本当に価値あるものなのか、厳密に評価し、よりすぐったコンテンツだけを「売り物」としなければならない。売りたいものを売る、という従来の観光によく見られがちな「手前味噌」は、ラグジュアリー・トラベルにおいては、あってはならないのだ。
さらに、どんなに素晴らしいコンテンツであったとしても、一度見たり体験したりしたものは、多くの場合、顧客にとって魅力のないものになってしまう。また、情報が広く開示されたり、一般顧客でも手が届くようになった商品やサービスは、富裕層を魅了しない。それゆえ、すでに発掘されたコンテンツを磨き上げるのと同時に、常に新たなコンテンツを追加して行かなければならない。そして、ただ追加するだけでなく、顧客を次の訪日に誘導すべく、有機的に結び付けていく必要があるのだ。
顧客のこだわりや興味の方向性に合わせて、宗教的なつながりや、技巧、自然風土のつながりなど、その商品やサービスに隠されている文脈を意識しながらコンテンツを評価し、発信していかなければならないのである。
(2) コンシェルジュ機能の育成・強化!
ラグジュアリー・トラベルにおいて、ほぼすべてのプロセスに関与するだけでなく、顧客に最も近い存在、それがコンシェルジュである。コンシェルジュというのは、海外バイヤーからも、コンテンツホルダーからも、そして中間業者同士においても、大きな信頼を獲得していなければ、役割を果たすことはできない。
コンシェルジュ機能は、大きく3つに分かれる。まず、顧客とコンテンツを効果的に結び付けるマッチング機能。2つ目は、顧客の期待値をコントロールする機能、そして最後は、アフターフォロー機能である。いずれも重要な機能であるが、顧客満足という点で、コンシェルジュに欠かすことができないのが、顧客の期待値コントロール機能である。
どんなに価値あるコンテンツであったとしても、期待値を下回ってしまえば顧客から評価されない。また、顧客に対して厳守してもらわなければならない文化的背景を持つ制約条件なども、事前に十分な理解を得ておく必要がある。
富裕層は、「本物の文化」に対して敬意を表する。富裕層、と聞いて、傍若無人な振る舞いを想像する向きもあろうが、その背景や理由に納得すれば、多くの決まりごとにも彼らは真摯に従ってくれる。つまり、この「事前の心構え」をどの程度形成できるのか、がコンシェルジュの腕の見せ所とも言えるのだ。
このように、ラグジュアリー・トラベルに欠かすことのできないコンシェルジュ機能だが、残念ながら、非常に乏しいのが現在の日本である。確かに、その性格上育成が難しい、という理由もあるが、もう一つ大きな理由がある。それは、本来の役割以外のコーディネイトまで、すべてコンシェルジュに委ねられているという現実だ。
観光領域の様々なエージェントが、それぞれ得意とするコーディネイト機能を発揮し、互いに連携しなければ、コンシェルジュは本来の機能に専念できない。それゆえ、コンシェルジュ自身の育成と同時に、それぞれのエージェントが十分にその役割を果たすことが、何より必要なのである。
(3) サービスレベルの向上!
たとえ、どんなにコンテンツが充実したとしても、顧客と直接的な接点を持つ人々いかんで、顧客の日本に対する評価は大きく変わる。その主役は、通訳ガイドであり、宿泊施設であり、そして外食産業と言ったサービス提供者である。
サービスレベルの向上において、通訳ガイドの果たす役割は大きい。コンテンツを、より価値あるものにできるか否かが、通訳ガイドにかかっているからだ。それゆえ、歴史の教科書やガイド教本などに掲載されている事柄だけでなく、コンテンツそのものは当然のこと、その周辺に至る、広く深い知識が求められる。
例えば築地市場で、ただ「商品には触ってはいけない」「フラッシュ禁止」と伝えるだけではなく、なぜ触れてはいけないのか、なぜフラッシュ厳禁なのか、を説明しなければならない。加えて「もし自分がマグロ漁師なら、自分の取り分はどれくらいになるのか」「マグロはいつ頃から、どんな風に食べられていたのか」など個別の疑問も解消しなければならないのだ。
一方、宿泊施設や外食産業にもまた、大きな課題がある。それは、文化的理由ではなく、習慣や提供者側の都合で、顧客の要求に応えない点である。
例えば、茶器を傷つけるため貴金属を身につけてはいけない、といった制約は、文化的背景があり、決して妥協すべきものではない。しかし、飛行機の都合で深夜に到着する顧客から夜食を求められ、それを断固として拒否する、というのは、文化でも何でもなく、単に提供者側の都合や面子に過ぎない。
「ありのままの、おもてなし」は重要である。しかし、その中でも、日本古来の文化と提供者の習慣を区別し、習慣について譲歩できる部分は譲歩する。この柔軟な「おもてなし」こそが、サービスレベルを向上させるのではないだろうか。
門戸開放がラグジュアリー・トラベル成功の鍵!
経済環境が世界的に混乱している現在も、富裕層の訪日旅行にさしたる影響は出ていない、と語る関係者も少なくない。たとえプライベートジェットをファーストクラスに変更したとしても、その先にある「やりたいこと」をガマンしないのが彼ら富裕層の流儀だからだ、と多くの関係者が語っていた。
一方、もともと知られていない、訪れた人も少ない日本は、始めから旅行先の候補に入っていないからだ、と指摘する関係者もいる。訪日観光誘致、とりわけラグジュアリー・トラベルにおいて、日本はようやく名乗りを上げた程度に過ぎない。すべては、これからなのだ。
日本がラグジュアリー・トラベル大国として成長していくためには、まずはコンテンツホルダーをはじめとするプレーヤーたちが、門戸を開かなければ始まらない。まさに、「開国ニッポン」が求められているのである。
2010/12/15(水)サーチナ
日本の菅直人首相は先日、朝鮮半島有事の際に、日本政府が自衛隊を派遣して韓国に在留する日本人を救援することを検討していると述べた。菅首相のこの発言の後、韓国国民からはすぐに「菅首相は朝鮮半島の緊張に乗じて、どさくさに紛れて利益を上げようとしている」との声が上がった。中国網(チャイナネット)日本語版が報じた。
仙谷由人官房長官は13日、火消しに乗り出し、「何も知らないし、まったく検討されていない」と、韓国への自衛隊派遣を否定。韓国メディアはあいいで菅首相の「韓国への自衛隊派遣」発言を批判した。『韓国時報』は、菅首相のこういった発言は軽率かつ厚顔無恥で、朝鮮半島の緊張に拍車をかけることにもなるとしたほか、韓国のニュースサイト『COOKY』は、「有事の際でも、かつて朝鮮半島を蹂躙(じゅうりん)した日本兵が再び韓国の領土に踏み入ることなど考えられない」と批判した。
『韓民族新聞』は、延坪島事件の後に朝鮮半島の情勢は緊張状態にあるというのに、隣国の首相はこのような発言をし、日本が朝鮮半島の災難に乗じて私腹を肥やそうとしている態度が表れていると論じた。『韓国日報』は、日本の内閣支持率は6月の70%から近ごろ25%まで下がり、「韓国への自衛隊派遣」は菅首相が保守派の心を一つにするために行った「政治のパフォーマンス」だと見ている。
韓中民間外交協会の李東鉄会長はメディアに対し、「朝鮮半島の危機と矛盾は、日本が平和憲法を改正できる口実を作った。朝鮮戦争のときのように、朝鮮半島での危機で、日本は経済的な利益を得る可能性がある」と述べ、朝鮮半島有事の際に日本が悪い働きかけをする可能性が高いとの見方を示した。
沖縄大学の劉剛教授は取材に対し、「朝鮮半島で大きな衝突があれば、朝鮮と韓国は直接的な災難を被り、米国と中国も損失を受けるが、日本は利益を上げるだろう。日本の多くの戦略家がはっきり述べていない『天機』を菅首相は我慢できずに話してしまっただけにすぎない」と語った。
(編集担当:米原裕子)
*中国外交部、菅首相の「半島有事に自衛隊派遣」発言に不快感!
中国外交部の姜瑜報道副局長は14日、定例記者会見で、菅直人首相による朝鮮半島有事の際の自衛隊派遣に対して言及し、「日本は軍事面において、もっとアジア諸国の感情に配慮し、慎重に行動すべきだ」と発言に不快感を示した。
姜報道副局長は、北朝鮮が朝鮮半島で核戦争を起こす可能性や、「日本は朝鮮半島有事の際、自衛隊を派遣して朝鮮半島内の日本人救出を試みる」とした日本の菅直人首相の発言などに対する記者からの質問に、「朝鮮半島の情勢悪化はいかなる方面にとっても利益とならない。関係諸国は冷静に対処すべき」と回答し、中国も有益な対話実現に向け、努力する方針を示した。
一方、菅首相の発言については、「中国国内の関連報道や、韓国国内の反応を注視する」と述べるにとどまったが、「歴史的背景も含め、日本は軍事面でもっとアジア諸国の感情に配慮し、慎重に考慮すべきだ」と不快感を示した。
(編集担当:金田知子)
*【韓国ブログ】菅首相の自衛隊派遣発言にブロガーたちは怒りの発言!
菅直人首相が朝鮮半島有事の際、在韓邦人救出のため自衛隊による現地派遣を検討するとの発言が、韓国で大きな波紋を広げた。韓国メディアは「私たちは『自衛隊朝鮮半島派遣』発言を聞き流してはいけない」、「韓国人の感情を無視した浅はかな発言」などと批判的に報じた。
韓国人ブロガーのラウレンシオ(ハンドルネーム)さんは、菅首相の発言を「今年、もっともあきれた、利己的な意見」と批判した。筆者は第二次世界大戦当時、日本は生体実験や従軍慰安婦など、侵略した周辺地域で残酷(ざんこく)な行為を繰り返したと主張。「その行為を指示したのはまさに大日本帝国であり、その象徴は『旭日旗(きょくじつき)』だ」と述べ、旭日旗に対してデリケートな反応を示した。
「ハーケンクロイツはドイツをはじめヨーロッパで厳しく規制されているが、日本の軍国主義の象徴とも言える旭日旗はどうか?」とナチスが党旗に使用したハーケンクロイツとを比較し、「旭日旗は韓国や中国など、日本に占領された国では当然タブーだが、日本はいまだに海上自衛隊や陸軍自衛隊が使用している」と指摘。旭日旗を使用する自衛隊の朝鮮半島派遣は、絶対にあり得ないことだと論じた。
Dimones(ハンドルネーム)さんも、自衛隊の派遣に反対する。「第2の朝鮮戦争が起きた場合、戦争にかかわった国は勝利した際の戦利品を狙うだろう。戦利品を受け取るためにも軍隊派遣は必須であり、菅首相による自衛隊派遣発言もそのような脈絡から出たものだろう」と述べる。「もし第2の朝鮮戦争が起きたら日本は何を狙うのか」とし、竹島(韓国名:独島)を約束するのではないかと心配そうに述べた。
(編集担当:新川悠)
*半島緊迫化で思う、一人っ子政策と中国軍の構成及び戦闘力!
11月23日、韓国と北朝鮮の間で砲撃事件が発生、韓国の延坪島(ヨンピョンド)の家屋が燃え、韓国兵士や民間人に死傷者が出た。米韓両国は28日から12月1日まで、黄海での共同軍事演習を実施。朝鮮半島の情勢は緊張し始めている。最近では日米の軍事演習も始まり、史上空前の規模で行われているこの演習では、初めて韓国も合流するとして、東アジアの眼がすべて朝鮮半島に向けられているといっても過言ではない。
中国でも例外ではない。衝突そのもの、米韓、日米(あるいは日米韓)のそれぞれの軍事演習はいずれもトップニュース扱いで報じられている。ここでは、衝突やそこから派生したそのものよりも、中国独自の問題として、今回の一連の問題と中国の人口政策の関わり合いについての中国現地の論調を紹介したい。
中国の人口政策との関わりというのは、こういうことだ。軍事衝突が中国を巻き込むほどのものとなり、大規模な戦争にエスカレートするようなことがあれば、50年代の朝鮮戦争参戦と同様、中国も出兵する可能性は否定できない。そうなると、中国の一人っ子政策は見直しを迫られる可能性が出てくる。一人っ子政策の中国軍事力へのマイナス影響がすぐにも露呈するかもしれないからだ。
もちろん、戦争が発生してから人口政策の見直しを図ってもおそらくは何もかもが間に合わないだろう。ただし、「戦争が発生する」ということを想定すると、現在の中国の人口政策はいかにも有事に不向きであることがはっきりしてくるのは間違いない。
現行の中国の計画出産政策は、農村部では「一人っ子+一人可能政策」で、都市部には「一人っ子政策」であるとも言える。そもそも一人っ子が中心だから、軍隊に行ける若者が相対的に少なくなっているのが一つの問題だ。
農村部では、初めの子が男の子の場合、二番目の子の出産は許可を得られないが、初めの子が女の子の場合には二番目の子の出産は許可を得られる。その結果、農村部の家庭には、一男の家庭、または二女の家庭、または一男一女の家庭という形になって、二男の家庭というのはまれになる。社会保障・年金制度に不安のある中国では老後は子女に頼るのが常識、その中で一男一女の家庭で男の子が軍隊に行くことになると、女の子一人に頼ることになり、それはそれで心細くなる。
さらに、一人っ子の家庭は自分の一人っ子を軍隊に行かせることができるだろうか? 平和の時代は差し支えがないが、まさに戦争になるとちゅうちょなく自分の一人っ子を戦場に行かせることができるだろうか? もし一人っ子が軍隊に行くと誰が家を支えていくのか? 一人っ子はその家のただ一人の後継ぎである。だから一人っ子は軍隊に行かないという伝統がある国は少なくない。中国の状況がいかに異常と言えるか、お分かりだろう。
都市部の家庭は普通一人っ子である。一人っ子である男女二人が結婚すると二人目の子供を産むことができる。しかし、この子供は幼すぎてとても軍隊に行ける年齢ではない。
中国では「超生子」(親が国の人口政策に違反して産んだ子供)がいる。「超生子」を軍隊に行かせばいいでないか、という声も上がってきそうだ。しかし「超生子」は違法であり、「超生子」の親は人口政策の処罰(罰金、社会撫養金を含め)を受けている。大人になった子供が自分の出生によって親が莫大(ばくだい)な「罰金、社会撫養金」を国に納めたと思ったらどんな気分であろうか。私の命は親がお金で国から買い入れたものだから、国が自分を守るべきで、自分が国を守る義務はない、と「超生子」は思うかもしれない。
現実に、中国の軍隊の主体は現在、一人っ子である。2010年3月18日の「南方週報」は「2006年には一人っ子の数は軍隊の半分を上回って、10年前に比べて20%増加した」と報じた。
間違いなく、一人っ子はその家にとって唯一の希望である。そんな一人っ子によって構成された軍隊の戦闘力はどの程度だろうか? 今の段階では断言することはできない。1970年代(中越戦争)以降、中国の軍隊は実戦能力を発揮したことがないからだ。
一人っ子である軍人は情報収集能力と伝達能力、コンピュータ知識などは優秀であるが、過酷な環境への適応性と忍耐性に欠けているのが一般的。彼らの知識と機能は現代戦争にとって必要なものであるが、一人っ子が戦場に行く、一人っ子の親が息子を戦場に行かせる、これらが許容される難度は想像に難くない。一人っ子は絶対に嫌がるはずだ。
以上は決して杞憂(きゆう)とは言えない。中国でも専門家を中心に本気で議論が進められていることだ。朝鮮有事の危機管理をきっかけとして、世界史上例のない人口政策を取っている中国にとっては、そのまま人口問題をも深刻に検討させることになっている。
(編集担当:祝斌)
2010/12/15(水)サーチナ
日本の菅直人首相は先日、朝鮮半島有事の際に、日本政府が自衛隊を派遣して韓国に在留する日本人を救援することを検討していると述べた。菅首相のこの発言の後、韓国国民からはすぐに「菅首相は朝鮮半島の緊張に乗じて、どさくさに紛れて利益を上げようとしている」との声が上がった。中国網(チャイナネット)日本語版が報じた。
仙谷由人官房長官は13日、火消しに乗り出し、「何も知らないし、まったく検討されていない」と、韓国への自衛隊派遣を否定。韓国メディアはあいいで菅首相の「韓国への自衛隊派遣」発言を批判した。『韓国時報』は、菅首相のこういった発言は軽率かつ厚顔無恥で、朝鮮半島の緊張に拍車をかけることにもなるとしたほか、韓国のニュースサイト『COOKY』は、「有事の際でも、かつて朝鮮半島を蹂躙(じゅうりん)した日本兵が再び韓国の領土に踏み入ることなど考えられない」と批判した。
『韓民族新聞』は、延坪島事件の後に朝鮮半島の情勢は緊張状態にあるというのに、隣国の首相はこのような発言をし、日本が朝鮮半島の災難に乗じて私腹を肥やそうとしている態度が表れていると論じた。『韓国日報』は、日本の内閣支持率は6月の70%から近ごろ25%まで下がり、「韓国への自衛隊派遣」は菅首相が保守派の心を一つにするために行った「政治のパフォーマンス」だと見ている。
韓中民間外交協会の李東鉄会長はメディアに対し、「朝鮮半島の危機と矛盾は、日本が平和憲法を改正できる口実を作った。朝鮮戦争のときのように、朝鮮半島での危機で、日本は経済的な利益を得る可能性がある」と述べ、朝鮮半島有事の際に日本が悪い働きかけをする可能性が高いとの見方を示した。
沖縄大学の劉剛教授は取材に対し、「朝鮮半島で大きな衝突があれば、朝鮮と韓国は直接的な災難を被り、米国と中国も損失を受けるが、日本は利益を上げるだろう。日本の多くの戦略家がはっきり述べていない『天機』を菅首相は我慢できずに話してしまっただけにすぎない」と語った。
(編集担当:米原裕子)
*中国外交部、菅首相の「半島有事に自衛隊派遣」発言に不快感!
中国外交部の姜瑜報道副局長は14日、定例記者会見で、菅直人首相による朝鮮半島有事の際の自衛隊派遣に対して言及し、「日本は軍事面において、もっとアジア諸国の感情に配慮し、慎重に行動すべきだ」と発言に不快感を示した。
姜報道副局長は、北朝鮮が朝鮮半島で核戦争を起こす可能性や、「日本は朝鮮半島有事の際、自衛隊を派遣して朝鮮半島内の日本人救出を試みる」とした日本の菅直人首相の発言などに対する記者からの質問に、「朝鮮半島の情勢悪化はいかなる方面にとっても利益とならない。関係諸国は冷静に対処すべき」と回答し、中国も有益な対話実現に向け、努力する方針を示した。
一方、菅首相の発言については、「中国国内の関連報道や、韓国国内の反応を注視する」と述べるにとどまったが、「歴史的背景も含め、日本は軍事面でもっとアジア諸国の感情に配慮し、慎重に考慮すべきだ」と不快感を示した。
(編集担当:金田知子)
*【韓国ブログ】菅首相の自衛隊派遣発言にブロガーたちは怒りの発言!
菅直人首相が朝鮮半島有事の際、在韓邦人救出のため自衛隊による現地派遣を検討するとの発言が、韓国で大きな波紋を広げた。韓国メディアは「私たちは『自衛隊朝鮮半島派遣』発言を聞き流してはいけない」、「韓国人の感情を無視した浅はかな発言」などと批判的に報じた。
韓国人ブロガーのラウレンシオ(ハンドルネーム)さんは、菅首相の発言を「今年、もっともあきれた、利己的な意見」と批判した。筆者は第二次世界大戦当時、日本は生体実験や従軍慰安婦など、侵略した周辺地域で残酷(ざんこく)な行為を繰り返したと主張。「その行為を指示したのはまさに大日本帝国であり、その象徴は『旭日旗(きょくじつき)』だ」と述べ、旭日旗に対してデリケートな反応を示した。
「ハーケンクロイツはドイツをはじめヨーロッパで厳しく規制されているが、日本の軍国主義の象徴とも言える旭日旗はどうか?」とナチスが党旗に使用したハーケンクロイツとを比較し、「旭日旗は韓国や中国など、日本に占領された国では当然タブーだが、日本はいまだに海上自衛隊や陸軍自衛隊が使用している」と指摘。旭日旗を使用する自衛隊の朝鮮半島派遣は、絶対にあり得ないことだと論じた。
Dimones(ハンドルネーム)さんも、自衛隊の派遣に反対する。「第2の朝鮮戦争が起きた場合、戦争にかかわった国は勝利した際の戦利品を狙うだろう。戦利品を受け取るためにも軍隊派遣は必須であり、菅首相による自衛隊派遣発言もそのような脈絡から出たものだろう」と述べる。「もし第2の朝鮮戦争が起きたら日本は何を狙うのか」とし、竹島(韓国名:独島)を約束するのではないかと心配そうに述べた。
(編集担当:新川悠)
*半島緊迫化で思う、一人っ子政策と中国軍の構成及び戦闘力!
11月23日、韓国と北朝鮮の間で砲撃事件が発生、韓国の延坪島(ヨンピョンド)の家屋が燃え、韓国兵士や民間人に死傷者が出た。米韓両国は28日から12月1日まで、黄海での共同軍事演習を実施。朝鮮半島の情勢は緊張し始めている。最近では日米の軍事演習も始まり、史上空前の規模で行われているこの演習では、初めて韓国も合流するとして、東アジアの眼がすべて朝鮮半島に向けられているといっても過言ではない。
中国でも例外ではない。衝突そのもの、米韓、日米(あるいは日米韓)のそれぞれの軍事演習はいずれもトップニュース扱いで報じられている。ここでは、衝突やそこから派生したそのものよりも、中国独自の問題として、今回の一連の問題と中国の人口政策の関わり合いについての中国現地の論調を紹介したい。
中国の人口政策との関わりというのは、こういうことだ。軍事衝突が中国を巻き込むほどのものとなり、大規模な戦争にエスカレートするようなことがあれば、50年代の朝鮮戦争参戦と同様、中国も出兵する可能性は否定できない。そうなると、中国の一人っ子政策は見直しを迫られる可能性が出てくる。一人っ子政策の中国軍事力へのマイナス影響がすぐにも露呈するかもしれないからだ。
もちろん、戦争が発生してから人口政策の見直しを図ってもおそらくは何もかもが間に合わないだろう。ただし、「戦争が発生する」ということを想定すると、現在の中国の人口政策はいかにも有事に不向きであることがはっきりしてくるのは間違いない。
現行の中国の計画出産政策は、農村部では「一人っ子+一人可能政策」で、都市部には「一人っ子政策」であるとも言える。そもそも一人っ子が中心だから、軍隊に行ける若者が相対的に少なくなっているのが一つの問題だ。
農村部では、初めの子が男の子の場合、二番目の子の出産は許可を得られないが、初めの子が女の子の場合には二番目の子の出産は許可を得られる。その結果、農村部の家庭には、一男の家庭、または二女の家庭、または一男一女の家庭という形になって、二男の家庭というのはまれになる。社会保障・年金制度に不安のある中国では老後は子女に頼るのが常識、その中で一男一女の家庭で男の子が軍隊に行くことになると、女の子一人に頼ることになり、それはそれで心細くなる。
さらに、一人っ子の家庭は自分の一人っ子を軍隊に行かせることができるだろうか? 平和の時代は差し支えがないが、まさに戦争になるとちゅうちょなく自分の一人っ子を戦場に行かせることができるだろうか? もし一人っ子が軍隊に行くと誰が家を支えていくのか? 一人っ子はその家のただ一人の後継ぎである。だから一人っ子は軍隊に行かないという伝統がある国は少なくない。中国の状況がいかに異常と言えるか、お分かりだろう。
都市部の家庭は普通一人っ子である。一人っ子である男女二人が結婚すると二人目の子供を産むことができる。しかし、この子供は幼すぎてとても軍隊に行ける年齢ではない。
中国では「超生子」(親が国の人口政策に違反して産んだ子供)がいる。「超生子」を軍隊に行かせばいいでないか、という声も上がってきそうだ。しかし「超生子」は違法であり、「超生子」の親は人口政策の処罰(罰金、社会撫養金を含め)を受けている。大人になった子供が自分の出生によって親が莫大(ばくだい)な「罰金、社会撫養金」を国に納めたと思ったらどんな気分であろうか。私の命は親がお金で国から買い入れたものだから、国が自分を守るべきで、自分が国を守る義務はない、と「超生子」は思うかもしれない。
現実に、中国の軍隊の主体は現在、一人っ子である。2010年3月18日の「南方週報」は「2006年には一人っ子の数は軍隊の半分を上回って、10年前に比べて20%増加した」と報じた。
間違いなく、一人っ子はその家にとって唯一の希望である。そんな一人っ子によって構成された軍隊の戦闘力はどの程度だろうか? 今の段階では断言することはできない。1970年代(中越戦争)以降、中国の軍隊は実戦能力を発揮したことがないからだ。
一人っ子である軍人は情報収集能力と伝達能力、コンピュータ知識などは優秀であるが、過酷な環境への適応性と忍耐性に欠けているのが一般的。彼らの知識と機能は現代戦争にとって必要なものであるが、一人っ子が戦場に行く、一人っ子の親が息子を戦場に行かせる、これらが許容される難度は想像に難くない。一人っ子は絶対に嫌がるはずだ。
以上は決して杞憂(きゆう)とは言えない。中国でも専門家を中心に本気で議論が進められていることだ。朝鮮有事の危機管理をきっかけとして、世界史上例のない人口政策を取っている中国にとっては、そのまま人口問題をも深刻に検討させることになっている。
(編集担当:祝斌)
電子教科書は日本を救うか 第2回
田原 一つ素朴な質問をしたい。パソコンの基本ソフトを作ったのも、iPhoneやiPadも全部アメリカでしょ。なんで日本ではできないんですか。
孫 マイクロコンピュータが生まれたのがアメリカで、シリコンバレーですよね。シリコンバレーでスタンフォード大学を中心に、その周りにインテルだ、フェアチャイルドだと、全部集まっている。メッカに近ければ近いほど、距離の二乗倍に反比例して影響は大きい。一番メッカに近いところで激しい革命が起きている。だから絵描きがパリに行くように、メッカに世界中から強者が集まるわけですよ。
田原 そう言えばグーグルもスタンフォードですね。
孫 そうです。グーグルの創業者もスタンフォード、ヤフーの創業者もスタンフォード。僕は隣のバークレーでしたけれども、学生時代からスタンフォードと車でしょっちゅう行き来して、友達はみんなあのへん仲間内ですからね。そういう持代の風を感じてたわけですね。
田原 日本は逆ですよね。日本はそれどころかやや落ちこぼれてる。これから落ちこぼれないためには、さあどうする。
孫 そう。日本は農耕社会から工業社会にいくとき、明治5年に義務教育を作りました。では工業社会が終わったとき、どういう教育をするかです。「ものづくり日本」と経団連の経営者の方々からそういう質問は出てくる。それで話すとはすぐいうんですけど、ものづくりを組立業と捉えている経営者が未だに多い。
田原 ようするに日本では組立業が中心なんです。トヨタにしても、パナソニックにしても、全部、組立屋なんです。
孫 組立業にノスタルジアを感じたり、そこに仏と魂があると思っている。そんなうちは日本はもう復活できない。
田原 まだ経団連は思っている。
孫 これでは復活できない。なぜ組立業では復活できないとかというと、組み立ての労働賃金が、いまだ農民の奴隷解放以前の世界にある国と比べると、十倍なわけですよ。月収に十倍の競争力の差がある。昔でいう奴隷と同じような扱いを受けている人たちが安い賃金でつくる農作物のほうが価格競争力がある。同じように組立業も安い賃金で組み立てられたら競争に負けるわけです。
田原 日本は他の国の十倍も高い。
孫 高くて競争はできないですね、単に組み立てということでいくならば。
田原 だからみんな工場が中国やアジアへ行ってますね、安いところへ。
孫 安い賃金に立脚する組立業に頼るのはもう無理。日本は1980年代以前はまだ賃金が安かった。そのときの勢いを使って、頭脳も使って電子立国した。80年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だと。これからは組み立てに頼るのではなくて、もっと頭を使ってIT立国だと。
田原 それはどういう意味ですか、IT立国とは。
孫 要するにマイクロコンピュータを最大限に活用する。コンピュータの情報革命を最大限に活用して、頭を使って頭の革命で日本の競争力を取り戻すと。
田原 なんとなく分かるんだけど、もうちょっと具体的に。頭を使ってどうするの。
孫 同じものづくりでも、組立業から脱却したアップルの例があります。スティーブ・ジョブスが一回追い出されて、アップルは倒産寸前までいった。そしてジョブズが呼び戻されて倒産寸前のアップルが甦った。何をしたか? ジョブスが真っ先にやったのは、俺は組立業ではないという・・・。
田原 そういう宣言をした?
孫 宣言をして、真っ先に工場を全部売っ払った。アップルは今でも売上げの8割以上がハードの売上げなんですよ。80数%がハードの売上げというものづくりのアップルが、ものづくりの基本である工場を全部売っ払った。そしてスティーブ・ジョブスが宣言したのは、「俺は頭で勝負する、イノベーションだ」と。
つまり新しい開発、設計です。ハードの設計、ソフトの設計、デザイン、頭を作ったマーケティングでありブランディングだということで、一番付加価値の高いイノベーション、開発ですね、「そこにのみ俺は集中する。俺の社員に賃金の低い、付加価値の低い組み立てなんかさせない」と。
田原 筋肉屋さんはいらないと。
孫 頭だけで勝負するということで、筋肉労働の工場は全部売っ払って、下請けとして台湾のフォックスコンに発注したわけですね。iPodもiPhoneもマッキントッシュもみんな台湾の会社に下請けに出している。
田原 あ、台湾で作っているんですか。
孫 ただし台湾のフォックスコンはさらに賃金を安くするために、工場を中国に移して社員を80万人雇ってやっているんですね。つまり賃金がいちばん低くて使える中国の工場で、台湾の人がマネージして、そしてアップルが設計して世界中に売っていると。
田原 そういえば、遅まきながらIBMもハードの工場は中国に売っちゃいましたね。
孫 要するにものづくりといっても全然違う。組み立てに頭がいく目がいく、組み立て工場に俺の仏と魂があるなんていってる間は、経営者として失格だと。
田原 日本のほとんどの経営者は未だに組み立てだといっている。どうすればいい?
孫 頭を切り換えてもらうしかない。
田原 どう切り替える、具体的には?
孫 ある意味、負けるしかないじゃないですか。
田原 これは後でカットしてもらってもいい。例えばトヨタはどうすればいい?
孫 カットっていっても、これは生放送で流れているんです(笑)。※対談はUstで中継していました。
田原 では、自動車メーカーはどうすればいい?
孫 自動車メーカーはやっぱりアップルのように世界最強の、例えば電気自動車なんかの設計をするしかない。エコカーのようにインテリジェンスを持たせたものを設計して、組み立ては海外でやればいい。そうしたら為替も関係ない。為替を言い訳に政府に泣きつくとか、そんな恥ずかしいことをしなくてすむ。
田原 むしろ海外で作って日本へ輸出すればいい、円高を利用して。
孫 海外に工場が行くことを悲しいと捉えるか、うれしいと捉えるか。「無理矢理強制されて海外に工場を移した」と泣きながら言うか、アップルのスティーブ・ジョブスのように自らの意志で、「俺の社員に賃金の低い組み立てなんかさせないんだ、俺の社員には一人当たりの賃金をもっとダーンと上げて、一人ひとりに喜んでもらうやり甲斐のある、エキサイティングな開発だ、デザインだ。それを本業として捉えるんだ」となると、明るい自動車メーカーになれるわけですよ。
なぜアップルは儲かるのか!
田原 ものづくりものづくりと、いつまでもいっている。これはやっぱり教育に問題があると思う。そこを聞きたい。
孫 そうです。アップルは約30%の利益率、未だに組み立てに立脚している日本のメーカーは3%くらい。つまりイノベーションが、ちと足らんということです。
田原 桁が違うわけね、まったく。
孫 十倍違う。日本の復活のためには、日本人全体のなかで国民の総人事異動をしなきゃいけないと僕は思うんです。つまり組み立てに立脚する労働者を育てるための教育ではなく、あるいは農業、漁業を中心としたところを育てるためでもいいと思う。製造業に重点を置きすぎた教育ではなくて、頭の勝負をするところに教育のコンテンツをシフトしなきゃいけない。
田原 そこに日本の教育の問題がある。いまの日本の教育は頭を使っちゃダメだっていう教育です。
孫 そこが問題なんです。
田原 よく言うんですが、小学校から高校までいろんな教育は全部正解のある問題を解く。
孫 丸暗記でしょう。公式を丸暗記させる、歴史の年代を丸暗記する。僕は学生の時に歴史、大っ嫌いでしたもの。なんでイイクニつくろう鎌倉幕府、とかなんかいろいろ語呂合わせで覚えなきゃいけないんだと。
1192年ってなんだったっけと、そんなのを語呂合わせで覚えるよりは『龍馬伝』とか見たら、興奮して歴史はおもしろい。
つまり興奮と感動を覚えるような、なぜ、なにが起きたんだと、どうしてだと、それで世の中どう変わったんだと、そういう歴史の必然だとか、そういうことを学ぶともう興奮の極致ですよね。
ところが丸暗記型で、例えば1192年じゃなくて1191年と書いたらなにが悪いんだと。たった1年くらい誤差やんけと。
会場 (笑)
孫 たった1年の誤差でバツと。100年ずれてもバツ、1年間違ってもバツ。僕に言わせれば「1年違いは誤差だ。ほぼマルやんか」と。
田原 誤差を認めない、もっと言えば正解以外は全部バツなんです。
孫 それがおかしいと思うんです。教育革命の思想の革命ということで言えば、福沢諭吉だなんだで、明治5年に日本で初めて憲法で義務教育ができました。その義務教育のこころはなにかというと先程のパラダイムシフトですから、農耕社会の江戸時代に教えた教育コンテンツと、幕末を過ぎて明治維新以降の義務教育の教育コンテンツは決定的に変わったと。
田原 どこが違うの?
孫 つまり産業革命のために物理、化学、数学、英語、こういういわゆるロジックの世界、産業革命をサポートする教育コンテンツに変わった。
それまでは儒教とか漢文とか朱子学とか、なんか農耕社会の武家の人たちに教える、あるいは農業に対して教える、そういうコンテンツですから、教育コンテンツが決定的パラダイムシフトが起きた。
同じように今度は二番目の箱から三番目の箱、頭脳革命だと情報革命だと。この情報革命にあった教育コンテンツに決定的パラダイムシフトしなきゃいけない。だから教え方の道具が大切なんじゃなくて、なにを教えるかというその中身が大切だと。
『白熱教室』はなぜ受けたのか!
田原 ちょっと前にNHKの『ハーバード白熱教室』のマイケル・サンデル(ハーバード大学教授)さんが本を出してベストセラーになっている。
孫 『これからの「正義」の話をしよう』っていう本ね。
田原 あれは正解のない問題を出して、みんなが討論すると。
孫 『これからの「正義」の話をしよう』って本屋さんで見たら、『これからの「マサヨシ」の話をしよう』って、僕のことかって思った(笑)。
会場 (笑)
田原 なるほど(笑)。
孫 勘違いしてドキッとしたんですけども・・・。まさに正解のない問題を討論する。あらゆる情報を調べて検索をして——それはデータですよね——そのデータを使って知恵で考える、議論をする、討論する。まさに哲学の世界であり、問題解決、こういうとこをやっていかなきゃいけないと思うんですよ。
田原 最後は問題解決から問題提起へ。
孫 そうですそうです。その意味で、頭の革命の情報通信の世界、IT革命の世界。ところがさっき言ったように国民の総人事異動という意味では、この頭の革命の情報通信産業は日本の労働人口分配率でいくと3%しか働いてない。
田原 3%。まだみんな筋肉やっているんだ。
孫 残り97%は基本筋肉労働をやっている。ここが問題なんですよ。
田原 ちなみにアメリカとどのくらい違いますか。
孫 3%がおそらく10%は超えている。でも他の産業もITを使いまくっている。製造業でもITを使いまくっている、流通でもサービス業でもITをもっと使いまくった形で生産性を上げているということなんですね。ですから3%の労働人口分配率ではなくて、これが30%くらいにはならなきゃいけない。
日本のGDPのなかで農業と漁業が占めいている割合は2%です。その2%のGDPのために、全国民に義務教育としてタンポポの葉っぱの形とか根の形とか米の胚芽の形とか、僕が小学生の時から何回も丸暗記させられた気がするんだけど、それってGDPでは2%なんです。だけどこれから日本の頭脳革命をやっていかなきゃいけないところについてはほとんど知られていない。
田原 一番問題は、今企業のオフィスでパソコン使っていないところはないですよ。ほとんど全員使ってますよ。ところが教育の現場にないんですよ
孫 そこなんですよ。社会に出て使うものを教育の現場ではそこに力点を置いてない。そこが問題なんです。
「この問題は韓国でどう思っているのかがわかるんです」
田原 そこを聞きたい。教育の現場で例えば一人一台パソコンを使いますね、どう変わると?
孫 僕はパソコン以上にいかなきゃいけないと思っているんですよ。つまり電子教科書パッドになるべきだと思うんですけども。
田原 電子教科書っていうのは、孫さんのイメージはノートパソコンみたいなもの?
孫 違います。イメージは、僕はいまiPadを毎日使ってますけども、田原さんも使ってますよね、iPadのこういうやつが電子教科書代わりになっていると。iPadとは限りませんよ、アンドロイドパッドでもなんでもいいんですよ。要はパソコンをもっと進化させたやつ、これにいってみれば10億ページくらいの教科書が入る。
田原 いくらでも情報が入る。
孫 無限大に入る。しかもそれが「教育クラウド」に繋がっていて、世界中の教育コンテンツが入っている。
田原 たとえばこれを教育の現場に入れると、どんなことができますか。
孫 今までなら歴史だって絵が動かない。僕が大好きな幕末のことも文字でチョコチョコッと書いてある。全然感動しない、興奮しない。ところが電子教科書なら、例えば吉田松陰と書いてあってそこにアンダーラインが引いてある。
そこをタッチすると吉田松陰の写真がパッと出てきて、吉田松陰を題材にしたNHKのドラマのシーンが、吉田松陰が船に乗り込もうとして失敗して死刑になった、そのへんのくだりが動画で出てくると。そうすると生徒の注目度合いはオーと。感動とか関心が記憶にそのままボーンといきますから。
田原 言葉の問題もあるかもしれないけども、たとえば「この問題を韓国の生徒はどう思っているだろうか」と、これできますね。
孫 できますできます。電子教科書だったら当然通信で繋がっているから、韓国の子どもたちと英語で、「日本では幕末こうだったが韓国ではどうだったの? 韓国における産業革命はいつで、なぜ、誰がどうリードしたの? 中国ではどうなの? 清が外国に支配されたことは教科書ではどう習ったの?」と。こういう会話が・・・。
田原 アヘン戦争で香港がイギリスに占領された。
孫 あのことを中国の学生たちはどう受け止めているのという会話ができるんです。
会話がなくなるんじゃないですか
田原 そこがね、僕は一番難しいところで、長所はいっぱいあるんだけど自分で全部できちゃうから、逆に会話がなくなるんじゃないかという気がする。
孫 それは逆ですよ。あらゆる情報があれば、それを人と語ってみたくなる。丸暗記するくらいなら検索したほうが早いわけですから。
田原 検索が自分でできちゃうと・・・。
孫 丸暗記に使っていた頭の労力を、丸暗記の代わりにそんな程度のことは検索して、それをベースにどう思うんだという会話で・・・。
田原 そういうことが自分でできたら教師っていらなくなるんじゃないの。
孫 いやいやいや、教師はそもそもなにをするかということですけども・・・。
田原 そこが問題。
孫 教師は「じゃ、産業革命についてどう思うんだ」という言葉を語りかけて、生徒が答えたら、別の生徒に「君はどう思うんだ」と、教室の中で議論を巻き起こすコーディネータであり・・・。
田原 でも、議論を巻き起こすにはよっぽど知ってなきゃ議論できない。
孫 だから先生は賢くなきゃいけないし、先生の先生たる所以がそこにあると。だって先生は毎年6年生を教えられるわけでしょ。
田原 「でもしか教師」っているじゃないですか。教師でもやるか、教師しかないっていう。
孫 でもね、それは先生方もやっぱり自らを新しい時代に向けて、やっぱりレベルアップをしていただくべきだと思うんですよ。それは産業界だって激しい戦いを毎年、新しい開発をして、新しい技を毎年覚えていっているわけですから。
先生方だった少なくとも3年に1回くらい同じ6年生を授業で持てるとかあるわけじゃないですか。せめて2回目回ってきたときの6年生担任、3回目の6年生担任だと、そのときに常に新しい情報と武器を使ってその生徒と語り合う、まさにさっきのサンデル教授のようにディスカッションのコーディネータだと。
田原 ところがあんまりディスカッションやってる学校ないんですよ。
孫 工業社会の時の教育は丸暗記でよかったんです、かなりの部分が。つまり見様見真似で、アメリカがすでに先進国としていっぱい作っていた。それを真似して安く作る、真似して丁寧に作る、壊れなく作るという程度でいいから、真似するために暗記のほうが早いと。いろいろ逆らうよりも暗記して丁寧に作るほうが早いと。まなぶ=まねぶ、それをベースに行ったほうが近道だと、効率がいいという時代があった。
「正解至上主義」は教師の手抜き
田原 日本は長い間戦争をやっていたんで、アメリカやヨーロッパの情報が入ってこなかった。非常に遅れていた。だから戦後長い間は真似してればよかったです。
孫 そうです。真似してキャッチアップすればすんだと。明治維新の直後もそうです。真似してキャッチアップするのは日本は結構得意なんですけども、新しい議論をして新しいイノベーションするのは、むしろアメリカ人のほうが得意で。僕は16歳からアメリカに行ってるから、アメリカの学校の教育ってすごい体験していて感動したんですけども・・・。
田原 どこが違うの、日本と。
孫 だいたい大学の試験でも教科書全部持ち込みOKです。毎回どの試験を受けても分厚い教科書を持てるだけ持っていってブアーッと見ながらそれで問題を解く。
田原 でも教科書に答えがあるような問題はないでしょう?
孫 教科書に書いてある答えをそのまま書き写せばいいなんていう丸暗記の問題が、そもそもほとんどない。ここに書いてあることをベースに自分が新しい提案をする、新しい問題解決をする、知恵で出す。
田原 そんなの採点もたいへんじゃないですか。
孫 だから先生は主観を持ってガンガン点を付けるんだけども、やっぱりそこはそれで慣れてくると・・・。
田原 日本の正解主義ってのは先生がラクなんですよ。
孫 考えなくていいから。
田原 大学の試験だって答えが三つか四つ出て、その中のひとつにマルしろと。
孫 それは考えなくていいから機械的にマル付けるでしょ。機械的にマル付けるくらいならなんで電子教科書でやれないのと。それならむしろ機械にやらしたほうが、生徒に対してコラーッとか嫌味をいわなくて、生徒だっていわれる度にやる気を失って、そんなふうにならないでいいわけですよ。
反復学習はむしろ機械にやらせて、反復学習じゃなくて知恵を出させる、討論する、問題提起するというようなことを、人間が人間たる所以で人間の先生がガイドしていくというのがあるべき姿だと思いますね。
田原 出版社の連中が孫さんを非常に怖がっているんですよ。「電子教科書になったら紙の教科書がなくなっちゃうんじゃないか」と。つまり「教科書を作る出版社がなくなっちゃうんじゃないか」と。
孫 彼らも頭をシフトしなくきゃいけないと思うんですよ。つまり農耕社会から工業社会にシフトしたように、今度は工業社会から情報社会にシフトするでしょ。そのときに本来は情報社会をいちばんリードすべきインテリゲンチャが彼らなんですよね。
田原 本当はね。
孫 常に人々に情報を上から下に流す、つまりちょっとだけ知識が上の人が本来多いんですよ、マスメディアの世界にはね。
田原 三歩先とはいわないけど、少なくとも半歩先くらいは行っている。
孫 半歩くらいは賢い人が一般的には多い世界なんですよ、読んで学習して。その人たちが自分の知恵とか知識のレベルアップを放棄して印刷業に徹してどうするの。
田原 あ、印刷業ね。
孫 さっきのものづくりと同じですよ。ものづくりも組立業に付加価値があるんじゃない。イノベーションに価値がある。同じく出版社も印刷業に価値があるんじゃない。企画編集ですよ。どういう特集をするんだと、なんのテーマについて知識人を集めてきて討論させて、まさにこうして討論している状態を電子パブリッシングする。
そこにユーストリームだとか、ニコニコ動画をはり付けてる。それで電子パブリッシングすると。紙代印刷代がないから、本来500円で売っていたものが50円で売れる。それでも利益は今までより増えると、こうできるわけですよ。
田原 出版社にいる社員はどうしたらいい?
孫 頭を切り換えればいいだけですよ。先生がレベルアップしなきゃいけないように、新しい時代に向けて頭をもう一回レベルアップしなきゃいけない。そのために、出版社の人々ももう一回頭を情報革命にあわせてレベルアップする。産業界はそれを毎年やっているわけですから。
なぜこれほど光ファイバーに執着するのか!
2010.12.15(Wed)JBプレス 池田信夫
最近、テレビで奇妙なCMが放送されている。宇宙から地球に向かって隕石が飛んでくる。ソフトバンクの代理店で、商品の案内をする女性がしゃべっていると、左手が無意識に上がってしまう。客がそれを見て指摘し、商品案内の女性は「なんか変」と言う・・・。
一見、何のCMか分からないが、これはソフトバンクの「光の道」のキャンペーンである。
左手を上げるのは、「AかBか」というアンケートのB案(向かって右側)を選ぶという意味らしいが、この30秒のCMだけでは、ほとんどの人は意味が分からないだろう。
以前の記事でも紹介したように、もともと「光の道」は原口一博前総務相が提唱したものだ。当初は「全国に光ファイバーを普及する」という話だったが、特定の物理インフラを政府が推奨するのはおかしいという批判を浴びて、「全国にブロードバンドを普及する」という話に軌道修正した。
ところがソフトバンクは、文字通り光ファイバーを全国100%に敷設する「アクセス回線会社」案を発表した。
現在の電話線(銅線)をすべて強制的に撤去して光ファイバーに替えれば、銅線の保守経費が浮くので、3兆円の工事費を賄って余りある。だから、NTTを構造分離して光ファイバーを別会社にしろというのだ。
これについてはNTTの経営形態を検討する総務省の作業部会でも、賛成する意見はまったく出なかった。NTTも「銅線と光の保守費はそんなに違わないので、その差額で5兆円以上の工事費を賄うことはできない」とソフトバンク案を否定した。
私も孫社長とUstreamで対談したが、「こんなリスクの大きい計画を実行して、失敗したら誰が負担するのか。アクセス回線会社の株主は誰で、社長は誰なのか」と私が質問しても孫氏は答えず、130枚も用意してきたスライドを一方的に説明した。
孫正義氏の奇妙な執念の背景には何があるのか!
関係業界もみんな反対で、すでに自前のインフラを引いている電力業界は「ソフトバンクは自分の金を使わないでNTTのインフラにただ乗りしようとしている」と批判した。
そこでソフトバンクは10月になって、アクセス回線会社に国が40%出資し、NTTとKDDIとソフトバンクが20%ずつ出資するという新提案を出し、「これを政府もNTTも飲まなければ、当社だけでもやる」と主張した。
しかし、総務省にもNTTにも、この案に賛成する意見は皆無だった。追い詰められたソフトバンクは「光の道はAかBか」という全面広告を新聞に出し、ネット上でアンケートを取った。このA案はNTTの発表した移行計画、B案はソフトバンクの案だ。
その結果「B案を支持する意見が圧倒的だった」という集計結果を、孫社長が総務省に持参した。しかしこのアンケートは1人で何回でも押せるもので、統計的な意味はない。それも相手にされなかったため、テレビCMまで打ったわけだ。
最初から実現可能性ゼロの案に、全面広告やテレビCMなど巨額のコストをかける孫社長の執念は、不可解と言うしかない。
企業戦略としても、モバイル事業に重点を移しているソフトバンクが、NTTも加入世帯数を増やせない光ファイバーに「4.6兆円投資してもいい」という孫氏の話は、投資家の支持を得られないだろう。
この背景には、最近、ソフトバンクに「つながらない」という苦情が殺到していることがあると思われる。ソフトバンクモバイルの基地局は約4万局で、NTTドコモの半分しかない。多くのパケットを消費する「iPhone」が増えて、ネットワークが負荷に耐えられなくなっているのだ。
この負荷を電話回線に逃がすため、ソフトバンクは無線LANのモデムを「iPad」に同梱したり、「フェムトセル」と呼ばれる小型の無線局を無料で配ったりしているが、焼け石に水だ。今後5年で40倍になるとも言われる無線通信データ量を支えるには、基地局を100万局以上に増やさなければならず、採算が合わない。
このため室内の通信を無線LANなどに逃がし、家庭に引き込まれている光ファイバーをインフラに流用して基地局の負荷を減らそうというのがソフトバンクの狙いだ。
しかし、専門家は「無線局の配置は最適化が必要で、行き当たりばったりに簡易無線局をばらまいても解決にはならない」と批判する。
電波の開放を訴えたが周波数オークションには反対!
だが、ブロードバンドの普及で本当の焦点になるのは、余っている光ファイバーではなく、激増する無線通信量に対して絶対的に足りない電波の周波数だ。
この分野では、孫社長が原口総務相(当時)に「直訴」して大きく前進した。
総務省は今年の春、700/900メガヘルツ帯で国際標準と異なる「ガラパゴス周波数」の割り当てを決めた。ところが、これに対して「次世代のiPhoneなどの国際端末が使えなくなる」という批判が(私を含めて)ネット上で噴出した。
それを孫氏が原口氏にツイッターでつぶやいたところ、原口氏が割り当ての見直しを約束し、半年の再検討の結果、総務省の決めた原案がくつがえったのだ。
ところが、もう1つの課題である「周波数オークション」については、「光の道」をめぐる混乱に作業部会の大部分の時間が費やされたため、「時間切れ」を理由に導入が見送られる情勢だ。
これについて孫社長は「オークションの思想には賛成だが、一部の周波数だけを対象に実行することには弊害がある」と言う。その理由は「放送局もタクシー会社も、NTTドコモやKDDIも、すべての企業が今使っている周波数帯をいったん返上して、その上でオークションをすべきだ」というものだ。
この論理が正しいとすれば、国有地の競売も、すべての国有地を返上して行わなければならないことになる。
ソフトバンクの本音は、オークションをつぶして、総務省が「美人投票」で割り当ててくれれば、次は自分の番だという思惑だろう。そういう密室の官民談合が日本の電波政策を歪めてきたことは、孫氏が一番よく知っているのではないか。
このように孫社長の混乱した発言が、この1年、通信業界を振り回してきた。だが、これによって通信ビジネスへの関心が高まり、今までNTT支配のもとで「物言えば唇寒し」の風潮が強かった通信業界の風通しがよくなったことは大きな前進だと言える。
ソフトバンクも、今後はもう少し通信規制についての基本的な知識を身につけ、政府と対等の勝負ができるように成長してほしい。
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魚沼コシヒカリ理想の稲作技術『CO2削減農法研究会』(勉強会)の設立計画!